9 / 19
《序章 精霊刀剣》【選ばれし子どもたち編】
第五話 樹の精霊双刀
しおりを挟む【現代 兵庫県神戸市 国立十文字学園高等部神戸校 図書室】
「えっ!?本当に!?」
「ほんとほんと!
この前、祓い科の刹那さんが、小学生の男の子と二人で歩いてたんだって!」
「それって弟とかなんじゃないの~?」
「違うってば!
だって、刹那さんの目が♡マークになってたもの!」
ウチの近くに座っている精霊科の女子生徒二人が、刹那さんの話題で盛り上がっている。
……うるさい。
ここ、図書室なんだけど。静かにする場所でしょ?
まったく!せっかく楽しみにしてたこの『人は好かれ方が九割』って本を読んでるのに、全然集中できないじゃない……!
……べ、別に人から好かれたいから読んでいるわけでもないけど……そ、そう!
ただ、このインパクトのあるタイトルに惹かれただけだもん!
「でさ~、その小学生がさ~」
「うんうん!」
……ダメだ。本の内容がまったく頭に入ってこない。
ここはひとつ、ビシッと注意してやらないと──
ガタッ!
ウチは勢いよく椅子から立ち上がった。
「ん?」
女子生徒たちの視線がこっちに集まる。
ぴたりと黙って、じーっとウチを見ている。
「・・・」
うう、視線が痛い……!顔が熱くなってきた。
やっぱり恥ずかしくて無理。
そそくさと座り直して、無理やり本の続きを読み出す。
この、読書をしているウチの名前は伊藤天嶺叉。
国立十文字学園高等部“神戸校”祓い科の一年生。
読書が趣味で、暇さえあればこの図書室に入り浸っている。
さすが国立校だけあって、蔵書の量もジャンルも豊富。
ウチのお気に入りの空間だ。
「はぁ……」
……でも今日は、もう無理か。仕方ない、続きは寮で読もう。
そう思って立ち上がろうとした、その時。
ブルブルブルブル──
机の上のスマートフォンが震えた。
画面に表示された名前は、精霊科三年の助助さんだった。
ウチは慌てて図書室を出て、電話に出る。
「は、はい……伊藤です」
「桜井だ
悪霊が出た、すぐに来てくれ
場所は“神戸貯水池”だ
集合場所は東側の“亀の子広場”で頼む」
「わ、わかりました……すぐに向かいます……」
通話が切れる。
「ふぅ~~……」
深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。
……どうして助助さんって、いつも電話で連絡してくるのかな。
人見知りのウチにとっては、メールかチャットの方が、気持ち的に楽で助かるのに……
でもあれか。
そういえば、この前メールの内容がこれで大丈夫かどうかいろいろ考え過ぎて、何度も修正してたらあっという間に一時間が過ぎちゃって、
「返信が遅い!」
って、結局電話かかってきて怒られたんだったっけ……
─────────────────────────────────────
【神戸貯水池・東側 亀の子広場】
集合場所に着いた頃には、辺りはすっかり夕暮れ色に染まっていた。
「天嶺叉!こっちだ!」
助助さんの声は遠くからでもよく通る。
というか、大きすぎる。しかも低くて太いから、胸にズシンとくる。
正直、聞くだけで心臓が縮こまる……
身長185センチ、ガッチリした筋肉質の体型。
その見た目どおり、声も迫力満点で、正直、ウチはちょっと……苦手。
「よ、よろしくお願いします……」
「ああ、早速現状報告だが──」
出た。“早速現状報告“。
助助さんは“要件人間”として有名で、要件のあるときしか連絡してこない。
プライベートでも、要件がなければ一切音沙汰なし。
もちろん今だって、雑談なんてあるはずがなく、いきなり本題から入ってくる。
「天嶺叉、聞いているか?」
「あっ、はい、ごめんなさい……えっと……
上級が一体、魚型の水属性
被害にあった人は今のところいない……ですよね?」
「ああ、そのとおりだ」
「そ、それじゃあ……行ってきます!」
ウチは逃げるように助助さんのもとから立ち去った。
……はぁ。
やっぱり苦手だ、この人の圧。
無言の圧っていうか、ピリピリした空気っていうか……なんだか、息が詰まりそうになる。
─────────────────────────────────────
【神戸貯水池】
神戸貯水池は、神戸駅から北西に位置する、100年以上前に作られた人工湖。
休憩施設の東屋やトイレなどが設置され、市民の憩いの場としても親しまれている。
地元民からは“神戸貯水池”よりも、ただ単に“水源地”と呼ばれることも多い。
ウチはいま、その湖の周囲を巡る“森の回遊路”という遊歩道を歩いていた。
「どこにいるんだろ……?」
そうつぶやいて立ち止まり、水面を見つめた、そのとき──
「……!?きゃっ!?」
突如、前方から水弾が飛んできた!
ウチはとっさに身をかがめて回避する。
背後で“ズバン!”という音と共に、木々がドミノ倒しのように倒れていった。
「あ、危なかった……」
水弾が飛んできた方に視線をむけると、貯水池の中央、水面の上に一体の巨大なピラニア型の悪霊がいた。
「ギシギシギシギシ……!」
その歯ぎしりの音が、貯水池全体に響き渡る。
『上級悪霊
俗名:高野剛鈍
種別:ピラニア型
属性:水』
ウチは、背中に携行していた二本の刀の鞘から、柄を引き抜く。
そして、柄を強く握りしめ、大声で叫んだ。
「お願い!!青天森!!」
その名を叫んだ瞬間——
ウチの体内から、木の葉が舞い散る。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
大地が唸るような咆哮とともに、巨大な樹木が現れる。
これぞ──
”樹の大精霊・青天森“
両手両足を持つ巨木の姿。
大地を踏みしめるたびに、足元から花が咲き、芽が吹き、生命が芽吹く。
それは畏怖を抱かせるほど雄大で、けれど、どこか穏やかであたたかい……
まさしく、自然の化身だった。
ウチが今、手に持っているのは──
“樹の精霊双刀”
柄は二本。
どちらも日本刀の柄で、黒色の鍔、柄巻きされた黒色の握り、頭の部分は精霊玉で構成されている。
青天森は、ドスドスと地響きを立てながら、ウチの持つ柄めがけて舞い降りてきた。
“精霊玉”に、青天森が吸い込まれる。
次の瞬間──
透明色だった精霊玉が、緑色に染まる。
すると、二本の柄から、太く力強い樹の幹が生えはじめる。
ググッ……と唸るように伸び、ねじれ、割れ、絡み合いながら、幹はその形を変えていく。
幹はやがて刀身のかたちを取り、まるで木刀のような質感に。
木の温もりを保ちながらも、刃先だけは鋭く仕上がっていた。
こうして、二振りの“樹の刀身”を、形作った。
今──
この刀は“真なる形”を顕現した。
“柄”だけだった未完成の刀に、大精霊の力が宿り、“樹の刀身”がここに生まれ、“樹の精霊双刀”は真価の姿を現した。
これこそが──
大精霊に選ばし者のみが扱うことを許された伝説級の武器。その名も──
“精霊刀剣”。
「ギシギシギシギシ……パカッ!」
悪霊が歯ぎしりを止め、大きく口を開いた。
展開されるのは──
“水の円形型霊法陣”
「ギシッ!」
次の瞬間——
“水の円形型霊法陣” が青色に輝くと、まるでくしゃみのような勢いで、水弾を連射してきた!
「くっ……!」
ウチは、樹の精霊双刀で水弾を次々と捌いていく。
……けど、完全に防戦一方。
このままじゃまずい。
どうしよう……?
一旦退く?それともこのまま突っ込んでみる?
そうやって、またいつものように頭の中でごちゃごちゃと考えていたら──
チャポン。
悪霊が、水中へと姿を消した。
困った。さて、どうしよう……
水中はあっちのホームグラウンド。
相手のホームに、わざわざ飛び込むわけにもいかない。
「うーん……」
考えた末に、ウチは決断する。
樹の双刀身を“幹”から“根”に変換させ、貯水池に浸す。そして──
「いける……!」
池の水を、どんどん吸い上げていった。
時間とともに水位が下がっていき、ついには悪霊の背ビレが水面に露出する。
「見えた!」
樹の双刀身を“幹”へと戻し、構える。
「樹の叫び THE THIRD!!
芽樹丸!!!!」
樹の双刀身が、まるで生きているかのように伸びていき、悪霊の体を絡め取る。
ぐるぐると絞り上げるその様は、まさに“締め殺しの木”・ガジュマル。
「ギシィィィィ!!」
悪霊は絶叫し、もがくが、拘束はどんどん強くなる。
樹の双刀身は容赦なく、心臓部を中心に締めつけていく。
「パキッ…… パキッ……パキンッ!」
やがて悪霊玉が砕けると──
透けた三十代くらいの男性が現れ、ウチに微笑みかけてから、空へと昇っていき、やがて静かに消えていった。
——祓い、完了。
「良き、来世を」
キンッ!
ウチは、樹の精霊双刀を静かに鞘に収めた。
─────────────────────────────────────
※用語解説
・祓い科:国立十文字学園は、中等部と高等部に分かれており、高等部には二つの専門家が設けられている。
その一つが「祓い科」であり、これは精霊刀剣の使い手のみが入れる特別な科である。
上級以上の悪霊祓いを専門としており、高度な戦闘技術が求められる。
全国に設置されている十文字学園の中でも、祓い科が設置されているのは、八戸校・神戸校・東京校の三校のみである。
・精霊科:もう一つの専門家である「精霊科」は、霊法を用いて、祓い科の任務を補助・支援する役割を担っている。
また、中級以下の悪霊祓いも担当するが、現場に上級以上がいる場合は、祓い科の補助・支援に徹する形となる。
※キャラクター紹介
プロフィール
名前:伊藤 天嶺叉
年齢:15歳
身長:148cm
体重:秘密
職業:国立十文字学園高等部神戸校祓い科一年
武器:樹の精霊双刀
召喚精霊:樹の大精霊 青天森
性格:人見知り・引っ込み思案
一人称:「ウチ」
好きな食べ物:そばめし
最近気になっていること:最近『人は◯◯が九割』という本のタイトルが多すぎて頭がおかしくなってきたこと。
「結局人はなにが大事なのでしょうか?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
自由を愛する妖精姫と、番にすべてを捧げた竜人王子〜すれ違いと絆の先に、恋を知る〜
来栖れいな
ファンタジー
妖精女王と精霊王の間に生まれた特別な存在――セレスティア。
自由を愛し、気ままに生きる彼女のもとに現れたのは、竜人族の王子・サイファルト。
「お前は俺の番だ」
番という名の誓いにすべてを捧げた彼は、王族の地位も未来も捨てて森に現れた。
一方のセレスティアは、まだ“番”の意味すら知らない。
執着と守護。すれ違いと絆。
――これは、ひとりの妖精姫が“特別”に気づいていく物語。
甘さ控えめ、でも確かに溺愛。
異種族の距離を越えて紡がれる、成長と守護のファンタジー。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる