クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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護森

歌姫を知るひとの元へ

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 “鹿角の町”を出て、北へ北へと向かう。

 途中、“一攫千金の町”を通ってアールやナイエたちの常宿にアライトからの手紙を預け、そこから更に北へと向かった。
 北の凍てつく大地と南を分ける、“北の屋根”と呼ばれる北壁山脈よりは手前だけれど、目指すのは、それでも大陸で北方地域と呼ばれる場所だ。

 最後に立ち寄ることになる町で、なるべくいろいろな種類の保存食をいっぱいに買い込みながら、ミーケルは「アライトがいたら、新鮮な食料が調達できるのにな」と愚痴をこぼしていた。
 この町から先、“護森”と呼ばれる目的地まで、街道も町もない。水はミーケルの魔術で出せるが、食料は尽きてしまえば終わりだ。

 南北の山に挟まれ、かつて“嵐の国”と呼ばれたこの地域は、今では“嵐の地”と呼ばれている。
 北の大部分を“神の爪痕”と呼ばれる巨大な亀裂に呑まれ、わずかに残った南側は魔法嵐の吹き荒れる危険な土地に変わり、今では人が住めなくなってしまった地域だ。

 何しろ、数日おきにどこかで突発的な魔法嵐が起こるのだ。
 魔法嵐に遭えば、良くて作物の変質やら動物の変質やらに始まり、最悪、どことも知れない他次元の果てに飛ばされることまで何が起こるかわからないのに、わざわざ住もうなどと考える者はいない。

 そういう、立ち入ることすら危険な土地なのに、ミーケルの話ではなぜかその中で一箇所だけ……“護森”と呼ばれる森だけが魔法嵐から護られているのだという。とても不思議な話だ。

「ミケ、なんでその森だけ大丈夫なんだろう?」
「あの森には、守護者がいるからね」
「ふうん?」

 どんなところなのか、あとは着いてからのお楽しみだからと、それ以上、ミーケルは教えてくれない。ミーケル自身も一人前の詩人になってまだ間もない頃、一度訪れたきりなんだと言うだけだ。

 そんな地域を、順調なら片道で七日、往復で半月に及ぶ距離を旅するのだから、その間、最低でも数度の魔法嵐に遭うだろうという想像は誰にでもできる。

「なあミケ、魔法嵐は避けられるかな?」
「なんとかなるよ。そういうのは、鼻が利くんだ」

 笑うミーケルに、エルヴィラは首を傾げる。

「鼻が利くって?」
「ん……なんとなく、こっちに行くのはまずそうだな、とか?」

 そういうものなのか。詩人というのは魔法にも敏感なんだろうか。
 そう考えてエルヴィラは納得し、準備もしっかり整ったところで町を出た。

 それにしても、歌姫をよく知るひとというのは、その森で隠遁生活を営む森の祭司ドルイドなのだろうか。
 エルヴィラは首を傾げる。
 そういえば子供の頃に、修行を重ね、力を増し、自然に馴染んでいくうちに、森の祭司は寿命から解き放たれるのだと聞いたような気もする。
 ずっと町暮らしで森の祭司に会ったことはないが、とても楽しみだ。



 “嵐の地”を数日旅して、確かにミーケルには魔法嵐を察知するような、勘とも言えるものがあるようだった。
 ミーケルが「こっちへ行こう」と進む方向を変えた後、本来進むはずだった方角を見やると、必ずと言っていいほど魔法嵐が起こっているのだ。
 ただ、本人にも何となく嫌な感じがするとしか言いようがないのだという。

「ミケはすごいな。魔法が使えるからなのかな」
「どうだろうね」

 いくら魔法が使えるといっても、魔術師のような魔術と詩人の魔法は違う。
 ミーケルは、魔術師のようにしっかりとした理論や訓練を受けたわけでもないし、魔法に対する感覚が特別鋭いわけでもないと思うのだが。

 夜は夜で、交代で夜番だ。

 魔法嵐だけではない。魔物や魔法嵐で変容してしまった獣もうろついているのだ。魔術師がいれば安全に夜を過ごすこともできるが、いないのだから交代で夜番をするしかない。
 アライトがいれば、夜は任せて、昼間は小動物になってポケットで寝ていてもらうこともできたのだが――と、アライトがいなくなったことで意外に不便ができてることに気づき、エルヴィラは苦笑してしまう。

「アライトは結構役に立つ竜だったんだな」
「少なくとも、普通は竜が役立たずってことはないと思うよ」

 アライトやイヴリンが同行する前に戻っただけなのに、エルヴィラはなんとなく不便だし寂しいなと思う。

 そうやって回り道をしながら十日ほど旅をして、ようやく緑豊かな森が見えてきた。保存食に飽きていたミーケルの機嫌も回復したようだ。

「あれが“護森”だ」
「すごいな! こんな荒地のなかに、よくあんな森が残ってたものだ」

 ふたりの足取りが軽くなる。

「森の中に入ってしまえば安全だから、このまま急ごうか」
「ああ」
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