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聖女の町
絶好調!
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「カーリス……カーリス家というと、では、もしや都のカーリス家の方ですか? ブライアン・カーリス司祭は、もしかして――」
「え、え、その、祖父、です。あの、ご存じなのですか?」
「なんと! 祖父君には、まだひよっ子の頃に何度か稽古をつけていただいたことがあるのですよ。
さすが戦神の司祭と感心するような猛者でした。亡くなられたことが、本当に惜しいくらいです」
「あ、あの、ありがとうございます。そう言って、いただけると、その、祖父も、喜んでくれると思います」
にっこりと微笑み返されて、エルヴィラの頰がかあっと熱くなる。
戦神の聖騎士ベルナルド様より若いけど、もしかしたらこの人ベルナルド様よりカッコイイんじゃないだろうか。
おまけに祖父の知己であったとは、これ、もう運命なんじゃないだろうか。
エルヴィラの心臓と乙女回路は、限界突破しそうなくらいにうるさく鼓動を刻んでいた。
軽食を摘み、飲み物を戴きながら、祖父のおかげでなんとかサイラスとの会話を繋いでいけた。元気な頃は鬼のような扱きに思わず“糞爺”などという罵声を浴びせてしまったこともあったが、今は感謝の念しかない。
今度都に帰ることがあったら、墓前には祖父の好きだった酒でも持って行ってやろう。その時はサイラスが一緒だったらいいな――って、やだなーもう、エルヴィラったら気が早ーい!
この戦いにすっかり勝った気分のエルヴィラは、皮算用に先の先まで妄想して思わず悶えてしまう。
が、ふと、サイラスが急に真剣な表情で窓の外へと目を向けた。
エルヴィラも気付いて同じように外を睨み、そっと足音を立てないよう、窓の横に付いてさらに外の様子を伺った。
他の護衛たちも何かを感じてか、めいめいがそれぞれの方法で警戒するように外を探っている。
「――サイラス殿」
「少し多そうですね」
エルヴィラは頷いた。腰の薬入れから瓶をひとつ取り出すと、外から視線を外さずに歯で蓋を取り去ってそのままごくりと飲みくだす。
エルヴィラの目が、たちまち外の暗がりまでをはっきりと見通すようになった。
「“暗視”の魔法薬ですか?」
「あ……はい。その、野宿をすることもあるから、えと、いつも用意してあるんです」
「なるほど、さすがですね」
ほっ、褒められた!
また頰に血が昇る。
サイラスに褒められた!
知らず、エルヴィラの喉からくっくっく、と小さく笑いが漏れた。
斯くなる上はこの賊どもを首尾よくきれいに討伐し、自分が可愛いだけでなく有能な騎士であることもアピールせねばなるまい。
「その、木々が邪魔で、あまりよく見えないのだ……ですが、えと、あちらの植え込みの陰を辿って、食堂へ向かっているようで、す」
目を眇め、透かすように外を観察するエルヴィラの言葉に、サイラスは少し考え、すぐに商人組合の護衛長に声をかける。
「アレフ殿、あなたは他のものを連れて、中から回っていただけますか」
「サイラス殿は?」
「私とエルヴィラ殿で、外から行きます」
「承知した」
さ、サイラスとふたりきり!!
エルヴィラのテンションはどんどん上昇する。これはチャンス、チャンスに違いない! 助けてもよし、助けられてもよし……なんというおいしいシチュエーションだろうか。
これぞ運命の采配というものなのではないか。
「エルヴィラ殿、気をつけて。賊の数が多いですから、囲まれないように」
「っ、は、はいっ!」
し、心配までされたーっ!?
やだ、エルヴィラ絶好調すぎる!
どうしよう、この感じだと危なげなくなんとかできそうだけど、ちょっとくらいピンチになったほうがいいのだろうか。それともそんなことして使えない女騎士だと思われては大変だから、ちゃんとしっかり戦わないといけないだろうか。
別な方向に心臓をばくばくさせながら、エルヴィラはサイラスに合わせてテラスへと踏み出した。庭木の陰に隠れるように賊は移動しているようだ。
「さ、サイラス殿、右手奥のあたりに三人、そこから五歩ほど後ろに四人ほどだ……です。少し離れたところにも、潜んでるみたいですが、そちらの数はわからない……です」
「わかりました。私が先に出ましょう」
サイラスは示された植え込みに目をやった。それから自分の腰の剣を抜き、エルヴィラを振り返る。
「この“太陽神の刃”を光らせて目を潰しますから、あなたは直視しないよう注意を」
「わ、わかりました……その、お気を付けて」
サイラスは、ふっと笑みを浮かべてエルヴィラに頷いた。
「では、行きましょう」
「――っ!」
サイラスの笑顔の破壊力が半端ないと、エルヴィラはぜいぜいと息を荒げる。
これは頑張るしかないだろう。
サイラスにいいところを見せないと。
ふふふ、とエルヴィラの口元が弧を描く。
サイラス様、どうか私の活躍を御覧あれ!
サイラスの合図でエルヴィラも走り出す。
「殺さないようにお願いします」
「承知!」
サイラスの剣から放たれた眩い光から目を逸らし、エルヴィラは手近な賊の脚を狙って鋭く斬りつける。
「くく――不埒な悪党どもめ、神妙にしろ!
