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第20話 理不尽による支配
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ぼくは、高らかに宣言した。
「ははははは、そう、義勇団だよ、きみ。それと知って、どうするんだい」
システム技師は、座席から落ちそうなほどのけぞっている。
「うわあ情けねえな。さっきはおれに盾ついたくせに、義勇団と分かったとたんにそうなる? もうおせえよ、お前。義勇団に向かって銃を撃ったんだぞ」
痛めつけたいが、こいつは後だ。ここで傷つけると操舵席が汚れる。ほかに戦えそうなやつはいないか。そちらから処理する。
あたりを見渡す。
床に倒れた者、尻もちをついた者、席に座ったまま動けない者――
いや、ひとりだけ立っている。
正面やや上、指揮台の女だ。「TSL2198」に乗っていたおそらくは非合法の「乗客」。
魔力が強いな、魔術師か。能力は中程度。隣に男がいたはずだが、今は見えない。指揮台の下にでももぐりこんだか。
おそらく女は男の護衛役だ。引き締められたその表情、あれは「恐怖」じゃない。
こいつだけ、恐怖に染まってない。
……気に入らない。
ぼくは指で銃のかたちをつくった。
魔術師らしい女に向ける。……動じない。
――馬鹿め
ひとさし指にちからを込めて……
――バシュ!
女の服の肩に穴が開く。布地が飛び散った。
なにが起きたか理解できないようすだったが、ひと呼吸おいて、女は絶叫した。
赤い血を散らせて、姿勢をくずす。その苦悶の表情、この部屋の空気を震わす叫び声……ああ、ぞくぞくする。いい。すごくいい。
ぼくが銃を撃てないとでも? ばかにしないでくれ。
「生体防護フィールド」さえつかえるぼくだ、指からビームくらい出せる。エネルギー・ビームなのか、レーザー・ビームなのかはわからないが。
なにビームかわからないこれは、ぼくが生きている限り何発でも撃てる。
女の絶叫にまけないよう、声を張り上げる。
「どうだ、これが本当の射撃だ。言っておくが、外したんじゃないぞ。すぐ死なれてもおもしろくないから、きっちり急所をはずしたんだ。おれがその気になれば、全員にこれを撃ち込める」
こいつらの支配下から一転、ぼくの支配下となったこの操舵室は、もはや地獄のるつぼ。
「ほら、ほら、撃つぞ!」
――バシュ、バシュ!
計器に当たらないように床や壁をねらい、傷をつけないよう出力をさげて連射する。
悲鳴をあげてにげまわるバカ者ども。狂乱の牢獄の化した操舵室。
そうだ、ここでは――
「どうだ、おれはいつでも、あんたらを撃てる。だれも逃げられやしねえ。ここの支配者は、このおれだ!」
射線を変えながら、撃つ、撃つ、撃つ。
何人分もの悲鳴、ひとが転げまわる室内。ビームが縦横無尽に飛びまくる。
これだ、これ――胸がすっきりする。気持ちがいい。この抵抗できない人間が、どうしようもなく強大なちからに潰されるところ、最高だ。逃げようにも逃げ出せない、ここはアリ地獄の底。
ぼくに撃たれて絶叫していた女が、ぎこちなく左手を右肩にかざした。
すこし光がでて……どさり、と指揮卓にへたりこんで静かになった。あれは回復魔法か、いいものを使えるな。
痛みがなくなったようだ。ただし戦意もなくしたらしい。
一撃うけただけでこれか。おそらく痛い思いをしたことがない。これまで不意打ちばかりしてきたか、じぶんより弱い相手とだけ戦ったのだろう。
悪いことじゃない。前者は戦術的に、後者は戦略的に高評価だ。じぶんが死なないように戦うのは、生きるための最善手なのだ。
だが、ぼくに出会ってしまった時点で、そのどちらも崩れてしまった。あんたは、もう生き延びられない。
ぼくは床に倒れた最大の罪人へ歩み寄る。
「いつまで寝てる、オイ!」
わき腹を蹴ってみる。かすかに、声をしぼり出した。頭をつかんで投げたせいか、怪我がやや重いようだ。いったん回復しよう。
「おーい回復魔法、やってくれ」
――バシュ!
ぼくは言いながら、指揮台にむけ1発撃つ。指揮席のあたりから、隠れている男の情けない叫びが聞こえた。
だが、女がこない。
「無視するな! はやく出て来い!」
――バシュ、バシュ!
さらに2発撃つと、ガタガタと音がして、指揮台から女がはい出てきた。ぼくは「船長」を指さし、その女に合図する。
女は這うようにして「船長」にたどりつき、立てないのか、すがるような体勢で両手をかざした。手からわずかに光がでて、「船長」は治療されていく。意外に時間がかかる。おもったより重傷なのか。
「う、うう……」
「船長」の声だ。痛みがとれてきたらしい。
女はしばらく治療していたが、やがて手をはなしてこちらを向いた。終わったようだ。
手を払うように振って、女をどかせる。
さて……
「立て」
ぼくは「船長」に言った。
しかし「船長」は身体を起こしたが、その場で座り込んで立ち上がろうとしない。やや荒い息をしつつ、下を向いている。
じぶんで起きれた。怪我は治っているはず。なのに、ぼくの言葉に従わない。
ぐらぐらと、怒りが湧き上がってくる。ぼくのいうことをきかない、どうしてだ、どうしてぼくの思い通りにならないんだ。
痛めつけよう。ぼくが感じた、怒りのぶんだけ。
ぼくは副操舵席に歩み寄った。もはや席から落ちて床にいるシステム技師が、尻もちをついたまま、ばたばたと後ろに下がろうとする。
ぼくはシステム技師に、片手をのばした。
「ナイフ」
システム技師はぎょっとした表情でぼくをみている。ナイフはいちおう、まだ手に持っている。はやくよこせよ。
「ナイフ!」
さらに手を突きだすと、彼はナイフをぼくに向けてきた。
「刃を向けるやつがあるか! 柄をこっちに向けろ!」
システム技師はあわててナイフを持ち直し、じぶんが刃を持って差し出してきた。
ぼくはそれを無造作に受け取る。彼は手を切ったようで、血がではじめた。歯をくいしばっている。
痛いかもしれないが、よく味わってくれ。あんたは人を切り裂こうとしたんだ。あいてがどんなに痛いか、その怪我で勉強するんだ。
向き直ると、「船長」はまだ床に座ったまま。もう怪我は治っているのに、まるでじぶんが弱者だとでもいわんばかりの態度。
てめえのそういうところが、気にいらねえ。
ぼくは「船長」の背後にまわり、しゃがみこむ。そのまま、背中の下のほうを狙って、刃を突き刺した。
「船長」が汚く叫び、横に倒れこもうとする。だからぼくは「船長」の肩を支える。倒れないように。倒れることは、ゆるさない。
そのまま、ナイフの刃を右へ。刃物は使い方をよく知らない。とりあえず力いっぱい、グッグッと横に挽いていく。
このくらいでいいか。
一気に引き抜いた。声帯を潰したような音声が、「船長」ののどから鳴る。支えていた手を離すと、床にばたりと倒れた。
だいじょうぶ、急所じゃない。まだ死なせない。
「回復だ、急いで」
そばに座り込んでいた女に、また回復させる。こいつなかなかいい腕をしている。この魔術師がいるおかげで、怪我をさせても治せるのだからありがたい。何度怪我をさせても大丈夫だ。
治療がおわり、痛みのなくなった「船長」は床に手をついて身を起こす。
ぼくはナイフを見せながら、言った。
「立てよ。またやられたいか」
「船長」は、ようやく、ふらふらしながら立ちあがった。
「誰が立てと言った!」
横っ面を殴る。そんなにちからは込めてない。
「船長」はおおげさに横に吹き飛んだ。あのうごきは、じぶんでやっている。まだ弱者を演じている。
「床、ひざをつけ。両手を床に、頭を上げるな!」
「船長」おずおずと、ぼくのことばに従う。
赤ん坊のハイハイとおなじ体勢。土下座をさせたいのだが、このあたりにそんな風習はない。「土下座」をだれも知らないから、せめて似たような姿勢をとらせておく。
みっともない姿勢をさらすパワハラ船長をみおろす。なかなか気分がいい。
よし、もうすこし遊ぼう。
ぼくは背筋をのばし、高らかに告げる。
「通告する。あなたは、本船の乗っ取りを企み、あまつさえ操舵システムの設定を許可なく変更した。その行為は本船に重大なる危険をまねくものであり、私は、船長としてそれを看過することはできない」
下を向いたままの彼の表情はみえない。
「だが、私は良識ある人間だ。もしあなたが私の言葉に従い、罪をつぐなうのであれば、これ以上いっさい傷つけないことを約束する。あなたに恩赦を与えるのだ。私に従えば、今回の件は不問とする。すべて、許す!」
「船長」はぱっと顔をあげた。すこしずつひろがる希望の表情……現金なやつだ。
ぼくは船長として、通告どおりにつぐないの機会を与える。
「まず、私の靴をなめろ」
まるで時間がとまったかよう。「船長」は目をひらいたまま、動かない。言っていることが、わからないようだ。
「はやくなめろ。そうすれば許す!」
ぼくは持ったままのナイフを振り上げる。
「船長」はドタドタと床にふせた。腹ばいになってぼくににじり寄り、顔を靴に近づける。
ぐっと湧き上がる不快感――
そのままぼくは、「船長」の顔面を蹴った。
悶絶する「船長」に、怒りをぶつける。
「きたない! おれの靴をなめるな!」
こいつの唾液など、想像だけでも虫唾がはしる。
こんな唾液、どこにも付着させたくない。
「おい、回復!」
魔術師に命じて、顔面を回復させる。
あまり強くは蹴らなかったから、回復はすぐ終わった。
「立て」
「船長」はすみやかに起立する。こいつぼくより背が高い。ぼくがすこし見上げる体勢になる。
イライラする――
「頭、さげろ!」
ものすごい勢いで頭をさげた。ハゲた後頭部が、よくみえる。
さて、船を乗っ取ろうとした罪、今度こそつぐなってもらおうか。
「ごめんなさい、と言え」
命じる。正式の謝罪のことばじゃない、あえての「ごめんなさい」。どうだ、屈辱だろう。
「ごめんなさい……」
情けない声。
いい大人、それも宇宙船長がこれだ。世も末だな。
「許してください、と言え。言えたら許す」
「許してください」
即答した。プライドもなにもない。こいつはもう、完全にぼくの支配下だ。
左の指を、拳銃の形に構える。「船長」の右耳を、擦過する射線。
――バシュ!
耳をかするビーム。情けない悲鳴をあげて床に倒れこむ「船長」。痛みに反応して声をあげたようだが、すぐ、ぼくを見あげた。まさしく、「どうして」という顔で。
「なんだ? 許すなんて言ってないぞ。てめえまだおれの前で生きてるつもりか」
ぼくは指を真上にあげた。
――ドカン!
閃光と、大音響。
発砲はしていない。指先から光と音をだすだけの、こけおどしだ。
だが、これをきいた全員が、叫び声をあげて転げ回った。急にこの大音響は驚くだろう、閃光のおまけつきだ。
尻を床についたままぼくをみあげる「船長」に、拳銃のかたちにした手を向ける。指先は、眉間狙い。
なにか抗議したそうに口をぱくぱくさせる「船長」。
「さっきの狙い、みただろう。きれいに耳の端だけかすめた、あれが偶然だとはおもわないよな」
口をあけたまま、体にちからが入らないか、「船長」はうごかない。
「てめえ、見てるだけで気色悪いんだよ。居ちゃいけない」
許されるといわれたのに、殺される。この理不尽、これがやりたかった。
「死ね」
指先に、ちからを――
「待って――!」
……だれだ、いまのは。女の声だった。
操舵室出入口、だれかいるな。気配でわかる、あたらしいやつだ。
「だれだ、発言は許可してないぞ。立ってていいとも言ってない。いまごろ来て、何するつもりだ。まわりを見てみろ、ここはおれの支配下だ」
「気配」は、指揮卓の向こう側を移動してくる。この状況で、止まらない。
――だれだ、この強いやつ。
「ははははは、そう、義勇団だよ、きみ。それと知って、どうするんだい」
システム技師は、座席から落ちそうなほどのけぞっている。
「うわあ情けねえな。さっきはおれに盾ついたくせに、義勇団と分かったとたんにそうなる? もうおせえよ、お前。義勇団に向かって銃を撃ったんだぞ」
痛めつけたいが、こいつは後だ。ここで傷つけると操舵席が汚れる。ほかに戦えそうなやつはいないか。そちらから処理する。
あたりを見渡す。
床に倒れた者、尻もちをついた者、席に座ったまま動けない者――
いや、ひとりだけ立っている。
正面やや上、指揮台の女だ。「TSL2198」に乗っていたおそらくは非合法の「乗客」。
魔力が強いな、魔術師か。能力は中程度。隣に男がいたはずだが、今は見えない。指揮台の下にでももぐりこんだか。
おそらく女は男の護衛役だ。引き締められたその表情、あれは「恐怖」じゃない。
こいつだけ、恐怖に染まってない。
……気に入らない。
ぼくは指で銃のかたちをつくった。
魔術師らしい女に向ける。……動じない。
――馬鹿め
ひとさし指にちからを込めて……
――バシュ!
女の服の肩に穴が開く。布地が飛び散った。
なにが起きたか理解できないようすだったが、ひと呼吸おいて、女は絶叫した。
赤い血を散らせて、姿勢をくずす。その苦悶の表情、この部屋の空気を震わす叫び声……ああ、ぞくぞくする。いい。すごくいい。
ぼくが銃を撃てないとでも? ばかにしないでくれ。
「生体防護フィールド」さえつかえるぼくだ、指からビームくらい出せる。エネルギー・ビームなのか、レーザー・ビームなのかはわからないが。
なにビームかわからないこれは、ぼくが生きている限り何発でも撃てる。
女の絶叫にまけないよう、声を張り上げる。
「どうだ、これが本当の射撃だ。言っておくが、外したんじゃないぞ。すぐ死なれてもおもしろくないから、きっちり急所をはずしたんだ。おれがその気になれば、全員にこれを撃ち込める」
こいつらの支配下から一転、ぼくの支配下となったこの操舵室は、もはや地獄のるつぼ。
「ほら、ほら、撃つぞ!」
――バシュ、バシュ!
計器に当たらないように床や壁をねらい、傷をつけないよう出力をさげて連射する。
悲鳴をあげてにげまわるバカ者ども。狂乱の牢獄の化した操舵室。
そうだ、ここでは――
「どうだ、おれはいつでも、あんたらを撃てる。だれも逃げられやしねえ。ここの支配者は、このおれだ!」
射線を変えながら、撃つ、撃つ、撃つ。
何人分もの悲鳴、ひとが転げまわる室内。ビームが縦横無尽に飛びまくる。
これだ、これ――胸がすっきりする。気持ちがいい。この抵抗できない人間が、どうしようもなく強大なちからに潰されるところ、最高だ。逃げようにも逃げ出せない、ここはアリ地獄の底。
ぼくに撃たれて絶叫していた女が、ぎこちなく左手を右肩にかざした。
すこし光がでて……どさり、と指揮卓にへたりこんで静かになった。あれは回復魔法か、いいものを使えるな。
痛みがなくなったようだ。ただし戦意もなくしたらしい。
一撃うけただけでこれか。おそらく痛い思いをしたことがない。これまで不意打ちばかりしてきたか、じぶんより弱い相手とだけ戦ったのだろう。
悪いことじゃない。前者は戦術的に、後者は戦略的に高評価だ。じぶんが死なないように戦うのは、生きるための最善手なのだ。
だが、ぼくに出会ってしまった時点で、そのどちらも崩れてしまった。あんたは、もう生き延びられない。
ぼくは床に倒れた最大の罪人へ歩み寄る。
「いつまで寝てる、オイ!」
わき腹を蹴ってみる。かすかに、声をしぼり出した。頭をつかんで投げたせいか、怪我がやや重いようだ。いったん回復しよう。
「おーい回復魔法、やってくれ」
――バシュ!
ぼくは言いながら、指揮台にむけ1発撃つ。指揮席のあたりから、隠れている男の情けない叫びが聞こえた。
だが、女がこない。
「無視するな! はやく出て来い!」
――バシュ、バシュ!
さらに2発撃つと、ガタガタと音がして、指揮台から女がはい出てきた。ぼくは「船長」を指さし、その女に合図する。
女は這うようにして「船長」にたどりつき、立てないのか、すがるような体勢で両手をかざした。手からわずかに光がでて、「船長」は治療されていく。意外に時間がかかる。おもったより重傷なのか。
「う、うう……」
「船長」の声だ。痛みがとれてきたらしい。
女はしばらく治療していたが、やがて手をはなしてこちらを向いた。終わったようだ。
手を払うように振って、女をどかせる。
さて……
「立て」
ぼくは「船長」に言った。
しかし「船長」は身体を起こしたが、その場で座り込んで立ち上がろうとしない。やや荒い息をしつつ、下を向いている。
じぶんで起きれた。怪我は治っているはず。なのに、ぼくの言葉に従わない。
ぐらぐらと、怒りが湧き上がってくる。ぼくのいうことをきかない、どうしてだ、どうしてぼくの思い通りにならないんだ。
痛めつけよう。ぼくが感じた、怒りのぶんだけ。
ぼくは副操舵席に歩み寄った。もはや席から落ちて床にいるシステム技師が、尻もちをついたまま、ばたばたと後ろに下がろうとする。
ぼくはシステム技師に、片手をのばした。
「ナイフ」
システム技師はぎょっとした表情でぼくをみている。ナイフはいちおう、まだ手に持っている。はやくよこせよ。
「ナイフ!」
さらに手を突きだすと、彼はナイフをぼくに向けてきた。
「刃を向けるやつがあるか! 柄をこっちに向けろ!」
システム技師はあわててナイフを持ち直し、じぶんが刃を持って差し出してきた。
ぼくはそれを無造作に受け取る。彼は手を切ったようで、血がではじめた。歯をくいしばっている。
痛いかもしれないが、よく味わってくれ。あんたは人を切り裂こうとしたんだ。あいてがどんなに痛いか、その怪我で勉強するんだ。
向き直ると、「船長」はまだ床に座ったまま。もう怪我は治っているのに、まるでじぶんが弱者だとでもいわんばかりの態度。
てめえのそういうところが、気にいらねえ。
ぼくは「船長」の背後にまわり、しゃがみこむ。そのまま、背中の下のほうを狙って、刃を突き刺した。
「船長」が汚く叫び、横に倒れこもうとする。だからぼくは「船長」の肩を支える。倒れないように。倒れることは、ゆるさない。
そのまま、ナイフの刃を右へ。刃物は使い方をよく知らない。とりあえず力いっぱい、グッグッと横に挽いていく。
このくらいでいいか。
一気に引き抜いた。声帯を潰したような音声が、「船長」ののどから鳴る。支えていた手を離すと、床にばたりと倒れた。
だいじょうぶ、急所じゃない。まだ死なせない。
「回復だ、急いで」
そばに座り込んでいた女に、また回復させる。こいつなかなかいい腕をしている。この魔術師がいるおかげで、怪我をさせても治せるのだからありがたい。何度怪我をさせても大丈夫だ。
治療がおわり、痛みのなくなった「船長」は床に手をついて身を起こす。
ぼくはナイフを見せながら、言った。
「立てよ。またやられたいか」
「船長」は、ようやく、ふらふらしながら立ちあがった。
「誰が立てと言った!」
横っ面を殴る。そんなにちからは込めてない。
「船長」はおおげさに横に吹き飛んだ。あのうごきは、じぶんでやっている。まだ弱者を演じている。
「床、ひざをつけ。両手を床に、頭を上げるな!」
「船長」おずおずと、ぼくのことばに従う。
赤ん坊のハイハイとおなじ体勢。土下座をさせたいのだが、このあたりにそんな風習はない。「土下座」をだれも知らないから、せめて似たような姿勢をとらせておく。
みっともない姿勢をさらすパワハラ船長をみおろす。なかなか気分がいい。
よし、もうすこし遊ぼう。
ぼくは背筋をのばし、高らかに告げる。
「通告する。あなたは、本船の乗っ取りを企み、あまつさえ操舵システムの設定を許可なく変更した。その行為は本船に重大なる危険をまねくものであり、私は、船長としてそれを看過することはできない」
下を向いたままの彼の表情はみえない。
「だが、私は良識ある人間だ。もしあなたが私の言葉に従い、罪をつぐなうのであれば、これ以上いっさい傷つけないことを約束する。あなたに恩赦を与えるのだ。私に従えば、今回の件は不問とする。すべて、許す!」
「船長」はぱっと顔をあげた。すこしずつひろがる希望の表情……現金なやつだ。
ぼくは船長として、通告どおりにつぐないの機会を与える。
「まず、私の靴をなめろ」
まるで時間がとまったかよう。「船長」は目をひらいたまま、動かない。言っていることが、わからないようだ。
「はやくなめろ。そうすれば許す!」
ぼくは持ったままのナイフを振り上げる。
「船長」はドタドタと床にふせた。腹ばいになってぼくににじり寄り、顔を靴に近づける。
ぐっと湧き上がる不快感――
そのままぼくは、「船長」の顔面を蹴った。
悶絶する「船長」に、怒りをぶつける。
「きたない! おれの靴をなめるな!」
こいつの唾液など、想像だけでも虫唾がはしる。
こんな唾液、どこにも付着させたくない。
「おい、回復!」
魔術師に命じて、顔面を回復させる。
あまり強くは蹴らなかったから、回復はすぐ終わった。
「立て」
「船長」はすみやかに起立する。こいつぼくより背が高い。ぼくがすこし見上げる体勢になる。
イライラする――
「頭、さげろ!」
ものすごい勢いで頭をさげた。ハゲた後頭部が、よくみえる。
さて、船を乗っ取ろうとした罪、今度こそつぐなってもらおうか。
「ごめんなさい、と言え」
命じる。正式の謝罪のことばじゃない、あえての「ごめんなさい」。どうだ、屈辱だろう。
「ごめんなさい……」
情けない声。
いい大人、それも宇宙船長がこれだ。世も末だな。
「許してください、と言え。言えたら許す」
「許してください」
即答した。プライドもなにもない。こいつはもう、完全にぼくの支配下だ。
左の指を、拳銃の形に構える。「船長」の右耳を、擦過する射線。
――バシュ!
耳をかするビーム。情けない悲鳴をあげて床に倒れこむ「船長」。痛みに反応して声をあげたようだが、すぐ、ぼくを見あげた。まさしく、「どうして」という顔で。
「なんだ? 許すなんて言ってないぞ。てめえまだおれの前で生きてるつもりか」
ぼくは指を真上にあげた。
――ドカン!
閃光と、大音響。
発砲はしていない。指先から光と音をだすだけの、こけおどしだ。
だが、これをきいた全員が、叫び声をあげて転げ回った。急にこの大音響は驚くだろう、閃光のおまけつきだ。
尻を床についたままぼくをみあげる「船長」に、拳銃のかたちにした手を向ける。指先は、眉間狙い。
なにか抗議したそうに口をぱくぱくさせる「船長」。
「さっきの狙い、みただろう。きれいに耳の端だけかすめた、あれが偶然だとはおもわないよな」
口をあけたまま、体にちからが入らないか、「船長」はうごかない。
「てめえ、見てるだけで気色悪いんだよ。居ちゃいけない」
許されるといわれたのに、殺される。この理不尽、これがやりたかった。
「死ね」
指先に、ちからを――
「待って――!」
……だれだ、いまのは。女の声だった。
操舵室出入口、だれかいるな。気配でわかる、あたらしいやつだ。
「だれだ、発言は許可してないぞ。立ってていいとも言ってない。いまごろ来て、何するつもりだ。まわりを見てみろ、ここはおれの支配下だ」
「気配」は、指揮卓の向こう側を移動してくる。この状況で、止まらない。
――だれだ、この強いやつ。
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