121 / 152
護森
歌姫を知るひとの元へ
しおりを挟む
“鹿角の町”を出て、北へ北へと向かう。
途中、“一攫千金の町”を通ってアールやナイエたちの常宿にアライトからの手紙を預け、そこから更に北へと向かった。
北の凍てつく大地と南を分ける、“北の屋根”と呼ばれる北壁山脈よりは手前だけれど、目指すのは、それでも大陸で北方地域と呼ばれる場所だ。
最後に立ち寄ることになる町で、なるべくいろいろな種類の保存食をいっぱいに買い込みながら、ミーケルは「アライトがいたら、新鮮な食料が調達できるのにな」と愚痴をこぼしていた。
この町から先、“護森”と呼ばれる目的地まで、街道も町もない。水はミーケルの魔術で出せるが、食料は尽きてしまえば終わりだ。
南北の山に挟まれ、かつて“嵐の国”と呼ばれたこの地域は、今では“嵐の地”と呼ばれている。
北の大部分を“神の爪痕”と呼ばれる巨大な亀裂に呑まれ、わずかに残った南側は魔法嵐の吹き荒れる危険な土地に変わり、今では人が住めなくなってしまった地域だ。
何しろ、数日おきにどこかで突発的な魔法嵐が起こるのだ。
魔法嵐に遭えば、良くて作物の変質やら動物の変質やらに始まり、最悪、どことも知れない他次元の果てに飛ばされることまで何が起こるかわからないのに、わざわざ住もうなどと考える者はいない。
そういう、立ち入ることすら危険な土地なのに、ミーケルの話ではなぜかその中で一箇所だけ……“護森”と呼ばれる森だけが魔法嵐から護られているのだという。とても不思議な話だ。
「ミケ、なんでその森だけ大丈夫なんだろう?」
「あの森には、守護者がいるからね」
「ふうん?」
どんなところなのか、あとは着いてからのお楽しみだからと、それ以上、ミーケルは教えてくれない。ミーケル自身も一人前の詩人になってまだ間もない頃、一度訪れたきりなんだと言うだけだ。
そんな地域を、順調なら片道で七日、往復で半月に及ぶ距離を旅するのだから、その間、最低でも数度の魔法嵐に遭うだろうという想像は誰にでもできる。
「なあミケ、魔法嵐は避けられるかな?」
「なんとかなるよ。そういうのは、鼻が利くんだ」
笑うミーケルに、エルヴィラは首を傾げる。
「鼻が利くって?」
「ん……なんとなく、こっちに行くのはまずそうだな、とか?」
そういうものなのか。詩人というのは魔法にも敏感なんだろうか。
そう考えてエルヴィラは納得し、準備もしっかり整ったところで町を出た。
それにしても、歌姫をよく知るひとというのは、その森で隠遁生活を営む森の祭司なのだろうか。
エルヴィラは首を傾げる。
そういえば子供の頃に、修行を重ね、力を増し、自然に馴染んでいくうちに、森の祭司は寿命から解き放たれるのだと聞いたような気もする。
ずっと町暮らしで森の祭司に会ったことはないが、とても楽しみだ。
“嵐の地”を数日旅して、確かにミーケルには魔法嵐を察知するような、勘とも言えるものがあるようだった。
ミーケルが「こっちへ行こう」と進む方向を変えた後、本来進むはずだった方角を見やると、必ずと言っていいほど魔法嵐が起こっているのだ。
ただ、本人にも何となく嫌な感じがするとしか言いようがないのだという。
「ミケはすごいな。魔法が使えるからなのかな」
「どうだろうね」
いくら魔法が使えるといっても、魔術師のような魔術と詩人の魔法は違う。
ミーケルは、魔術師のようにしっかりとした理論や訓練を受けたわけでもないし、魔法に対する感覚が特別鋭いわけでもないと思うのだが。
夜は夜で、交代で夜番だ。
魔法嵐だけではない。魔物や魔法嵐で変容してしまった獣もうろついているのだ。魔術師がいれば安全に夜を過ごすこともできるが、いないのだから交代で夜番をするしかない。
アライトがいれば、夜は任せて、昼間は小動物になってポケットで寝ていてもらうこともできたのだが――と、アライトがいなくなったことで意外に不便ができてることに気づき、エルヴィラは苦笑してしまう。
「アライトは結構役に立つ竜だったんだな」
「少なくとも、普通は竜が役立たずってことはないと思うよ」
アライトやイヴリンが同行する前に戻っただけなのに、エルヴィラはなんとなく不便だし寂しいなと思う。
そうやって回り道をしながら十日ほど旅をして、ようやく緑豊かな森が見えてきた。保存食に飽きていたミーケルの機嫌も回復したようだ。
「あれが“護森”だ」
「すごいな! こんな荒地のなかに、よくあんな森が残ってたものだ」
ふたりの足取りが軽くなる。
「森の中に入ってしまえば安全だから、このまま急ごうか」
「ああ」
