145 / 152
深淵の都
やっぱり外れる○○の勘
しおりを挟む
「通いの使用人を雇えば済む話じゃないか。僕はヴィーに家事をきた……やってほしいわけじゃないんだし」
「そ、そうか! そうだよな!」
とたんに笑顔を見せるエルヴィラに、ミーケルも釣られて笑う。そんなに家事がプレッシャーだったのだろうか。
ぎゅうっと抱きつく頭をよしよしと撫でながら、最近では自分もずいぶん甘やかし慣れてしまったような気がして、ミーケルは小さく顔を顰めた。
これではオーウェンを笑えない。
「それにしても、どれだけ苦手なのさ」
くすりと笑うと、エルヴィラは、むう、と眉を顰めた。
「難しいんだ。ひとつまみっていうからひとつまみ入れたはずなのに多すぎるって怒られて、じゃあ、と少なくしてみたら、今度は味がないんだ」
なんとなく想像がついて、ミーケルは苦笑する。しょぼしょぼと眉尻を下げてミーケルを見上げるエルヴィラが、なんだか小動物のようでもある。
「ま、覚えて損はないんだから、少しくらいがんばりなよ」
「損がないのは、絶対ミケだけだ。私が覚えたら、野営の時は私にやらせる気なんだろう? 保存食は食べたくないからって」
剥れて口を尖らせるエルヴィラに、ミーケルはつい噴き出した。
「いいじゃないか。僕は美味いものさえ与えておけば上機嫌だから楽だって言ったの、ヴィーだろう?
食事が作れるようになれば野営が続いても僕の機嫌が悪くならないんだよ。覚えたらいいじゃないか」
伺うような上目遣いで口をへの字に曲げながら、エルヴィラはじっとミーケルを見つめる。
「……絶対ミケが文句言わないなら、がんばってもいい」
「言わないから」
笑いながらミーケルは、エルヴィラを抱き寄せる。ちゅ、と啄むようにキスをして、「言わないから、ちゃんと覚えなよ」ともういちど囁く。
「う……がんばる」
ほんのり頬を赤らめてこくんと頷くエルヴィラに、ミーケルは笑ってまたキスを降らせる。何度も何度もキスをして、くすくすと笑う。
「ひと月がんばったら、またあちこちまわろうか」
「ん……イヴリンのとこに行きたいな。冬には産まれるんだろう? それと、トゥーロに鎧も見てもらわなきゃ」
急に目を輝かせて顔を上げるエルヴィラだって、ミーケルとは違う方向で、なんだかんだ現金な性質なんだろう。
「そうだね……まだ行ってない町も多いし、ここから寄り道しながらのんびり向かえば、冬になるころには“鹿角の町”に着くんじゃないかな」
「いいな!」
ふたりでくすくす笑い合う。ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返しながら、だんだんと角度を深めていった。
「……今度こそできるかな」
ふと、急に真面目な顔になったエルヴィラが、ぽそりと呟いた。
「またそれ? そんなに意気込んだからってできるものでもないって、まだわからないのかな?」
「だって……」
エルヴィラは、むうっと眉を寄せる。
絶対できてるはずだったのに、少し前に月のものが来てしまったのだ。エルヴィラの女の勘では、絶対間違いなかったはずなのに。
「もっと肩の力を抜いて、気楽にしなよ。そんなに殺気立ってたら、できるものもできないって」
「う……そういうものなんだろうか」
笑い続けるミーケルは、エルヴィラを抱き締めてぽんぽんと背を叩いた。
「なら、今度会った時にでも、イヴリンに訊いてみたら?」
「そうする!」
その言葉でぱあっと笑顔に変わったエルヴィラに、「ヴィーはほんとうにイヴリンと仲がいいな」と感心する。
出会ったきっかけは最悪といっていいものだったのに、ほんとうに、人生というのはどう転ぶかわからないものだ。
「母上の特訓が終わったら、やっぱり最初にイヴリンに会いに行こう。
イヴリンに会ったら、絶対コツを伝授してもらうんだ!」
「ああ、うん、ヴィーの気が済むようにしたらいいさ」
そんなものにコツなんてあるんだろうかと疑問には思ったが、エルヴィラの気が済むならそうすればいい。イヴリンから、そんなの知るわけがないと呆れられるという結果まで見えているのだが。
ミーケルは小さく笑い、改めてエルヴィラと唇を重ねた。
*****
■カーリス家
“深淵の都”が昔「西王国の宝石」と呼ばれるような都市だった頃から戦いと勝利の神の司祭や聖騎士を輩出してきた古い名門。
でも別に貴族じゃない。
そして、名門なだけに、さまざまなタイプの脳筋が見られる脳筋の宝箱でもある家。
■戦いと勝利の神
名前の通り、戦いと勝利を司る武神。騎士とか戦士に大人気。
都では、軍事部門を統括し、正義と騎士の神の教会と協力して治安維持部門を担当したりもしている。毎年春と秋に都のすぐ南にあるハーピィ営巣地へ行って、ハーピィ討伐をやるのもこの教会の担当。
教会の雰囲気はひとことで言って九割が筋肉。むさい体育会系である。
「そ、そうか! そうだよな!」
とたんに笑顔を見せるエルヴィラに、ミーケルも釣られて笑う。そんなに家事がプレッシャーだったのだろうか。
ぎゅうっと抱きつく頭をよしよしと撫でながら、最近では自分もずいぶん甘やかし慣れてしまったような気がして、ミーケルは小さく顔を顰めた。
これではオーウェンを笑えない。
「それにしても、どれだけ苦手なのさ」
くすりと笑うと、エルヴィラは、むう、と眉を顰めた。
「難しいんだ。ひとつまみっていうからひとつまみ入れたはずなのに多すぎるって怒られて、じゃあ、と少なくしてみたら、今度は味がないんだ」
なんとなく想像がついて、ミーケルは苦笑する。しょぼしょぼと眉尻を下げてミーケルを見上げるエルヴィラが、なんだか小動物のようでもある。
「ま、覚えて損はないんだから、少しくらいがんばりなよ」
「損がないのは、絶対ミケだけだ。私が覚えたら、野営の時は私にやらせる気なんだろう? 保存食は食べたくないからって」
剥れて口を尖らせるエルヴィラに、ミーケルはつい噴き出した。
「いいじゃないか。僕は美味いものさえ与えておけば上機嫌だから楽だって言ったの、ヴィーだろう?
