なんでも探偵部!

きとまるまる

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26話「ギャップ萌えってやつですね⑤」

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新沼「くっ...! なかなかやりますね、間宮先輩...。」

間宮「僕、何にもしてないんだけど...。新沼さんが自滅してるだけなんだけど...。」

関「形なんかどうでもいいんだよぉぉぉ!!」

張間「そのままぶっつぶせぇぇ!!」

関・張間「勝つのは間宮!! 負けるの新沼!! 勝つのは間宮!! 負けるの新沼!!」

狗山「こ、このままいけば勝てるっすね!」

張間「間宮の美に酔いしれろぉぉぉ!!」

関「新沼くんなんて、まだまだだねぇ!!」

間宮「うるせぇよ、外野! えっと、新沼さんいくよー。それっ!」


 間宮が軽く打ったシャトルは、フワフワと新沼のコートへと跳ね上がる。


新沼(負けちゃう...このままじゃ負けちゃう...! でも、これは公式戦じゃない...だから...。)


 新沼は、軽くシャトルを打ち返す。間宮はあたふたしながらも、なんとか辛うじてラケットに当てて打ち返す。シャトルはフワフワと高く打ち上がり、新沼のコートへと返ってくる。


新沼(嫌...絶対に嫌...!! 練習だろうが本番だろうが遊びだろうが......私は!!)


 新沼はギュッとラケットを力強く握りなおすと、シャトルの落下地点へと素早くステップを踏んでいく。目標地点へと辿り着くと、そのまま間髪入れずに膝を曲げ高く飛び上がる。


新沼「フンッ!!」


 鞭をしならせるように、素早く振り下ろされたラケットにぶつかったシャトルは、先ほどまでとは比べ物にならない速度で間宮のコート内へと侵入する。シャトルは速度を緩めることなく、間宮の真横を通り過ぎ床へと叩きつけられる。


間宮「...え?」

張間「ん?」

関「あれれ?」


 探偵部の三人は、ゆっくりと視線を新沼へ持っていく。顔を俯かせている新沼の瞳から、淡い光が漏れている。


新沼「これで9対6ですね、間宮先輩。」

間宮「え? あ、うん...。」

関「新沼くん、どうしちゃったの? 雰囲気変わった?」

張間「部長、咲ちゃんの目が光ってますよ? とあるバスケ漫画で見た光景ですよ?」

狗山「やばいっすね...。」

関「やばい? 嫌な予感しかしませんね、これ?」

狗山「新沼って、あぁ見えて極度の負けず嫌いなんすよ...。大会の時も負けてる時、たまーにあんな感じになるんすけど...。」

張間「えっと、つまり...あと一点取られたら負けちゃうというこの状況で「絶対に負けたくない!」という思いから、扉を開いちゃったって感じですかね?」

狗山「扉ってなんすか?」

関「このバスケ漫画を読みたまえ。」

狗山「はぁ、どうもっす。」


 関は懐から「黒●のバスケ」と書かれた漫画を取り出し狗山へと手渡す。


関「なるほどねぇ、扉開けちゃったのね。」

張間「ゾーン入っちゃったみたいですね。」

関「......。」

張間「......。」

狗山「...あの、どうしたんすか? 急に黙っーーー」

関・張間「ゾーン!?!?」

狗山「うひぃぃ!?」

張間「ゾーンってあれだよね!? ボールが止まって見えるとか、人がゆっくり動いてるように見えるとかの! 極限の集中状態のあれ!? 一流のスポーツ選手もたまにしか入ることのできない、あれ!?」

関「素人相手にゾーン入るの!? あの子、モノホンのSだよ!! サディスト界の女王だよ!! どんだけいじめたいの!?」


 三人が会話している間にも試合は続いており、フワフワと高く打ち上がったシャトルを、新沼はラケットを素早く振り下ろす。
弾丸と化したシャトルは間宮の頬を掠めていき、床に激しく叩きつけられる。


間宮「先輩ぃぃぃ!! シャトルが全然見えないんですけど!? さっきと全然スピードが違うんですけど!?」

狗山「きゅ、9対7...。」

新沼「私に勝てるのは...私だけよ。」

間宮「それ、どっかで聞いたことあるセリフだ!!」

狗山「おい、これ本当に勝てるんすか!?」

張間「いや、ゾーンに入るとは全く思ってなかったから...。」

関「今、ものすごいスピードで奴隷行きに向かってますね...。」

狗山「えぇぇぇ!?!?」


 新沼から放たれるスマッシュは、もはや凶器と化しており、間宮は為す術なく「いやぁぁぁ!?!?」と叫びを上げながら、身体を丸めて身を守っている。


張間「今のうちに遺言書、書いときます...。お父さん、お母さん、お姉ちゃん、山田...今までありがとう...。」

狗山「嫌っすよ! 俺はまだ死にたくないっすぅぅ!!」

新沼「私の邪魔をするやつは...親でも殺す。」

間宮「新沼さん、キセキを詰め込みすぎでは!?」

新沼「これで9対8ですね。すぐ追いつきますから、待っててくださいね。」

間宮「先輩ぃぃ!! どうしたらいいですか!? 何かアドバイスを!!」

関「目をつぶってラケット振り回せぇぇぇ!!」

間宮「くっっそ雑なアドバイスありがとうございますぅぅ!!」


 新沼のサーブを辛うじて打ち返した間宮だったが、シャトルは力なくフワフワと打ち上がる。新沼はすでに落下地点へと移動を済ませており、スマッシュを叩き込む準備を進めている。


間宮「ちくしょぉぉぉぉ!!!」


 アドバイス通り、目をつぶり左右に大きくラケットを振り回す間宮。新沼から放たれたシャトルは目にも止まらぬ速さでネットを超えてくる。
が、運良く振り回すラケットにシャトルは当たり、天高く新沼のコートへと打ち上がっていく。


張間「あっ!? 当たった! 返した!!」

狗山「でもあれじゃ、またスマッシュされて終わりっすよ!!」

張間「スマッシュ!? そ、それだ! 部長!!」

関「傑くんんん! ラケットを顔面に!!」

間宮「え!? なんで!?」

関「いいから!! いそげぇぇ!!」

間宮「どうなっても知りませんからねぇぇぇ!!」


 間宮は言われるがままにラケットで顔面を守るように構える。新沼は、容赦なくラケットを素早く振り下ろす。


間宮「うわぁぁ!?」


 目をギュッとつぶり顔を背ける。シャトルは真っ直ぐに間宮の顔面へと止まることなく進んでいく。


狗山「あっ!?」

張間「顔面ヒットォォ!!」


 シャトルは顔面前に構えられていたラケットに当たると、カコンッと大きく音を鳴らし跳ね上がる。そのままネットへとゆっくり軌道を描いていく。


新沼「え!? 嘘っ...!」


 シャトルはネット上を擦り、新沼のコートへ跨ぐと力なく真下へ落下していく。
新沼は足と腕を必死に伸ばし、辛うじてラケットに当てるが、シャトルはネットにぶつかり、新沼のコート上へと転がった。
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