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第五章『開戦』
135話 戦場の水素爆発
しおりを挟む「え? あの船の水素を爆発させた? しかも敵の本陣で?」
合流した義母さんは、開口一番とんでもないことを口走った。
「ええ。さすが奇襲用の船ね。試してみたんだけど、水素爆発があんな威力になるなら、先に言っておいてほしかったわ」
確かに奇襲用とは言ったけど、それは空を飛んで高速で移動できるという意味で、敵本陣に特攻して爆破するという意味ではなかった。
半日ほど前に聞こえた地響きと爆音は、もしかしなくてもこれか。てっきり、義母さんの神術だろうと思っていたのだが。
「それ、上空から神術から神術を撃ち込むとかでも良かったんじゃ……」
あのプロペラ用のモーターとか、作るのかなり苦労したのに。
「それはやったのよ。結界内にアマルガム入れて一発撃ち込んだんだけど、対策されてたみたいでね。多分あのテント、神術を無効化する聖紋布じゃないかしら」
見たことないけど、そういうのもあるのか。前世でもヒンデンブルク号の事故などもあったし、味方に死傷者がでなかっただけでも良しとすべきかもしれない。
「やってしまったものは仕方ないとは思うけど、戦果はあったの?」
「そこはバッチシよ。敵の防御結界の中に飛行船を落としてドカン。あれを防げるのがいたら、ちょっとびっくりね」
またどんよりした気分になる。敵の本陣にいた人たちはどうなったのだろう?
教科書に出てきた社会契約説的に言うと、殺人は社会的な相互契約に反するから禁止されている。しかし、戦争はどうなんだろう。
「すっごーい」
ストリナは純粋に目を輝かせている。僕は戦場で吐きながら戦っていたが、ストリナはそうでもなかった。こちらの世界では、疑問は持たれていないらしい。
「まったく。姐さんも師匠も勝手なことばかりじゃ」
一緒に合流したシーゲンおじさんは呆れ顔だ。
「でも、おかげで敵は指揮命令系統が混乱しているからいいじゃない。あれは相当効いたと見たわ。ところで、うちの人はまだ帰らないの?」
そう言えば、クソ親父の姿が見えない。
「ああ、指揮をアブスに任せて、勝手に一騎討ち中じゃよ。朝からじゃから、そろそろ疲れてもええんじゃろが」
義母さんは軽くため息をついて、首を左右に振った。
「それはすごい相手がいたものね。今のうちに盤面をひっくり返しておく必要があるかしら」
「いやいや、実は諜報部から連絡があってな。教皇領ルップルの”十二使徒”と”守護聖人”が複数来とるらしいんじゃ。我々より強い者もおるかもしれん」
シーゲンおじさんの情報は、僕を絶望させるのに充分だった。親父たちと同レベルとか出会った瞬間に死ねると思う。
◆◇◆◇
「爆発音の原因が判明しました!」
偵察から戻ってきた男は、かわいそうなぐらい汗びっしょりだった。目も泳いでいて、良くない報告があることは明白だった。
「何だった?」
「本陣が、敵の奇襲により壊滅しました。集まっていた皆様も、ほとんど亡くなられたようです」
アンタム都市連邦の本陣には、教皇領ルップルの司教猊下をはじめ、各都市から派遣された軍のトップが詰めていたはずだ。今日はログラム王国の攻略に向けた軍議の日だった。
「バカな。本陣には強力な結界が張られていたはずだ。しかも中央の天幕は神器だぞ?」
軍議の会場である天幕は、水晶の繊維で作った布に、ミスリル糸で幾重にも聖紋を縫い込んだもので、炎では燃えず、さらに神術を無効化する効果があったはずだ。まさに神器の名にふさわしい逸品だった。
「いえ、司教様は天幕内部でご遺体となって発見されました。目撃者によると、空飛ぶ船が本陣を護る護法結界を破って入りこんだ後、内部で大きな爆発があったそうです。あの音は、その時の音だったようで……」
予想外の報告に、頭が真っ白になる。現在戦っている第十五騎士団は、暗殺者の集団とも言われている。ナログ共和国との戦争で彼らに暗殺された総司令官の数は、片手では足りないらしいとも聞いていた。
しかし、アンタム都市連邦はナログ共和国のような田舎国家とは違う。そう思っていたのだが、まさか空飛ぶ船などというふざけたものが存在するとは。
「”使徒”様と”守護聖人”様はどうなった? 本陣の護衛についていたはずだろう?」
使徒というのは、教皇領ルップルが誇る天使との契約者のことで、最高位の聖霊神術士のことだ。守護聖人は、アンタム都市連邦の各都市や高位の聖職者を護るためにルップルから派遣される高位の神術士を指す。いくら奇襲とはいえ、どちらもそう簡単に殺せる存在ではない。
「確認した時点では、生き残られたのは使徒様お一人であったかと。一時的に視力と聴力を失われたようで、治癒を受けておられます」
ということは、守護聖人は助からなかったか。まさかそれほどの力を持っているとは思わなかった。
「なんてことだ。実行犯は誰だ?」
「結界外の目撃者の情報を総合しますと、特徴が一致するのは、『殲滅姫』ジェクティ・コンストラクタではないかと。ただ、あの爆発を起こした神術は、これまで知られているものではないようで」
喉の奥から、無意識に唸り声が漏れる。開戦前、『殲滅姫』ジェクティが領地に帰ったという情報は入手していた。
王都からコンストラクタ家の領地までは、どんなに急いでも十日はかかる。つまり、第十五騎士団の出兵情報が領地に伝わるまでに十日、ジェクティが王都に戻ってくるまで十日、王都からここまでで十日、合計一ヶ月は到着にかかると計算して作戦を立案していた。
実際はその半分で辿り着いているあたり、何らかの特殊な切り札を切ったのだろう。おそらくは目撃されたという空飛ぶ船か。
「それほどの術が使えるなら、我らを蹂躙することは容易いはずだが、すぐに逃げたか……」
もしかすると、その爆発は空飛ぶ船の機能だった可能性もある。もしそうならば、同じ手は二度と使えないだろう。
「はい。ジェクティは空を飛んで、シーゲン子爵率いる本体に合流した模様です」
我が軍の事前の査定によれば、『殲滅姫』のジェクティ・コンストラクタは守護聖人相当、『闇討ち』のヴォイド・コンストラクタと『不敗』のポインタ・シーゲンの二人は聖櫃騎士団の聖騎士長相当ということになる。
一方こちらの軍には使徒様がいるし、守護聖人様はおそらく三人亡くなって、残り二人。現役ではないが元聖騎士長もいる。
あの三人以外の雑兵は、『断罪の光』と芯がミスリルの聖槍があれば問題ないだろう。
「ふむ。被害は大きいが、まだ負けたわけではないか」
これは神が与えたもうた試練なのか。まずは、軍の士気を立て直すところからだ。
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