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第6章 共に生きるには
10 アレクのトラウマ
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ルピナのご両親はニコニコ顔で、ゴードンさんに僕のことを「親戚の子~?」って聞いていた。
ゴードンさんは「いや、ワケアリなんだ」って答えて笑ってた。なんだか格好いいよね! 「ワケアリなんだ」――今度から僕も使おう。
どうも処方箋っていうのは、僕お医者がの体に必要だと思う薬と量を書いた紙のことらしい。薬局の人はお医者じゃないけど、お薬の専門家なんだって。しっかり許可をとって調剤するから、魔女業とは違うみたいだ。
お医者と薬局を分けるのは、それぞれ詳しい専門家にお任せした方が確実だからってことかな。
僕もいつか、何かの専門家になりたい。レンファ専門家なんてどうかな? でもそれって仕事じゃないか。
「――じゃあ、アレクシスくん。目薬の使い方を教えるね」
「はーい」
受付の向こう側からルピナのお父さんに言われて、僕は背中をゴードンさん、前は受付の机に挟まれる場所へ立った。
すると、さっきぐしゃぐしゃに撫でられたから帽子がずれていたみたいで、ゴードンさんにヒョイッと取られる。そのあと、丁寧に髪を撫でつけてから帽子を被せ直されて、くすぐったい気持ちになった。
――やっぱり僕は「好きな父さんを選んで良い」って言われたら、絶対にこの人を選ぶだろうな。
「珍しいね、もしかしてアルビノかな?」
「うん? そうだよ、やっぱり街でも珍しい?」
「この辺りでは珍しいかもねえ。外を歩いていても、アルビノより先にお洒落な外国人だと思われるかも知れないな」
「ガイコクジン? そっかあ」
気持ち悪いでも化け物でもなく、お洒落なガイコクジン。ガイコクジンはよく分からないけど、お洒落ってつくぐらいだから、きっと褒められているんだろう。
僕は嬉しくなって、ルピナのお父さんに「ありがとう」って言って笑った。でもその横にお母さんまでやって来て、「確かに、この辺りではなかなか見ないキレイな子よねえ」って言われて、ちょっと困る。
場所が変われば、意識や価値も変わるってことなのかな。
生まれてからずっと「汚い」「気持ち悪い」「呪いだ」って言われていた僕が、キレイなんて言われるのはすごく変な感じがする。もちろん嬉しくない訳じゃあないけど、なんて言えば良いのか。
あんまり僕の存在を好意的にとられると、今まで村で必死に耐えていたこと全部が無駄になる、みたいな。
僕は汚いのに――汚かった時の僕を知らないのに、簡単にキレイなんて言わないで欲しい。
別に、僕の全部を皆に知って欲しい訳じゃないけど、これってまるで酷い嘘をついているみたいで胸がザワザワする。後になって昔の僕を知った時に、周りの人は一気に離れていくんじゃないかな? そんな目に遭うくらいなら、最初から「汚い」って思っていてくれた方が良い。
僕を「汚れた骨」「瘦せウサギ」って呼んでいたレンファが、今では「少しは見られるウサギ」って言ってくれるようになったみたいに。あの流れってすごく安心する。もうそれ以上評価が下がりっこないから? ちょっとずるい考えかな。
よく分かんないけど、たぶんこれも僕の問題だ。これから、少しずつ直していかないとね。
「――はい、じゃあコレがひとつめの目薬だよ。黄色」
「ふたつもくれるんだ」
「そう。黄色が抗炎症作用のある目薬で、こっちの透明が目が乾燥するのを防ぐもの。透明な方は、右目左目どっちに使っても平気だよ。黄色も使っちゃいけない訳じゃあないけど……左目にしか効果がないから、右目に使っても意味がないからね」
「わかった。でもコレ、どうやって目に塗るの?」
机の上にころんと置かれたふたつの目薬。どっちも小瓶みたいなのに液体が入っていて、あんまり量がない。
指の腹に出して目に塗る? それって痛くないのかな? 前にセラス母さんが「人の肌には目に見えない菌や汚れがたくさんついている」って言っていたのに。
僕が首を傾げると、ルピナのお父さんはクスクス笑って「じゃあ、おじさんが試しに差して見せようか」って、僕のとは別の透明な目薬を持ってきた。
でも、その横からルピナが飛び出して来て「私が見せてあげる!」って明るい声を上げた。
「ええ? ルピナ、お前まだ1人でちゃんと目薬差せないじゃないか……目を開けなさいって言っても口を開けるくせに。ほらほら、仕事の邪魔だから奥へ行ってなさい」
「差せるもん! 貸して! ……ねえ、見ててくださいね、こうやって差すんだから!」
ルピナはお父さんの手から目薬をひったくると、天井を見上げた。次に目薬をこれでもかと掲げて、手も体も、何から何までプルプル震えている。
なんだか、目薬をサスっていうのは――すごく大変なことみたいだ! 僕、ちゃんとできるかな?
