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湖水の町
ところで
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このふたりがミーケルの両親か。
そう考えて、だんだんエルヴィラの緊張が増していく。さっきまでなんだか実感がわかなかったのに、ミーケルによく似ているけど年を重ねた穏やかそうな父親と、ふわふわした雰囲気でおっとり喋る母親を見ていると、急に大丈夫だろうかという不安もこみ上げてきた。
頭の中までぐるぐる回り始めたみたいだ。
ミーケルに「ほらおいで」と手を引かれ、雲の上でも歩いてるような覚束ない足取りでエルヴィラはついて行く。
そういえば、オスヴァルト・ストーミアンてミーケルの本名だったんだな。
ミーケルってどこから付けた呼び名だったんだろう。
オスヴァルトだからオジーなのか。
――などなど、ぐるぐると考えながらエルヴィラはついて行く。
顔を顰めてぶつぶつと呟くエルヴィラに気付いて、ミーケルは顔を覗き込んだ。
「どうかした? 何か気になる?」
「ん……ミケは、なんでミーケルなのかなって」
「なんでって……ああ、そういう意味か」
少し怪訝そうに宙を睨んで、すぐに納得したというように頷く。
「うちは幼名を使う習慣があるんだよ」
「幼名?」
「そう。僕の場合はミーケルがそれなんだ。だから、正式な名乗りはオスヴァルト・ミーケル・ストーミアンになる」
「なるほど!」
ようやく納得がいったというエルヴィラに、ミーケルはくすりと笑った。
「ちなみに、歌姫の“エイシャ”っていう通名も幼名だよ」
「そうだったのか」
「普通、幼名まで名乗らないからね。知ってる人は少ないんだ」
「ふうん」
そんな習慣があるのか。では、幼い頃のミーケルはオジーじゃなくてミーケルと呼ばれていたのか、と、エルヴィラはにんまり笑った。
「さ、入って」
案内された部屋に招き入れられ、応接用に整えられた長椅子に落ち着くと、すぐに使用人らしき者が数人現れて茶器やお菓子などを用意した。
あまり見かけなかったが、それでも必要な使用人は雇っているようだ。
「僕はアルヴァー・ストーミアン。彼女は僕の奥さんのベリトさん。今のところ、この地域の住民をまとめるために伯爵位についている。
この辺の事情は、オジーが説明してるかな?」
「え、えと、少しだけ。わ、私は、“深淵の都”の戦神教会と縁深きカーリス家の長女、エルヴィラだ」
伯爵位、だと?
エルヴィラは三代に限定というわりに高かった貴族位にくらくらする。
伯爵だなんて、上級貴族じゃないか。
おまけにミーケルの両親なのに、緊張するなというほうが無理だ。
思わず横のミーケルを見ると、ん? と見返された。
護衛騎士として貴族の横に侍る時の作法なら身体に染み付いているけど、こうしてもてなされる時の作法なんて頭から抜け落ちてしまったように思い出せない。
「エルヴィラさんね?」
「は、はいっ!」
ベリトにふふっと微笑まれて、たちまちエルヴィラの背がピシッと伸びる。
「そんなに緊張しないでちょうだい。オジーが連れてきた子だからどんなお嬢さんかしらと思ったけれど、とっても可愛い子だったわ。ねえ?」
「そうだね」
かあっと赤くなったエルヴィラが思わずミーケルを見上げると、ぽんぽんと宥めるように頭を叩かれた。
「騎士服に剣も下げてるけど、エルヴィラさんは騎士なのかな?」
「え、えと、我が家は、代々、戦神に仕える司祭と騎士を輩出してきた家系で、私も、幼い頃から立派な騎士たれと訓練を受けてきて、今は、ミケの護衛騎士でもある……です」
質問されてひゅっと息を呑み込んでしまったが、ミーケルにとんとんと背中を叩かれながらどうにか答える。
「それは勇ましいなあ。オジーは我儘だから大変だろう?」
「そ、そんなことは、ない、です」
そうか、だからミーケルは食べ物にうるさいのか、と納得する。生まれが良いから、きっと美味しいものを食べて育ったんだろう。
保存食に飽きたとか、食堂で食べたものが期待はずれだったとか、エルヴィラからするとどうでもいいことに拘ってあれこれと文句を言うことが多いのは、きっとそのせいだ。
思わずじっとミーケルを見上げると、「なに?」と小さく首を傾げられた。
「オジーはやっぱり我儘らしいね」
その言葉で慌て出すエルヴィラに、アルヴァーがくすくすと笑う。
「そ、そんなことはないんだ。食べるものに少し煩いだけで、たいしたことないし。それに、ちょっと機嫌が悪くなっても美味しいものを食べさせれば直るから、全然問題ないんだ」
「……ヴィー、それはフォローになってないと思うんだけど」
「そ、そうか?」
ミーケルにじっとりと微笑まれ、エルヴィラはますます慌ててしまう。
「ところでエルヴィラさん」
「は、はいっ!」
アルヴァーの呼びかけに、エルヴィラはすぐにピシッと正面へと向き直った。
「うちの事情を聞いているようだけど、また王に戻らないといけないんだ、って言ったら、どうする?」
