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178話「私は友達だと思ってる。あなたはどう思ってるか知らないけども」
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水面 輝:♀ 一年生。バスケ部の部員。
新沼 咲:♀ 一年生。バドミントン部の部員。
ーーーーー
夏休みのとある日。女子バスケ部一年の水面は、部活動のため一人で学校へと向かっている。
水面「...あっ、咲ちゃん。」
新沼「ん? あっ、水面ちゃん。おはよ。」
水面「おはよ。部活?」
新沼「うん。午前だけだけど。バスケ部は?」
水面「私たちも、午前だけ。まぁ、私はその後も残るけど。」
新沼「水面ちゃんは、よく居残り練してるよね。バスケ、すごく好きなんだね。」
水面「まぁね。そういう咲ちゃんも、結構残って練習してない?」
新沼「あれは、練習というか...ワンちゃんが勝負しろ勝負しろってうるさいから、付き合ってあげてるの。」
水面「あぁ、狗山さんね。咲ちゃんと狗山さんって、仲良いよね。」
新沼「まぁ、悪くはないかな?」
水面「あっ、私自販機寄ってくから。じゃあね。」
新沼「うん。また体育館で。」
校門を抜けたところで互いに小さく手を振り、それぞれに別れ歩いていく。
「て、て、ててててて輝ちゃん...!!」
水面「ん?」
自販機へと向かう水面の背後から、震える声で名を呼ぶ一人の女子生徒ーーー水面と同じ一年の手鞠 琴は、信じられないといった表情で水面を見つめながら、ガタガタと大きく震えている。
水面「琴じゃん。はよ。」
手鞠「はよ。じゃないよ!! なんでそんな冷静でいられるの!? どうなってるの!? 言ってみろ!」
水面「は?」
手鞠「酷い酷い酷いよ、輝ちゃん!! 私たち、大がつくほどの親友なのに...それなのにぃぃ...!!」
水面「大は、つかないかな。んで、なに?」
手鞠「あ、あんた...いつの間に我がクラスのアイドル、新沼 咲ちゃんとお話できるようになってたのぉぉぉぉ!?」
水面「...は?」
手鞠「ズルいズルいズルいぃぃぃ! 私だって、咲ちゃんとお話したいってずっと思って過ごしてたのに! それなのに、私に見せつけるように親しげに話しやがって! 輝ちゃんのバカァァァ!!」
水面「見せつけてないわ。あんたがいるって知らなかったし。ってか、話したいなら話せばいいじゃん。咲ちゃん優しいから、うるさいあんたでも話してくれるよ。」
手鞠「うるさいってなんだ、うるさいって!? 私だって、話しかけられるならとっくに話しかけてるよ! でも、話して「なんだ、こいつ? うるせぇなぁ...。」とか思われて、その後スッと避けられるようになってしまったらって思ったら...思ったら...! 結局、話しかけられずに夏休み突入ですよ! うわぁぁぁん!!」
水面「朝っぱらからうるさいんだけど。ホント、あんたはいつもいつも相変わらずだな。」
手鞠「きぃぃぃ! 自分は咲ちゃんとお話しできるからって、余裕ぶりやがって! 輝ちゃんのバカ! こんちくしょう! ズルいズルいズルいぃぃぃ!!」
水面「ってかさ、なんであんた学校来てんの? 補習?」
手鞠「違うよ! 部活だよ、部活!」
水面「部活? 手芸部も、夏休み部活あるんだ。」
手鞠「まぁ、正確には課題一個出されてるだけで、学校こなくてもいいけどね。私は学校の方が集中できるから、学校来てやってるの。」
水面「ふーん。課題って、なに?」
手鞠「作品を一個、なんでもいいから仕上げるってやつ。もちろん、私は服を作ります!」
水面「あんた、服作るのだけは上手いもんね。」
手鞠「だけってなんだ、だけって!! 他にも色々とあるよ! って、おいこら! 話を逸らしても無駄だぞ! 私は忘れないからな! 輝ちゃんが咲ちゃんと話してたこと、忘れないからね!」
水面「ちぃ...めんどくさい...。あんたからウザ絡みされるのしんどいから、さっさと咲ちゃんと話してくれない? 一生のお願い。」
手鞠「こんなところで一生のお願いを使うな! もっと大事なところで使いなさい! それに、私には大きな野望があるの! だから、咲ちゃんとは慎重に距離を縮めていかないといけないのですよ...!」
水面「へぇー。大きな野望ってなに?」
手鞠「ふっふっふっ...! 輝ちゃんも知りたいんだね? そりゃ、私たち大親友だもんね? 大親友がやることは、気になっちゃうよね?」
水面「知りたい知りたい、すごく知りたい。」
手鞠「やれやれ、輝ちゃんってば知りたがり...って、おいおいおい!? どこに行く!?」
水面「自販機。」
手鞠「なんで!? 私の話しを聞け! 私のデッカい野望を聞いてから行け!」
水面「聞いてあげるから、自販機までついて来い。」
手鞠「はーい!」
水面「で、野望ってなに? 咲ちゃんに迷惑かけるようなことはやめなよ?」
手鞠「迷惑じゃない!と思いたい!! 私のデッカい野望...そう、それは...咲ちゃんに、私が作った服を着てもらうこと! きゃ~想像しただけで、ニヤニヤが止まらな~い!!」
水面「あーそれはハードル高いな。」
手鞠「でしょ!? だから、私は慎重にならなければいけないのだ...! うふふふ...待っててね、咲ちゃん...! 私は必ず、あなたに服を着せてあげるからね...!!」
水面「咲ちゃんが全裸で過ごしてるみたいな言い方、やめろ。」
手鞠(M)一方その頃、咲ちゃんは...!!
部室棟、女子バドミントン部の前。
新沼「...っ!?」
狗山「ん? どうしたんすか、新沼?」
新沼「さ、寒気が...。」
狗山「寒気? 風邪でも引いたんすか?」
新沼「そんなのじゃない...。これは、とんでもなくめんどくさいことが起こる気が...。」
狗山「めんどくさいことってーーー」
綾小路「咲ちゃぁぁぁぁん! おはようおはよう! 今日もいい天気だね~! こんな晴れた日は、絶好のデート日和だよ! 部活終わったら、僕とデートしーーー」
新沼は振り返ることなく、迫り来る綾小路の顔面へ手の甲を力任せに打ちつける。
綾小路は鼻から鮮血を撒き散らしながら地面へと倒れ込み、出会って数秒もしないうちにノックアウトされてしまう。
狗山(あーめんどくさいのって、綾小路のことだったんすね~。)
新沼は、倒れ込む綾小路に視線を向けることなく部室へと入っていく。狗山も、ピクピクと小さく震える綾小路からスッと視線を外し、後を追うように部室の中へと消えていった。
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