なんでも探偵部!

きとまるまる

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193話「心霊現象の8割はヤラセだけど、残りの2割はガチだから気をつけて④」

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 なんでも探偵部の部室は未だに明かりがついており、間宮が上半身を起こして漫画を黙々と読み続けている。張間たちの部屋と同様に、カチカチと時計の針が静寂の中鳴り響いているが、間宮は怖がる様子もなく、大きな大きなあくびを一つ吐き出す。


間宮「眠くなってきた...。そろそろ寝よ...。ってか、先輩帰ってくる気配ないし...まぁ、あの人なら大丈夫か。」


 身体を起こし、再度大きなあくびを吐き出す。出ていったきり帰ってこない先輩のことを頭の隅へと追いやり、手にした漫画を本棚へと戻すーーーと同時に部室へ響く大きな音。ドンドンドン!と、戸を強く強く叩く音。先ほどまで冷静だった間宮も、すぐに心臓の鼓動を早め、音のなる扉へと視線を送る。


間宮「せ、せ、先輩ですか...? か、鍵なら自分で開けてくださいよ...!」


 鳴り止まぬ、音。音。音。
耳に微かに届く、女性のすすり泣く声...。


間宮「も、も、も、もしかして...!?」

 「......ぱい......ぶちょぉぉ......!」

間宮「...ん?」


 聞き覚えのある声に、不安をサッと追いやった間宮は扉へと駆けて行く。急いで鍵を開け扉を開けーーー目の前に立っていたのは、ボロボロと大粒の涙を流し、ガチガチに震えている後輩の姿だった。



ーーー



 恐怖に耐えられなくなった張間は、部屋を飛び出し部室へとやってくると、間宮の布団に潜り込み、布団の上であぐらをかく間宮へと抱きつき、顔を埋めガクガクと震えている。


間宮「あの...張間さん...。」

張間「私が寝るまで、寝ないでくださいよ...。」

間宮「わかったよ...。だからーーー」

張間「絶対寝ちゃダメですからね...絶対ですよ...!」

間宮「わかったって。だから、離れーーー」

張間「絶対の絶対の絶対の絶対ですからね!」

間宮「わかったってば!! 寝ないから、離れてくれない!? 一歩も動けないでしょ!?」

張間「動かないでください寝ないでください動かないでくださいぃぃぃ!」

間宮「あぁ、もぉ...わかったよ...。」


 後輩の無理難題を受け入れ、ため息を一つ吐き出す。張間は要求を受け入れてもらえたにも関わらず、未だ震え、すすり泣いている。


間宮「張間さん、大丈夫だから。一人じゃないから。僕がいるから。だから、落ち着いて。」

張間「間宮先輩は、頼りなくて弱々のナヨナヨ星人だから、安心できません...!」

間宮「トイレ行ってくるから、今すぐに離れて。」

張間「やだやだやだやだやだやだぁぁぁぁぁ!!」

間宮「冗談だよ...。」

張間「うぅ......うぅぅ...!」

間宮「やれやれ...。」


 間宮は、腰をガッチリと固定している張間の手に優しく触れる。触れてもなお動こうとしない張間の手に、もう一度優しくトントンと叩く。ゆっくりと力が抜けていく張間の手に自分の手を重ね合わせると、優しくギュッと手を握りしめる。


間宮「大丈夫だから。絶対に離れないから。そろそろ泣き止みなって。」

張間「ぅぅぅぅ...!!」

間宮「よしよし。もう一人じゃないから。僕がいるからさ。大丈夫だよ。」

間宮「張間さん。張間さんがあった子は、かなねぇが言ってたキツネさんだと思う。その子さ、友達だったタヌキが事故でいなくなって、遊び相手がいなくて、独りぼっちで寂しかったんだよ。だから、張間さんに遊んでほしかっただけなんだよ。やり方が、ちょっと怖いやり方だったみたいだけど...悪気はないだろうし、許してあげて。」

張間「し、信じられません...! 許せません...!」

間宮「悪いキツネなんだとしたら、張間さんにもっと酷いことしてるはずだよ。張間さんに何もしなかったのは、やりすぎたって反省してるからだよ。それに、かなねぇも言ってたけど、その子に酷いことされたって人は今までいなかったし、一緒に遊んであげたら何事もなく帰してくれたってさ。だから、ね?」

張間「許しません許しません! すごくすごく怖かったもん!! 怖かったもん...! 一人で...一人でぇ...!」

間宮「よしよし。一人ぼっちは、怖いよね。僕も、一人ぼっちだった時あるから、その怖さはよくわかるよ。」

間宮「さっきも言ったけど、そのキツネもさ、友達がいなくなって一人ぼっちだったんだよ。一人は、寂しくて、怖くて...怖くて、泣きたくなるよね。張間さんが今泣いてるように、あの子もきっと泣いてたんだよ。ずっとずっと。その悲しみを埋めるために、誰かと遊んで、楽しくなりたかったんだよ。でも、キツネだからどうやって遊ぼうって言えばいいのか、わからなかったんだよ。」

間宮「だから、こうやって言わないと怖がられるよって教えてあげて、次はみんなで一緒に遊んであげようよ。張間さんと、僕と、先輩...みんなでさ。人が増えれば、あの子もきっと喜ぶよ。」

間宮「だから、もし次会えたら...怖かった!って伝えて、次からはこうしなさい!って教えて、一緒に遊んであげよ。」

張間「...うん...。」

張間「......間宮先輩。」

間宮「なに?」

張間「...ふと思ったんですけど、部長はどこに...?」

間宮「あれは、バカだからさ。そのキツネに会いに行った。」

張間「......。」

間宮「多分、その子の落とし物だろうって物を拾ったからさ。それを渡しに行ったよ。相変わらずだよね、あの人は...。そういうところは、尊敬するよ...。」

 「あはは~! 捕まえてごらんなさ~い!」

 「待て待て~!」

張間「...間宮先輩。」

間宮「何も聞こえなかった。僕らは何も聞いてない。わかった?」

張間「は、はい...。」

間宮「あの人は、なんかあっても大丈夫だろうし...きっと、張間さんのことも言ってくれてると思う。だから、もう安心して大丈夫だよ。」


張間(M)ニッコリと、私に微笑みかけてくれる。怖がる私を安心させるように、温かく、優しく。

張間(M)私は、間宮先輩のこういうところが大好きだ。あーだこーだ言いながらも、なんだかんだ私を心配してくれて、私のことを想ってくれて、私を支えてくれて。


張間(うぅ...! や、やっぱり...やっぱり寝られない...! 間宮先輩のそばにいるけども、静かすぎて...静かすぎてぇぇ...!)

張間「ま、間宮先輩...起きてますか...?」

間宮「......。」

張間「ま、間宮先輩! 寝ないでくださいって言ったじゃないですか!」

間宮「寝てない寝てない。起きてる。」

張間「嘘吐き! さっき、寝てたでしょ!? 一瞬、寝てたでしょ! 次寝たら、引っ叩いてーーー」


張間(M)ふと、顔を上げる。彼の頬が、叩いてもないのに真っ赤になっている。きっと、眠たいのを必死に堪えて...頬をつねって、寝ないように頑張ってくれてたんだろう。眠いのに、私のことを想って...私のために...。


間宮「ねぇ、張間さん。」

張間「な、なんですか?」

間宮「しりとり、しない?」

張間「え? しりとり?」

間宮「うん。張間さん、僕が静かになると不安になるでしょ? しりとりしてたら、張間さんも多少は気持ち楽になるだろうし、僕の眠気も少しは無くなるだろうし。というか、黙ってたら寝そうだから、お願いだからしりとりして。」

張間「あー! やっぱりさっき寝てたんでしょ!? そうなんでしょ!? 約束ですよ、約束!」

間宮「わかってるわかってる。寝たら引っ叩いて起こしていいから。」

張間「私、本気でやりますからね! 本気ですからね! めちゃくちゃ痛いですよ! 泣くくらいですよ! わかりました!?」

間宮「はいはい。」


張間(M)大きなあくびを一つ吐き出し、リンゴと言った。眠そうな目を擦りながら、ラッパと言った。不安で、恐怖で小さく震える手を握り締めながら、彼は机と言った。

張間(M)不安や恐怖のせいで、止まることのない汗。しりとりをしても、止まることなく出続ける汗。恥ずかしくなるほどに、汗でベタベタになっている手...それでも、彼は握り続けてくれている。今すぐにでも離したいだろうけど、握り続けてくれる。しりとりを続けてくれる。

張間(M)不安や恐怖でいっぱいだった私...でも、今はもうそんなことよりも、申し訳ない気持ちや、恥ずかしい気持ちやらでいっぱいになってきた。私のために、ここまでやってくれて...私のために...本当に申し訳ないし、恥ずかしいし...嬉しい気持ち。

張間(M)不安や恐怖で冷たかった私。冷たくなった私。でも、今はもうあったかい。ポカポカしてる。身体中、ポカポカしてる。

張間(M)布団をかぶってるから、ポカポカしてる。夏だから、ポカポカしてる。あったかい間宮先輩のそばにいるから、ポカポカしてる。

張間(M)間宮先輩といるから、ポカポカしてる。


間宮「んーー......栗...は、まだ言ってなかったよね? 栗。」

張間「......。」

間宮「...張間さん? 栗だよ、栗。り、だよ。」

張間「......。」

間宮「張間さん?」


 トントンと、軽く張間の頭を叩くが、張間は反応することはない。返事の代わりに微かに聞こえてくる、可愛らしい寝息の音。


間宮「...やっと寝た。このまま寝なかったら、どうしようかと思ったよ...。」

張間「...まみ...や...せんはい...。」

間宮「ん? なに?」

張間「......んふふ...。」

間宮「...どんな夢を見てんだか? さてと、僕もそろそろ寝よ...。」

間宮「...さすがに、張間さんと一緒の布団で寝るのはなぁ...。ソファー...は、先輩が寝るだろうし。というか、あの人まだ帰ってこないな。大丈夫なのか...?」

間宮「...まぁ、先輩なら大丈夫か。どうしよう...一日くらい、床で寝ても大丈夫か。」

間宮「張間さん、動くからちょっと退いてくれる? 寝てるところ悪いんだけど。」

張間「むにゃむにゃ...。」

間宮「やれやれ...起こさないように、ゆっくりとーーー」

関「傑くーーん! 起きてますか~!? いや~凄かったですよ! 私、夢を見ている気分でした! でも、ここは現実です! そう!! 私は、あ...の......。」

間宮「ちょっ、静かにしてくださいよ! せっかく張間さんが寝たのに、また起きたらどうするんですか...!」

関「......。」

間宮「もし起きたら、今度はあんたが相手してあげてくださいよ。全然寝てくれなくて大変だったんですから...。」

関「......。」

間宮「...なんですか? 何か言いたげですね? とにかく、話の続きは明日起きてからにしてください。僕、もう眠くて眠くて...。」

関「いやいやいやいや、寝る前にやることがあるでしょうよ、あなた。」

間宮「なんですか? あぁ、今日は床で寝るんで大丈夫ですよ。ソファー変わってくれるのならありがたいですけど。」

関「...君が、こんなことする人間だとは思いませんでしたよ...。」

間宮「...はい?」

関「今日見た、どの七不思議よりも...先ほど起こった夢のような出来事よりも...今、この状況に勝る驚きはありませんよ...。私は、君のことを信用していたのに...!」

間宮「あ、あの...何言ってんですか?」

関「真面目で、心優しい君が...傑くんが...張間くんを連れ込むなんて...! し、信じたくない...信じたく...!」

間宮「...え?」

関「...これは、傑くんだけの責任ではない。先輩として、後輩を正しい道へ導けなかった私にも責任がある...! 現実を見ろ、関 幸...目を逸らすな、関 幸...!」

間宮「ちょっ、待ってください待ってください! もしかして、変な勘違いしてませんか!? いや、してますよね!?」

関「傑くん...未遂とはいえ、さすがにこれは笑える話ではありませんよ。むしろ、笑って誤魔化そうとするならば、私は心を鬼にして君をぶん殴らないといけない...。」

間宮「違いますよ!! 僕じゃなくて、張間さんが自分からここに来たんですよ! 怖くて眠れないからって!」

関「間宮 傑!! 自分のしでかしたことを相手になすりつけるなど、言語道断! 自分の罪と、しっかり向き合いなさい!」

間宮「本当ですってば! 信じてくださいよ! は、張間さん! 寝てるところ悪いけど、起きて! そんで、説明して! 僕のためにも、張間さんのためにも!」

張間「うふふふ...まみやせんは~い...。」

関「さぁ...正直に全てを話しなさい...! 正直に全てを話し終えるまで、眠られると思うなよ...!」

間宮「だから、誤解ですってばぁぁぁぁ! 張間さん、お願いだから起きて説明してぇぇぇぇぇ!!」

張間「えへへへ...んふふ~...むにゃむにゃむにゃ...。」
















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