宇宙航路は遥かにて(β版)

星川わたる

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第22話 副操舵席配員

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 立ち直った彼女の指揮で、「乗客」の魔術師の協力のもと、負傷者の治療が行われた。

 乗っ取り犯たちはもはやだれもぼくに逆らわないので、各自に役割を与えて、はたらいてもらう。
 前甲板エアロックに置いてきた2人が負傷しているらしいので、魔術師をそちらに向かわせた。船内見取り図を持たせた船員をひとり、案内役としてつけさせた。
 操舵室の床の清掃も進めさせる。ぼくが血を流させたので、だいぶ汚れていた。後にしてもいいのだが、血だらけの床を背にして操舵するのはあまり気持ちよくない。

 どこかへ行っていた85Kが、操舵室に戻ってきた。手には船乗りの制服がひとそろい。

「シャワー、あびてきて。よごれ、きっちり落として」

 はい行きます、きっちり落とします。

「着替えも持ってきたから。これでいいでしょ」

 着替え……?
 ぼくの? あの、それどこから――

「あなた、部屋きたない。予想はしてたけど、もう、あきれる」

 えええ! ぼくの部屋! しまったいつもひとりだから、ドアに鍵をかけてない。
 入られた? そりゃあ入られたよな。どこまで、どこまで見られた? 表面がみえないほど埋まった机、グッシャグッシャのシーツ、飲みかけのジュースのボトル5~6本、ちょっとカビ生えてクローゼットに封印した私服、その他全部?

・・・・・・

 彼女にうながされるままに浴室へ向かい、入らされた。
 ぼくは必死でシャワーをあびる。脱衣所のまえでは、彼女が刑務官のように立っているはずだ。

 い、いいか、これで……。身体じゅう、どこにも血は残ってない。爪のあいだも、きっちり見た。大丈夫、これで大丈夫……。
 浴室をそっと出たが――脱衣所に、着替えがない。もともと着ていた服もない。持っていかれた……。

 もう驚かない。着ていた服全部、彼女に持っていかれたんだ。
 ああ、情けないなあ……あのひと、こんなぼくをみたら何と思うだろう。

 ドアの向こうに人の気配がして、そのままドアノブが回った。ちょっとまって、まさかこのまま開ける――?
 ドアはわずかに開いて、とまった。

「おわった?」

 彼女の声に、びくりとする。

「お、終わった。大丈夫、ほんとにきれいに洗ったから……」

 だから、「確認」とか言ってそこ開けないでよ。一生のお願いだから。ぼくなんて、女の子に堂々と見せられる身体してないから。全裸で縮こまるぼくは、ただの情けない男だから。

「はい、それじゃあ――」

 ドアがすこしひらく。だめだ、それだけは、それだけは――!

 ……ドアのすきまから、ぼくの着替えが差し入れられた。

「ちゃんと着て、出てきて。見た目くらい、しゃっきりして」

 すこし開いたドアから、着替えを受け取る。ここで思いっきり開けられたら、ぼくはおしまいだ。

 ……ドアは静かに閉まった。ぼくの命はつながった。

 すこしほっとして、服を着る。ちゃんと下着も用意されている。本当に何から何まで、ぜんぶ持ってきたらしい。

 ……服、すこしあたたかい。

 彼女、これを抱えていたのだろうか。
 これ、あのひとの体温か……

 服を着終えると、全身を彼女の体温らしきものにつつまれ、居てもたってもいられなくなった。
 逃げようにも、この服は身体についてくる。このあたたかさにつつまれたまま、どこにも逃げられない。
 ほのかなぬくもりに、胸の奥がこれ以上なくくすぐられて……

 なぜかすこし、せつない感じもして――

「……」

・・・・・・

 彼女に言われたとおり、しゃっきりと見た目を整えたぼくは、待っていてくれた彼女といっしょに操舵室へ戻った。

 「TSL2198」元乗組員にして本船乗っ取り犯9名は、やらせていた作業を終わらせたあと、ぼくの権限において全員拘束した。
 いじられた操舵システムはバックアップから復元中で、自動で作業が行われている。

 彼らを空き部屋に閉じ込め、また操舵室に戻る通路の途中で、ぼくは85Kに自分が義勇団の脱走員であることを伝えた。
 驚くべきことに、彼女はべつに変わった反応はしなかった。ただ、1点だけは反論した。

「『7ST-7037』は偽名じゃないでしょ。義勇団をぬけて、やっと自由をつかんだあなたの、ちゃんとしたなまえ。わたしは、そっちがいまの本名だと思うよ」

 ……本名、か。

 ほんとうは、ね。どっちも本名じゃないんだ。
 ぼくの本当のなまえは、ふるさとの星でつけられた名は――

「たいへんだったんだね、あなたが義勇団員だったなんて。あんな無差別に人を襲う組織のなかで、よくこころが持ったと思う」

「……」

「あなたが理性を失っているときは、たしかに義勇団員らしいと思うよ。あれは、そのための『機能』なんだね」

「いや、生体防護フィールドとか、指でビーム出すのとかは、実は元からあった能力なんだよ。義勇団では強化訓練を――」

 彼女は指をぼくの唇に近づけ、ことばを切らせた。

「そうじゃなくて、あの、人を人とも思わないような、凶暴さ。あれはほんとうに人を痛めつけたいんじゃないんだね。義勇団員としてはたらくとき、じぶんのこころを守るために――」

 ――?

 ぼくがぼくのこころを、守る……?

「痛いとか、苦しいとか、こわいとか――それを真正面から受けたら、あなたはたぶんもたない。だから、そういうもので快感かなにかを感じるようにして、ごまかしてる。それが、あなたが義勇団員であるための『機能』――」

 ――何を言っているのかよくわからない。

 でも……「それは違うよ」と、断言することもできない。たしかに痛いのはすごく苦手で、でも理性を失っているときはそれが気持ちよくて――

「――もうあなたは義勇団員じゃない。ただのひとりの男の子。だからもう、やさしいだけでいいんだよ」

「……」

「あなたも人並みのしあわせくらい、手に入れていい」

 人並みの、しあわせ……

 できれば――できればそれを、故郷の星で手に入れたかった。

 もうぼくの手には入らないと思っていたけど――

 ここで、手に入れてもいいのかな……

・・・・・・

 操舵室に帰ってきた。

 ぼくは普段どおり、左の主操舵席へ。85Kは、航海士資格を持っていて、本人も希望したことから、「応急乗組員」として右の副操舵席についた。この船は、いまからはじめて2人で操船する。

 システムの復元にもうすこしかかるので、それまでに必要事項を話し合う。
 彼女はまず、義勇団なる組織について聞いてきた。

「義勇団って……つまりなに?」

 バカげた発言に聞こえるが、これはよく的をえた質問だ。

「しらない」

 そしてこれも、正確な回答だ。

 義勇団なる組織について、知るかぎりのことを話していく。

 「義勇団」――まず、その名称の由来が不明である。何に対する「義」なのか、まったくわからない。ただ昔から、そう自称しているだけだ。

 いちおう、大昔の戦争で同名の組織が活躍したそうだが、関連性は不明である。その戦争自体、もう千年ほど前だそうだ。

 いま存在する義勇団は、行動目的がわからない。軍隊も、民間人も、無差別に襲う。
 なぜ襲うのか、わからない。いちおう「作戦計画」があって、そのとおりに戦っているが、その内容は無秩序。どこの研究機関がしらべても、何を目的に戦っているのか解明できない。戦っている団員たちでさえ、何のために戦っているのかわかっていない。
 しかもその作戦計画は、どこから送信されているのかわからない。「船団司令部」なる部署の電子署名があるが、その司令部について知る者はだれもいない。