途中、“一攫千金の町”を通ってアールやナイエたちの常宿にアライトからの手紙を預け、そこから更に北へと向かった。
北の凍てつく大地と南を分ける、“北の屋根”と呼ばれる北壁山脈よりは手前だけれど、目指すのは、それでも大陸で北方地域と呼ばれる場所だ。
最後に立ち寄ることになる町で、なるべくいろいろな種類の保存食をいっぱいに買い込みながら、ミーケルは「アライトがいたら、新鮮な食料が調達できるのにな」と愚痴をこぼしていた。
この町から先、“護森”と呼ばれる目的地まで、街道も町もない。水はミーケルの魔術で出せるが、食料は尽きてしまえば終わりだ。
南北の山に挟まれ、かつて“嵐の国”と呼ばれたこの地域は、今では“嵐の地”と呼ばれている。
北の大部分を“神の爪痕”と呼ばれる巨大な亀裂に呑まれ、わずかに残った南側は魔法嵐の吹き荒れる危険な土地に変わり、今では人が住めなくなってしまった地域だ。
何しろ、数日おきにどこかで突発的な魔法嵐が起こるのだ。
魔法嵐に遭えば、良くて作物の変質やら動物の変質やらに始まり、最悪、どことも知れない他次元の果てに飛ばされることまで何が起こるかわからないのに、わざわざ住もうなどと考える者はいない。
そういう、立ち入ることすら危険な土地なのに、ミーケルの話ではなぜかその中で一箇所だけ……“護森”と呼ばれる森だけが魔法嵐から護られているのだという。とても不思議な話だ。
「ミケ、なんでその森だけ大丈夫なんだろう?」
「あの森には、守護者がいるからね」
「ふうん?」
どんなところなのか、あとは着いてからのお楽しみだからと、それ以上、ミーケルは教えてくれない。ミーケル自身も一人前の詩人になってまだ間もない頃、一度訪れたきりなんだと言うだけだ。
そんな地域を、順調なら片道で七日、往復で半月に及ぶ距離を旅するのだから、その間、最低でも数度の魔法嵐に遭うだろうという想像は誰にでもできる。
「なあミケ、魔法嵐は避けられるかな?」
「なんとかなるよ。そういうのは、鼻が利くんだ」
笑うミーケルに、エルヴィラは首を傾げる。
「鼻が利くって?」
「ん……なんとなく、こっちに行くのはまずそうだな、とか?」
そういうものなのか。詩人というのは魔法にも敏感なんだろうか。
そう考えてエルヴィラは納得し、準備もしっかり整ったところで町を出た。
それにしても、歌姫をよく知るひとというのは、その森で隠遁生活を営む森の祭司なのだろうか。
エルヴィラは首を傾げる。
そういえば子供の頃に、修行を重ね、力を増し、自然に馴染んでいくうちに、森の祭司は寿命から解き放たれるのだと聞いたような気もする。
ずっと町暮らしで森の祭司に会ったことはないが、とても楽しみだ。
“嵐の地”を数日旅して、確かにミーケルには魔法嵐を察知するような、勘とも言えるものがあるようだった。
ミーケルが「こっちへ行こう」と進む方向を変えた後、本来進むはずだった方角を見やると、必ずと言っていいほど魔法嵐が起こっているのだ。
ただ、本人にも何となく嫌な感じがするとしか言いようがないのだという。
「ミケはすごいな。魔法が使えるからなのかな」
「どうだろうね」
いくら魔法が使えるといっても、魔術師のような魔術と詩人の魔法は違う。
ミーケルは、魔術師のようにしっかりとした理論や訓練を受けたわけでもないし、魔法に対する感覚が特別鋭いわけでもないと思うのだが。
夜は夜で、交代で夜番だ。
魔法嵐だけではない。魔物や魔法嵐で変容してしまった獣もうろついているのだ。魔術師がいれば安全に夜を過ごすこともできるが、いないのだから交代で夜番をするしかない。
アライトがいれば、夜は任せて、昼間は小動物になってポケットで寝ていてもらうこともできたのだが――と、アライトがいなくなったことで意外に不便ができてることに気づき、エルヴィラは苦笑してしまう。
「アライトは結構役に立つ竜だったんだな」
「少なくとも、普通は竜が役立たずってことはないと思うよ」
アライトやイヴリンが同行する前に戻っただけなのに、エルヴィラはなんとなく不便だし寂しいなと思う。
そうやって回り道をしながら十日ほど旅をして、ようやく緑豊かな森が見えてきた。保存食に飽きていたミーケルの機嫌も回復したようだ。
「あれが“護森”だ」
「すごいな! こんな荒地のなかに、よくあんな森が残ってたものだ」
ふたりの足取りが軽くなる。
「森の中に入ってしまえば安全だから、このまま急ごうか」
「ああ」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる