クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

文字の大きさ
131 / 152
湖水の町

ところで

しおりを挟む
 このふたりがミーケルの両親か。

 そう考えて、だんだんエルヴィラの緊張が増していく。さっきまでなんだか実感がわかなかったのに、ミーケルによく似ているけど年を重ねた穏やかそうな父親と、ふわふわした雰囲気でおっとり喋る母親を見ていると、急に大丈夫だろうかという不安もこみ上げてきた。
 頭の中までぐるぐる回り始めたみたいだ。

 ミーケルに「ほらおいで」と手を引かれ、雲の上でも歩いてるような覚束ない足取りでエルヴィラはついて行く。

 そういえば、オスヴァルト・ストーミアンてミーケルの本名だったんだな。
 ミーケルってどこから付けた呼び名だったんだろう。
 オスヴァルトだからオジーなのか。

 ――などなど、ぐるぐると考えながらエルヴィラはついて行く。
 顔を顰めてぶつぶつと呟くエルヴィラに気付いて、ミーケルは顔を覗き込んだ。

「どうかした? 何か気になる?」
「ん……ミケは、なんでミーケルなのかなって」
「なんでって……ああ、そういう意味か」

 少し怪訝そうに宙を睨んで、すぐに納得したというように頷く。

「うちは幼名を使う習慣があるんだよ」
「幼名?」
「そう。僕の場合はミーケルがそれなんだ。だから、正式な名乗りはオスヴァルト・ミーケル・ストーミアンになる」
「なるほど!」

 ようやく納得がいったというエルヴィラに、ミーケルはくすりと笑った。

「ちなみに、歌姫の“エイシャ”っていう通名も幼名だよ」
「そうだったのか」
「普通、幼名まで名乗らないからね。知ってる人は少ないんだ」
「ふうん」

 そんな習慣があるのか。では、幼い頃のミーケルはオジーじゃなくてミーケルと呼ばれていたのか、と、エルヴィラはにんまり笑った。



「さ、入って」

 案内された部屋に招き入れられ、応接用に整えられた長椅子に落ち着くと、すぐに使用人らしき者が数人現れて茶器やお菓子などを用意した。
 あまり見かけなかったが、それでも必要な使用人は雇っているようだ。

「僕はアルヴァー・ストーミアン。彼女は僕の奥さんのベリトさん。今のところ、この地域の住民をまとめるために伯爵位についている。
 この辺の事情は、オジーが説明してるかな?」
「え、えと、少しだけ。わ、私は、“深淵の都”の戦神教会と縁深きカーリス家の長女、エルヴィラだ」

 伯爵位、だと?
 エルヴィラは三代に限定というわりに高かった貴族位にくらくらする。

 伯爵だなんて、上級貴族じゃないか。
 おまけにミーケルの両親なのに、緊張するなというほうが無理だ。

 思わず横のミーケルを見ると、ん? と見返された。
 護衛騎士として貴族の横に侍る時の作法なら身体に染み付いているけど、こうしてもてなされる時の作法なんて頭から抜け落ちてしまったように思い出せない。

「エルヴィラさんね?」
「は、はいっ!」

 ベリトにふふっと微笑まれて、たちまちエルヴィラの背がピシッと伸びる。

「そんなに緊張しないでちょうだい。オジーが連れてきた子だからどんなお嬢さんかしらと思ったけれど、とっても可愛い子だったわ。ねえ?」
「そうだね」

 かあっと赤くなったエルヴィラが思わずミーケルを見上げると、ぽんぽんと宥めるように頭を叩かれた。

「騎士服に剣も下げてるけど、エルヴィラさんは騎士なのかな?」
「え、えと、我が家は、代々、戦神に仕える司祭と騎士を輩出してきた家系で、私も、幼い頃から立派な騎士たれと訓練を受けてきて、今は、ミケの護衛騎士でもある……です」

 質問されてひゅっと息を呑み込んでしまったが、ミーケルにとんとんと背中を叩かれながらどうにか答える。

「それは勇ましいなあ。オジーは我儘だから大変だろう?」
「そ、そんなことは、ない、です」

 そうか、だからミーケルは食べ物にうるさいのか、と納得する。生まれが良いから、きっと美味しいものを食べて育ったんだろう。
 保存食に飽きたとか、食堂で食べたものが期待はずれだったとか、エルヴィラからするとどうでもいいことに拘ってあれこれと文句を言うことが多いのは、きっとそのせいだ。

 思わずじっとミーケルを見上げると、「なに?」と小さく首を傾げられた。

「オジーはやっぱり我儘らしいね」

 その言葉で慌て出すエルヴィラに、アルヴァーがくすくすと笑う。

「そ、そんなことはないんだ。食べるものに少し煩いだけで、たいしたことないし。それに、ちょっと機嫌が悪くなっても美味しいものを食べさせれば直るから、全然問題ないんだ」
「……ヴィー、それはフォローになってないと思うんだけど」
「そ、そうか?」

 ミーケルにじっとりと微笑まれ、エルヴィラはますます慌ててしまう。

「ところでエルヴィラさん」
「は、はいっ!」

 アルヴァーの呼びかけに、エルヴィラはすぐにピシッと正面へと向き直った。

「うちの事情を聞いているようだけど、また王に戻らないといけないんだ、って言ったら、どうする?」
「え……え!?」

 慌てて傍らのミーケルを見上げるが、彼はなぜかエルヴィラを見返そうとせず、まっすぐ正面を見据えたままだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

処理中です...