人を愛するのには、資格が必要ですか?

卯月ましろ@低浮上

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第56話 ~カガリの独白1~

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 カガリを見て、みんなが「かわいい」って言った。
 ママはたくさん抱っこしてくれて、パパはたくさん高い高いをしてくれた。お家はいつもあったかくて、外の人もカガリを見て「かわいい」って言った。カガリはかわいい。何もできなくて、かわいいの。

 パパとママの他に、大好きなお姉ちゃんがいる。お姉ちゃんはあんまり家にいないからさみしい。お姉ちゃんとパパは、いつも仕事ばっかり。カガリとずっと一緒にいてくれるのはママだけ。

 でもお姉ちゃんが大好き。仕事が終わると、カガリに会いたくて走って帰ってくる。カガリを見るとパッと笑うのがキレイ。お姉ちゃんはいつもキラキラで、キレイ。
 外の人はみんなお姉ちゃんが大好き。でも一番お姉ちゃんを好きなのはカガリ。きっとお姉ちゃんも、カガリが一番よ。

 とってもキレイで、優しいお姉ちゃん。だけどママは、「カガリはお姉ちゃんみたいになっちゃダメ」って言った。どうして? って聞くと、「ひとつもかわいくないから」って言った。
 カガリはかわいいのに、お姉ちゃんはかわいくないの。かわいそう。


 ◆


 学校の子も近所のおばさんも、私とお姉ちゃんを比べてばかり。ママが一緒に居れば平気なのに、1人で居ると意地悪な顔をした人たちが集まって来る。気持ちが悪くて、怖い。こんな思いをするぐらいなら、学校なんて行きたくなかった。

 ママが「可愛い」は好かれるって言った。カガリは可愛いから皆が助けてくれる、愛してくれるって――でも嘘だった。
 好かれるのは可愛くないお姉ちゃんだけ。愛されるのは、褒められるのはいつもお姉ちゃんだった。皆カガリのことを「何もできない」って笑った。何もできないのは可愛いはずなのに、どうして笑われるの?

 どうしてお姉ちゃんは、好かれるの? 外で何をやっているの? どうして最近、夜遅くまで帰ってこないんだろう。
 カガリのことが一番じゃなくなったのかも知れない。外なんて嫌い。『お姉ちゃん』はカガリのためだけに生きているはずなのに……のはずなのに。

 カガリの方が可愛いのに、悔しい。お姉ちゃんにできて、カガリにできないはずがない。
 だから真似して働きたいって言っただけなのに、ママはすっごく怒った。カガリは何もできない。何もできないから可愛い。
 お姉ちゃんは可愛くない。でも色んなことができて、色んな人に囲まれていて、ずるい。カガリには、ママとパパしか居ない。ずるい。

 ママに怒られたお姉ちゃんは、「ケッコンする」って家を出て行った。行かないでって泣いたのに、無視して置き去りにされた。好きなのに、傍に居て欲しいのに、カガリの一番だったのに。

 ――ママは、「セラスはカガリのことが大嫌いなのよ」って言った。「でもママが居るから、平気よね?」って笑った。
 嫌われることなんてしていないのに、どうして嫌うの? だって『お姉ちゃん』って、カガリのために居るんでしょう? どうしてカガリばっかり辛い思いをして、仲間外れにされるの?

 ママはパパに何度も、「セラスはカガリと違ってなんでもできる、だから1人きりで生きていける」って言った。商会の信頼も厚いし、人望があるし、頼りになる婚約者も居るから安泰だって――何度も褒めた。パパもたくさん頷いた。「お前に似て仕事ができるし、セラスは強い子だから」って笑った。

 カガリは何もできないのに。何もできないこと以外で褒められたことがないのに、パパとママはおかしい。お姉ちゃんばっかり愛されて、なんでも許されてずるい。ずるい。


 ◆


 お姉ちゃんが病気になった。何でもできたのに、自分の体のことが分からないなんて馬鹿みたい。もう二度と赤ちゃんができなくて、だからゴードンとは結婚できなくなったんだって。
 美人でもないくせに、仕事の結果だけで私の上に居座って邪魔だったけれど、これでやっと私のになった。

 私をあんな変な家に置き去りにしたから……姉のくせに妹の幸せを願わなかった罰だ。これから仕事も居場所も男も、全部奪ってしまおう。だって、私の方ができるから。何ひとつとして負けていないから。

 ゴードンは私のことを「ブス」としか言わないけれど、そんなことあるはずがない。が良いなんて、本当に趣味が悪い男。絶対に見返してやる。認めさせてやる。

 いい加減、比較されてばかりの人生はウンザリだ。どうせ比較されるなら、絶対に姉の上が良い。


 ◆


 ――いつまで経ってもゴードンの目が覚めなくて腹が立つ。

 私が商会で働きやすくなるようにと、母は頼んでも居ないのに姉の悪評をばら撒いた。どれもこれも嘘で、やれ営業先でになっていただの、実は商会長夫妻を騙して倉庫の貴金属を横領していただの……少し調べれば真偽の分かるような拙いものばかり。

 あの人はいつもそうだ。私は自分1人の力で姉に勝てるのに、横から邪魔する。「こうでもしないと、あなたはセラスに勝てないでしょう?」と言われているような気がして、屈辱的なのに……私の気持ちを全く分かっていない。害悪だ。

 でもゴシップ好きな職員の女たちは、真偽なんてどうでも良かったらしい。「やっぱりねえ」「胸を強調する服ばかり着て」「恩知らず」と囁いた。私が思うに、姉は元々嫌われていたのだろう。女のくせに営業成績が良すぎたのだ。……よく言えば、妬まれていた。

 本当は清廉で、枕営業なんてしていないことは皆分かっていたはず。分かった上で、同性で飛び抜けて優秀な姉を認めたくなかっただけだろう。

 私は毎日商会で、姉から業務の引継ぎを受けた。わざわざ商会で勉強したのは、もちろん姉の耳に陰口を流し込むためだ。
 復職した母と顔を合わせれば「出来損ない、恥ずかしい娘」とこき下ろされて、職員の女には「体まで使って恥ずかしくないのかしら」と言われて。

 ニヤついた職員の男からは、「毎日だな、俺が慰めてやろうか?」なんて下卑た言葉を掛けられていて――ざまあみろ、分も弁えず私の上に立つからだと思った。仕事を失えば何も残らないくせに、偉そうに教師面して。

 でも、病院では弱り切っていたはずなのに、退院してからの姉はやけに達観しているというか……諦観? よく分からないけれど、腹を立てることも反論することも、涙を流すこともないから面白くない。
 何をされても、言われても、ひとつも堪えていないのだ。

 婚約破棄したショックで、身だしなみに頓着しなくなるのではないかと思ったけれど……姉は相変わらずキラキラしていて、つまらない。その輝きに目を細めるゴードンも面白くない。
 婚約破棄したくせにいつまでも未練たらしく姉を追いかけて、本当に女々しい。気に入らない。
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