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1.急襲
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暗黒の宇宙空間を、船団はのろのろと直進を続ける。輸送船の足が遅く、速力が出ない。
所定の輸送計画に従い編成された「SZ504」船団は、スギパール星系にて3隻の貨物船に輸送物件を積載し、さらに待機中であった液槽船1隻を加えた輸送船4隻体制で出港した。
行き先は、わが地上部隊が駐屯するゼーピン星系である。
スギパール星系を出てはや6日。新たに船団に加入した液槽船が低速の戦時標準船であり、船団の足を引っ張っている。この船がいなかったなら、ちょうど今頃ゼーピン星系に着いていたはずだ。
戦時下とはいえ、軍需物資を積んで走る船だ。もう少し速くできなかったものか。平時ならばともかく、戦時ではいつどこから魚雷が突っ走ってくるか分からないというのに。
当直を交代してから1時間。私は右舷方向を担当する見張員として、3番光学観測器・赤外線観測器、および4番の光学観測器を監視し続けている。
4番の赤外線観測器が2週間前から故障したままで、私は3番の赤外線観測器で4番の視野も見張るのを続けている。この船団の護衛を終えスギパール星系に戻る頃には本土から部品が届くというから、それまでの辛抱だ。
本艦は「インセクト」級駆逐艦「グラスホッパー」。「SZ504」船団の護衛隊旗艦である。
本来なら、比較的新しい「インセクト」級は最前線に出されるところであるが、わが第15駆逐隊は4隻のうち1隻を前線にて失い、補充がなされないまま船団護衛に使われていた。
・・・・・・
「インセクト」級で構成される第15駆逐隊がこの船団に使用されている理由は、もうひとつある。今回の行き先、わが地上部隊が駐屯するゼーピン星系にほど近いゲェメ星系に、敵の戦闘艇部隊の基地があるのだ。
元々はゲェメ星系もわが軍の手中にあったが、敵の強襲降下作戦に遭ってはや半年。ゲェメ星系のわが地上部隊はなおも抵抗を続けているそうだが、同星系への航路は敵の攻撃激しく、もはや輸送船団は向かえない。
ゼーピン星系への輸送は続いているが、輸送船団は毎度のように敵戦闘艇の襲撃を受けている。「インセクト」級は新型光線銃を搭載し対空戦闘に強いため、ここに投入されているのだ。
・・・・・・
対空見張りを厳となせ、との艦長の命令でみな敵戦闘艇を捜索している。部隊指揮官である駆逐隊司令も敵の戦闘艇について艦長と話している。
司令は船団を全速力で真っ直ぐに航行させている。ゲェメ星系の敵戦闘艇が来ないうちに、目的地ゼーピン星系に着いてしまおうという考えであろう。
しかし――前回の輸送船団「SZ503」船団は、不意の雷撃を受け輸送船1隻を喪失したと報告してきていた。その時、戦闘艇はいなかったとのことだ。
おそらく、「SZ503」船団を攻撃したのは敵の潜空艦であろう。通常空間から異空間に潜り、潜望鏡だけ出して雷撃してくるから、突然魚雷が飛び込んでくる。
わが船団は今、その報告のあった位置からさほど離れていない場所を航行している。伏在しているであろう潜空艦に警戒してしかるべきだが――
しかし司令も艦長も、潜空艦を気にしている様子はない。
以前この辺りに、敵が機雷を敷設したことがあった。わが船団は当然そこを避けながら航行しているが、距離が近いため浮流機雷が漂ってくることがある。司令と艦長は「SZ503」船団が報告した「雷撃」を、浮流機雷との接触を誤認したものと考えているようだ。
潜空艦の潜航中の機動力は非常に鈍い。ゆえに航行中の宇宙船は、定期的に針路を変更する「之字運動」を行うことで、敵潜空艦の狙いを外すことができる。
最前線でないとはいえ、もうだいぶ前進してきている。前回の船団のこともある、ここは念を入れて之字運動を起こすべきであろう。
しかし司令はあくまでも突っ走るつもりか、変針の検討すらしない。
理がないわけではない。液槽船の足が遅いので、之字運動を行いジグザグに針路を変えればゼーピン星系への到着は大幅に遅れる。ここは敵戦闘艇の脅威下でもある。長時間航行を続ければ、それだけ敵戦闘艇に襲撃される危険が増大する。
見張り画面から目を離し、後方のスクリーンを横目で見る。図体だけはでかい液槽船が、のそのそとついて来ている。
・・・・・・
「『ホワイト・クイーン』、爆発! 被雷したらしい!」
突然、後方を見る6番の見張員が声をあげた。振り向くと、後方のスクリーンで貨物船「ホワイト・クイーン」の船体から破片がバラバラと散っている。
「被雷? 確かか?」
「寸前に魚雷らしきものが見えました」
「浮流機雷に触れたんじゃないのか?」
艦長が見張員とやりとりしている間に、「ホワイト・クイーン」がレーザー信号を寄越してきた。
「『ホワイト・クイーン』より信号、われ右舷に2本被雷せり」
右舷方向――私は3番と4番の観測器を操作し目を凝らしたが、何も見えない。戦闘艇がいるならさすがに見えるはずだ、やはり潜空艦か。
電波探信儀は電波を出して敵を呼び集めてしまうため、止めている。索敵は観測器に頼るしかないが、敵が潜空艦なら細い1本の潜望鏡を見つけなければならない。
「3番、戦闘艇は見えるか」
「見えません」
艦長の問いに私は即答した。
「『ホワイト・クイーン』、大爆発!」
再び振り向くと、スクリーンの向こうで「ホワイト・クイーン」が右舷から火を噴いている。
続けて2度、3度――「ホワイト・クイーン」は大きく爆発した後、今度は小爆発を連続させ始めた。
ゼーピン星系地上部隊への輸送物件――その中には現地で使用する弾薬類も含まれている。そしてそれはどうやら「ホワイト・クイーン」に積まれていたらしい。積荷に引火した「ホワイト・クイーン」の爆発は、止まらない。
「『ホワイト・クイーン』、レーザー信号回線途絶」
通信が、切れた。
――その直後。
私が見ていた見張り画面、4番光学観測器の画像に一瞬、何かが光った。
注視すると、「ホワイト・クイーン」が爆発する度にかすかな光が点滅している。
反射光か、だとすれば――
「潜望鏡らしきもの、130度、俯角5度!」
「なに?」
私の報告に、艦長が自席の画面を操作する。
「どこだ」
「小さく光る物です」
艦長は画面をのぞき込み――
「対潜戦闘!」
「『駆潜艇703号』、轟沈!」
見張員と声が重なった。
所定の輸送計画に従い編成された「SZ504」船団は、スギパール星系にて3隻の貨物船に輸送物件を積載し、さらに待機中であった液槽船1隻を加えた輸送船4隻体制で出港した。
行き先は、わが地上部隊が駐屯するゼーピン星系である。
スギパール星系を出てはや6日。新たに船団に加入した液槽船が低速の戦時標準船であり、船団の足を引っ張っている。この船がいなかったなら、ちょうど今頃ゼーピン星系に着いていたはずだ。
戦時下とはいえ、軍需物資を積んで走る船だ。もう少し速くできなかったものか。平時ならばともかく、戦時ではいつどこから魚雷が突っ走ってくるか分からないというのに。
当直を交代してから1時間。私は右舷方向を担当する見張員として、3番光学観測器・赤外線観測器、および4番の光学観測器を監視し続けている。
4番の赤外線観測器が2週間前から故障したままで、私は3番の赤外線観測器で4番の視野も見張るのを続けている。この船団の護衛を終えスギパール星系に戻る頃には本土から部品が届くというから、それまでの辛抱だ。
本艦は「インセクト」級駆逐艦「グラスホッパー」。「SZ504」船団の護衛隊旗艦である。
本来なら、比較的新しい「インセクト」級は最前線に出されるところであるが、わが第15駆逐隊は4隻のうち1隻を前線にて失い、補充がなされないまま船団護衛に使われていた。
・・・・・・
「インセクト」級で構成される第15駆逐隊がこの船団に使用されている理由は、もうひとつある。今回の行き先、わが地上部隊が駐屯するゼーピン星系にほど近いゲェメ星系に、敵の戦闘艇部隊の基地があるのだ。
元々はゲェメ星系もわが軍の手中にあったが、敵の強襲降下作戦に遭ってはや半年。ゲェメ星系のわが地上部隊はなおも抵抗を続けているそうだが、同星系への航路は敵の攻撃激しく、もはや輸送船団は向かえない。
ゼーピン星系への輸送は続いているが、輸送船団は毎度のように敵戦闘艇の襲撃を受けている。「インセクト」級は新型光線銃を搭載し対空戦闘に強いため、ここに投入されているのだ。
・・・・・・
対空見張りを厳となせ、との艦長の命令でみな敵戦闘艇を捜索している。部隊指揮官である駆逐隊司令も敵の戦闘艇について艦長と話している。
司令は船団を全速力で真っ直ぐに航行させている。ゲェメ星系の敵戦闘艇が来ないうちに、目的地ゼーピン星系に着いてしまおうという考えであろう。
しかし――前回の輸送船団「SZ503」船団は、不意の雷撃を受け輸送船1隻を喪失したと報告してきていた。その時、戦闘艇はいなかったとのことだ。
おそらく、「SZ503」船団を攻撃したのは敵の潜空艦であろう。通常空間から異空間に潜り、潜望鏡だけ出して雷撃してくるから、突然魚雷が飛び込んでくる。
わが船団は今、その報告のあった位置からさほど離れていない場所を航行している。伏在しているであろう潜空艦に警戒してしかるべきだが――
しかし司令も艦長も、潜空艦を気にしている様子はない。
以前この辺りに、敵が機雷を敷設したことがあった。わが船団は当然そこを避けながら航行しているが、距離が近いため浮流機雷が漂ってくることがある。司令と艦長は「SZ503」船団が報告した「雷撃」を、浮流機雷との接触を誤認したものと考えているようだ。
潜空艦の潜航中の機動力は非常に鈍い。ゆえに航行中の宇宙船は、定期的に針路を変更する「之字運動」を行うことで、敵潜空艦の狙いを外すことができる。
最前線でないとはいえ、もうだいぶ前進してきている。前回の船団のこともある、ここは念を入れて之字運動を起こすべきであろう。
しかし司令はあくまでも突っ走るつもりか、変針の検討すらしない。
理がないわけではない。液槽船の足が遅いので、之字運動を行いジグザグに針路を変えればゼーピン星系への到着は大幅に遅れる。ここは敵戦闘艇の脅威下でもある。長時間航行を続ければ、それだけ敵戦闘艇に襲撃される危険が増大する。
見張り画面から目を離し、後方のスクリーンを横目で見る。図体だけはでかい液槽船が、のそのそとついて来ている。
・・・・・・
「『ホワイト・クイーン』、爆発! 被雷したらしい!」
突然、後方を見る6番の見張員が声をあげた。振り向くと、後方のスクリーンで貨物船「ホワイト・クイーン」の船体から破片がバラバラと散っている。
「被雷? 確かか?」
「寸前に魚雷らしきものが見えました」
「浮流機雷に触れたんじゃないのか?」
艦長が見張員とやりとりしている間に、「ホワイト・クイーン」がレーザー信号を寄越してきた。
「『ホワイト・クイーン』より信号、われ右舷に2本被雷せり」
右舷方向――私は3番と4番の観測器を操作し目を凝らしたが、何も見えない。戦闘艇がいるならさすがに見えるはずだ、やはり潜空艦か。
電波探信儀は電波を出して敵を呼び集めてしまうため、止めている。索敵は観測器に頼るしかないが、敵が潜空艦なら細い1本の潜望鏡を見つけなければならない。
「3番、戦闘艇は見えるか」
「見えません」
艦長の問いに私は即答した。
「『ホワイト・クイーン』、大爆発!」
再び振り向くと、スクリーンの向こうで「ホワイト・クイーン」が右舷から火を噴いている。
続けて2度、3度――「ホワイト・クイーン」は大きく爆発した後、今度は小爆発を連続させ始めた。
ゼーピン星系地上部隊への輸送物件――その中には現地で使用する弾薬類も含まれている。そしてそれはどうやら「ホワイト・クイーン」に積まれていたらしい。積荷に引火した「ホワイト・クイーン」の爆発は、止まらない。
「『ホワイト・クイーン』、レーザー信号回線途絶」
通信が、切れた。
――その直後。
私が見ていた見張り画面、4番光学観測器の画像に一瞬、何かが光った。
注視すると、「ホワイト・クイーン」が爆発する度にかすかな光が点滅している。
反射光か、だとすれば――
「潜望鏡らしきもの、130度、俯角5度!」
「なに?」
私の報告に、艦長が自席の画面を操作する。
「どこだ」
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