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145話「夏休みの予定は事前に計画を立てましょう②」
しおりを挟む屋上の自販機の前で、狗山は大きなため息を吐き出す。
狗山「はぁ、ちくしょぉ...今日も負けっすか...。俺は、いつになったら新沼に勝てるんすかね...?」
狗山「いやいや、弱気になるなっす! こういうのは、まず気持ちからっす! というか、あのやろぉ...屋上の自販機って、遠いとこ選びやがって...!」
狗山は、甘々オレッ!のボタンを押す。ゴトンッと音を立て落ちてきた紙パックの飲み物を手に取り、潰れない程度に軽く握りしめる。
狗山「次こそは俺が勝って、あいつに飲みもん買わせてやるっす!」
関「張間くーーーん!!」
狗山「ん?」
関「くそぉ、ここにもいないか!? どこ行ったんだ、あの子は!?」
狗山「幸先輩じゃないっすか。どうしたんすか、そんなに慌てて?」
関「羽和くん! 張間くんを見かけなかったかい!?」
狗山「彩香っすか? みてないっすけど。彩香を探してるんすか?」
関「そうなんだ! そこで、羽和くん! お願いがある!!」
狗山「ん? なんすか?」
関は、狗山の肩に力強く手を置き、真っ直ぐに狗山を見つめる。そしてーーー
関「付き合ってくれないか!!」
狗山「...へ?」
真っ直ぐに見つめ合う二人。言葉を交わすことなく、ただただ見つめ合う二人。狗山の顔が、徐々に真っ赤に染まっていく。
狗山「え? ん? え? え!?!? つ、つ、つ、付き合うぅぅぅ!?!? お、俺とっすか!?!? いやいやいや、俺っすよ!? お、俺は、その...ゆ、幸先輩はいいんすか!?!?」
関「ん? 羽和くん?」
狗山「いやでも、俺たちってまだそんなに接点ないっていうか、なんというか!! ちょこちょこ話したりとかはしてるっすけど! でもでも、そういうのは、ま、まだ早くないっすかね!?!? お、俺は別に、なんていうか...いやでもでも、全然まだまだ知らないし!! たしかに、ちょっとカッコいいとかなんとか思ったりはしてなくもないっすけども、うんたらかんたらなんたらかんとか...!!」
関「...羽和くん、張間くん探しに付き合ってくれないかい?」
狗山「...へ?」
関「傑くんと一緒に探してるんだが、全然見つからなくてね。」
狗山「な、な、なるほどっす!! いいっすよ!! いいっす!! 手伝いますよ!! こ、この飲み物を新沼に渡してきたら、手伝うっす!!」
関「ありがとう、羽和くん! 見つけたら連絡してくれ! はい、これ私の連絡先!!」
狗山「あ、は、はいっす!!」
関「では!! 張間くーーん! どこに行ったぁぁぁ!?」
狗山「...つ、付き合うって、そういうことっすか...。び、びっくりしたっす...。」
新沼「びっくりしすぎじゃない?」
狗山「いや、あんなこと急に言われたら...って、ぬおぉぉぉぉぉぉ!?!?」
新沼「うるさいんだけど。」
狗山「に、に、新沼!? いつのまに後ろに!?」
新沼「いつでもいいでしょ。飲み物、ありがとね。」
狗山「あ、あぁ...。」
新沼「で、ワンちゃん。」
狗山「な、なんすか...?」
新沼は、新しいおもちゃが手に入った子どものように、満面の笑みを浮かべる。
新沼「部長さんと、何かあったの?」
狗山「は、はぁ!?」
新沼「あんなに顔赤くして、あたふたしちゃって...あたふたしたワンちゃん、可愛かったなぁ~。」
狗山「はぁ!? べ、別に、あたふたとかしてねぇし!」
新沼「動画撮ったけど、見る?」
狗山「へ?」
新沼「ほら、これこれ。」
新沼は、スマホを狗山に見せつける。先程の顔を真っ赤に染めた狗山が映し出され、あたふたあたふたしている。
新沼「これ、どう見てもあたふたしてるでしょ。あ~可愛いなぁ~。」
狗山「お、おまっ!? さっさと消せっす!! というか、どこから撮ってたんすか!?」
新沼「で、何かあったの?」
狗山「べ、別になんもねぇって...!」
新沼「あっ、ほら! ここ、ここ!」
「え? ん? え? え!?!? つ、つ、つ、付き合うぅぅぅ!?!?」
新沼「顔真っ赤! かわいぃ~。」
狗山(こ、こいつぅぅ!! 前の仕返しか!? そうなんすか!? というか、なんでこいつはここにいるんすか!? 別に幸先輩とは何にもないっすけど、今後なにかあったら、このネタで永遠といじられる気がするっす!!)
新沼「ねぇねぇ、ワンちゃんってもしかして...部長さんのこと、好きなの?」
狗山「はぁぁぁ!?!? べ、べ、別に好きじゃねぇし!! なんにもないっすよ!!」
新沼「じゃあ、なんでこんな顔真っ赤にしてるの? なんであんな反応してるの? なんで付き合ってって言われて、あんな勘違いしてるの? どうしてかなぁ~?」
狗山(このやろぉぉぉぉ!! ま、負けるな! 負けるなっす!! さっきも自分で言ってたじゃないっすか! 気持ちで負けたらダメっす! 強気でいくっす!!)
狗山「お、お前だって、間宮せんぱーーー」
新沼の手に握られていた甘々オレッ!が勢いよく握りつぶされ、中身が飛び散る。狗山は小さく悲鳴をあげ、慌てて言葉を止める。ポタポタと紙パックから滴り落ちる液体を、狗山はガクガクと震えながら見つめている。
新沼「あっ、勢い余って握りつぶしちゃった。あーあ、勿体無いなぁ...。ワンちゃん、勿体無いから飲んでいいよ。」
狗山「へ? の、飲むって...?」
新沼「ほら、地面に溢れたやつ。」
狗山「い、いや...これは...。」
新沼「頭下げて、すみませんでしたって言いながらペロペロ舐めていいんだよ。ほら。」
狗山「さ、さすがに、それは...。」
新沼「ワンちゃん、お・す・わ・り♡」
狗山「ごめんなさいっすぅぅぅぅぅ!!」
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