「え……え!?」
慌てて傍らのミーケルを見上げるが、彼はなぜかエルヴィラを見返そうとせず、まっすぐ正面を見据えたままだった。
そう考えて、だんだんエルヴィラの緊張が増していく。さっきまでなんだか実感がわかなかったのに、ミーケルによく似ているけど年を重ねた穏やかそうな父親と、ふわふわした雰囲気でおっとり喋る母親を見ていると、急に大丈夫だろうかという不安もこみ上げてきた。
頭の中までぐるぐる回り始めたみたいだ。
ミーケルに「ほらおいで」と手を引かれ、雲の上でも歩いてるような覚束ない足取りでエルヴィラはついて行く。
そういえば、オスヴァルト・ストーミアンてミーケルの本名だったんだな。
ミーケルってどこから付けた呼び名だったんだろう。
オスヴァルトだからオジーなのか。
――などなど、ぐるぐると考えながらエルヴィラはついて行く。
顔を顰めてぶつぶつと呟くエルヴィラに気付いて、ミーケルは顔を覗き込んだ。
「どうかした? 何か気になる?」
「ん……ミケは、なんでミーケルなのかなって」
「なんでって……ああ、そういう意味か」
少し怪訝そうに宙を睨んで、すぐに納得したというように頷く。
「うちは幼名を使う習慣があるんだよ」
「幼名?」
「そう。僕の場合はミーケルがそれなんだ。だから、正式な名乗りはオスヴァルト・ミーケル・ストーミアンになる」
「なるほど!」
ようやく納得がいったというエルヴィラに、ミーケルはくすりと笑った。
「ちなみに、歌姫の“エイシャ”っていう通名も幼名だよ」
「そうだったのか」
「普通、幼名まで名乗らないからね。知ってる人は少ないんだ」
「ふうん」
そんな習慣があるのか。では、幼い頃のミーケルはオジーじゃなくてミーケルと呼ばれていたのか、と、エルヴィラはにんまり笑った。
「さ、入って」
案内された部屋に招き入れられ、応接用に整えられた長椅子に落ち着くと、すぐに使用人らしき者が数人現れて茶器やお菓子などを用意した。
あまり見かけなかったが、それでも必要な使用人は雇っているようだ。
「僕はアルヴァー・ストーミアン。彼女は僕の奥さんのベリトさん。今のところ、この地域の住民をまとめるために伯爵位についている。
この辺の事情は、オジーが説明してるかな?」
「え、えと、少しだけ。わ、私は、“深淵の都”の戦神教会と縁深きカーリス家の長女、エルヴィラだ」
伯爵位、だと?
エルヴィラは三代に限定というわりに高かった貴族位にくらくらする。
伯爵だなんて、上級貴族じゃないか。
おまけにミーケルの両親なのに、緊張するなというほうが無理だ。
思わず横のミーケルを見ると、ん? と見返された。
護衛騎士として貴族の横に侍る時の作法なら身体に染み付いているけど、こうしてもてなされる時の作法なんて頭から抜け落ちてしまったように思い出せない。
「エルヴィラさんね?」
「は、はいっ!」
ベリトにふふっと微笑まれて、たちまちエルヴィラの背がピシッと伸びる。
「そんなに緊張しないでちょうだい。オジーが連れてきた子だからどんなお嬢さんかしらと思ったけれど、とっても可愛い子だったわ。ねえ?」
「そうだね」
かあっと赤くなったエルヴィラが思わずミーケルを見上げると、ぽんぽんと宥めるように頭を叩かれた。
「騎士服に剣も下げてるけど、エルヴィラさんは騎士なのかな?」
「え、えと、我が家は、代々、戦神に仕える司祭と騎士を輩出してきた家系で、私も、幼い頃から立派な騎士たれと訓練を受けてきて、今は、ミケの護衛騎士でもある……です」
質問されてひゅっと息を呑み込んでしまったが、ミーケルにとんとんと背中を叩かれながらどうにか答える。
「それは勇ましいなあ。オジーは我儘だから大変だろう?」
「そ、そんなことは、ない、です」
そうか、だからミーケルは食べ物にうるさいのか、と納得する。生まれが良いから、きっと美味しいものを食べて育ったんだろう。
保存食に飽きたとか、食堂で食べたものが期待はずれだったとか、エルヴィラからするとどうでもいいことに拘ってあれこれと文句を言うことが多いのは、きっとそのせいだ。
思わずじっとミーケルを見上げると、「なに?」と小さく首を傾げられた。
「オジーはやっぱり我儘らしいね」
その言葉で慌て出すエルヴィラに、アルヴァーがくすくすと笑う。
「そ、そんなことはないんだ。食べるものに少し煩いだけで、たいしたことないし。それに、ちょっと機嫌が悪くなっても美味しいものを食べさせれば直るから、全然問題ないんだ」
「……ヴィー、それはフォローになってないと思うんだけど」
「そ、そうか?」
ミーケルにじっとりと微笑まれ、エルヴィラはますます慌ててしまう。
「ところでエルヴィラさん」
「は、はいっ!」
アルヴァーの呼びかけに、エルヴィラはすぐにピシッと正面へと向き直った。
「うちの事情を聞いているようだけど、また王に戻らないといけないんだ、って言ったら、どうする?」
「え……え!?」
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