9 / 27
9話「思い出は綺麗に残ってるもの」
しおりを挟む・登場人物
園原 小雪:♀ 22歳。サンタクロース協会、日本支部で働くことになった新人。
江野沢 淳太:♂ 29歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその一。
黒澤 義則:♂ 26歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその二。
ジェイニー・ノリサワ:♂ 28歳。サンタクロース協会、日本支部で働く先輩。バカその三。
*度々登場する[サンタクロース!]は、場面の転換合図だと思ってください。
ーーーーー
黒澤(M)皆さん、こんにちは。黒澤 義則、26歳。仕事ができるいい男です、よろしく。
黒澤(M)突然ですが、こちらをご覧ください。
園原「ひえぇぇあぁぁん!?!? 可愛い!! 可愛すぎて可愛い!! 可愛いという名の暴力!! ジャブ、ボディ、からのストレート!! 可愛すぎる死のコンボ!! 可愛いという波に持ってかれるぅぅぅ!! はぁ、はぁ...!! ショ、ショタ最高ぅぅ!!」
黒澤(M)皆さん、もうお気づきかもしれませんが...こちらは「園原 小雪がショタを見た時の反応」でございます。ヤバすぎません? これは引きますよね? その気持ち、わかりますよ。少しは私のように落ち着いていただきたいものです。
黒澤(M)さて、衝撃映像をご覧になった後ですが...もう一つ皆さんには見ていただきたい映像がございます。こちらです。
園原「......。」
黒澤(M)こちらも、お気づきの方がいらっしゃるでしょう...。そうです、こちらは「園原 小雪が、江野沢、黒澤、ジェイニー・ノリサワを見た時の反応」です。人という生き物は、こんなにも冷たく悲しい視線を送ることができるのですね。新しい発見でございます。というか、なぜこんなにも冷ややかな視線を向けてくるのでしょうかね? 全く理解ができませんよ。
黒澤(M)私、黒澤 義則はこの二つの映像を見て、ある一つの疑問が湧いてきたのです。ショタが大好きでバカサワのことは多分嫌いであろう園原 小雪は、「バカサワのショタ時代の写真を見たらどういう反応をするのか?」と...。ショタ好きが爆発し喜ぶのか? 私たちということもあり、ショタでも喜ばないのか...非常に興味深いですよね?
黒澤(M)おやおや、皆さんも気になるご様子ですね? それでは早速、この疑問を解決していきましょうか...!
日本支部、黒澤たちのオフィス内。江野沢と黒澤の二人はホワイトボードの前に立って話し合っている。
黒澤「と、言うことで...園原は俺たちのショタ写真でどんな反応するのか、調べてみたいと思います!!」
江野沢「たしかに、それはちょっと興味あるな。」
黒澤「でしょ? ジェイニーは外出しちゃっていつ戻ってくるかわかんないので、先に俺たちで始めちゃいましょ。」
江野沢「うぃ~す。」
黒澤「ちなみに、江野沢さんはどんな反応すると思いますか?」
江野沢「あれだろ~? 俺たちだって先に言っといて写真見せるんだろ? 伏せて見せたら喜ぶだろうけど、知ってる状態で見たんじゃ「へー。」とか「ふーん。」ってな感じで冷たい反応すると思うな~。」
黒澤「俺は逆ですね。俺のショタ時代はくっっそ可愛いので、園原は飛び跳ねて喜ぶに一票ですね。」
江野沢「おいおい、そんなハードル上げちゃって大丈夫なのか~?」
黒澤「大丈夫ですよ~! だって見てくださいよ、これ!「クワガタを持って笑顔満開の義則くん10歳」めちゃ可愛くないですか!?」
江野沢「あぁ~可愛いな、これは。でも、可愛さなら負けてないぜ! 見ろ!「幼稚園のお遊戯会で王子様役をしている淳太くん」を!」
黒澤「あぁ~いいですね、それ~! 表情もキリッとしてるところが、また可愛いですね~! でも、お遊戯会なら俺もありますよ!「ライオン役でモサモサの毛をつけて、ちょっぴり恥ずかしがっている義則くん」!!」
江野沢「うわぁ~めちゃくちゃ可愛い顔してんじゃん!! モサモサしてるところもポイント高いな~!!」
江野沢・黒澤「...ん?」
後ろから視線を感じ取った二人は、ふと後ろを振り向く。園原が冷ややかな視線を二人に送っている。
黒澤「おっ、園原じゃねぇか!」
江野沢「お疲れさん。」
園原「お二人は、またエロ談議ですか? よくもまぁ飽きずに毎日毎日できますよね。」
ジェイニー(M)日頃ノ行いガ悪い結果デスネ。皆さんハ、日頃からシッカリと良い行いヲしましょウネ。
江野沢・黒澤[サンタクロース!]
園原「はぁ...こんな先輩の下で働いている自分が可哀想...。」
江野沢「おい、変な勘違いしてんじゃねぇよ! 写真見てたんだよ、写真!!」
園原「あぁ、セクシー女優さんのですか? 焼いてあげますから、こっちに寄越してください。」
黒澤「ちげーよ!! なんでもかんでもそっちに持っていくな!」
園原「そっちに持ってくなって...エロい話以外で話すことあるんですか? あなたたちは?」
江野沢「あるに決まって...!」
黒澤「......。」
江野沢・黒澤(あるか...?)
園原(M)なぜかその後、数秒間黙ってしまいました。
江野沢・黒澤[サンタクロース!]
園原「んで、なんの写真見てるんですか? あっ、もしかして隠し撮りした私の写真ですか? いくら可愛いからって、隠し撮りはどうかと思いますけど。」
江野沢「お前、自分で言ってて恥ずかしくないの?」
黒澤「お前の写真なんて撮るわけねぇだろ。少し考えたらわかるだろうが。」
園原「あ"ぁ"ん...?」
江野沢「園原様は、私たちの脳というカメラに深く刻まれておりますゆえ、写真など撮らなくてもよいのですよ!」
黒澤「貴方様の美しさは、機械に通してはいけません! 直に見ることに意味があるのです!」
園原「うむ、悪い気はしない。で、なんの写真ですか? いい加減教えてください。」
黒澤「俺たちの小さい頃の写真だよ。」
園原「え!? 小さい頃!?」
江野沢「おっ、いい食いつきっぷりだな。」
園原「まぁでも、黒澤さんたちの小さい頃かぁ...。」
黒澤「見てみろよ。めちゃくちゃ可愛いから。」
園原「私は別に見なくてもいいんですけど、どうしても見てほしいって言うんだったら見てあげなくもないですね。」
江野沢「なんでそんな上から目線なんだよ?」
黒澤「いいから早く見ろって。」
園原「ふむ、どれどれ...?」
黒澤(さぁ、勝負だ!! 園原は喜ぶのか!? それとも普通の反応するのか!?)
江野沢(負けた方は、AV奢りだぜ~! わかってんだろうな、黒澤~!!)
黒澤(喜べ!! 飛び跳ねて喜べ!!)
江野沢(へぇ~って言え! ふーんって言え! 特に何にもリアクションせずに写真を返しにこい!! それはそれでなんか悲しいけどな。)
園原「......。」
黒澤「...園原? どうした?」
江野沢「なんで黙ってんだーーー」
園原の瞳から、ボロボロと大粒の涙がこぼれ落ちる。手で口元を抑え、力なく膝から崩れ落ちていく。
黒澤「...あの、園原さん?」
江野沢「どうしたんですか...?」
園原「うぅ...どうしてこんなにも可愛い子たちが、こんなにも汚れてしまうのか...? この世は、なんて残酷なんだ...。」
黒澤(M)まさかまさかの、泣きました。
園原[サンタクロース!]
江野沢「園原、いい加減泣きやめよ...。」
黒澤「そんなに悲しいの? 俺たちの成長がそんなに辛いの?」
園原「辛くて悲しいです...。」
黒澤「即答したな、こいつ。」
江野沢「はっきり言うなよ。今の俺たちのことも考えて。」
園原「なんで神は人に汚れというものを教えるのでしょうか...? 純粋で真っ白なまま成長させれば、この世から争いは無くなるというのに...。」
ぶつぶつと喋りながらも、園原はスマホを取り出しカメラを起動すると、手にしていた写真をパシャパシャと撮り始める。
黒澤「おいおいおい!? 何してんの!? なんで撮ってんの!?」
江野沢「もしかしてだけど、家帰ってから眺める気!? やめてくれない!? なんか恥ずかしいんだけど!?」
園原「あの、誤解のないよう先に言っておきますが...私はこの子たちを眺めるのであって、あなたたちを眺めるわけではないですからね?」
江野沢「俺たちとその子たちを別の人だとお考えになってやがる!?」
黒澤「目を覚ませ、園原!! 残念だが、その可愛いショタは俺たちだ!! 自分で言ってて悲しくなってきた、ちくしょう!!」
園原「はぁ...可愛い...。このクワガタ持った子は10歳かな...? この笑顔、たまらんねぇ...!」
黒澤「怖っ!? なんで写真見ただけで歳わかるの!?」
江野沢「そんなのお前、さっきの話をこっそり聞いてたからに決まってんだろ~! 写真見ただけでわかるわけーーー」
園原「この王子様の子は、きっとお姫様役の子が大好きな女の子だったんでしょうね...。こんなキリッとしちゃって、可愛いんだから...!」
江野沢「いやぁぁ!? なんでそんなことわかるの!? 写真見ただけで、なんでそんな細かいところまでわかっちゃうの!?」
園原「いや、これくらいのことは誰だってわかるでしょ?」
江野沢・黒澤「お前と本人しかわかんねぇよ!!」
園原[サンタクロース!]
