神託の乙女になりました

ぎんげつ

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七日目 ー2

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 イリヴァーラは苦々しげに顔を顰め、はあっと大きな溜息を吐いた。

「まさかそれすら気付いてなかったなんて言わせないわよ。その目は節穴なの? 顔に付いてるだけ? 脳味噌腐ってるの?
 何の役にも立たない頭なんか、今すぐ地獄の番犬ケルベロスに食わせてしまうといいわ。
 ――一日中一緒にいて話してるわりに、様子が変だとは思ったのよ。
 まさかこっちの気遣い全部無にされてたなんて想定外過ぎて、覚えた魔法が全部吹っ飛びそうだわ。あんたの親はいったいどうやってあんたを育てたのよ」

 教会にもっと情操教育しろってねじ込んだほうがいいのかしら。イリヴァーラはそう呟いて、ふん、と鼻を鳴らす。

「ああもう、こんなこと言ってたって全部後の祭りじゃないの。
 こうなったら、なっちゃったものは仕方ないわ。カイル、ここが正念場よ。
 まずは、断固、教会の介入を防いでちょうだい。たぶん、冒険者なんかには任せておけないとか言い出すはずだけど、教会がおおっぴらに動いたらこっちがやりにくくなるんだから」
「わかった」
「とにかく、調査も準備も使えるのは今日だけ。リミットは蝕が始まる前。3日後の日暮れね。
 それまでにルカの居場所を調べて辿り着かなきゃ、何もかもアウトだわ。全員で手を尽くすのよ」



 朝の鐘を待って、僕らはすぐに行動を開始した。
 ……まさか、ルカがそんな風に考えていたなんて。どうして僕は気付けなかったのか、後悔ばかりが湧き上がる。いつも笑っているからと、それで安心していた僕が馬鹿だったのか――確かに、言葉にならないものをわかれというのは、無理な話なのかもしれない。
 そんなことをぐるぐると考えながら早足で教会に向かい、大司教猊下への面会を請うと、すぐに案内された。

「では、“乙女”はカルトの手に落ちたと」
「はい、猊下……僕の責任です」
「なんということだ」

 報告を聞いて大司教猊下は頭を抱える。

「ですが、今、仲間たちも伝手を頼って行方を追っています。すぐに彼女の行き先は知れると……」

 言葉を続ける僕に猊下は止めるようにと手を振り、僕の血の気が下がる。
 これはよくないきざしだ。

「カイル、お前はここに留まるように」
「何故ですか?!」

 やはりそう来るかと、どこか納得しながらも僕は猊下に対し声を荒げる。

「神の宝石たる者、愛し子をふたりとも失うわけにいかぬ。捜索には教会の者を出す。冒険者だけには任せん」
「待ってください猊下!」

 けれど、猊下は聞く耳を持たないという態度で淡々と続けた。

「これは私の、いや、教会の決定だ。
 従え、カイル。お前はこの“正義と騎士の神”教会の聖騎士であろう。教会の決定には従うのだ」
「しかし猊下、僕に我が身を惜しんで隠れ忍べと仰るのですか?
 僕はルカを助けに……」
「カイル、後は教会に任せよ」

 猊下はじろりと僕に目をやると、ぴしゃりと言い放つ。これ以上の議論は不要とばかりに。

「猊下、駄目です、僕はルカを助けに行きます!」
「ならん。従えぬというなら、お前にはこの度の不始末の責任として謹慎を命じる。
 衛兵、彼を連れて行きなさい」

 猊下の合図で両脇を衛兵にがっちりと抑えられ、僕は引きずられるように部屋を連れ出された。



 反省坊に押し込まれ、外から鍵を掛けられて、深く息を吐く。
 いったいどうすれば。どうやってここを出ればよいのか。

 ……まったくもって、いったい何をやってるのだ自分は。
 ルカは自分をお荷物だと言ったが、本当にお荷物になっているのは僕じゃないか。
 気ばかりが焦り、けれどどうすることもできず、 ただ悶々と考え込むだけだった。

 地下の反省坊に窓はない。
 時折かすかに聞こえる鐘の音だけが時間を知らせるのみ。定期的に回ってくる巡回だけが外を通る。
 静かすぎて、焦りだけが募っていく。

 剣だけは離されなくてよかった。
 あとはどうにかして身一つででもここを出れば。

 そこまで考えるけれど、さすがに教会の中は守りが堅い。
 魔法による侵入すら封じられているというのに、どうやってここを出るというのか。仲間だって、通常の手段ではここまでたどり着くことすらできないだろう。

 扉を破って、とも考えたものの、ここにいる他の司祭や衛兵たちを全部相手取って逃げるのは気が引けて──破門にすら、なりかねないと考える。

「ここに、天人の聖騎士がいると言うのね?」

 出口のない袋小路をぐるぐると歩き回るように、ただただ考え続けていると、突然、扉の外から聞きなれない声がして僕は顔を上げた。
 すぐにがちゃがちゃと鍵を開ける音がして扉が開く。
 続けて、扇子を口に当てて「埃っぽい部屋ね」と言いながら、従者を連れた、美しく着飾った貴族の令嬢が足を踏み入れてきた。

「では、申し訳ないのですが、扉は閉めさせていただきます」
「構わなくてよ」

 ここまで案内してきた衛兵が慇懃に述べると、彼女が鷹揚に頷いた。
 衛兵はそれを確認してまた一礼し、外へ出ると再び扉を閉めてしまう。

「あなたは?」
「お前が天人の聖騎士なの。思ったよりもしょぼくれているのね」

 怪訝な目を向ける僕をじろじろと眺めた後、令嬢はつかつかとこちらへと近づき、おもむろに手に持った扇子でぐいと僕の顎を持ち上げた。

「あまり面白みのない顔ね」

 この言い草は少々失礼なのではないか。
 口を開きかけた僕を置いて、令嬢は背後に向かって声を掛けた。

「それではアートゥ、さっさと用事を済ませておしまいなさい」
「はい、お嬢」
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