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神竜の加護ある町
決闘の行方、一戦目
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がんと派手な音を立てて盾でエルヴィラの剣を弾くと、オーウェンは微笑んだ。
「エルヴィラはやはり可愛いな。そうやって真っ直ぐに打ちかかってくるところも、昔と変わらずお前らしくてとても可愛い。兄として嬉しいよ」
「くっ……兄上、まさか、本気出して、ないのか」
エルヴィラは軽く息を弾ませ、オーウェンが笑う余裕を持つことに眉を寄せる。
「私が可愛いエルヴィラに本気を出さないはずがないだろう」
「なら、なんで……」
思わず顔を顰めたエルヴィラと剣を合わせながら、オーウェンは小さく首を傾げた。ほんとうにうちの妹は可愛い、という顔でだ。
「言ったろう。お前が己を過信して振る舞うようすはとても可愛いが、それは鍛錬の場に限る。もしそのまま戦場へ赴くことになれば、お前の過信はお前を損なうことになってしまうのだよ?」
「な……」
「だから私は兄として、お前の増長を正さねばならん」
エルヴィラを押しやり、がちゃりと鎧を鳴らすとオーウェンは剣を構え直した。
そこから、オーウェンの猛攻が始まった。
おそらく、力ではエルヴィラのほうが上なのだろうが、隙を誘いそこを突くような戦い方でエルヴィラを追い詰めていく。
「あれはエルヴィラ向きじゃないね……」
ミーケルが溜息を吐きながら呟くと、アライトも、「そうだな」と同意した。
クラーケンの時もアライトの時も屍竜の時も、ある意味すべて力押しでもなんとかなるような戦いだったのだ。
だが、オーウェンは力押しでなんとかなるような相手ではない。エルヴィラの癖も戦い方もよく知っていて、それに対処できる相手なのだ。
じわじわ押されていくエルヴィラの顔色も旗色も悪い。
思うように剣も当たらなくなり、だんだんと防戦一方に変わってしまう。
そのことが自分でもわかるのにどうしようもなくて、エルヴィラの目には焦りの色が浮かんでいる。
焦燥のあまりかそれとも起死回生を狙ってか、そうやって思い切り打ち込んだエルヴィラの剣は、角度も勢いもまずいもので――とうとうオーウェンの盾に剣を飛ばされ、喉元に剣先を突きつけられてしまった。
「オーウェン・カーリスの勝利」
戦神教会の教会長の宣言が、厳かに響く。
「う……」
へたへたと座り込み真っ青になったエルヴィラから剣を引くと、オーウェンは膝をつき、すぐに癒しの神術を唱えた。
たちまちエルヴィラの傷がすべて癒える。
「ああ、エルヴィラ、泣くんじゃないよ。これでお前はまだまだだと思い知ったろう。またさらなる高みを目指せばいいんだ」
オーウェンは優しくエルヴィラの頭を抱えて撫でた。
だが、エルヴィラの頭の中は“敗北”の二文字がぐるぐるするばかりだ。
どうしよう。負けてしまった。
このままではオーウェンがミーケルに酷いことをしてしまう。
「あ、あ、兄上、兄上は、どうす……」
「約束通り、私はあの吟遊詩人に天誅をくだそう。
だが大丈夫だ。生命は取ったりしない」
にっこり笑って告げるオーウェンに、エルヴィラはさらに目を見開いた。
「だ、だ、だめだ、兄上。頼むから、ミケに酷いことしないで――」
「いいや、エルヴィラ。あの吟遊詩人は、私の可愛いエルヴィラに不名誉を与えた報いを受けなくてはならない。お前ならわかるね?」
ぱくぱくと魚のように喘ぐエルヴィラに、オーウェンを止める言葉が何も浮かばない。なんといっても、負けてしまった者にオーウェンを止めることなどできるわけがない。
オーウェンはゆっくりと立ち上がり、ミーケルへと剣を突きつけた。
「では吟遊詩人ミーケル。貴様によってかけられた我が妹の汚名を雪ぎ再び名誉を挽回するため、我が剣を受けるがいい」
やっぱり脳筋兄妹の言うことはよくわからないなとミーケルは思った。だが。
「ま、そういう約束だったからね。
だが、そうは言っても僕は騎士じゃない。だから僕は僕のやり方で戦うけど、それは構わないね?」
「ああ、構わんとも。詩人の戦い方でかかってくるがいい」
ミーケルはひらりと柵を越えると、上着を脱いで、いつもの鎖帷子を着た。
それから、普段は腰に佩いたまま、ほとんど抜くことのない細剣をすらりと抜いて、軽く数度振ってみる。
がっちりと全身鎧を付けた重装備のオーウェンに、あれで勝つつもりかと誰かが失笑を漏らす声が聞こえた。
けれど、聞こえるのか聞こえないのか、ミーケルはどこ吹く風と、鍛錬場の真ん中へと歩いて行く。
「ミケ……」
そこに座り込んだまま、俯いてそれ以上言葉の出ないエルヴィラを、ミーケルはやさしく撫でてぐいと立たせると、柵を指差した。
「ほら、外に下がって。で、僕の勝利でも祈っててよ」
泣きそうな顔のまま自分を見上げるエルヴィラに軽い調子で肩を竦める。
「ほら、行きな」
ミーケルはエルヴィラの背中をそっと押しやった。
「エルヴィラはやはり可愛いな。そうやって真っ直ぐに打ちかかってくるところも、昔と変わらずお前らしくてとても可愛い。兄として嬉しいよ」
「くっ……兄上、まさか、本気出して、ないのか」
エルヴィラは軽く息を弾ませ、オーウェンが笑う余裕を持つことに眉を寄せる。
「私が可愛いエルヴィラに本気を出さないはずがないだろう」
「なら、なんで……」
思わず顔を顰めたエルヴィラと剣を合わせながら、オーウェンは小さく首を傾げた。ほんとうにうちの妹は可愛い、という顔でだ。
「言ったろう。お前が己を過信して振る舞うようすはとても可愛いが、それは鍛錬の場に限る。もしそのまま戦場へ赴くことになれば、お前の過信はお前を損なうことになってしまうのだよ?」
「な……」
「だから私は兄として、お前の増長を正さねばならん」
エルヴィラを押しやり、がちゃりと鎧を鳴らすとオーウェンは剣を構え直した。
そこから、オーウェンの猛攻が始まった。
おそらく、力ではエルヴィラのほうが上なのだろうが、隙を誘いそこを突くような戦い方でエルヴィラを追い詰めていく。
「あれはエルヴィラ向きじゃないね……」
ミーケルが溜息を吐きながら呟くと、アライトも、「そうだな」と同意した。
クラーケンの時もアライトの時も屍竜の時も、ある意味すべて力押しでもなんとかなるような戦いだったのだ。
だが、オーウェンは力押しでなんとかなるような相手ではない。エルヴィラの癖も戦い方もよく知っていて、それに対処できる相手なのだ。
じわじわ押されていくエルヴィラの顔色も旗色も悪い。
思うように剣も当たらなくなり、だんだんと防戦一方に変わってしまう。
そのことが自分でもわかるのにどうしようもなくて、エルヴィラの目には焦りの色が浮かんでいる。
焦燥のあまりかそれとも起死回生を狙ってか、そうやって思い切り打ち込んだエルヴィラの剣は、角度も勢いもまずいもので――とうとうオーウェンの盾に剣を飛ばされ、喉元に剣先を突きつけられてしまった。
「オーウェン・カーリスの勝利」
戦神教会の教会長の宣言が、厳かに響く。
「う……」
へたへたと座り込み真っ青になったエルヴィラから剣を引くと、オーウェンは膝をつき、すぐに癒しの神術を唱えた。
たちまちエルヴィラの傷がすべて癒える。
「ああ、エルヴィラ、泣くんじゃないよ。これでお前はまだまだだと思い知ったろう。またさらなる高みを目指せばいいんだ」
オーウェンは優しくエルヴィラの頭を抱えて撫でた。
だが、エルヴィラの頭の中は“敗北”の二文字がぐるぐるするばかりだ。
どうしよう。負けてしまった。
このままではオーウェンがミーケルに酷いことをしてしまう。
「あ、あ、兄上、兄上は、どうす……」
「約束通り、私はあの吟遊詩人に天誅をくだそう。
だが大丈夫だ。生命は取ったりしない」
にっこり笑って告げるオーウェンに、エルヴィラはさらに目を見開いた。
「だ、だ、だめだ、兄上。頼むから、ミケに酷いことしないで――」
「いいや、エルヴィラ。あの吟遊詩人は、私の可愛いエルヴィラに不名誉を与えた報いを受けなくてはならない。お前ならわかるね?」
ぱくぱくと魚のように喘ぐエルヴィラに、オーウェンを止める言葉が何も浮かばない。なんといっても、負けてしまった者にオーウェンを止めることなどできるわけがない。
オーウェンはゆっくりと立ち上がり、ミーケルへと剣を突きつけた。
「では吟遊詩人ミーケル。貴様によってかけられた我が妹の汚名を雪ぎ再び名誉を挽回するため、我が剣を受けるがいい」
やっぱり脳筋兄妹の言うことはよくわからないなとミーケルは思った。だが。
「ま、そういう約束だったからね。
だが、そうは言っても僕は騎士じゃない。だから僕は僕のやり方で戦うけど、それは構わないね?」
「ああ、構わんとも。詩人の戦い方でかかってくるがいい」
ミーケルはひらりと柵を越えると、上着を脱いで、いつもの鎖帷子を着た。
それから、普段は腰に佩いたまま、ほとんど抜くことのない細剣をすらりと抜いて、軽く数度振ってみる。
がっちりと全身鎧を付けた重装備のオーウェンに、あれで勝つつもりかと誰かが失笑を漏らす声が聞こえた。
けれど、聞こえるのか聞こえないのか、ミーケルはどこ吹く風と、鍛錬場の真ん中へと歩いて行く。
「ミケ……」
そこに座り込んだまま、俯いてそれ以上言葉の出ないエルヴィラを、ミーケルはやさしく撫でてぐいと立たせると、柵を指差した。
「ほら、外に下がって。で、僕の勝利でも祈っててよ」
泣きそうな顔のまま自分を見上げるエルヴィラに軽い調子で肩を竦める。
「ほら、行きな」
ミーケルはエルヴィラの背中をそっと押しやった。
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