74 / 152
一攫千金の町
意地っ張り
しおりを挟む
兜はかぶったまま口元だけを開け、串に刺さった肉にぱくりとかぶりつく。
濃いめの甘辛いタレに漬け込んで炙り焼きにした鳥は、このあたりによくいる野鳥を捌いたものだ。肉はしっとり柔らかく脂も十分に乗って、嚙みしめると肉汁が口の中に広がる。
「ん、美味い」
「ちょ、ちょ、早くひとつくれよ!」
もうひと口囓ろうとしたところに慌てた声がかかる。
さっきからずっと肩の上で落ち着きなくうろうろしていた栗鼠が、涎を垂らさんばかりにして串に刺さった鳥肉を目で追っていた。
「しょうがないな、ほら」
差し出された串からひとつ肉を抜き取ると、栗鼠は満足そうに目を細めてすぐに齧り始める。
「前から思ってたけど、栗鼠のくせに肉なんか食べて、大丈夫なのか?」
「栗鼠なのは形だけだしな。それに、野生の栗鼠は雑食で、木の実だけじゃなくて虫や肉も食うんだ。あんた知らないのか?」
「そんなの知らない。都で栗鼠なんて見かけなかったし」
ぼそぼそと話しながら、並んだ店を冷やかすように見て歩く。
今はちょうど昼時とあって、立ち並んだ食べ物屋はどこも盛況だ。どの店も客を誘い込むように、良い匂いを立ち昇らせている。
「なあなあ、そういえば、顔合わせの約束っていつだっけ」
「夕刻前の鐘が鳴るころだから、まだまだ先だな」
太陽の高さを確かめるように空を仰ぐ。昼を回って間もない今、太陽はまだ天中高いところにあった。
“一攫千金の町”は、多くの冒険者で賑わう町だ。
荒れ地には“大災害”で潰れた町がまだまだ多く埋もれていて、そこには未だ見つかってない宝がたくさん眠っているのだという。
ここはそんな遺跡や廃墟がたくさん埋もれた場所にいちばん近い町として、冒険者たちの拠点に最適なのだ。
一攫千金を夢見る冒険者が集まるから“一攫千金の町”……わかりやすい呼び名に、エルヴィラはつい笑ってしまう。
通りの露店を冷やかしている者たちも、多くはそんな冒険者だ。
──それにエルヴィラも、この町では“ヴィン”と名乗る、独り者の冒険者として活動しているのだ。
もちろん、最初は冒険者なんてどうすればいいのか、右も左もわからなかった。
だが意外にも、アライトが以前やっていたことがあるからと言って、仕事の探し方や誰かと組むときの注意などをエルヴィラに伝授してくれたのだ。
おかげでこの町に着いてから3ヶ月の間、特にトラブルに見舞われることもなくどうにか無事に過ごしている。
時には臨時で誰かと組んだり、ひとりで魔物退治を請け負ったり――冒険者というのは訳あり者が多いせいか、誰かに見咎められることもなく、エルヴィラも落ち着いて暮らすことができていた。
顔を見せず、いつも鎧をつけた上からすっぽりとマントを被ったまま、ぱっと見には性別すらよくわからないエルヴィラも、冒険者たちにしてみればそこまで警戒するものでもなかったらしい。
今ではいつの間にか、エルヴィラは“格好は胡散臭いけど腕は立ってそれなりに信用もできる、独り者の戦士ヴィン”として知られるようになっていた。
「なあなあ、あれも食べようぜ」
アライトの指差した先には、この辺りで採れる野菜やキノコに塩漬け肉を巻いて衣を付けた串揚げが並んでいた。
「お前、結構食い意地張ってるよな」
「いいじゃねえか。あんただって食べ歩くの好きだろ?」
くすっと笑い、アライトの言う露店へと言って幾つか選ぶ。
銅貨と引き換えに渡された串を片手に持ち、街路の横で建物に寄り掛かりながら、串揚げを齧り始めた。
こうして食べているとミーケルのことを思い出してしまうのは、やっぱりふたりでの食べ歩きのせいだろうか。
ぼんやりと人の行き来を眺めながら、ミーケルは元気でいるかなと考える。
なんだかんだ、ミーケルがあれこれ語る薀蓄を聞きながら美味しいものを食べるのは、とても楽しかった。
ついて歩く間ずっと、次の食事は何だろうといつも楽しみだったのだ。
あの町を出てもう三ヶ月。
きっとミーケルのことだ。もう自分のことは忘れて、またひとりで気ままにやってるんだろう。
――あああ、考えちゃだめだ。ミーケルを探したくなってしまう!
エルヴィラは眉根を寄せてぱくっと串揚げに齧りつく。
ぱくぱくとひたすら一心不乱に串揚げを齧るエルヴィラに、アライトは「あんたって結構な意地っ張りでもあるよな」と呟いた。
濃いめの甘辛いタレに漬け込んで炙り焼きにした鳥は、このあたりによくいる野鳥を捌いたものだ。肉はしっとり柔らかく脂も十分に乗って、嚙みしめると肉汁が口の中に広がる。
「ん、美味い」
「ちょ、ちょ、早くひとつくれよ!」
もうひと口囓ろうとしたところに慌てた声がかかる。
さっきからずっと肩の上で落ち着きなくうろうろしていた栗鼠が、涎を垂らさんばかりにして串に刺さった鳥肉を目で追っていた。
「しょうがないな、ほら」
差し出された串からひとつ肉を抜き取ると、栗鼠は満足そうに目を細めてすぐに齧り始める。
「前から思ってたけど、栗鼠のくせに肉なんか食べて、大丈夫なのか?」
「栗鼠なのは形だけだしな。それに、野生の栗鼠は雑食で、木の実だけじゃなくて虫や肉も食うんだ。あんた知らないのか?」
「そんなの知らない。都で栗鼠なんて見かけなかったし」
ぼそぼそと話しながら、並んだ店を冷やかすように見て歩く。
今はちょうど昼時とあって、立ち並んだ食べ物屋はどこも盛況だ。どの店も客を誘い込むように、良い匂いを立ち昇らせている。
「なあなあ、そういえば、顔合わせの約束っていつだっけ」
「夕刻前の鐘が鳴るころだから、まだまだ先だな」
太陽の高さを確かめるように空を仰ぐ。昼を回って間もない今、太陽はまだ天中高いところにあった。
“一攫千金の町”は、多くの冒険者で賑わう町だ。
荒れ地には“大災害”で潰れた町がまだまだ多く埋もれていて、そこには未だ見つかってない宝がたくさん眠っているのだという。
ここはそんな遺跡や廃墟がたくさん埋もれた場所にいちばん近い町として、冒険者たちの拠点に最適なのだ。
一攫千金を夢見る冒険者が集まるから“一攫千金の町”……わかりやすい呼び名に、エルヴィラはつい笑ってしまう。
通りの露店を冷やかしている者たちも、多くはそんな冒険者だ。
──それにエルヴィラも、この町では“ヴィン”と名乗る、独り者の冒険者として活動しているのだ。
もちろん、最初は冒険者なんてどうすればいいのか、右も左もわからなかった。
だが意外にも、アライトが以前やっていたことがあるからと言って、仕事の探し方や誰かと組むときの注意などをエルヴィラに伝授してくれたのだ。
おかげでこの町に着いてから3ヶ月の間、特にトラブルに見舞われることもなくどうにか無事に過ごしている。
時には臨時で誰かと組んだり、ひとりで魔物退治を請け負ったり――冒険者というのは訳あり者が多いせいか、誰かに見咎められることもなく、エルヴィラも落ち着いて暮らすことができていた。
顔を見せず、いつも鎧をつけた上からすっぽりとマントを被ったまま、ぱっと見には性別すらよくわからないエルヴィラも、冒険者たちにしてみればそこまで警戒するものでもなかったらしい。
今ではいつの間にか、エルヴィラは“格好は胡散臭いけど腕は立ってそれなりに信用もできる、独り者の戦士ヴィン”として知られるようになっていた。
「なあなあ、あれも食べようぜ」
アライトの指差した先には、この辺りで採れる野菜やキノコに塩漬け肉を巻いて衣を付けた串揚げが並んでいた。
「お前、結構食い意地張ってるよな」
「いいじゃねえか。あんただって食べ歩くの好きだろ?」
くすっと笑い、アライトの言う露店へと言って幾つか選ぶ。
銅貨と引き換えに渡された串を片手に持ち、街路の横で建物に寄り掛かりながら、串揚げを齧り始めた。
こうして食べているとミーケルのことを思い出してしまうのは、やっぱりふたりでの食べ歩きのせいだろうか。
ぼんやりと人の行き来を眺めながら、ミーケルは元気でいるかなと考える。
なんだかんだ、ミーケルがあれこれ語る薀蓄を聞きながら美味しいものを食べるのは、とても楽しかった。
ついて歩く間ずっと、次の食事は何だろうといつも楽しみだったのだ。
あの町を出てもう三ヶ月。
きっとミーケルのことだ。もう自分のことは忘れて、またひとりで気ままにやってるんだろう。
――あああ、考えちゃだめだ。ミーケルを探したくなってしまう!
エルヴィラは眉根を寄せてぱくっと串揚げに齧りつく。
ぱくぱくとひたすら一心不乱に串揚げを齧るエルヴィラに、アライトは「あんたって結構な意地っ張りでもあるよな」と呟いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる