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4.嫌味な彼の名前
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これはどういうことか。夢なのか、いや間違いなく現実だ。
だとしたら、私は生まれ変わったのか。
あれこれ考えた結果、私はマリアンヌに転生したのだと結論付けた。
借金返済のためにS嬢として働いていた頃の記憶が鮮明に残っているが、もう前世のことらしい。
ということは、このさっきからしつこく小言を繰り返す美青年はやっぱり執事のエドワードに違いないみたいだ。
「……お嬢様、さっきからうわの空のようなお顔でございますが、わたくしの話を聞いていらっしゃいますか」
彼は小説の挿絵で見たよりもずっといい男じゃないか。
クールで知的な雰囲気をまとった外見はドストライクなイケメンだった。
小説の中では彼はもっと優しくていつも朗らかに笑っている印象だったので、私はわずかに違和感を覚えながらも、
「そうだったわね、エドワード」
と彼の名前を呼んだら、眉間にしわを寄せキッと厳しい目で見つめられた。
「わたくしはエドワードの双子の弟、スチュアートでございます。お嬢様、やはりまだお熱が……? それとも長年お仕えする執事の名前も覚えられないのでしょうか」
呆れたようなため息をつかれてしまった。
双子の弟? そういえばこの家の執事は双子だった。通りでなんだかエドワードと違うわけだ。
「ふふ、冗談を言っただけよ……」
私がそう言って取り繕うと彼は心底ほっとしたように、
「お嬢様はわたくしをからかっておられたのですね。安心いたしました」
と白手袋の右手を洋服越しにも筋肉で程よくふっくらとしている胸元へ当てた。
それにしても使用人がお嬢様に向かってこんな悪態をつくとは。
このスチュアートはなんて嫌味な人物なのだろう。
私は燕尾服のよく似合うすらりと背が高い彼の頭の先から下へ向かって、ゆっくりと全身を舐めるように視線を這わせた。
透き通るような白い肌に真っ黒な髪と真っ黒な瞳。
彼の所作は凛々しく、いかにも利発そうなツンッとした顔つきをしているが、その右目の目尻の延長上にほくろがあって、それがなんとも言えない柔らかな色気を醸し出していた。
彼は硬い表情のまま、傍らの柔らかな布で私の首元の汗を拭き、水差しからゴブレットへ水を注いで飲ませてくれようとした。
程なくして、立派なひげを生やした医者が部屋に到着した。
「今夜が峠だと思っていたのに、……これは奇跡ですぞ」
助手のナースが持っていたカバンに詰められていた医療器具や薬は、現代の日本で使われているものとかなり違う。
私はあの小説の舞台である近代のヨーロッパ風の世界に間違いなくそこに迷い込んだのだ、と確信した。
「もう大丈夫でしょう。念のため二、三日は安静に」
と言って医者はすぐに帰って行った。
私はマリアンヌに転生したことを心の中で神に感謝した。
元の世界に未練なんて一つもなかった。
家族も恋人もおらず、他人の借金を返済するために風俗で働かなければならない、孤独で理不尽な人生で、おまけに合法だか違法だかわからない変な薬を打たれて、もう死んだのだから。
マリアンヌは貴族の出であり多くの事業で成功を収める大富豪を父に持つ正真正銘のお嬢様だ。
末娘として親から愛されるマリアンヌはまさに私とは正反対の人生を生きる人物だ。
親の金と権力を使って何の苦労もせず、わがまま放題に生きる大金持ちの娘。
性格こそ最悪だが、外見は国で一番の美女だと言われている。
私はそんな彼女の生き方が羨ましくて、小説を何度も読み返していたから、彼女の性格や行動パターンは熟知していた。
だとしたら、私は生まれ変わったのか。
あれこれ考えた結果、私はマリアンヌに転生したのだと結論付けた。
借金返済のためにS嬢として働いていた頃の記憶が鮮明に残っているが、もう前世のことらしい。
ということは、このさっきからしつこく小言を繰り返す美青年はやっぱり執事のエドワードに違いないみたいだ。
「……お嬢様、さっきからうわの空のようなお顔でございますが、わたくしの話を聞いていらっしゃいますか」
彼は小説の挿絵で見たよりもずっといい男じゃないか。
クールで知的な雰囲気をまとった外見はドストライクなイケメンだった。
小説の中では彼はもっと優しくていつも朗らかに笑っている印象だったので、私はわずかに違和感を覚えながらも、
「そうだったわね、エドワード」
と彼の名前を呼んだら、眉間にしわを寄せキッと厳しい目で見つめられた。
「わたくしはエドワードの双子の弟、スチュアートでございます。お嬢様、やはりまだお熱が……? それとも長年お仕えする執事の名前も覚えられないのでしょうか」
呆れたようなため息をつかれてしまった。
双子の弟? そういえばこの家の執事は双子だった。通りでなんだかエドワードと違うわけだ。
「ふふ、冗談を言っただけよ……」
私がそう言って取り繕うと彼は心底ほっとしたように、
「お嬢様はわたくしをからかっておられたのですね。安心いたしました」
と白手袋の右手を洋服越しにも筋肉で程よくふっくらとしている胸元へ当てた。
それにしても使用人がお嬢様に向かってこんな悪態をつくとは。
このスチュアートはなんて嫌味な人物なのだろう。
私は燕尾服のよく似合うすらりと背が高い彼の頭の先から下へ向かって、ゆっくりと全身を舐めるように視線を這わせた。
透き通るような白い肌に真っ黒な髪と真っ黒な瞳。
彼の所作は凛々しく、いかにも利発そうなツンッとした顔つきをしているが、その右目の目尻の延長上にほくろがあって、それがなんとも言えない柔らかな色気を醸し出していた。
彼は硬い表情のまま、傍らの柔らかな布で私の首元の汗を拭き、水差しからゴブレットへ水を注いで飲ませてくれようとした。
程なくして、立派なひげを生やした医者が部屋に到着した。
「今夜が峠だと思っていたのに、……これは奇跡ですぞ」
助手のナースが持っていたカバンに詰められていた医療器具や薬は、現代の日本で使われているものとかなり違う。
私はあの小説の舞台である近代のヨーロッパ風の世界に間違いなくそこに迷い込んだのだ、と確信した。
「もう大丈夫でしょう。念のため二、三日は安静に」
と言って医者はすぐに帰って行った。
私はマリアンヌに転生したことを心の中で神に感謝した。
元の世界に未練なんて一つもなかった。
家族も恋人もおらず、他人の借金を返済するために風俗で働かなければならない、孤独で理不尽な人生で、おまけに合法だか違法だかわからない変な薬を打たれて、もう死んだのだから。
マリアンヌは貴族の出であり多くの事業で成功を収める大富豪を父に持つ正真正銘のお嬢様だ。
末娘として親から愛されるマリアンヌはまさに私とは正反対の人生を生きる人物だ。
親の金と権力を使って何の苦労もせず、わがまま放題に生きる大金持ちの娘。
性格こそ最悪だが、外見は国で一番の美女だと言われている。
私はそんな彼女の生き方が羨ましくて、小説を何度も読み返していたから、彼女の性格や行動パターンは熟知していた。
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