ジェイニー「おやおや、盛り上がってマスネ。なにしてるんデスカ?」
黒澤「おっ、ジェイニー! いいところに!」
江野沢「この空気をブチ壊せるのは、お前しかいねぇよ!」
黒澤「今、園原にこの場を支配されちまっている...! さぁ、早くやっちまえ!」
ジェイニー「やっちマエッテ、なにすればいいんデスカ?」
江野沢「そんなのお前、スッとAVかエロ本出して、サッと園原にぶち壊されてボコボコにされればいいんだよ。」
黒澤「頼む、ジェイニー! これはお前にしか出来ないことなんだ!!」
ジェイニー「あなたたちニモ、できまスヨ?」
園原「あの、もしかしてなんですけど...ジェイニーさんも小さい頃の写真持ってきてるんですか?」
黒澤(はっ!? もう次なるターゲットを!?)
江野沢(手を出すのが早い女だぜ...!)
ジェイニー「小さい頃のデスカ? そういエバ、黒澤サンに持ってコイと言われたノデ、持ってきてマスヨ~。何に使うんデスカ?」
園原「まぁ、あなたの小さい頃になど、これっっぽっちも興味ありませんけど。ぜひ私にどうしても見てほしいと言うのであれば、見てやらんこともないですよ?」
ジェイニー「なんでそンナ上から目線なんデスカ? まぁ、別ニいいデスケド。はい、どウゾ。」
江野沢「バカやろう! 自ら敵に獲物を渡すなど...何をしている、ジェイニー・ノリサワ!!」
黒澤「でも、俺たちも気になるから見ちゃう!」
ジェイニーから受け取った写真を、三人は覗き込む。小学校の教室内で、黒板を背にクラスの児童と思われる子たちが笑顔で写り込んでいる。その中央には、今現在とほぼ変わらない姿のジェイニーが、こちらも満開の笑顔で写っている。
江野沢「...なに、これ?」
ジェイニー「なにッテ、小さい頃ノ写真デスヨ。どうデスカ? 可愛いデショウ?」
黒澤「うん、周りにいる子たちは可愛いよ。お前は全然可愛くないよ? 俺は、お前が小さい頃の写真を持ってこいって言ったんだぞ? 誰が今現在の写真を持ってこいと言った?」
ジェイニー「なに言ってルンデスカ、黒澤サーン。どっかラどう見てモ、小学生ジャないデスカ。」
黒澤「どっからどう見ても成人だろ。縦も横も周りの数倍はあるじゃねぇか。まんま今現在のお前じゃねぇか。これ、素行調査に行った時に撮ったやつだろ?」
江野沢「待て黒澤、ジェイニーの足元をよく見てみろ。」
黒澤「足元?...あっ、上履き履いてる...。つ、つまり、ここに写ってるのは...?」
ジェイニー「まぁ、この時スデニ170センチはあったノデ、よく大人ト間違われマシタヨ。」
江野沢「こんなの子どもに見えるわけねぇだろ...。もう完成してるもん、ジェイニー・ノリサワが完成しちゃってるもん...。」
黒澤「お前、ずっとデカイなって思ってたけど...今何センチなの?」
ジェイニー「197センチですよ。」
江野沢「え? そんなデカかったの?」
ジェイニー「なんで数年一緒ニいたノニ、知らなインデスカ?」
黒澤「先生だよ...どっからどう見ても先生の風格だよ...。優しく生徒を見守ってる感じムンムンに出てるよ...。」
江野沢「ジェイニーは小さい頃からずっとジェイニーなままな気がしてきたよ...このまま産まれてきてる気がするよ...。赤ん坊の写真を見るのが怖いよ...。」
黒澤「まぁでも、こんな見た目でも一応小学生らしいし...園原ならーーー」
黒澤は園原の顔をチラリと覗き込む。園原は目を丸くして微動だにせず、困惑した表情でただただ写真を眺めている。
園原「ショ...ショ...タ...??」
黒澤(M)ありえない現実を目の当たりにして、思考回路がショートしたようです。
江野沢(M)これが、一瞬にして空気をぶち壊す男...ジェイニー・ノリサワの実力です。
ジェイニー[サンタクロース!]
江野沢「そういえば園原、お前はいつからショタが好きなんだ?」
ジェイニー「そレ、とても気にナリマスネ。」
黒澤「俺も、お前がいつから狂い始めたのか興味があるな。」
園原「狂ってねぇよ。私はいつでも正常ですよ。」
園原「うーん...いつからなんだろ...? 元々、小さい子は可愛くて好きだったんですけど...いつからショタをペロペロ舐め回したいと思ったんだろうか...?」
黒澤「その発言しといて、よく正常だとか言えたな、お前。」
園原「いつからかは、はっきりと覚えてませんが、キッカケは覚えてますよ。中学一年生の時に学校行事の職場体験で、幼稚園に行ったんですよ。」
とある幼稚園。制服の上からピンク色のエプロンを身につけた園原は、しゃがみ込んで子どもたちと目線を合わせながら笑顔で会話を楽しんでいる。
この頃はまだ覚醒はしておらず、目の前にショタを見つけても取り乱すことなく対応している。
児童A「ねぇねぇ、小雪お姉ちゃん! 遊ぼ!!」
園原「うん、いいよ!」
児童B「わーい、やったー!」
園原「へへへ、そんなに喜んでもらえると、なんか照れちゃうな~! よーし、何して遊ぶの? 私は、なんでもいいよ!」
児童A「じゃあね、細かすぎて伝わらないモノマネごっこ!」
園原(遊びのクセがすごい...。)
園原「え、えっと...私は、なにをすればいいかな...?」
児童B「小雪お姉ちゃんは「芸人を眺めてる、番宣に来た女優さん」をやって!」
園原(役のクセェ...!)
園原「えっと...見てればいいんだね? わかったよ! うわ~ついに始まるのか~! 楽しみだな~!」
児童C「さぁ、それでは続いての方、どうぞ!」
園原(MCもいた...本格的だな...。)
児童A「抜群のコンビネーションで、視聴者だけでなく共演者をも笑わせてしまう、佐藤 二朗と、」
児童B「ムロツヨシ。」
園原(園児がやるレベルのネタではない...!!)
園原(M)そこにいる子たちは、みんな元気で明るくて、一緒にいるだけで私も笑顔になってしまうくらいの子たちでした。
園原(ん? あれ...?)
ふと後ろを向いた園原。園児たちが集まり、楽しげにモノマネ選手権を行なっている様子を、一人部屋の端に座ってじっと眺めている男の子が視界に入る。
園原はニッと微笑むと、ゆっくりと立ち上がり男の子の元へと駆けていく。
園原「こんにちは。」
男の子の元にたどり着いた園原は、笑顔を崩すことなくしゃがみ込み、男の子と目線を合わせる。
園原「初めまして! 私は、園原 小雪って言います! ねぇ、君もあっちでみんなと一緒にモノマネ見よっ!」
園原(M)一人ポツンと端に座る男の子...ゆきやくんは、無口な子でずっと一人でいるんだと先生から聞いた。私も初めは、一人でいるのが好きな子なのかなと思っていたけど、ゆきやくんはジッと静かに私たちを見つめていて...本当は一緒に遊びたいんだけど、勇気がなくて「一緒に遊ぼう」が言えない子なんだって思いました。
子どもたちは、外に出てブランコを漕いだり砂場でお城を作っていたり、サッカーをしていたり、各自が楽しげに遊びを満喫している。
ゆきやくんは部屋の入り口で、外で元気に楽しそうに遊んでいる子たちをただ黙ってジッと見つめている。
園原「ゆーきーやーくん! 見てみて、じゃーん! フリスビーだよ! 私たちも、みんなみたいに外で遊ぼっ!」
お昼の時間となり、子どもたちは机をくっつけてお弁当箱を取り出し、いただきますを今か今かと待っている。
園原「ゆきやくん、隣座ってもいいかな? お姉ちゃんね、今日自分でお弁当作ってきたんだ~! よかったら、おかず交換しない?」
室内で、子どもたちは本を読んだり絵を描いたり、積み木で遊んでいたりーーーゆきやくんはその様子を、静かに端でジッと見つめている。園原はウサギのパペット人形を手にはめて、ゆきやくんの元へと歩み寄っていく。
園原「こんにちは、ゆきやくん! 僕はウサギのウサ吉だよ! ねぇねぇ、僕と一緒に遊ばない?」
園原(M)私は、遊びやすいように積極的にゆきやくんに声をかけに行きました。でも、ゆきやくんと遊べても、話すことはできなくて...言葉を交わすことなく、職場体験は終わってしまいました。
職場体験を終えた園原たちは、園門まで見送ってくれた子どもたちに大きく手を振り、名残惜しそうに背を向けて、ゆっくりと歩いていく。
友達A「あーあ...終わっちゃったね、職場体験...。」
園原「うん、寂しいねぇ...。」
友達B「みんな、元気いっぱいで可愛かったよね。」
友達A「ね! 最後は歌のプレゼントもしてくれて...うぅ、思い出したらまた泣いちゃいそう...!」
友達B「わ、私も...!」
園原(結局、ゆきやくんとは一言もお話できなかったな...。もしかして私、余計なことしちゃってたのかも...。後で電話して謝らなきゃ...。)
先生「小雪ちゃ~~ん!」
先生の声で、立ち止まり振り返る三人。職場体験でお世話になった先生が、大きく手を振りながらゆっくりと歩きにくそうに近づいてくる。
園原「先生、どうしたんですか? あっ、もしかして私、忘れ物しちゃいました!?」
先生「そうね、忘れ物といえば忘れ物かもね。」
園原「え?」
先生「ほら、ゆきやくん。」
先生の背後から、ゆきやくんがチラリと顔を出す。先生のズボンをギュッと握りしめ、紅葉した顔を俯かせながら、モジモジと恥ずかしそうに身体を揺すぶっている。
園原はゆきやくんを見ると、ニコッと微笑みながらしゃがみ込む。
園原「ゆきやくん、どうしたの?」
ゆきやくん「......。」
園原「大丈夫だよ。ゆきやくんがお話しできる時にお話ししてくれれば。お姉ちゃん、それまでずっと待ってるから。」
ゆきやくん「......。」
ゆきやくんはゆっくりと顔をあげる。園原と目線が合うと、先生のズボンから手を離し、トコトコと園原の元へと駆け寄っていく。ポケットの中から四つ折りに折られた紙を一枚取り出すと、丁寧に両手で園原へと手渡す。
園原「紙? もしかして、お手紙書いてくれたの? ありがとう! 今見てもいいかな!?」
ゆきやくんはコクリとうなづくと、慌てて先生の背後へと戻っていき、またチラリと顔を覗かせる。園原はその様子を微笑ましく見つめながら、紙を開いていく。
園原「......!」
開かれた紙には、園原とゆきやくんだと思われる二人が、ニコニコと笑顔で楽しそうにお話ししている顔が描かれている。その上には「またきてね」の文字が。
園原は先生の後ろにいるゆきやくんへと視線を向ける。ゆきやくんは、まだ恥ずかしそうに顔を真っ赤に火照らせているが、園原と目が合うと、手を小さく上げてゆっくりと左右に振る。
ゆきやくん「...ば、ばいばい。」
園原「ゆ、ゆきやくん...!」
園原「と、言うことがありましてね。私、嬉しくて嬉しくて、その場で泣いちゃって...! その後、ゆきやくんが近づいてきてくれて頭撫でてくれたんですよ~!」
園原「んで、その日から週三ペースで幼稚園に遊びに行くようになったんですけど...気がついたらショタを目で追うようになってました。」
バカサワ「......。」
園原「...あの、どうしたんですか? なんで顔俯かせてーーー」
バカサワ「...うぅ...!!」
園原(M)まさかまさかの、泣いてました。
バカサワ[サンタクロース!]
ジェイニー「とテモ...とテモ良いお話しデシタ...!」
江野沢「想像していた何百倍も良い話だった...!」
黒澤「どうせクッソどうでもいい理由だろうなとか思っていた自分が恥ずかしい...! 園原、こんな俺を許してくれ...!」
園原「許すわけねぇだろ。早く地面に頭擦り付けろ。」
ジェイニー「ちなミニ、高校時代ハどんな感じダッタンデスカ? ぜひ、聞かせてクダサーイ!」
園原「言うわけねぇーだろ、変態が。」
江野沢「悲しいなぁ...なんであんなに純粋無垢だった少女が、こんな汚れてしまったのか...。」
黒澤「ホントですよ...。どうしてあのまま成長できなかったのか...。悲しすぎますって...。」
園原「その言葉、そっくりそのままてめぇらに打ち返すからな?」
江野沢「は? 俺たちは、あの写真の頃から何一つ変わらずに育ってんだろうが。」
黒澤「純粋な少年心を持ったまま成長してんだろうが。」
ジェイニー「そうデスヨ、園原サン。」
江野沢・黒澤「お前は例外だ、ノリサワ。」
ジェイニー「Why?」
園原「あの頃のままなわけないでしょうが。汚れた心を持っていなければ、職場でAVとかエロ本見たりはしないんですよ。いい加減に己の心の黒さと向き合え。」
江野沢「その言葉、打ち返すぞ?」
黒澤(M)終わらない言い争いが始まる気がしたので、打ち返しませんでした。
ジェイニー[サンタクロース!]
江野沢「やれやれ...ゆきやくんも今のお前の姿を見たら、きっと悲しむだろうな...。」
黒澤「お前、街中でゆきやくんと出会っても他人のフリしろよ?」
ジェイニー「純粋ナ少年ノ心ヲ、壊してハいけマセンヨ?」
園原「なんで今の私と出会ったら心が壊れるんだよ? 私、ゆきやくんにはむちゃくちゃ好かれてたんで、出会ったら飛び跳ねて喜んでくれること間違いなしですよ。」
江野沢「お前が中一の頃の話だろ? じゃあその子、今は中学生だろ?」
黒澤「中学生は難しいお年頃なんだから、マジで他人のフリしろよ。」
ジェイニー「中学生ノ心ハ、とても壊れやすいンデスカラネ。」
園原「だから、壊れねぇって言ってんだろうが!! マジで好かれてたんですから! 遊びに行った時なんか、ずっっと私にくっついてましたし!!」
江野沢「ホントかよ?」
園原「ホントですよ! 無口な子だと思えないくらいに、いっぱい話しかけてくれましたし!」
黒澤「お前の妄想ってことはないよな?」
園原「現実じゃボケェ!! 私が帰る時なんか、いつもいつも大声で泣いてましたし!」
ジェイニー「イヤイヤ、さすがニ話ヲ盛りすぎジャないデスカ~?」
園原「盛ってませんよ!! あっ、そうだ! 私、ゆきやくんにお花もらって「僕と結婚してください!」って言ってもらいましたからね! ほーら、好かれてるって証拠! これは動かぬ事実! いい加減信じやがれ!!」
バカサワ「......。」
園原「...あの、急に黙られると怖いんですけど? なんなんですか?」
バカサワ(ガチ恋してんじゃん、ゆきやくん!!)
江野沢(それはやり過ぎだよ、ゆきやくん! マジもんの好きじゃん、ゆきやくん!! 中学生ならワンチャンまだ恋心消えてねぇよ、これは!)
黒澤(この歳の差でこのエピソードは、完全にエッチな同人誌だよ!! エッチな同人誌でしか見たことない設定だよ!!)
ジェイニー(二人ガ出会えバ、即合体ハ間違いないデース!!)
園原「あの、なんですか...? ジロジロと私を見て...気持ち悪いったらありゃしないんですけど。」
江野沢「...園原。」
園原「な、なんですか?」
江野沢「お前...ゆきやくんが大人になるまでは、絶対に会っちゃダメだぞ。」
黒澤「それが、お前とゆきやくんのためだ。絶対にダメだぞ。」
ジェイニー「現実とフィクションを一緒ニしちゃダメですヨ。」
園原「な、なんでそんな真剣な顔で言うんですか...? あっ、もしかして結婚してくださいを本気にしてます? やだな~! 幼稚園児が言ったことですよ? そんなマジに受けとらないでーーー」
バカサワ「フラグを建設するなぁぁぁ!!」
園原(M)結構ガチめなトーンで言われました。なぜでしょうか? ショタの言葉を信じないわけではないですが...あの時はあの時、今は今です。ゆきやくんも、もう中学生です。とっくに私のことなど忘れて、青春を満喫していることでしょう。でも、あの可愛いショタがどんな成長を遂げたのか...見てみたいなという気持ちはあります。
園原(M)ゆきやくん、聞こえてる? 小雪のお姉ちゃんは、バカサワのようになっていないことを心から願ってるよ! いつかまた、会おうね!
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
0
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる