クソイケメンな吟遊詩人にはじめてを奪われて無職になったので、全力で追いかけて責任取らせます

ぎんげつ

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深淵の都

やっぱり外れる○○の勘

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「通いの使用人を雇えば済む話じゃないか。僕はヴィーに家事をきた……やってほしいわけじゃないんだし」
「そ、そうか! そうだよな!」

 とたんに笑顔を見せるエルヴィラに、ミーケルも釣られて笑う。そんなに家事がプレッシャーだったのだろうか。
 ぎゅうっと抱きつく頭をよしよしと撫でながら、最近では自分もずいぶん甘やかし慣れてしまったような気がして、ミーケルは小さく顔を顰めた。
 これではオーウェンを笑えない。

「それにしても、どれだけ苦手なのさ」

 くすりと笑うと、エルヴィラは、むう、と眉を顰めた。

「難しいんだ。ひとつまみっていうからひとつまみ入れたはずなのに多すぎるって怒られて、じゃあ、と少なくしてみたら、今度は味がないんだ」

 なんとなく想像がついて、ミーケルは苦笑する。しょぼしょぼと眉尻を下げてミーケルを見上げるエルヴィラが、なんだか小動物のようでもある。

「ま、覚えて損はないんだから、少しくらいがんばりなよ」
「損がないのは、絶対ミケだけだ。私が覚えたら、野営の時は私にやらせる気なんだろう? 保存食は食べたくないからって」

 剥れて口を尖らせるエルヴィラに、ミーケルはつい噴き出した。

「いいじゃないか。僕は美味いものさえ与えておけば上機嫌だから楽だって言ったの、ヴィーだろう?
 食事が作れるようになれば野営が続いても僕の機嫌が悪くならないんだよ。覚えたらいいじゃないか」

 伺うような上目遣いで口をへの字に曲げながら、エルヴィラはじっとミーケルを見つめる。

「……絶対ミケが文句言わないなら、がんばってもいい」
「言わないから」

 笑いながらミーケルは、エルヴィラを抱き寄せる。ちゅ、と啄むようにキスをして、「言わないから、ちゃんと覚えなよ」ともういちど囁く。

「う……がんばる」

 ほんのり頬を赤らめてこくんと頷くエルヴィラに、ミーケルは笑ってまたキスを降らせる。何度も何度もキスをして、くすくすと笑う。

「ひと月がんばったら、またあちこちまわろうか」
「ん……イヴリンのとこに行きたいな。冬には産まれるんだろう? それと、トゥーロに鎧も見てもらわなきゃ」

 急に目を輝かせて顔を上げるエルヴィラだって、ミーケルとは違う方向で、なんだかんだ現金な性質たちなんだろう。

「そうだね……まだ行ってない町も多いし、ここから寄り道しながらのんびり向かえば、冬になるころには“鹿角の町”に着くんじゃないかな」
「いいな!」

 ふたりでくすくす笑い合う。ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返しながら、だんだんと角度を深めていった。

「……今度こそできるかな」

 ふと、急に真面目な顔になったエルヴィラが、ぽそりと呟いた。

「またそれ? そんなに意気込んだからってできるものでもないって、まだわからないのかな?」
「だって……」

 エルヴィラは、むうっと眉を寄せる。
 絶対できてるはずだったのに、少し前に月のものが来てしまったのだ。エルヴィラの女の勘では、絶対間違いなかったはずなのに。

「もっと肩の力を抜いて、気楽にしなよ。そんなに殺気立ってたら、できるものもできないって」
「う……そういうものなんだろうか」

 笑い続けるミーケルは、エルヴィラを抱き締めてぽんぽんと背を叩いた。

「なら、今度会った時にでも、イヴリンに訊いてみたら?」
「そうする!」

 その言葉でぱあっと笑顔に変わったエルヴィラに、「ヴィーはほんとうにイヴリンと仲がいいな」と感心する。
 出会ったきっかけは最悪といっていいものだったのに、ほんとうに、人生というのはどう転ぶかわからないものだ。

「母上の特訓が終わったら、やっぱり最初にイヴリンに会いに行こう。
 イヴリンに会ったら、絶対コツを伝授してもらうんだ!」
「ああ、うん、ヴィーの気が済むようにしたらいいさ」

 そんなものにコツなんてあるんだろうかと疑問には思ったが、エルヴィラの気が済むならそうすればいい。イヴリンから、そんなの知るわけがないと呆れられるという結果まで見えているのだが。

 ミーケルは小さく笑い、改めてエルヴィラと唇を重ねた。




*****

■カーリス家
“深淵の都”が昔「西王国の宝石」と呼ばれるような都市だった頃から戦いと勝利の神の司祭や聖騎士を輩出してきた古い名門。
でも別に貴族じゃない。
そして、名門なだけに、さまざまなタイプの脳筋が見られる脳筋の宝箱でもある家。


■戦いと勝利の神
名前の通り、戦いと勝利を司る武神。騎士とか戦士に大人気。
都では、軍事部門を統括し、正義と騎士の神の教会と協力して治安維持部門を担当したりもしている。毎年春と秋に都のすぐ南にあるハーピィ営巣地へ行って、ハーピィ討伐をやるのもこの教会の担当。
教会の雰囲気はひとことで言って九割が筋肉。むさい体育会系である。

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