クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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一攫千金の町

意地っ張り

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 兜はかぶったまま口元だけを開け、串に刺さった肉にぱくりとかぶりつく。

 濃いめの甘辛いタレに漬け込んで炙り焼きにした鳥は、このあたりによくいる野鳥を捌いたものだ。肉はしっとり柔らかく脂も十分に乗って、嚙みしめると肉汁が口の中に広がる。

「ん、美味い」
「ちょ、ちょ、早くひとつくれよ!」

 もうひと口囓ろうとしたところに慌てた声がかかる。
 さっきからずっと肩の上で落ち着きなくうろうろしていた栗鼠が、涎を垂らさんばかりにして串に刺さった鳥肉を目で追っていた。

「しょうがないな、ほら」

 差し出された串からひとつ肉を抜き取ると、栗鼠は満足そうに目を細めてすぐに齧り始める。

「前から思ってたけど、栗鼠のくせに肉なんか食べて、大丈夫なのか?」
「栗鼠なのは形だけだしな。それに、野生の栗鼠は雑食で、木の実だけじゃなくて虫や肉も食うんだ。あんた知らないのか?」
「そんなの知らない。都で栗鼠なんて見かけなかったし」

 ぼそぼそと話しながら、並んだ店を冷やかすように見て歩く。

 今はちょうど昼時とあって、立ち並んだ食べ物屋はどこも盛況だ。どの店も客を誘い込むように、良い匂いを立ち昇らせている。

「なあなあ、そういえば、顔合わせの約束っていつだっけ」
「夕刻前の鐘が鳴るころだから、まだまだ先だな」

 太陽の高さを確かめるように空を仰ぐ。昼を回って間もない今、太陽はまだ天中高いところにあった。



 “一攫千金の町”は、多くの冒険者で賑わう町だ。
 荒れ地には“大災害”で潰れた町がまだまだ多く埋もれていて、そこには未だ見つかってない宝がたくさん眠っているのだという。

 ここはそんな遺跡や廃墟がたくさん埋もれた場所にいちばん近い町として、冒険者たちの拠点に最適なのだ。
 一攫千金を夢見る冒険者が集まるから“一攫千金の町”……わかりやすい呼び名に、エルヴィラはつい笑ってしまう。
 通りの露店を冷やかしている者たちも、多くはそんな冒険者だ。

 ──それにエルヴィラも、この町では“ヴィン”と名乗る、独り者の冒険者として活動しているのだ。

 もちろん、最初は冒険者なんてどうすればいいのか、右も左もわからなかった。
 だが意外にも、アライトが以前やっていたことがあるからと言って、仕事の探し方や誰かと組むときの注意などをエルヴィラに伝授してくれたのだ。

 おかげでこの町に着いてから3ヶ月の間、特にトラブルに見舞われることもなくどうにか無事に過ごしている。

 時には臨時で誰かと組んだり、ひとりで魔物退治を請け負ったり――冒険者というのは訳あり者が多いせいか、誰かに見咎められることもなく、エルヴィラも落ち着いて暮らすことができていた。

 顔を見せず、いつも鎧をつけた上からすっぽりとマントを被ったまま、ぱっと見には性別すらよくわからないエルヴィラも、冒険者たちにしてみればそこまで警戒するものでもなかったらしい。
 今ではいつの間にか、エルヴィラは“格好は胡散臭いけど腕は立ってそれなりに信用もできる、独り者の戦士ヴィン”として知られるようになっていた。



「なあなあ、あれも食べようぜ」

 アライトの指差した先には、この辺りで採れる野菜やキノコに塩漬け肉を巻いて衣を付けた串揚げが並んでいた。

「お前、結構食い意地張ってるよな」
「いいじゃねえか。あんただって食べ歩くの好きだろ?」

 くすっと笑い、アライトの言う露店へと言って幾つか選ぶ。
 銅貨と引き換えに渡された串を片手に持ち、街路の横で建物に寄り掛かりながら、串揚げを齧り始めた。

 こうして食べているとミーケルのことを思い出してしまうのは、やっぱりふたりでの食べ歩きのせいだろうか。
 ぼんやりと人の行き来を眺めながら、ミーケルは元気でいるかなと考える。

 なんだかんだ、ミーケルがあれこれ語る薀蓄を聞きながら美味しいものを食べるのは、とても楽しかった。
 ついて歩く間ずっと、次の食事は何だろうといつも楽しみだったのだ。

 あの町を出てもう三ヶ月。
 きっとミーケルのことだ。もう自分のことは忘れて、またひとりで気ままにやってるんだろう。

 ――あああ、考えちゃだめだ。ミーケルを探したくなってしまう!

 エルヴィラは眉根を寄せてぱくっと串揚げに齧りつく。
 ぱくぱくとひたすら一心不乱に串揚げを齧るエルヴィラに、アライトは「あんたって結構な意地っ張りでもあるよな」と呟いた。


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