戦いと勝利の神の名にかけて、このエルヴィラ・カーリスの目を逃れると思うな――ふはははは!」
エルヴィラは絶好調だった。
「え、え、その、祖父、です。あの、ご存じなのですか?」
「なんと! 祖父君には、まだひよっ子の頃に何度か稽古をつけていただいたことがあるのですよ。
さすが戦神の司祭と感心するような猛者でした。亡くなられたことが、本当に惜しいくらいです」
「あ、あの、ありがとうございます。そう言って、いただけると、その、祖父も、喜んでくれると思います」
にっこりと微笑み返されて、エルヴィラの頰がかあっと熱くなる。
戦神の聖騎士ベルナルド様より若いけど、もしかしたらこの人ベルナルド様よりカッコイイんじゃないだろうか。
おまけに祖父の知己であったとは、これ、もう運命なんじゃないだろうか。
エルヴィラの心臓と乙女回路は、限界突破しそうなくらいにうるさく鼓動を刻んでいた。
軽食を摘み、飲み物を戴きながら、祖父のおかげでなんとかサイラスとの会話を繋いでいけた。元気な頃は鬼のような扱きに思わず“糞爺”などという罵声を浴びせてしまったこともあったが、今は感謝の念しかない。
今度都に帰ることがあったら、墓前には祖父の好きだった酒でも持って行ってやろう。その時はサイラスが一緒だったらいいな――って、やだなーもう、エルヴィラったら気が早ーい!
この戦いにすっかり勝った気分のエルヴィラは、皮算用に先の先まで妄想して思わず悶えてしまう。
が、ふと、サイラスが急に真剣な表情で窓の外へと目を向けた。
エルヴィラも気付いて同じように外を睨み、そっと足音を立てないよう、窓の横に付いてさらに外の様子を伺った。
他の護衛たちも何かを感じてか、めいめいがそれぞれの方法で警戒するように外を探っている。
「――サイラス殿」
「少し多そうですね」
エルヴィラは頷いた。腰の薬入れから瓶をひとつ取り出すと、外から視線を外さずに歯で蓋を取り去ってそのままごくりと飲みくだす。
エルヴィラの目が、たちまち外の暗がりまでをはっきりと見通すようになった。
「“暗視”の魔法薬ですか?」
「あ……はい。その、野宿をすることもあるから、えと、いつも用意してあるんです」
「なるほど、さすがですね」
ほっ、褒められた!
また頰に血が昇る。
サイラスに褒められた!
知らず、エルヴィラの喉からくっくっく、と小さく笑いが漏れた。
斯くなる上はこの賊どもを首尾よくきれいに討伐し、自分が可愛いだけでなく有能な騎士であることもアピールせねばなるまい。
「その、木々が邪魔で、あまりよく見えないのだ……ですが、えと、あちらの植え込みの陰を辿って、食堂へ向かっているようで、す」
目を眇め、透かすように外を観察するエルヴィラの言葉に、サイラスは少し考え、すぐに商人組合の護衛長に声をかける。
「アレフ殿、あなたは他のものを連れて、中から回っていただけますか」
「サイラス殿は?」
「私とエルヴィラ殿で、外から行きます」
「承知した」
さ、サイラスとふたりきり!!
エルヴィラのテンションはどんどん上昇する。これはチャンス、チャンスに違いない! 助けてもよし、助けられてもよし……なんというおいしいシチュエーションだろうか。
これぞ運命の采配というものなのではないか。
「エルヴィラ殿、気をつけて。賊の数が多いですから、囲まれないように」
「っ、は、はいっ!」
し、心配までされたーっ!?
やだ、エルヴィラ絶好調すぎる!
どうしよう、この感じだと危なげなくなんとかできそうだけど、ちょっとくらいピンチになったほうがいいのだろうか。それともそんなことして使えない女騎士だと思われては大変だから、ちゃんとしっかり戦わないといけないだろうか。
別な方向に心臓をばくばくさせながら、エルヴィラはサイラスに合わせてテラスへと踏み出した。庭木の陰に隠れるように賊は移動しているようだ。
「さ、サイラス殿、右手奥のあたりに三人、そこから五歩ほど後ろに四人ほどだ……です。少し離れたところにも、潜んでるみたいですが、そちらの数はわからない……です」
「わかりました。私が先に出ましょう」
サイラスは示された植え込みに目をやった。それから自分の腰の剣を抜き、エルヴィラを振り返る。
「この“太陽神の刃”を光らせて目を潰しますから、あなたは直視しないよう注意を」
「わ、わかりました……その、お気を付けて」
サイラスは、ふっと笑みを浮かべてエルヴィラに頷いた。
「では、行きましょう」
「――っ!」
サイラスの笑顔の破壊力が半端ないと、エルヴィラはぜいぜいと息を荒げる。
これは頑張るしかないだろう。
サイラスにいいところを見せないと。
ふふふ、とエルヴィラの口元が弧を描く。
サイラス様、どうか私の活躍を御覧あれ!
サイラスの合図でエルヴィラも走り出す。
「殺さないようにお願いします」
「承知!」
サイラスの剣から放たれた眩い光から目を逸らし、エルヴィラは手近な賊の脚を狙って鋭く斬りつける。
「くく――不埒な悪党どもめ、神妙にしろ!
戦いと勝利の神の名にかけて、このエルヴィラ・カーリスの目を逃れると思うな――ふはははは!」
エルヴィラは絶好調だった。
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