なんでも探偵部!

きとまるまる

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58話「父や母の偉大さは、歳とるたびにわかるもの②」

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関「おや、この方は...。」

張間「あっ、お父さんだ。」

間宮「これが、張間さんのお父さん...本当に野球選手だったんだ...。甲柱くん、このカードは?」

甲柱「これは「プロ野球チョコ」というお菓子のおまけでついてくるカードなんです。それで...その...。」

張間「もしかして、甲柱くんってお父さんのファンなの?」

甲柱「そうだ。現役を引退された後も、ずっと好きで。こうしてカードを持ち歩いているほどにファンだ。」

関「おやおや、なかなかに熱心なファンですね。」

間宮「すごく好きなんだね。」

甲柱「それで、その...めちゃくちゃなお願いだということは百も承知なんだが...。」

張間「お父さんのサインがほしいの?」

甲柱「その通りだ。無理なら無理とはっきり断ってくれて構わなーーー」

張間「いいよ。」

甲柱「え?」

関「ずいぶん、あっさりと許可しますね。」

張間「だって、お父さんのサインなんて、そんな価値ないと思いますし。」

間宮「張間さん、なんてことを...。」

関「あなたのお父さんは、素晴らしい選手なんですよ?」

張間「そうですか? ぶっちゃけ、そんな目立った成績残してませんしーーー」

甲柱「待て、張間!! 確かに、彰文あきふみさんは目立った成績は残していないかもしれない...! が、あの方は記録よりも記憶に残る素晴らしい選手なんだ!!」

張間「え? は、はぁ...。」

甲柱「打てる、走れる、そしてどこでも守れる! 犠打ぎだを失敗しているところは見たことないし、いつも絶妙なところにキチッと決める! 欲しい時に、パンッとヒットを打ってくれる! チームのムードメーカーで、嫌な流れもスッと変えてくれる! 本当に素晴らしい選手だ!!」

張間「いや、でもホームランとかーーー」

甲柱「確かにホームランは少なかった!! でも、あの方はホームラン以上の仕事をしてくれる素晴らしい選手だ!! チームのピンチを、何度救ったことか!! 特に、守備!! 今は、チームの走塁、守備のコーチをしているほどだから、守備の素晴らしさは、お前もよーーくわかっているだろ!? 内野も外野も、さらには捕手キャッチャーも、どこでも守れるあの人の守備力!! あの、チームの捕手が度重なる不運で全員交代してしまった試合で、スッと彰文選手がプロテクターをつけて出てきた時のカッコ良さは、今でも鮮明に思い出せる!!」

張間「あ、あの...甲柱くん、落ち着いて...。」

関「熱く語ってますね。すごく好きなんですね、彼。」

間宮「寡黙な子だと思ってたんですけど、びっくりですね。」

関「まぁ、人間は好きなことについては饒舌じょうぜつになるものですよ。」

甲柱「すまない。熱く語ってしまった。でも、俺はそれだけ彰文さんのことが好きで、尊敬しているんだ。将来は、彰文さんのようなプレイヤーになりたいとーーー」

張間「甲柱くん、それはやめた方がいいよ。ホームラン、全然打てなくなるよ。」

間宮「張間さん、お父さんのこと嫌いなの?」

関「というかあなた、野球はホームランが全てだと思ってます?」

張間「まぁ、甲柱くんがすごくお父さんのこと好いてくれてるってことは、すごーく伝わったし...お父さんに聞いてみるよ。」

甲柱「本当か!? ありがとう、張間!!」

張間「でも、本当にお父さんのサインでいいの? 牧本まきもとさんとか、そと選手のサインのが、何倍も価値あると思うよ? お父さん仲良いし、言えば貰えると思うよ?」

甲柱「彰文さんのサインが欲しい。」

張間「わかった。今から電話してみる。ちょっと待っててね。」

大賀「あっ、ここにいやがったのか! おい、光! なにやってんだよ、てめぇ!」

甲柱「ん? 雄太か?」

張間「おーおー、クソヘボピッチャーくんじゃないか! 元気だったかい!?」

大賀「んだと、てめぇ!? 三振王は黙ってろ!」

張間「誰が三振王じゃ、ボケェェ! 部長に、きれぇぇぇなヒット打たれたくせに、生意気な口利いてんじゃねぇぞ!」

大賀「あれは、たまたまじゃボケェ! つーか、てめぇは打ててねぇだろうが! 何も間違ったこと言ってねぇだろ! ヘボ三振王が!」

張間「てめぇぇぇ! 今すぐ、その生意気な口にボールを打ち込んでやるよ!! 表に出ろ、ゴラ!!」

大賀「やれるもんならやってみろや!! もういっぺん、無様に尻もちつかせてやるよ!!」

関「おやおや、出会ってすぐに熱い試合が始まりましたね。」

間宮「この二人は、混ぜるな危険ですね...。ちょっと、張間さんーーー」

甲柱「雄太、今すぐに謝れぇぇぇ!!」

大賀「...え?」

張間「甲柱くん...?」

甲柱「お前、張間...いや、張間さんになんて失礼なことを...! 今すぐに頭を地面に擦りつけろ!!」

大賀「お、おい...どうしたんだよ、光...?」

甲柱「どうもこうもない!! 擦りつけるのが嫌ならば、せめて頭を下げろ!! さ、げ、ろぉぉぉ!!」

大賀「ひぃ!?」

間宮「あの大賀くんが、ビビってますよ...。」

関「彼のあのモードは、見たことないんでしょうね。」

甲柱「すまない、張間さん...電話の邪魔をしてしまって。」

張間「あ、いや...こちらこそすみません...。お宅の大賀さんに喧嘩売るようなことをしてしまって...。」

甲柱「気にしないでください。こいつは、後で俺が責任を持ってしつけますので。」

大賀「躾るって、なんだよ!? 俺はお前の犬か!?」

甲柱「黙ってろ! 次からお前の投げたボール、全部はじくぞ!? いいのか!?」

大賀「なに、その脅迫!? 特殊すぎんだろ!」

張間「え、えっと...じゃあ、電話するね。」

間宮「張間さん、今電話して出てくれるの?」

張間「平日は、基本ナイトゲームなんで。今だったら出てくれると思います。」

張間「......あっ、出た。もしもし、お父さん? ...うん、元気。あのね、お願いしたいことあるんだけど、今度いつ帰ってくる?」

張間「...いや、寂しくなったとかそんなんじゃないから。あのね、私の友達で、お父さんのファンだっていう野球部の子がいるんだけどね。その子が、お父さんのサイン欲しいんだって。」

張間「...うん、本当だよ。よかったね。お父さんのファンなんて、絶滅危惧種と同じくらい少ないんだから、大切にしなきゃダメだよ。」

間宮「絶滅危惧種って...。」

関「あの子、父の偉大さに全く気付いていないようですね。」

張間「...わかった。もう一回、聞いてみるね。ねぇ、甲柱くん。」

甲柱「なんですか?」

張間「お父さんがね「本当に俺のサインでいいの? ミスターパーフェクトの牧本まきもとさんとか、去年ホームラン王のそと選手のサインのが、何倍も価値あると思うよ? お父さん仲良いし、言えば貰えると思うよ? 今、近くにいるから聞こうか?」だって。」

間宮「なんて謙虚なお父様なんだ...。」

関「優しいお父様なんでしょうね。」

間宮「というか、張間さんと言ってることほぼ一緒ですよ。さすが親子ですね。」

大賀「つーか、すげぇ選手の名前が...こいつの父親が野球選手って、本当だったのかよ...。」

甲柱「あなたのサインが欲しいです!と、伝えてください。」

張間「もしもし? あなたのサインが欲しいです!だって。」

張間「...うん、わかった。伝えとくね。ごめんね、試合前に電話して。...うん、頑張ってね。バイバーイ。」

張間「三日後に試合の遠征で近くくるから、その時に家寄るって。だから、三日後に渡すことになるけど、それでもいい?」

甲柱「もちろんです!! ありがとうございます、張間さん!!」

張間「あ、うん...というか、口調直してもいいよ...。」

甲柱「彰文さんのサインがもらえるなんて...! 俺は、夢を見ているのだろうか...!?」

間宮「すごく嬉しそうですね。」

関「ですね~。よかったですね、甲柱くん。」

張間「いや~お父さんのことであんなに喜んでもらえるなんて...私も、なんだか嬉しくなっちゃいます! 地味な選手だったのに...本当によかったね、お父さんっ!」

間宮「張間さん、もう少しお父さんに優しくしてあげなよ...。」

大賀「んだよ、なんか珍しくテンション高ぇなって思ってたけど、そういうことか。ところで、張間。」

張間「ん? なに?」

大賀「お前に頼めば、牧本さんのサイン...貰えんのか?」

張間「ふっ...私から三振、奪えたらな。」

大賀「やってやろうじゃねぇか! パパッと三振奪ってやるよ! 表出ろや!!」

張間「てめぇのプライドと共に打ち砕いてやるよ!! 今のうちに負けた時のセリフ考えとけや!!」


関(M)張間くんと大賀くんの熱き一打席勝負は...ボテボテのファーストゴロという、互いに歯痒い結果で終わりましたとさ。
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