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九日目 ー1
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森の中にも多数の魔物が徘徊していた。
洞窟が近いのだからあたりまえだろう。カルトの連中は、当然、僕らがルカを取り戻しに来るのだと考えている。
夜明けとともに“異次元の小部屋”を出て、再び“魔女の舞踏場”を目指すが、やはり一筋縄ではいかないようだ。
「考えていたより数が多いわ。この調子じゃ迂回も必要になるし……余裕あるはずだったのに、あまり良い傾向とは言えないわね」
イリヴァーラが眉根を寄せる。
いつもなら朝食にもまだ早いくらいの時間、つまり、“小部屋”を出てまだ数時間も経っていないのに、既に3度も戦ったのだ。
おかげで思うように先へ進めず、苛々は募るばかりである。
「昨日のうちにあの丘陵を超えたことは向こうにも知られていますから、この森に兵を集中しているのでしょう」
おそらく、ヘスカンの見立て通りなのだろう。
昨日、森に入ったばかりの時はこれほどではなかったはずだ。
「また、姿を隠していくか?」
「上策とは言えないわね。
たとえナイアラを目印にしても、この森の中じゃはぐれる危険のほうが大きいわ。それに、これだけ巡回がいるようならすぐに見つかって魔法は切れてしまうでしょうね。
だったら、貴重な魔法のリソースなのだし、もっと別なものに使ったほうがいいんじゃないかしら」
「私もイリヴァーラに賛成ですよ」
ヘスカンも同意する。
「余裕がなくなるといっても、今日中に洞窟へ辿り着ければ蝕には十分以上に間に合います。本来なら昼で想定していたことが、夕刻近くになるくらいのズレでしょうか。
それに、洞窟もそこまで長くありません。奴らの兵と戦いながらでも、半日もあれば抜けることができますし、蝕までには辿り着けるでしょう」
「ちゃんと休む時間も取れるよ。だから大丈夫。ルカちゃんも、強い子だから大丈夫だよカイル」
僕は、大きく息を吐いた。
本当なら僕がしっかりして皆を励ます立場のはずが、もうずっと逆転したままだ。ルカのことを考えては焦っているばかりの僕を、皆が落ち付けようと宥めるばかりで――
「ごめん。どうも冷静でいられないようだ」
「そんなの計算のうちよ。伊達に長く付き合ってるわけじゃないんだから、そのくらい想定済だわ。見縊らないで」
「そうそう。だって攫われちゃったのルカちゃんなんだもん、カイルに冷静になれって言っても無理なの、皆わかってるよお?」
ふたりの言葉に苦笑する。
僕は、自分で考えるよりもずっとわかりやすい奴なんだな。
「わかった、では、なるべく遭遇は避けながらこのまま進もう。ナイアラ、斥候を頼むよ。僕も時々上から確認しよう」
「任せてえ!」
それからも、“猟犬”を連れた悪魔王の信徒と何度も戦いを繰り返した。
悪魔王はまだ新しい神だ。“大災害”以前は神ですらない、“悪魔大公”と称される地獄界の各階層の支配者の筆頭とはいえ、ただの“大悪魔”でしかなかった悪魔だ。
それなのに、もうこれほど多くの信徒を集めているのかと愕然とする。
カルト員のほとんどが身体のどこかに悪魔王の印を刻み、その名を讃えながらこちらへと襲いかかってくる。
そのようすは、“大災害”以来、力を弱めてしまった古くからの神々の信徒とは、なんて対照的なのかと考えてしまう。
ひとが悪魔の誘惑に極めて弱いということの、これは証明なのだろうか。
「魔術の消費は抑えたいけれど、そうも言ってられないわよねえ」
ぶつぶつと文句を言いながらも、イリヴァーラは呪文を唱える。
ヘスカンも「出し惜しみしていては、余計に時間がかかるだけですよ」と半ば諦めたような表情だ。
戦いが長引けばそれだけ新手が増え、こちらに不利となるだけだ。だからなるべく早く片付けて、すぐに移動しなければならない。
しかし、それをわかっていても、戦いを重ねてこちらが消耗すればだんだんそれも難しくなる。
「日暮れ前にいちど休憩を入れないと、厳しいかもお」
ナイアラの言葉に、イリヴァーラがヘスカンを振り向いた。
「ヘスカン、あとどれくらい残ってる?」
「大技がひとつと、あとは小さいのばかりですね」
「私も似たようなものだわ……カイル、これなんとかしたら、いちど休んで話し合いよ」
「……わかった」
先を急ぐだけでは、ルカのところへ辿り着く前に自分が倒れてしまう。
わかっていても敵の術中にはまっているようで、本当に悔しい。
洞窟が近いのだからあたりまえだろう。カルトの連中は、当然、僕らがルカを取り戻しに来るのだと考えている。
夜明けとともに“異次元の小部屋”を出て、再び“魔女の舞踏場”を目指すが、やはり一筋縄ではいかないようだ。
「考えていたより数が多いわ。この調子じゃ迂回も必要になるし……余裕あるはずだったのに、あまり良い傾向とは言えないわね」
イリヴァーラが眉根を寄せる。
いつもなら朝食にもまだ早いくらいの時間、つまり、“小部屋”を出てまだ数時間も経っていないのに、既に3度も戦ったのだ。
おかげで思うように先へ進めず、苛々は募るばかりである。
「昨日のうちにあの丘陵を超えたことは向こうにも知られていますから、この森に兵を集中しているのでしょう」
おそらく、ヘスカンの見立て通りなのだろう。
昨日、森に入ったばかりの時はこれほどではなかったはずだ。
「また、姿を隠していくか?」
「上策とは言えないわね。
たとえナイアラを目印にしても、この森の中じゃはぐれる危険のほうが大きいわ。それに、これだけ巡回がいるようならすぐに見つかって魔法は切れてしまうでしょうね。
だったら、貴重な魔法のリソースなのだし、もっと別なものに使ったほうがいいんじゃないかしら」
「私もイリヴァーラに賛成ですよ」
ヘスカンも同意する。
「余裕がなくなるといっても、今日中に洞窟へ辿り着ければ蝕には十分以上に間に合います。本来なら昼で想定していたことが、夕刻近くになるくらいのズレでしょうか。
それに、洞窟もそこまで長くありません。奴らの兵と戦いながらでも、半日もあれば抜けることができますし、蝕までには辿り着けるでしょう」
「ちゃんと休む時間も取れるよ。だから大丈夫。ルカちゃんも、強い子だから大丈夫だよカイル」
僕は、大きく息を吐いた。
本当なら僕がしっかりして皆を励ます立場のはずが、もうずっと逆転したままだ。ルカのことを考えては焦っているばかりの僕を、皆が落ち付けようと宥めるばかりで――
「ごめん。どうも冷静でいられないようだ」
「そんなの計算のうちよ。伊達に長く付き合ってるわけじゃないんだから、そのくらい想定済だわ。見縊らないで」
「そうそう。だって攫われちゃったのルカちゃんなんだもん、カイルに冷静になれって言っても無理なの、皆わかってるよお?」
ふたりの言葉に苦笑する。
僕は、自分で考えるよりもずっとわかりやすい奴なんだな。
「わかった、では、なるべく遭遇は避けながらこのまま進もう。ナイアラ、斥候を頼むよ。僕も時々上から確認しよう」
「任せてえ!」
それからも、“猟犬”を連れた悪魔王の信徒と何度も戦いを繰り返した。
悪魔王はまだ新しい神だ。“大災害”以前は神ですらない、“悪魔大公”と称される地獄界の各階層の支配者の筆頭とはいえ、ただの“大悪魔”でしかなかった悪魔だ。
それなのに、もうこれほど多くの信徒を集めているのかと愕然とする。
カルト員のほとんどが身体のどこかに悪魔王の印を刻み、その名を讃えながらこちらへと襲いかかってくる。
そのようすは、“大災害”以来、力を弱めてしまった古くからの神々の信徒とは、なんて対照的なのかと考えてしまう。
ひとが悪魔の誘惑に極めて弱いということの、これは証明なのだろうか。
「魔術の消費は抑えたいけれど、そうも言ってられないわよねえ」
ぶつぶつと文句を言いながらも、イリヴァーラは呪文を唱える。
ヘスカンも「出し惜しみしていては、余計に時間がかかるだけですよ」と半ば諦めたような表情だ。
戦いが長引けばそれだけ新手が増え、こちらに不利となるだけだ。だからなるべく早く片付けて、すぐに移動しなければならない。
しかし、それをわかっていても、戦いを重ねてこちらが消耗すればだんだんそれも難しくなる。
「日暮れ前にいちど休憩を入れないと、厳しいかもお」
ナイアラの言葉に、イリヴァーラがヘスカンを振り向いた。
「ヘスカン、あとどれくらい残ってる?」
「大技がひとつと、あとは小さいのばかりですね」
「私も似たようなものだわ……カイル、これなんとかしたら、いちど休んで話し合いよ」
「……わかった」
先を急ぐだけでは、ルカのところへ辿り着く前に自分が倒れてしまう。
わかっていても敵の術中にはまっているようで、本当に悔しい。
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