とあるJKの青春日記

きとまるまる

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⑦「身長」

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・登場人物

 真神まがみ セナ:♀ 一年B組。

 三船 愛子みふね あいこ:♀ 一年B組。

 根津 由香里ねづ ゆかり:♀ 一年B組。



ーーーーー



 とある高校の体育館。中では体育の授業が行われており、女子はバレーボールを行なっている。


根津「くるぞ、三船みふね!」

三船「えぇぇ!? わ、私ぃ!? え、え、えーーー」


 三船があわあわとしている間に、相手コートから強烈なスパイクが叩き込まれる。ボールは力強く、真っ直ぐ三船の顔面へと吸い込まれていく。


三船「へぶしぃっ!?」

真神「あ。」

根津「三船ぇぇぇ! 大丈夫かぁぁぁ!?」

真神「愛子あいこちゃん、大丈夫~?」

三船「な、なんとか...。」

根津「それはよかった! しかし三船、スパイクは顔で受けるよりも、手でこう...バシッと受け止めた方がいいぞ! その方が怪我もしないし、次に繋げられるからな! 顔面で受けると、ボールがどこに飛んでいくかわからないからな!!」

三船「で、できるならそうしてるよ...根津ねづさん...。」

根津「今度、私が教えてやろうか!? この、バレー部の私が! 安心しろ! 教えるのには自信がある!! 多分!!」

三船「お、お時間があえば...ぜひ...。」

真神「愛子ちゃん、休んでる~?」

三船「う、うん...端っこで待機してます...。」

真神「うん~。」

根津「安心しろ、三船! お前のかたきは、私たちがとってやる! みんな、いくぞーー!!」

真神「お~~。」

三船「げ、元気だなぁ...。」


 三船は顔をさすりながらコートを出ると、壁際まで移動し、ゆっくりと腰を下ろす。


三船「あいたたた...やっぱり運動は苦手だなぁ...。できるみんなが羨ましいよ...。」


三船(M)私は、三船 愛子みふね あいこ。ご覧の通り、運動することが苦手な女の子です。身長が148センチと小さめなので、今やってるバレー、バスケなどが特に苦手です。


三船(あーあ、私も身長高かったら、かっこよくスパイクできるのになぁ...。)


 三船は羨ましそうに、試合が行われているコートを見つめる。相手コートから、またも強烈なスパイクが叩き込まれるが、根津は物おじすることなくボールへと飛びつき、レシーブする。


三船(うわぁ...根津さん、よくあのボール取れるなぁ...。ってか、怖くないのかなぁ?)


三船(M)彼女は、根津 由香里ねづ ゆかりさん。身長は私より少し大きい、153センチ...だったかな? 彼女も小柄だけど、私と違ってすごく動ける。そして、少し熱い女の子。


根津「おっしゃぁぁ! いけぇ、真神まがみぃぃ!!」

真神「よ~い...しょっと。」


 ゆるい言葉からは想像できないほど、力強いスパイクが相手のコート内へと叩きつけられる。


三船(うわぁ...強烈...。私、セナちゃんの相手チームじゃなくてよかった...。あんなのに当たったら死んじゃうよ...。)

真神「よ~し。やった~。」

根津「さすが真神だぁぁぁ! お前は最高だぁぁぁ!」

真神「えへへ~。」


三船(M)彼女は、真神まがみ セナ。身長は、なんと184センチ。めちゃデカい。少しふわふわしてるというか、根津さんとは逆でのんびりしてる女の子。184センチの彼女と148センチの私が並ぶと...もうなんか、大人と子どもというか...。

三船(M)私は、身長小さいのを気にしているので、できることならあまり彼女に近づきたくないのだが...それは、できない相談である。なぜかというと...。


真神「愛子ちゃ~ん。」

三船「ん? どうしたの?」

真神「アタック決めたから、ハイタッチしにきた~。」


 真神は膝を曲げ、ニコニコしながら三船にむけて両手をだす。三船も、ニコッと微笑み返し「いぇ~い!」と、二人で楽しそうに、差し出された手にタッチする。


三船(M)私、三船 愛子と真神 セナは...とても仲良しな友達だからだ。



ーーー



 お昼休みの時間となり、二人は屋上で昼食を食べている。真神は口を大きく開き、残りわずかとなった焼きそばパンを、パクリと一気に頬張る。数秒モグモグと咀嚼し、胃の中へと流し込む。両手を合わせ、丁寧に昼食の終わりを告げると、ふと空を見上げる。雲一つない青空、心地よい風ーーー真神は思わず、ニコリと微笑む。


真神「いや~屋上でご飯が食べられるって、いいね~。」

三船「ね。中学の時は屋上入れなかったら、屋上でお昼食べるのに憧れてたんだよね。」

真神「わかる~。私のところも、屋上ダメだった~。あっ、そうだ。愛子ちゃん~。」

三船「ん? なに?」

真神「いつもの、いい~?」

三船「あー...ちょ、ちょっとだけね。」

真神「わ~い。じゃあ...。」


 真神は満面の笑みを浮かべながら、三船の背後へと移動する。スッとその場に腰を落とすと、三船の頭を優しく撫で始める。


三船「セ、セナちゃん、前から思ってたんだけど...私の頭撫でて、楽しい?」

真神「癒される~。よ~しよし~。」

三船「そ、それならよかった?」

真神「よしよ~し。あ~。ん~。愛子ちゃん、可愛いなぁ~。」


三船(M)頭を撫でられるのは、あまり好きではない。小さい子扱いされてるみたいだから。でも、なんか...。


真神「あ~可愛い~。ん~可愛いぃ~。」

三船(セナちゃんは、純粋に可愛がってくれてるんだろうな...。だから、嫌とは言えない...。それに...。)


 小さなお弁当箱から視線を外し、頭を撫でている真神を見つめる。満面の笑みで、幸せそうに頭を撫で続けている。


真神「愛子ちゃん、すごく可愛い~。えへへ~可愛いぃ~。」


三船(M)この、セナちゃんの幸せそうな顔を見るのは、嫌いではないからだ。


真神「あ~私も、愛子ちゃんみたいに可愛くなりたい~。身長、小さくなりたいなぁ~。」

三船「それなら私も、セナちゃんみたいに大きくなりたいなぁ。」

真神「ダメだよ~! 愛子ちゃんは、そのままがとっても可愛くていいの~! それに、大きくなったって、いいことなにもないよ~?」

三船「大きくなったら、高いところに手が届く! めちゃくちゃいいことだよ!」

真神「そうかな~?」

三船「それに、高ければ高いほど、いろ~んな景色が見えるでしょ? だから、私は身長高くなりたいの~!」

真神「じゃあ、交換する~?」

三船「あはは、出来るならしてみたいね!」

根津「あっ、いたぁぁぁ!! 見つけたぞぉぉぉ!!」

真神・三船「ん?」


 コンビニ袋を持った根津が、ドシドシと勢いよく近づいてくる。


根津「真神ぃ! こんなところにいたんだなぁ! 探したぞぉ!」

真神「あ、由香里ゆかりちゃんだ~。」

三船「根津さんも、屋上でお昼?」

根津「私は、真神を探していた! しかし、昼だから腹も減った! 飯もここで食べよう! 一緒に食べてもいいか!?」

三船「うん。」

真神「どうぞ~。」

根津「では、お言葉に甘えて! お邪魔します!」


 根津は、ドンっと勢いよく腰を下ろしあぐらをかく。袋からコロッケパンを取り出すと、大きく口を開け、ガブリと齧る。


真神「ねぇ、由香里ちゃん。」

根津「ん!? なんだ、真神!?」

真神「私を探してたって、何か用~?」

根津「あっ、そうだ! 真神、我がバレー部に入部しないか!? 私と一緒に、青春の汗を流そう!」

真神「何度言われても、嫌~。」

根津「なぜだぁぁぁぁ!? 私とは一緒に、青春の汗を流したくはないということかぁぁぁ!?」

三船「あははは...毎度毎度、根津さんは粘るね。」

根津「当然だ! 真神は、身長高くてバレーも上手くて、帰宅部にいるのはもったいない! あっ、三船も帰宅部だよな!? どうだ!? 私と一緒に、青春の汗を流さないか!?」

三船「あ、いや...体育の私を見ていただけたらわかるように、私は運動苦手だから...。」

根津「誰しも最初は下手くそだから、心配するな! 最初から上手いやつなんていないぞ! 努力でどうにでもなるぞ!」

三船「え、えっと...私は身長が低いから、バレーはーーー」

根津「身長低くても、バレーはできるぞ! 高い方がいいかもしれないが....私を見ろ! 私だってすごく小さい方だけど、中学ではレギュラーで全国大会に出てたぞ! 身長なんて関係ない! どうにでもなる! わはははは~!!」

三船「そ、そうだね...あははは...。」

真神「ん~愛子ちゃんが入部するなら、私も入ろうかな~?」

三船「え?」

根津「なにぃぃ!? それは本当か!? 真神ぃ!」

真神「うん~。愛子ちゃんがいるなら、やる~。」

三船「えぇぇぇ!? ちょっ、セナちゃん! そんなこと言ったらーーー」

根津「三船 愛子ぉぉ!」

三船「ひぃ!?」

根津「部活はいいぞ! バレーはいいぞ!! すごくすごく熱くなれる!! どうだ!? まずは、体験からでもいいぞ! 早速、今日体験にーーー」

三船「え、遠慮しておきますぅぅぅ!」

根津「あっ!? 待て、三船 愛子! 私は、初心者にも優しく丁寧に教えるぞぉぉぉぉ!!」


三船(M)その日...放課後になるまで、勧誘は続くのであった...。



ーーー



三船「あぁ...つ、疲れた...。」


 放課後の帰り道。ようやく根津の熱々しい勧誘から逃れた三船は、大きなため息を吐きながら、とぼとぼと歩いている。


真神「あはは~お昼後も、ずっとつきまとわれてたね~。」

三船「もぉ~セナちゃんがあんなこと言うからだよ~!」

真神「でもでも、愛子ちゃんと一緒だったら入るってのは、本当だよ~。私、バレー好きだし~。」

三船「え、そうなの? じゃあ、なんで入部しないの? あんなに歓迎してくれてるのに。根津さんも言ってたけど、セナちゃんは身長高くて動けるし、入部したら大活躍できるって!」

真神「......。」

三船「セナちゃん、どうしたの?」

真神「...身長、高いから嫌なの。」


 立ち止まり、ボソリと呟く。真神は悲しそうな顔をしながら、二人を横切って歩いていった人の背中を見つめる。


真神「愛子ちゃん、さっきの人...見た?」

三船「え? さっきの人?」

真神「さっき、横切った人。」

三船「あの人? あの人がどうしたの?」

真神「あの人...私のこと、二度見した。」

三船「......。」

真神「私、身長高いから、すごく注目されるんだよね...。中一の時に、もう170センチあったから、嫌でも注目されて...。学年上がるごとに身長も伸びていくし...これから先も、まだまだ伸びると思う。」

三船(こ、これから先も...!?)

真神「私、こんなことで注目されたくない...。身長、小さくなりたい...。私も、小さくて、可愛くなりたい...。」

三船「...セ、セナちゃん!」

真神「なに?」

三船「セナちゃんは、すごく可愛いよ!」

真神「...え?」

三船「私たち、まだ出会って一ヶ月も経ってないけど...だから、こんなこと言っても信じてもらえないかもだけど...私は、セナちゃんは、すごく可愛いと思うよ!」

真神「ホ、ホントに...?」

三船「うん! 今から、セナちゃんの可愛いとこを言っていくね!」

真神「へ?」

三船「えっとね、一つ目は性格! 優しくて、なんかほわほわしてるところ! 行動もふわ~としてるっていうか...雰囲気かな?すごくぽわぽわオーラが出てるというか...一緒にいて癒されるし、可愛いなって思う! あとね、ご飯食べてる時、すごく美味しそうに笑顔で食べてるの! そこも、すごく可愛いな~って! あとあと、私を撫でてる時も、可愛い~って言いながら撫でてるセナちゃんの顔、すごくすごくーーー」

真神「う、うわぁぁぁぁ! も、もう、やめてぇぇぇぇ!!」

三船「え?」


 三船は、ふと顔を上げる。手で顔を隠し、あわあわとしている、大きな真神。隙間から見える肌は、はっきりとわかるほどに赤く熱っている。


三船「ど、どうしたの?」

真神「は、は、恥ずかしぃ...。」

三船「へ?」

真神「か、か、可愛いとか、言われたことないから...! な、なんか...は、は、恥ずかしぃ...!」

三船「うふふっ! そういうところも...可愛いぞ!」

真神「あわわわ! もう、やめてぇぇぇぇ!」

三船「あはは、ごめんごめん。あっ、そうそう...セナちゃん。」

真神「な、なに?」

三船「さっきの人さ、セナちゃんが身長高いから二度見したんじゃないと思うよ。」

真神「え?」

三船「私とセナちゃん、二人の身長差にびっくりして、二度見したんだよ。セナちゃんだけじゃなくて、私たち二人を二度見したんだよ!」


 指の隙間から見える、小さなお友達の明るい笑顔。隙間は、徐々に広がっていく。真神も、つられてニコリと微笑む。その笑顔を見て、三船はさらに笑顔を強める。


三船「あっ、そうだ! セナちゃん、途中でコンビニ寄ろ! 今日は、セナちゃんのせいで根津さんに追いかけ回されたから...罰として、ジュース一本おごってもらうからね!」

真神「うん、いいよ~!」

三船「よーし! じゃあ、コンビニに行こ行こ~!」

真神「えへへへ、愛子ちゃん~!」

三船「ん? なーに?」

真神「ありがと~! 私、愛子ちゃんのこと、大好きだよ~!」

三船「えへへ、私もだよ!」

真神「あっ、そうだ~。愛子ちゃん。」

三船「なに?」

真神「目、つぶって~。」

三船「へ? なんで?」

真神「いいから~。」

三船「う、うん...。」

真神「私がいいよって言うまで、あけちゃダメだよ~。」

三船「わかった。」


 視界を暗くした三船ーーーふと、身体がふわりと持ち上げられる。


三船「うわぁぁぁぁ!? セ、セナちゃん、なにしてるの!?」

真神「まだ、ダメだからね~。」

三船「な、何してるかだけ教えてよ! こ、怖いことはしないでよ!」

真神「よ~し、あけていいよ~。」


 三船は、恐る恐る目を開ける。瞳に映し出されている景色は、小さな自分には絶対に見ることのできない景色。高い高い場所から見る、街の景色。初めて見る、街の景色。


真神「どう~? 高いところから見る景色は~?」

三船「す、すごい...! すごく遠くまで見える...! ってか、大丈夫なの!? 肩車って、疲れない!?」

真神「大丈夫だよ~。愛子ちゃん、軽いし~。」

三船「それならよかったけど...急にどうしたの?」

真神「愛子ちゃん、身長高くなりたいって言ってたから~。」

三船「え?」

真神「可愛いって言ってくれた、それのお礼だよ~。」

三船「そっか! ありがと、セナちゃん!」

根津「いたぁぁぁぁぁ!!」

真神・三船「ん?」


 二人は、くるりと振り返る。遠くに見える、小さな女の子。暑苦しい、女の子。遠くからでもわかるほどに、瞳を青春という炎で燃やしている。


根津「三船 愛子ぉぉぉ! 私と一緒に、バレーするぞぉぉぉ!!」

三船「え!? 根津さん!? 今、部活中じゃーーー」

根津「三船ぇぇぇぇ!!」

三船「うわぁぁぁぁ!? めちゃすごい勢いで走ってくるぅぅ! 高いところからだから、よく見えるぅぅぅ!」

真神「よ~し、逃げるよ~。」

三船「え!? セナちゃん、このまま行くの!? 降ろしーーー」

真神「しゅっぱ~つ!」

三船「待っ、待って! まず、降ろし...いやぁぁぁぁぁぁ!?」

根津「待てぇぇぇい! 逃げるなぁぁぁ!」


 肩車したまま、根津に負けないスピードで駆けていく真神。負けじと歯を食いしばり、さらにスピードを上げる根津。どこを掴んでいいのか分からず、手ぶらで絶叫アトラクションに乗っている状態になってしまっている三船ーーー三人は、青春という道を、ワーワー騒ぎながら駆け抜けていく。
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