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5 本当の魔法
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「……ぐっ、喉に詰まった」
「大丈夫ですか、これ水です!」
ラノイが水を渡すと、男は勢いよく飲み始めた。
「チョウカさん、もっとゆっくり食べないと」
チョウカと呼ばれたその男は水をラノイへ返し、喋るため呼吸を整えた。
「そういうリル君はほとんど食べていないじゃないか。なんだ、女子だからってまさかこの期に及んで体型を気にしているとか……」
「ち、ちがいます! 私は遠慮しているんです。大体、チョウカさんのように頂いたものにろくに感謝もせず勝手に食べ始めることの方がどうかと思いますよ」
「何を!」
「何ですか!」
「ま、まぁまぁ……」
口調が荒々しくなり、言い合いが激しさを増してきた。
その時、突然ぐぅうううとリルの腹が鳴った。
静かな森の隅々までそれは響き渡った。あまりに急な出来事にチョウカとラノイ、そして当事者であるリルまでもが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
さっきまでの騒々しさはどこへ行ったのか、一転して静寂が辺りを包んだ。
ふと我に帰ったリルは赤面し、両手で顔を隠しながらその場にしゃがみ込んでしまった。
「あ、あの」
静寂を破るようにラノイが口を開く。
「どうぞ、リルさんも遠慮せずに食べてください。ここで遠慮されて食べずに後で倒れられたりなんかしたら、僕も申し訳ないですし」
「ほれ見たことか」
ラノイの話にやや被るようにしてチョウカは言った。
「……そこまで言っていただけるのなら、遠慮なく」
リルは顔を覆っていた手を下ろした。もう赤面は治っていた。
「どうぞどうぞ。って言っても今朝買ったものをそのまま出しているだけなんですけどね」
「いやいや、私達からしてみれば食べ物にありつけるだけでもありがたい限りです。ね、リル」
「はい。チョウカさんの食べっぷりが証明してくれています」
「そうですか。それなら良かった」
こうして二人は再び食べ始めた。ラノイもそこへ加わり、三人は黙々と食べ続けた。
しばらくして食事が終わり、皆幸せそうな笑みを浮かべていた。
「さすがに満腹だな」
「確かに。少々食べすぎました」
「僕もです」
ラノイが予め買い込んでいた食料は軽く見積もっても2、3日分はあった。しかし今袋の中にはパン屑ひとかけらすら無い。
「そう言えば」
膨れ上がった腹をさすりながらラノイは話し出す。
「お二人はどうしてこの森へ?」
「あれ、そういえば言ってませんでしたか」
「言われてみれば、確かに……」
「じゃ、今更だけど自己紹介しますか」
チョウカはむくりと体を起こした。
「私はチョウカ・イェルソン。商人です。で、こっちが」
「リル・アムネシアです。チョウカさんの護衛をしています」
「あ、えと、改めましてラノイ・ルーカスです」
「んで経緯を説明すると、僕は鑑定の魔法を持っているんだ。この魔法を使って普段あちこちで商売をしている。今日も商売の帰りでこの道を通ったら、運悪くモンスターと出会ってしまって、なんとか逃げてきたとこかな」
「な、なるほど。それは災難でしたね」
「ちなみに、ラノイさんはなぜここに?」
「あ、実はですね……」
ラノイはこれまでのことを全て話した。
「なるほどねぇ、中途半端な回復術師はいらない、か」
「でも、それだけのことで追放するなんて」
「いいんです。事実ですから」
「ふーん。ところでラノイ君、君のこと鑑定してもいいかな?」
「…………はい?」
チョウカのいきなりの提案に、ラノイは上手く返事ができないでいた。
「君の話を聞いててどうもひっかかるとこがあるんだよね。だから、お礼も兼ねて見てあげようかなって」
「あ、ありがとうございます」
「じゃいくよ、鑑定」
そして鑑定が終わると、チョウカは肩を震わしながら笑い始めた。
「なるほど、そういうことか」
「な、なんだったんですか?」
ラノイは不安げな顔でチョウカに尋ねる。
「結論から言うとな、ラノイ君は回復術師じゃない」
「え……回復術師じゃない?」
ラノイは激しく動揺した。
チョウカが言ったことを反芻してみるが、それでも理解するのに苦しむ。
「ラノイ君はな、復元術師だ」
「ふ、復元……術師?」
「大丈夫ですか、これ水です!」
ラノイが水を渡すと、男は勢いよく飲み始めた。
「チョウカさん、もっとゆっくり食べないと」
チョウカと呼ばれたその男は水をラノイへ返し、喋るため呼吸を整えた。
「そういうリル君はほとんど食べていないじゃないか。なんだ、女子だからってまさかこの期に及んで体型を気にしているとか……」
「ち、ちがいます! 私は遠慮しているんです。大体、チョウカさんのように頂いたものにろくに感謝もせず勝手に食べ始めることの方がどうかと思いますよ」
「何を!」
「何ですか!」
「ま、まぁまぁ……」
口調が荒々しくなり、言い合いが激しさを増してきた。
その時、突然ぐぅうううとリルの腹が鳴った。
静かな森の隅々までそれは響き渡った。あまりに急な出来事にチョウカとラノイ、そして当事者であるリルまでもが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。
さっきまでの騒々しさはどこへ行ったのか、一転して静寂が辺りを包んだ。
ふと我に帰ったリルは赤面し、両手で顔を隠しながらその場にしゃがみ込んでしまった。
「あ、あの」
静寂を破るようにラノイが口を開く。
「どうぞ、リルさんも遠慮せずに食べてください。ここで遠慮されて食べずに後で倒れられたりなんかしたら、僕も申し訳ないですし」
「ほれ見たことか」
ラノイの話にやや被るようにしてチョウカは言った。
「……そこまで言っていただけるのなら、遠慮なく」
リルは顔を覆っていた手を下ろした。もう赤面は治っていた。
「どうぞどうぞ。って言っても今朝買ったものをそのまま出しているだけなんですけどね」
「いやいや、私達からしてみれば食べ物にありつけるだけでもありがたい限りです。ね、リル」
「はい。チョウカさんの食べっぷりが証明してくれています」
「そうですか。それなら良かった」
こうして二人は再び食べ始めた。ラノイもそこへ加わり、三人は黙々と食べ続けた。
しばらくして食事が終わり、皆幸せそうな笑みを浮かべていた。
「さすがに満腹だな」
「確かに。少々食べすぎました」
「僕もです」
ラノイが予め買い込んでいた食料は軽く見積もっても2、3日分はあった。しかし今袋の中にはパン屑ひとかけらすら無い。
「そう言えば」
膨れ上がった腹をさすりながらラノイは話し出す。
「お二人はどうしてこの森へ?」
「あれ、そういえば言ってませんでしたか」
「言われてみれば、確かに……」
「じゃ、今更だけど自己紹介しますか」
チョウカはむくりと体を起こした。
「私はチョウカ・イェルソン。商人です。で、こっちが」
「リル・アムネシアです。チョウカさんの護衛をしています」
「あ、えと、改めましてラノイ・ルーカスです」
「んで経緯を説明すると、僕は鑑定の魔法を持っているんだ。この魔法を使って普段あちこちで商売をしている。今日も商売の帰りでこの道を通ったら、運悪くモンスターと出会ってしまって、なんとか逃げてきたとこかな」
「な、なるほど。それは災難でしたね」
「ちなみに、ラノイさんはなぜここに?」
「あ、実はですね……」
ラノイはこれまでのことを全て話した。
「なるほどねぇ、中途半端な回復術師はいらない、か」
「でも、それだけのことで追放するなんて」
「いいんです。事実ですから」
「ふーん。ところでラノイ君、君のこと鑑定してもいいかな?」
「…………はい?」
チョウカのいきなりの提案に、ラノイは上手く返事ができないでいた。
「君の話を聞いててどうもひっかかるとこがあるんだよね。だから、お礼も兼ねて見てあげようかなって」
「あ、ありがとうございます」
「じゃいくよ、鑑定」
そして鑑定が終わると、チョウカは肩を震わしながら笑い始めた。
「なるほど、そういうことか」
「な、なんだったんですか?」
ラノイは不安げな顔でチョウカに尋ねる。
「結論から言うとな、ラノイ君は回復術師じゃない」
「え……回復術師じゃない?」
ラノイは激しく動揺した。
チョウカが言ったことを反芻してみるが、それでも理解するのに苦しむ。
「ラノイ君はな、復元術師だ」
「ふ、復元……術師?」
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