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ドコニイル?
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しおりを挟む何故選りに選って今日なのかという意見が殆どで、むしろ中止で嬉しいようなキャラの者はこの場にいないかと気づいた。歩は未だ硬直して現実を受け入れられないでいる。こいつさてはどこぞの女子学生と、一緒に写真でも撮る約束をしてあわよくば囲まれたいと目論んでいたのでは。我ながら名推理だと龍はひとり頷いた。
「で、どうする?」
「どうもこうも……休みになったんだから満喫するしか!」
「後半聞いてたか?」
学校が標的にされ危険な目に遭うかもしれないから離脱しろと言われているのに、どうすればその発想になるのか意味不明だった。付き合いきれない。黒猫を脱ごうとした龍は、身体の中から何か聞こえるのに気が付いて腕を抜く。下には半袖のTシャツに貴重品を移したボディバッグを巻いていた。それが鳴っているのだ。
背面のジッパーは外さずにてさぐりでごそごそとスマートフォンを取りだし、無精をして首元から手だけを突き出し「はい」と応じる。
『あ、龍さん! 音です!』
「……え、どうした?」
よく表示も見ずに取ったのでびっくりする。いつもこうして掛けてくる者なら何も思わないが、音とはもっふぁ~で話している時に流れで連絡先を交換して以来ほぼやり取りしてなかったのだ。それに声の調子に焦りが感じられる。隣で歩が様子を窺っているのはわかっていたが、説明は後回しにした。
『突然すみません、あの、姉ちゃん一緒ですか?』
「いや、朝会ったけど今は歩だけ」
何か言伝でもあるのかと思ったが、よく考えなくとも姉弟なら一二三の番号ぐらい知っている筈だと打ち消した。ちょっといやな予感が漂い始める。音は自分では連絡がつかないから龍に訊いたのだ。
「どうしたんだ?」
『あの……これはまだ俺の推測で決まったわけじゃないんで、あんま大っぴらにしないでほしいんすけど』
「うん」
『部屋で毒物の精製したみたいなんです。急いでたのか道具がまんま置いてあって。……それで、使い途も今持ってるかどうかも知らないんすけど、ちょっと話聞いてみてもらえませんか。俺の名前出して大丈夫なんで』
「え……?」
毒物?
このまえ泊めてもらった日にお邪魔した一二三の自室を思い浮かべる。あそこにはたくさんの材料があったしそのくらいわけなく作れるのかもしれない。もし作ったとして、目的はただの研究か腕試しだったかもしれない。
だが本気で使うつもりもあるかもしれない。何故かなんて一二三にしかわからないのだ。考えても無駄だと龍は質問を重ねる。
「確かなんだよな? いつのかわかんねえとかじゃなく」
『はい、家で調合する時は俺ら家族にも影響する場合があるから、まめに片付けろって母さんに言われてますし、今までもしてたと思います。だからあれはごく最近のだと』
「そうだよな……」
一二三が他のことはどうでもそういう件に関してずぼらだとは龍でも思わない。学校でも実験器具はきちんと後片付けしているのをこの目で見ている。魔法使いの家に生まれなかったとしても薬に携わっていたかもしれないとまで言っていたのだ。それはないか。
『学校どうなってます?』
「……うちか? いや別に今のとこ何も……」
『朝会ったってことは大学には来てますよね。……実はさっき、爆発物仕掛けたって俺がウソの電話したんすけど』
「はあ?!」
まさかの自白に思わず仰け反る。お前かよ。ならばそういう意味では、今の返答は間違っていた。
「ああ、ついさっき全休講になったわ。音お前、大胆すぎねえ?」
『マジすかよかった! だって、何するつもりかわかんねぇけど、とりま相手いなかったらできないと思って。大学かバイト先どっちかしかないんすよ。姉ちゃんがそんな物持ち出すような人間関係築いてそうなとこって。さすがにたまに立ち寄る程度のスーパーとかコンビニとか、ないでしょ』
「そりゃそうだけどよ……」
ただ彼の意図は微妙に外れたと思われる。大学というところは変わっていて、教授はこういう時いちいち見廻って学生達に帰宅を促したりせず、自主性に任せてさっさと自分は家に帰る。彼らは教育者というより研究者という側面のほうが強く、学生を自分が育てる意識は薄くて、学生が自身で学ぶ手助けをするだけ、学生は自分とおなじ分野の研究をする後輩と捉えているのが高校までの教官とは明らかに違うのだ。
現に教室を見回しても仮装を諦める者は殆どおらず、むしろ意気揚々と出ていく。早朝でなくさっきというくらいなら既に登校している学生は多かっただろうし、こうしてハロウィーンを楽しむ輩も、そんなことは関係なく学業に精を出している人々もたぶん、居残って帰る気配が感じられなかった。教授も注意しないだろう。
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『公衆電話からデータでつくった声でやってみました。変装したし指紋も残してません』
「ああ、そう……」
まあ通報したとして警察がどの程度調べてくれるのかよくわからないが、そんなに本格的なことはしないだろうと思いたい。前途ある若者なのだ。目的も延いては家族のため。万が一姉から連絡があったら念のためこちらにも知らせてくれと頼んで龍は一旦通話を終える。
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