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70話「言葉の重み③」
しおりを挟む張間「あーあ、月曜日の朝って嫌だなぁ...。ずっと遊んで生きていたい...。学校も、部活だけにならないかなぁ...?」
休み明けの月曜日。張間は大きなあくびをしながら、眠そうに登校してくる。いつもと変わらぬ月曜日の行動。そして、いつもと変わらぬ、下駄箱での行動。
張間「...ん?」
扉を開け、上履きを取り出す。いつもの行動は、くしゃくしゃに丸められた一枚の紙切れによって邪魔される。
張間は、上履きの中から紙切れを取り出し、上履きを床に落とし、靴と入れ替える。朝の一連の流れを一通り終えると、紙を開くという新しい行動を行う。
消えろ
張間「...な、なに、これ...?」
真っ赤な字で書かれた、三文字の言葉。下駄箱の扉を閉める行動を忘れて、ただただ紙を見つめる。イタズラ、という可愛らしい言葉では片付けられないような出来事。張間は、ゴクリと唾を飲み込む。思考が、動きが止まる。
女子生徒「彩香ちゃん、おはよー。」
突然、隣から聞こえた挨拶に、ビクッと身体を震わせ、現実へと戻ってくる。慌てて紙をくしゃりと丸め、急いで笑顔を作り「おはよー!」と元気に返すと、何事もなかったようにくしゃくしゃに丸めた紙を、スッとバッグの中へと仕舞い込んだ。
ーーー
数時間後、先週行ったテストが返ってきて、教室内は点数の見せ合いという、ちょっとしたお祭り騒ぎ状態になっている。わーわーと騒がしい中、張間は騒ぐことなく、ボーッと答案用紙を見つめている。
西田「張間さん?」
張間「......。」
西田「張間さーん?」
張間「え? な、なに? どうしたの?」
西田「大丈夫? ボーッとしてさ。あっ、もしかして...赤点だった?」
張間「ち、違うよ! ほら、見て! 42点だよ! 我ながら、よく出来てるよ! はっはっは!」
西田「あまり褒められる点数ではないけどね。」
張間「褒めてもいい点数だよ、この野郎! 西田くんは、何点だった?」
笑顔で話し始める張間...ふと、頭の中に朝の出来事が蘇る。
張間「......。」
西田「張間さん、どうしたの?」
張間「な、なんでもないよ! あははー!」
張間の必死に取り繕う笑いを横目で見て、北台は、ふふっと思わず小さな笑みをこぼす。
ーーー
張間「はぁ...。」
お昼ご飯を屋上で食べ終えた張間は、教室へと戻ってくる。ふと一人になると思い出してしまう、朝の出来事。紙に書かれた、あの言葉。大きなため息を吐き出し、椅子に座り、次の授業の準備をするために、机の中をゴソゴソと漁り始める。
張間(誰が、あの紙入れたんだろ...? 消えろって...私、何か傷つけることしちゃったのかな...?)
カサっと手に何かが触れる。張間は、机の中にある得体の知れないものをスッと掴む。手から伝わる感触...見ずともわかる、くしゃくしゃに丸められた紙の感触。恐る恐る引き出しから取り出し、周りを警戒しながら、ゆっくりと開いていく。
消えろ いなくなれ 消えてしまえ
赤い字で書かれた言葉。胸に深く突き刺さる言葉。目を大きく見開き、何度も、何度も、文字を追う。「消えろ いなくなれ 消えてしまえ」何度も何度も、頭で再生する。
狗山「おい、彩香。次、移動教室だってよ~。」
張間「......。」
狗山「彩香~聞いてんすか?」
張間「へ!? あ、な、なに!?」
狗山「だから、次の授業、移動だってよ。視聴覚室でビデオ見るんだって。」
張間「わ、わかった! 私、トイレ行ってくるから! 先行ってて!」
狗山「ん、わかったっす。遅れんなよ~。」
慌てて作った笑顔をスッと消し、張間はくしゃりと紙を丸め、慌てて教室を出て行く。
ーーー
女子トイレに駆け込んだ張間は、勢いよく扉を閉め、鍵をかけ、壁に背中を預ける。疲れてもいないのに呼吸は荒く乱れ、心臓はバクバクと鼓動を早める。手が小刻みに震える。
右手のひらに小さく丸められた紙を、ゆっくりと開く。いくら乱暴に丸めても、消えることのない赤い字。いくら走っても、楽しいことを思い浮かべても、消えることのない言葉。頭の中を、ぐるぐると駆け回る。
張間「だ、誰が...誰が、こんなこと...?」
消えろ いなくなれ 消えてしまえ
張間「ど、どうしよう...?」
消えろ いなくなれ 消えてしまえ
張間「ど、ど、どうしたら...どうしたらいいの...?」
消えろ いなくなれ 消えてしまえ
張間「わ、わかんないよ...わかんないよぉ...。」
消えろ いなくなれ 消えてしまえ
段々と大きくなる。頭の中で、大きく響く。紙から視線を外しても、消えない言葉。頭を振っても、飛んでいかない言葉。無理矢理笑顔を作っても、消えていかない言葉。
壁に、さらに体重をかける。重く、重く、のしかかる。ズルズルと床へと落ちていく。
張間「どうしたら...いいの...?」
ポツリと呟く、助けての言葉ーーー誰にも届くことなく、かき消される。
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