プルプルルピナをじっと見ていると、やがて高く掲げた小瓶から一滴の液体が落ちた。それは、ぴちょんとルピナのおでこに当たって、ルピナは「ひぃん!」って情けない声を上げて両目を閉じていた。
「……目に入れるの、とっても難しそうだね!」
僕が見たままの感想を言うと、ルピナのお父さんが「ホラ、やっぱりできないじゃないか!」って怒って目薬を取り上げる。そのあとお父さんは、しょんぼり肩を落としたルピナを放置して、僕に目薬の正しい使い方を教えてくれた。
あんまり高いところからぴちょんって落とすんじゃなくて、すぐ近くからサスと目に入りやすいみたい。それでも難しかったら、鏡を見ながらサスのがオススメだって言われた。
でも、くれぐれも小瓶の先が目に触れないように、だって。目にも菌や汚れがあるのかな? それが小瓶に移ると良くないんだと思う。
そうして説明を聞いている内にゴードンさんが薬のお会計を済ませてくれて、僕はルピナのご両親に「ありがとうございました」って頭を下げた。
すると、慌てた様子で受付の脇からルピナが出てくる。
「――ね、ねえ、もう帰っちゃうんですか?」
「うん、お薬もらったから」
「えっと、アレクシスくんはどこに住んでいるんですか? また来ますか? いや、それは病院や薬局なんて、来ないで済む方が良いに決まっていますけど……」
「ちょっと、ルピナどうしたの? もうこの子ったら、アレクシスくんのことが好きになっちゃったのかしら」
「え」
「…………お母さん!!」
突然のことに、僕は驚いてルピナを見た。ルピナは顔を真っ赤にして怒っている。でも、僕と目が合うと途端にしおらしくなって、うるうるした目で見上げてきた。
その茶色い目の奥にあるモノに気付いた僕は、全身に鳥肌が立つのを感じた。
ルピナはまだ小さい女の子なのに――どうしてか僕には、カウベリー村のあのお姉さんの姿が重なって見えたからだ。
ゴードンさんは「いや、ワケアリなんだ」って答えて笑ってた。なんだか格好いいよね! 「ワケアリなんだ」――今度から僕も使おう。
どうも処方箋っていうのは、僕お医者がの体に必要だと思う薬と量を書いた紙のことらしい。薬局の人はお医者じゃないけど、お薬の専門家なんだって。しっかり許可をとって調剤するから、魔女業とは違うみたいだ。
お医者と薬局を分けるのは、それぞれ詳しい専門家にお任せした方が確実だからってことかな。
僕もいつか、何かの専門家になりたい。レンファ専門家なんてどうかな? でもそれって仕事じゃないか。
「――じゃあ、アレクシスくん。目薬の使い方を教えるね」
「はーい」
受付の向こう側からルピナのお父さんに言われて、僕は背中をゴードンさん、前は受付の机に挟まれる場所へ立った。
すると、さっきぐしゃぐしゃに撫でられたから帽子がずれていたみたいで、ゴードンさんにヒョイッと取られる。そのあと、丁寧に髪を撫でつけてから帽子を被せ直されて、くすぐったい気持ちになった。
――やっぱり僕は「好きな父さんを選んで良い」って言われたら、絶対にこの人を選ぶだろうな。
「珍しいね、もしかしてアルビノかな?」
「うん? そうだよ、やっぱり街でも珍しい?」
「この辺りでは珍しいかもねえ。外を歩いていても、アルビノより先にお洒落な外国人だと思われるかも知れないな」
「ガイコクジン? そっかあ」
気持ち悪いでも化け物でもなく、お洒落なガイコクジン。ガイコクジンはよく分からないけど、お洒落ってつくぐらいだから、きっと褒められているんだろう。
僕は嬉しくなって、ルピナのお父さんに「ありがとう」って言って笑った。でもその横にお母さんまでやって来て、「確かに、この辺りではなかなか見ないキレイな子よねえ」って言われて、ちょっと困る。
場所が変われば、意識や価値も変わるってことなのかな。
生まれてからずっと「汚い」「気持ち悪い」「呪いだ」って言われていた僕が、キレイなんて言われるのはすごく変な感じがする。もちろん嬉しくない訳じゃあないけど、なんて言えば良いのか。
あんまり僕の存在を好意的にとられると、今まで村で必死に耐えていたこと全部が無駄になる、みたいな。
僕は汚いのに――汚かった時の僕を知らないのに、簡単にキレイなんて言わないで欲しい。
別に、僕の全部を皆に知って欲しい訳じゃないけど、これってまるで酷い嘘をついているみたいで胸がザワザワする。後になって昔の僕を知った時に、周りの人は一気に離れていくんじゃないかな? そんな目に遭うくらいなら、最初から「汚い」って思っていてくれた方が良い。
僕を「汚れた骨」「瘦せウサギ」って呼んでいたレンファが、今では「少しは見られるウサギ」って言ってくれるようになったみたいに。あの流れってすごく安心する。もうそれ以上評価が下がりっこないから? ちょっとずるい考えかな。
よく分かんないけど、たぶんこれも僕の問題だ。これから、少しずつ直していかないとね。
「――はい、じゃあコレがひとつめの目薬だよ。黄色」
「ふたつもくれるんだ」
「そう。黄色が抗炎症作用のある目薬で、こっちの透明が目が乾燥するのを防ぐもの。透明な方は、右目左目どっちに使っても平気だよ。黄色も使っちゃいけない訳じゃあないけど……左目にしか効果がないから、右目に使っても意味がないからね」
「わかった。でもコレ、どうやって目に塗るの?」
机の上にころんと置かれたふたつの目薬。どっちも小瓶みたいなのに液体が入っていて、あんまり量がない。
指の腹に出して目に塗る? それって痛くないのかな? 前にセラス母さんが「人の肌には目に見えない菌や汚れがたくさんついている」って言っていたのに。
僕が首を傾げると、ルピナのお父さんはクスクス笑って「じゃあ、おじさんが試しに差して見せようか」って、僕のとは別の透明な目薬を持ってきた。
でも、その横からルピナが飛び出して来て「私が見せてあげる!」って明るい声を上げた。
「ええ? ルピナ、お前まだ1人でちゃんと目薬差せないじゃないか……目を開けなさいって言っても口を開けるくせに。ほらほら、仕事の邪魔だから奥へ行ってなさい」
「差せるもん! 貸して! ……ねえ、見ててくださいね、こうやって差すんだから!」
ルピナはお父さんの手から目薬をひったくると、天井を見上げた。次に目薬をこれでもかと掲げて、手も体も、何から何までプルプル震えている。
なんだか、目薬をサスっていうのは――すごく大変なことみたいだ! 僕、ちゃんとできるかな?
プルプルルピナをじっと見ていると、やがて高く掲げた小瓶から一滴の液体が落ちた。それは、ぴちょんとルピナのおでこに当たって、ルピナは「ひぃん!」って情けない声を上げて両目を閉じていた。
「……目に入れるの、とっても難しそうだね!」
僕が見たままの感想を言うと、ルピナのお父さんが「ホラ、やっぱりできないじゃないか!」って怒って目薬を取り上げる。そのあとお父さんは、しょんぼり肩を落としたルピナを放置して、僕に目薬の正しい使い方を教えてくれた。
あんまり高いところからぴちょんって落とすんじゃなくて、すぐ近くからサスと目に入りやすいみたい。それでも難しかったら、鏡を見ながらサスのがオススメだって言われた。
でも、くれぐれも小瓶の先が目に触れないように、だって。目にも菌や汚れがあるのかな? それが小瓶に移ると良くないんだと思う。
そうして説明を聞いている内にゴードンさんが薬のお会計を済ませてくれて、僕はルピナのご両親に「ありがとうございました」って頭を下げた。
すると、慌てた様子で受付の脇からルピナが出てくる。
「――ね、ねえ、もう帰っちゃうんですか?」
「うん、お薬もらったから」
「えっと、アレクシスくんはどこに住んでいるんですか? また来ますか? いや、それは病院や薬局なんて、来ないで済む方が良いに決まっていますけど……」
「ちょっと、ルピナどうしたの? もうこの子ったら、アレクシスくんのことが好きになっちゃったのかしら」
「え」
「…………お母さん!!」
突然のことに、僕は驚いてルピナを見た。ルピナは顔を真っ赤にして怒っている。でも、僕と目が合うと途端にしおらしくなって、うるうるした目で見上げてきた。
その茶色い目の奥にあるモノに気付いた僕は、全身に鳥肌が立つのを感じた。
ルピナはまだ小さい女の子なのに――どうしてか僕には、カウベリー村のあのお姉さんの姿が重なって見えたからだ。
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