キリギリスの生きかた

星川わたる

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キリギリスの生きかた

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 「アリとキリギリス」というお話を、知っていますか?

 夏――いちばん働くことのできる季節にたくさん働いたアリたちは、冬になって外に食べ物がなくなっても、巣のなかに蓄えがあるので困ることはありませんでした。
 夏に働かないで歌を歌ってばかりいたキリギリスは、冬に食べるものがなくなって死にました。

 誰もがみな、真面目で働き者だったアリの生きかたを称えます。
 遊んでばかりいたキリギリスの生きかたを蔑みます。

 そのお話を聞いた彼も、同じように思いました。
 歌など歌って遊んでいないで、一生懸命に働くんだとその心に誓いました。

 彼は自分のことをアリだと思って生きてきました。

 ところが時間が経つにつれて、おかしなことが起きるようになりました。

 一生懸命に働こうと思っても、体が思うように動きません。
 働こうと思えば思うほど、彼の体は動くことを拒んでしまいます。

 やがて彼は、自分がキリギリスだったことに気がつきました。

 食べ物をかき集めてせっせと巣に運ぶことは、彼にはできないのです。
 彼がいくら頑張ったとしても、その体は冬を越すようにはできていませんでした。

 真面目に働くアリたちの行列を見るたびに、彼は自分が同じように働かないのをいけないことと思ってうつむきました。
 そしてアリたちの話し声が聞こえると、それが自分のことを蔑んでいるように思えて、よそを向きながら聞き耳をたてるのでした。

 彼は歌を歌うことなどしませんでした。一生懸命に働いて、みんなと一緒に愉快に冬を越すつもりでいました。

 しかしそれができるのは、アリに生まれアリとして生きる者だけだと知りました。
 キリギリスに生まれた者は、アリとして生きることはできないとも知りました。

 彼は自分の命の短さを知りました。

 秋――木の葉が色づき、やがて訪れる冬の気配がみなの心をざわつかせます。

 アリたちは、より一生懸命に働きました。
 そんな姿を気にもとめず、彼は今まで歌っていなかった歌を、自由気ままに歌っていました。

 自分がキリギリスだと知って、彼は初め悲しみに暮れました。
 悲しんで、悲しんで――その果てに彼は、ふと思いました。

 一生の長さは、みんな違うんだ。大事なのは長く生きることではなくて、その中でどれだけ愉快に過ごせたか、ということなんだ――と。

 彼は本当は、愉快に長生きしたいと思っていました。
 しかしそれができないのなら、せめて――

 そう思って彼は、今まで歌っていなかった、歌いたかった歌を歌い始めたのでした。
 アリたちが一生かけて楽しむ愉快なことを、彼はこの冬までにすべてやり尽くそうと思ったのです。

 誰にも構わず歌う彼を見て、アリたちはひそひそ話をしました。
 聞こえないふりをふながら、彼は歌い続けました。

 冬――彼は枯れ草の上にひっくり返って死にました。

 からっ風が、ひゅうひゅうと騒ぎたてました。

 彼の生きかたが正しかったかどうかは、きっと分からないでしょう。
 彼自身も、本当のところは自信がありませんでした。

 そんな彼のために、考えてあげてほしいのです。

 キリギリスに生まれた者は、どう生きればよかったのか。
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