 団員は、どこのだれか分からない者からの命令に従い、なぜ行うかわからない作戦に従事する。団内での人命軽視はすさまじく、新規団員の6割は「不適格」とされ「臓器提供用生体」として保管される。重傷者が出た時に臓器を移植するためにとっておく、部品取り機材みたいなものだ。
 また、不適格とされなかった4割のうち、全体の3割ほどは訓練中に事故死する。
 なお、その「新規団員」はいつも手近な星からさらってくるからいくらでもいる。まれにクローン人間も製造されるらしい。

 宇宙船内部では、私的な会話はない。操舵室では操舵号令が淡々と続き、それ以外の部署でも必要な伝達事項以外は会話しない。他人の顔をしっかり見ることも、あまりない。

 そして義勇団の出現場所は、全宇宙。どこからでも湧いてくる。

「団員だったあなたでも、わからないんだね」

「ほんとそう。戦いって、目的があって、それを満たすためにするはずなのに。義勇団の戦いはすごく強いけど、目的らしいものがないんだ。誰が命令しているのかもわからない。作戦計画も最低限の内容しか書いてないし……」

 簡潔にいえば、目的不明の無差別暴力集団である。
 自分で言っていてもあきれる。だれかの頭の中の妄想レベルだ。

 でも、妄想とちがうところがある。
 ちゃんと、現実のカネをもっているのだ。

 義勇団の装備は充実している。船も装備品も、それに補給物資も。船体の整備施設だって持っている。団員たちの食費だけでもとんでもない金額になるはずなのに、そのカネはいったいどこからくるのだろう。
 だれかが、強力に資金提供しているとしか思えないが……いったいだれに、それが可能なのか。

「……ねえ、あなたって、どんなところにいたの? 所属? とか」

 ぼくの所属部隊か。あっちこっち飛ばされまくってたな。

「いろいろ、かな。おれは『異能持ち』といわれていて、ほかの団員とはまったくちがったから。あ、そうそう、義勇団員っていっても人間だからね。ふつう、指からビーム出たりしないから」

 そういうのは「異能持ち」しかできないことだ。

 「異能持ち」はとても希少な存在とされ、ぼく自身ほかの「異能持ち」と会ったことはない。
 そして貴重な戦力ゆえ、ほかの団員よりいい扱いをうけた。
 ふつうの団員は命をすりつぶしてもいいとされ、実際からだかこころを壊して「廃棄」されるものが多い。だが「異能持ち」は替えがきかないので、大切に扱われる。

 ぼくの得意分野は射撃で、指でそのまま銃撃ができ、戦艦主砲クラスの大型砲を片手で持って発射できる。この場合、所属としては「戦闘隊」のなかの「射撃隊」にあたる。
 また、若干のテレポート能力もあり、船なしでも恒星間航行ができる。専用装備をつければ、10日間ほどの偵察行動や奇襲攻撃もできる。これも「戦闘隊」だが、「偵察隊」か「特務隊」となる。
 また空間認識力も高く、機械や計器の助けがなくとも宇宙空間を自由に動ける。宇宙船を、計器を見ずに操縦できたりするのだ。だから航海士として、船の操船にまわされることも時々あった。
 でもはやはり、いちばん多かったのは「戦闘隊」だろう。

「『戦闘隊』……軍隊なんかがつかう、生身で戦う人たち?」

「そう。戦闘用の船外活動具を背負って飛び回る、近距離戦の主力だね」

 それは救命具よりもずっと高性能な船外活動具をつけ、武器を持って近接格闘戦を行う部隊。船外活動具は背負い式だから、実質生身で戦っている。

「――だけど、おれは近距離戦じゃなくて、長距離砲撃がメインだった。格闘戦できないから。砲撃なら、適切な装備さえあれば、戦艦を向こうの射程外から撃てたよ」

 ……なかなかひどいものだ。人殺しのために生まれたかのよう。

「へえ。なんだか信じられないな」
「だろうね。こんなのもう人間じゃないよ。じぶんでもあきれ――」

「ん、そうじゃない」

 彼女が発言をさえぎってきた。

「そうじゃなくて、いまわたしの前にいるあなたが――いっしょにいるとふつうの男の子にしかみえないあなたに、そんなことができるなんて。信じられない」

 見た目じゃわからないよ。だってぼくはほんとうに――

「……」

 いや――ちょっとまって。
 このひと、ぼくよりちょっと年下、だろう? それなのに――

「あの……すこし年上の男性に対して、『男の子』って言う?」
「うん」

 即答を頂いた。

「あなた、船乗りとしてはとっても頼もしいんだけど、ふだんはなんだか『男の子』なんだよね。いっしょにいてみて、そう思う」

「どこが? 立派に自立した大人の男性だと思うんだけど」
「部屋とか――」

 いやそれは、ほら、ふだん見えないところだからノーカウントで……

「それと、しぐさ。袖やズボンでよごれを拭うのが、立派な大人?」

 ……くせ、というのは、おそろしい。この歳になっても、思わずそうしてしまう。
 彼女は渋い顔をするぼくを見てくすくす笑った。

「いいんだよ、男の子でも。船の外でだけ大人でいてくれれば、あとは思いっきり男の子でいてよ」

 それは、けなされてるのか、そのままの意味なのか。
 ……彼女の目をみるかぎり、どうやら後者らしい。

――ピ、ピ、ピ

 システムの通知音が鳴った。
 操舵システムの復元が完了した。

・・・・・・

 操舵システムは復旧したが、まだ話し合うことがあるので、出航を遅らせる。

 まず敵側戦力と、その配置。そして、本船のとるべき航路。さらにもうひとつ、重大な疑問点がある。

「襲われたとき、相手は何隻だった? 船のおおまかな大きさは?」

「2隻だった。目立った差はなかったから、同型だと思う。大きさは……軍隊でいう巡洋艦、くらい?」

 巡洋艦……軽巡か重巡かでだいぶ大きさが違うが、大きな船であることに間違いはないな。
 それに遭難船にあったビームの擦過痕……すでに目の前の遭難船は恒星からの熱で崩壊しているが、あの痕跡は義勇団2級戦闘船の主砲にみえる。あれは重巡洋艦なみの大きさだから、彼女のことばとも一致する。2隻もいたのか。

「かなり強力な船を使ったな。それも2隻……ただごとじゃない。常軌を逸してるよ」

「それはどうして?」

「今回使われたのはおそらく2級戦闘船。こいつはそうとう強力な船で、戦艦なんかとも撃ちあう船だ。民間貨物船1隻のために動員するものじゃない。すごい砲撃だったろう」

 2級戦闘船の主砲は、直撃すれば戦艦の装甲を撃ち破る。もし当たっていたら、このひとは跡形もなかったはず。

「うん、ものすごかった。なんとか避けてたけど、すこしかすって、船体に主星の熱が入りはじめて……船体が熱で崩壊する前にこの星の陰に入れたのは、すごく運がよかった。それと、あなたが助けにきてくれたのも」

 船に関しては、きみの操船がよかったからだと思うけどなあ。

「通信機も壊れちゃってたのに、あなたは……あ、ごめん、話それちゃった。あいての戦闘力が大きすぎるって、言ってたよね」

 そうだった。
 襲ってきたのは2級戦闘船、明らかな過剰戦力。

「そうなんだよ。本来は、ちいさな5級戦闘船でじゅうぶんなんだ。あれは攻撃力が低いけどスピードが出るし、きみの船を破壊するだけなら……あれ?」

 とんでもない疑問点に思い当たってしまった。
 彼女はあえて発言せず、ぼくの言葉を待っている。

「この星系、高速船じゃないと航行できないはずだ。普通船だと推力が足らなくて、すこしずつ主星に引かれて出られなくなる。テレポートも効かない。2級戦闘船は普通船だから、いちどここに進入したら戻れない。主星に沈むしかない」

 貴重な戦力である2級戦闘船を、それも2隻、喪失確定の状態で投入してきたのか。

 彼女はすこし顎に指をあててつぶやきはじめた。

「普通船くらいの推力だとすると……機関を回していればまだ沈んではいないけど、ここからはだいぶ離れているはず。推力は足らない……戻ってくる心配は、ない」

 うん。たぶん、そんな感じだろう。
 2隻とも、すでに脅威ではない。いまわかる範囲では、敵側戦力は事実上なし、航路は自由にえらべる。

 彼女はまだなにかつぶやいている。

「とるべき航路は……この不安定な海域で、船単独でのテレポートは危険すぎる……2つある転移クリスタルの、どちらかへ……所要時間からみて、このGSL209が出てきた側がいい」

 ――引き返せ、ということか。
 積み荷が届けられなくなるが、どうする。

 ……このひと、ほんとうに優秀そうだ。
 いまも、頭のなかではさまざまな要素と数字が飛び交っているのだろう。わりと適当に処理するぼくより、信頼性は高いかもしれない。

「星を出た後の針路は――」
「85K、ちょっとまって」

 彼女は顎から手を離してこちらを見てから、急に目を伏せた。

「あ、ごめん、わたし……自分ばっかり考えて――」

 それはいい、それでいいんだ。

「そうじゃなくて、さ。その航路計算はあとで頼みたい。それより、もっと重大なことを先に」

 彼女は、ゆっくり伏せた視線をぼくのほうに戻す。

「重大なこと?」

「そう。敵の追加戦力と、きみたちが狙われた理由」

 彼女は険しい表情になったが、発言しない。ぼくのことばを待っている。

「2級戦闘船を2隻、わざと失うほどの強行作戦をやったわけだ。さすがになにか重大な目的があったはず。しかもきみの船を沈められなかったから、作戦は失敗してる。このまま放置するとは思えない。追加の戦力が、たぶん来る」

「『狙われた理由』を、さきに聞いたほうがいい?」

 そうだな、敵戦力はまだ探知すらできていないから、推測もできないし。
 ぼくが思う「狙われた理由」は――

「きみの船の『乗客』、あれが原因だと思う。女のほうは護衛役っぽいから、たぶん男だな、問題は」

「義勇団は――過剰な戦力を使ってでも、その人を『消したい』、ということ?」

「『消したい』――そうだな、文字通り、消したかったんだろう。船ごと」

 2級戦闘船の主砲での射撃……直撃すれば、船は完全に消滅していた。「破壊」だけじゃ満足できない、「消滅」させなければならないものがあるんだ。

「あいつ、調べよう。おそらくあいつの頭の中か、所持品になにかある。義勇団が『消滅』させたいなにかが」

 すこし強硬でもかまわない。その「なにか」をはっきりさせなければ。

「おれが行ってくる。きみはここで探知装置を使って外部の監視を。敵がいつ来るかわからない。異常があったら船内放送で伝えて。それと……」

 すこし言葉がとまる。このぼくの船、他人にいじらせるのは我慢ならない。

「……」

 でも――

「……それと、余裕があれば、この先の航路算定も頼みたい。きみがいちばんいいと思う航路でいい。各システムの操作はすべて許可する」

 すでに操舵席に座らせているんだ、「応急乗組員」扱いで。たとえいまだけだとしても、このひとは本船の乗組員。それも、たぶん優秀な航海士。
 ぼくの船を、彼女の手にゆだねてもいい。

「え、あの、でもわたしは――」

「はじめてこの副操舵席に座った名誉ある航海士だ。航路算定くらい、丸投げして大丈夫だろう。……いけそう?」

 彼女は引き締まった笑顔で、うなづいた。
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