食事が作れるようになれば野営が続いても僕の機嫌が悪くならないんだよ。覚えたらいいじゃないか」
伺うような上目遣いで口をへの字に曲げながら、エルヴィラはじっとミーケルを見つめる。
「……絶対ミケが文句言わないなら、がんばってもいい」
「言わないから」
笑いながらミーケルは、エルヴィラを抱き寄せる。ちゅ、と啄むようにキスをして、「言わないから、ちゃんと覚えなよ」ともういちど囁く。
「う……がんばる」
ほんのり頬を赤らめてこくんと頷くエルヴィラに、ミーケルは笑ってまたキスを降らせる。何度も何度もキスをして、くすくすと笑う。
「ひと月がんばったら、またあちこちまわろうか」
「ん……イヴリンのとこに行きたいな。冬には産まれるんだろう? それと、トゥーロに鎧も見てもらわなきゃ」
急に目を輝かせて顔を上げるエルヴィラだって、ミーケルとは違う方向で、なんだかんだ現金な性質なんだろう。
「そうだね……まだ行ってない町も多いし、ここから寄り道しながらのんびり向かえば、冬になるころには“鹿角の町”に着くんじゃないかな」
「いいな!」
ふたりでくすくす笑い合う。ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返しながら、だんだんと角度を深めていった。
「……今度こそできるかな」
ふと、急に真面目な顔になったエルヴィラが、ぽそりと呟いた。
「またそれ? そんなに意気込んだからってできるものでもないって、まだわからないのかな?」
「だって……」
エルヴィラは、むうっと眉を寄せる。
絶対できてるはずだったのに、少し前に月のものが来てしまったのだ。エルヴィラの女の勘では、絶対間違いなかったはずなのに。
「もっと肩の力を抜いて、気楽にしなよ。そんなに殺気立ってたら、できるものもできないって」
「う……そういうものなんだろうか」
笑い続けるミーケルは、エルヴィラを抱き締めてぽんぽんと背を叩いた。
「なら、今度会った時にでも、イヴリンに訊いてみたら?」
「そうする!」
その言葉でぱあっと笑顔に変わったエルヴィラに、「ヴィーはほんとうにイヴリンと仲がいいな」と感心する。
出会ったきっかけは最悪といっていいものだったのに、ほんとうに、人生というのはどう転ぶかわからないものだ。
「母上の特訓が終わったら、やっぱり最初にイヴリンに会いに行こう。
イヴリンに会ったら、絶対コツを伝授してもらうんだ!」
「ああ、うん、ヴィーの気が済むようにしたらいいさ」
そんなものにコツなんてあるんだろうかと疑問には思ったが、エルヴィラの気が済むならそうすればいい。イヴリンから、そんなの知るわけがないと呆れられるという結果まで見えているのだが。
ミーケルは小さく笑い、改めてエルヴィラと唇を重ねた。
*****
■カーリス家
“深淵の都”が昔「西王国の宝石」と呼ばれるような都市だった頃から戦いと勝利の神の司祭や聖騎士を輩出してきた古い名門。
でも別に貴族じゃない。
そして、名門なだけに、さまざまなタイプの脳筋が見られる脳筋の宝箱でもある家。
■戦いと勝利の神
名前の通り、戦いと勝利を司る武神。騎士とか戦士に大人気。
都では、軍事部門を統括し、正義と騎士の神の教会と協力して治安維持部門を担当したりもしている。毎年春と秋に都のすぐ南にあるハーピィ営巣地へ行って、ハーピィ討伐をやるのもこの教会の担当。
教会の雰囲気はひとことで言って九割が筋肉。むさい体育会系である。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる