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3.空襲
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「空間転移反応を検知、小型目標7、40度、仰角15度」
その報告が入ったのは、敵艦がわが船団の情報を打電してから1時間半ほど経った時だった。
7つの小型目標――間違いなく戦闘艇だ。
40度――右斜め前方から迫ってくる。
「対空戦闘用意!」
艦長が大きな声で号令する。
「対空光線銃用意よし」
「射撃管制装置用意よし」
敵は7機――「インセクト」級駆逐艦の新型光線銃の威力に賭けるほかない。
幸い、わが方は「インセクト」級駆逐艦が3隻いる。従来型の駆逐艦なら3隻で7機の相手は厳しいが、「インセクト」級ならまだ防げる可能性はある。敵はどうやら、わが方の護衛隊にこの艦が配置されていることまでは把握できていないらしい。
「電探起動、第1戦速」
敵に発見された今、もはや電波を止めて息をひそめる意味はない。電探を起動しながら増速し、船団より前に出る。後続の「クリケット」と「リーフホッパー」も増速してくる。敵機が貨物船と液槽船に向かわぬよう、3隻が前方に出て迎え撃つ態勢をとった。
2隻の輸送船の守りには、「哨戒艇22号」ただ1隻が残った。
・・・・・・
「両舷前進強速」
艦長は少し推力を落とさせた。あまり増速しすぎると船足の遅い輸送船を置き去りにしてしまうのだ。液槽船の足が遅いのがもどかしい。
「敵機、2群に分かれた。船団の方向へ2機、本艦の方向へ5機」
この機数――敵は5機でわが駆逐隊3隻を抑えつつ、残りの2機で輸送船を襲うつもりだ。輸送船の方には「哨戒艇22号」しかいないから、2機でも十分な脅威となる。
「『クリケット』は船団に行く奴を止めろ、後の5機は本艦と『リーフホッパー』で受け持つ」
司令の命令を受け、右後方を走っていた「クリケット」が右転舵を始める。本艦と「リーフホッパー」は針路をそのままに、敵機の魚雷を警戒しつつ光線銃を向けて待ち構える。
私が見る見張り画面の視野は右真横と斜め後方である。前方から迫ってくる敵機は見えない。
「敵機5機、40度、仰角15度。真っ直ぐ突っ込んでくる!」
前方見張員が叫ぶ。
「撃ちー方始め!」
号令がかかり、右舷光線銃が一斉に撃ち始めた。艦橋スクリーン越しに青白い光線が放たれるのが見える。暗黒の宇宙空間に、無数の強い光線が明滅する。
「面舵一杯、第3戦速」
魚雷を真横から食らわぬよう、敵機に艦首を向ける。前方に向かって光線銃の軌跡が狂ったように乱れ飛ぶ。
「敵機真艦首、至近!」
それでも敵機は落ちない。横目で見た前方スクリーンに、魚雷を抱いた敵戦闘艇がはっきりと見えた。
「衝撃に備え!」
――ジリリリリ!
警報ベルが艦内に鳴り渡る。各自姿勢を下げ、制御盤にしがみつく。私も見張り画面の脇にぐっと手をついた。
「敵機、本艦直上通過」
上方見張員が平素と変わりない声で報告する。
衝撃はなかった。魚雷は躱せたらしい。
私はついていた手を放し、見張り画面を見た。
――!
「敵機3機、120度、後方へ向かいます!」
「後方?」
艦長が聞き返してくる。
それに答える間もなく、今度は左舷見張員が声を上げる。
「敵機2機、『リーフホッパー』艦底通過、反転します」
2機の敵機は本艦と「リーフホッパー」の間を、右上から左下へ通り抜けた。どちらの艦も被害はない。
おそらく「リーフホッパー」に対しては、苛烈な対空光線により攻撃位置につけなかったのだろうが、本艦に対しては――
「リーフホッパー」の方へ向かったのが2機、後方へ向かっているのが3機。敵は本艦直上で2群に分かれた。
先頭を行く本艦は船団から最も遠い。敵は恐らく輸送船狙い。初めから、本艦を撃つつもりはなかったのだ。あえて本艦を無視し、後方の輸送船目掛けて飛んでいく。
すると――先に船団へ向かった2機と、本艦直上を通過して後方へ向かった3機、合わせて5機が右後方を走る「クリケット」1隻に集中することになる。
いくら新型光線銃を持つとは言っても、1隻で5機は――
「艦長、左の2機は無視して右へ向かえ!」
「面舵一杯、最大戦速」
増速しながら急転舵する。見張り画面の視野が右に回り出す。
光線銃が目標を見失い、射撃が止まった。
「4番、赤外線画像送れ!」
砲術長が苛立ちを隠さずに言う。
しかし、私が担当している4番赤外線観測器は――
「4番、故障しています!」
2週間前に故障して、そのままだ。
「3番で視野確保できないのか」
私は操作盤で3番赤外線観測器を右一杯に向けるが――
「だめです、敵機見えません」
「5番、左一杯にして送れ」
5番を扱う見張員が画像を送った。
「くそ、見えん――!」
敵機に追いすがる本艦。しかし光線銃の射撃は止まったまま。「クリケット」の援護ができない。
「5番見えました、画像送ります」
「送れ――光線銃撃て!」
ようやく目標の諸元が送られ、「クリケット」へ向かう3機の敵機への射撃が始まる。
しかし、かなり後方向きの5番観測器で見えたということは、もう敵機は「クリケット」の目前に――
「『クリケット』、被雷した!」
手遅れだった。既に「クリケット」は5機の敵機の集中攻撃を受けている。スクリーンを横目で見ると、魚雷を発射した敵機はそのまま「クリケット」を艇首の光線銃で掃射している。
「クリケット」から放たれる光線が急速に減っていく。自慢の新型光線銃が、次々に潰されていく。
「クリケット」は被雷箇所から淡い白煙を吐き出している。艦内の空気が漏れて、含まれていた水分が凍結したものだ。
あれは火災ではない、気密扉さえ閉めてしまえばまだ大丈夫だ。
しかし――「クリケット」の被害は、5機に狙われたにしてはやや軽い。
司令もその事には気付いていた。だから座席のひじ掛けを叩いて大声で言った。
「艦長急げ、船団がやられる!」
その報告が入ったのは、敵艦がわが船団の情報を打電してから1時間半ほど経った時だった。
7つの小型目標――間違いなく戦闘艇だ。
40度――右斜め前方から迫ってくる。
「対空戦闘用意!」
艦長が大きな声で号令する。
「対空光線銃用意よし」
「射撃管制装置用意よし」
敵は7機――「インセクト」級駆逐艦の新型光線銃の威力に賭けるほかない。
幸い、わが方は「インセクト」級駆逐艦が3隻いる。従来型の駆逐艦なら3隻で7機の相手は厳しいが、「インセクト」級ならまだ防げる可能性はある。敵はどうやら、わが方の護衛隊にこの艦が配置されていることまでは把握できていないらしい。
「電探起動、第1戦速」
敵に発見された今、もはや電波を止めて息をひそめる意味はない。電探を起動しながら増速し、船団より前に出る。後続の「クリケット」と「リーフホッパー」も増速してくる。敵機が貨物船と液槽船に向かわぬよう、3隻が前方に出て迎え撃つ態勢をとった。
2隻の輸送船の守りには、「哨戒艇22号」ただ1隻が残った。
・・・・・・
「両舷前進強速」
艦長は少し推力を落とさせた。あまり増速しすぎると船足の遅い輸送船を置き去りにしてしまうのだ。液槽船の足が遅いのがもどかしい。
「敵機、2群に分かれた。船団の方向へ2機、本艦の方向へ5機」
この機数――敵は5機でわが駆逐隊3隻を抑えつつ、残りの2機で輸送船を襲うつもりだ。輸送船の方には「哨戒艇22号」しかいないから、2機でも十分な脅威となる。
「『クリケット』は船団に行く奴を止めろ、後の5機は本艦と『リーフホッパー』で受け持つ」
司令の命令を受け、右後方を走っていた「クリケット」が右転舵を始める。本艦と「リーフホッパー」は針路をそのままに、敵機の魚雷を警戒しつつ光線銃を向けて待ち構える。
私が見る見張り画面の視野は右真横と斜め後方である。前方から迫ってくる敵機は見えない。
「敵機5機、40度、仰角15度。真っ直ぐ突っ込んでくる!」
前方見張員が叫ぶ。
「撃ちー方始め!」
号令がかかり、右舷光線銃が一斉に撃ち始めた。艦橋スクリーン越しに青白い光線が放たれるのが見える。暗黒の宇宙空間に、無数の強い光線が明滅する。
「面舵一杯、第3戦速」
魚雷を真横から食らわぬよう、敵機に艦首を向ける。前方に向かって光線銃の軌跡が狂ったように乱れ飛ぶ。
「敵機真艦首、至近!」
それでも敵機は落ちない。横目で見た前方スクリーンに、魚雷を抱いた敵戦闘艇がはっきりと見えた。
「衝撃に備え!」
――ジリリリリ!
警報ベルが艦内に鳴り渡る。各自姿勢を下げ、制御盤にしがみつく。私も見張り画面の脇にぐっと手をついた。
「敵機、本艦直上通過」
上方見張員が平素と変わりない声で報告する。
衝撃はなかった。魚雷は躱せたらしい。
私はついていた手を放し、見張り画面を見た。
――!
「敵機3機、120度、後方へ向かいます!」
「後方?」
艦長が聞き返してくる。
それに答える間もなく、今度は左舷見張員が声を上げる。
「敵機2機、『リーフホッパー』艦底通過、反転します」
2機の敵機は本艦と「リーフホッパー」の間を、右上から左下へ通り抜けた。どちらの艦も被害はない。
おそらく「リーフホッパー」に対しては、苛烈な対空光線により攻撃位置につけなかったのだろうが、本艦に対しては――
「リーフホッパー」の方へ向かったのが2機、後方へ向かっているのが3機。敵は本艦直上で2群に分かれた。
先頭を行く本艦は船団から最も遠い。敵は恐らく輸送船狙い。初めから、本艦を撃つつもりはなかったのだ。あえて本艦を無視し、後方の輸送船目掛けて飛んでいく。
すると――先に船団へ向かった2機と、本艦直上を通過して後方へ向かった3機、合わせて5機が右後方を走る「クリケット」1隻に集中することになる。
いくら新型光線銃を持つとは言っても、1隻で5機は――
「艦長、左の2機は無視して右へ向かえ!」
「面舵一杯、最大戦速」
増速しながら急転舵する。見張り画面の視野が右に回り出す。
光線銃が目標を見失い、射撃が止まった。
「4番、赤外線画像送れ!」
砲術長が苛立ちを隠さずに言う。
しかし、私が担当している4番赤外線観測器は――
「4番、故障しています!」
2週間前に故障して、そのままだ。
「3番で視野確保できないのか」
私は操作盤で3番赤外線観測器を右一杯に向けるが――
「だめです、敵機見えません」
「5番、左一杯にして送れ」
5番を扱う見張員が画像を送った。
「くそ、見えん――!」
敵機に追いすがる本艦。しかし光線銃の射撃は止まったまま。「クリケット」の援護ができない。
「5番見えました、画像送ります」
「送れ――光線銃撃て!」
ようやく目標の諸元が送られ、「クリケット」へ向かう3機の敵機への射撃が始まる。
しかし、かなり後方向きの5番観測器で見えたということは、もう敵機は「クリケット」の目前に――
「『クリケット』、被雷した!」
手遅れだった。既に「クリケット」は5機の敵機の集中攻撃を受けている。スクリーンを横目で見ると、魚雷を発射した敵機はそのまま「クリケット」を艇首の光線銃で掃射している。
「クリケット」から放たれる光線が急速に減っていく。自慢の新型光線銃が、次々に潰されていく。
「クリケット」は被雷箇所から淡い白煙を吐き出している。艦内の空気が漏れて、含まれていた水分が凍結したものだ。
あれは火災ではない、気密扉さえ閉めてしまえばまだ大丈夫だ。
しかし――「クリケット」の被害は、5機に狙われたにしてはやや軽い。
司令もその事には気付いていた。だから座席のひじ掛けを叩いて大声で言った。
「艦長急げ、船団がやられる!」
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