なんでも探偵部!

きとまるまる

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195話「良かれと思ってやった行為も、人によっては全然嬉しくない②」

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 体育館へと戻った三人。水面と泉は、休憩時間にも関わらずコートに立ち、休みもせずに1on1をしている。
水面がキレのある切り返しで泉をかわし、ゴール下へと駆けていく。


泉「させるかぁぁぁぁ!!」


 抜かれはしたものの、諦めずに水面を追いかけ、シュート体制に入る水面の背後からグッと手を伸ばし、ボールを勢いよく弾く。


泉「よぉぉし! どうよ、輝! 参ったか!?」

水面「ちぃ...! ディフェンス星人...。」

泉「舌打ちをするな! あと、ディフェンス星人ってなによ!? もしかして、ディフェンスだけっていいたいの!? 攻めも守りもできるってところ、見せてあげるわよ! 攻守交代!」

沖「おーおー、休憩時間なのによくやるよ。」

氷見士「ねぇ~。熱いね~。」

波江「......。」


波江(M)私たちの代も、その上の代も、そんなやる気のあるメンツではない。だから、練習も気合い入れてやってるわけでもなかったし、練習試合なんて一度もやってこなかった。それくらい、やる気なんてなかった。それもそのはず。私たちも、先輩たちも...皆が皆、一回戦で姿を消すような、凡人だったから。才能なんてない、凡人の集まりだったから。


泉「くっ...! このっ...!」

水面「隙あり。」

泉「あぁ!? ちょっ、バカ!」

沖「あーあ。」

氷見士「翼ちんの負け~。」

泉「くっ...悔しいぃ...!」

水面「ふっ...! ディフェンス星人。」

泉「鼻で笑うな、鼻で! あと、ディフェンス星人いうな!! ってか、あんただってシュート決めれてないから、私と同じだからね!? わかってんの!?」

水面「次決めるんで、安心してください。」

泉「やらせるわけないでしょ! 攻守交代!!」

沖「待って待って。私らも混ぜて~。」

氷見士「さぁ、水面ちん。私たちの友情パワーで、あの二人をボコボコにしようぜ。」

沖「ちょっと、輝は私と組むんだけど。勝手に取らないでよ。」

氷見士「ふむ、仕方ない。それでは、ジャンケンで負けた方が翼ちんと組むで。」

沖「オッケ~。絶対に負けないから。」

氷見士「ここで負ければ、勝負は決まったも同然...! 絶対に負けられないぜ...!」

泉「あんたたち、お荷物扱いされてる私の気持ちを考えろ!! ってか、あんたたちよりは上手い自信あるから! 舐めんな!」


波江(M)凡人の私たちが、どれだけ努力しようと追いつけるわけがない。才能というものを持たない私たちが、どれだけ懸命に走ろうが、追いつけるわけがない。だから...無理だってわかってることに、どうしてここまで時間をかけられるのか、私には理解ができない。

波江(M)どれだけ練習しようが...私たちは...私は...。



 とある市民体育館。中学最後の大会に挑んでいる波江ーーードリブルで目の前に立つ相手を見事にかわし、ゴール下へと勢いよく駆けていく。


波江(よしっ! いける...!)


 膝をグッと曲げ、飛びあがろうと身体を浮かせるーーーが、浮き上がりきる前に手にしていたボールは、簡単に手で弾かれる。


波江(嘘っ!?)


 波江のボールを弾いた少女は、素早くボールへと辿り着き手に取ると、スピードをさらに加速させゴールへと駆けていく。我が道を遮る選手たちを、何事もなかったかのようにかわしていき、当たり前のように軽々とボールをリングへと投げ入れる。


観客A「また決めたよ...! これで、30点目だぜ!?」

観客B「やっぱ別格だよな、嵐山あらしやまは。レベルが全然違うよ。」

観客A「あいつ、男子に混ざってもやっていけるだろ。無茶苦茶すぎんだろ。」

観客B「高校も、あの成宮なるみやに声かけられて入るんだろ? ヤバすぎだろ。」

観客A「ただでさえ強いのに、嵐山まで入ったらエグすぎだろ...どこも勝てねぇだろ、成宮学園に...。」

観客B「ってか、一回戦からあんな化け物と当たって...可哀想だよな。」

観客A「一方的すぎて、見てらんねぇよ...。」


波江(M)どの世界にも、才能というものは必ずある。そして、それは誰しもが持てるわけではない。選ばれた人たちしか、持つことが許されないもの...。


チームメイトA「あーあ、負けた負けた。」

チームメイトB「ボコボコだったね~。」

チームメイトA「あんなの、勝てるわけないじゃん。私、途中からもう諦めたし。」

チームメイトB「真面目にやるだけ、時間の無駄だよね~。」

チームメイトA「うんうん。あーあ、私の三年間、なんだったんだろ?」

チームメイトB「なんか、練習してたのがバカらしく思えてきた。ってかさ、最後の試合だってのに、涙一つも出ないんだけど。」

チームメイトA「私も私も! むしろ、笑えてくるよね!」

チームメイトB「あんな真面目に練習してきたのに、なんにもさせてもらえなかったし! マジでなにしてたんだろね、私たち!」


波江(M)真面目に、毎日、コツコツと、必死に...頑張って頑張って頑張ったのに......一際輝く才能の前では、私なんて見えなくなる。いなくなってしまう。努力なんか、無かったことにされてしまう。

波江(M)どれだけ必死こいたって、凡人わたしたちはあの才能ひかりの前では、輝くことなんてできないんだ。


氷見士「はい、ドーンッ!」

沖「あっ!?」

泉「何やってんのよ、桃香!」

水面「氷見士先輩、ナイススティールです。」

氷見士「えへっ、水面ちんに褒められちまったぜ。私、強いわ。マジで。」

沖「もぉ~ムカつくぅ~! 私も輝に褒められたいんだけど! 次は、華麗に抜き去ってやるわ!」

氷見士「いつでもかかってきんしゃい。」

沖「ごめん、日奈子! ボール、とって!」

氷見士「へいへい、私にパスパース!」

波江「......。」


 波江は転がってきたボールを手に取ると、氷見士たちにパスすることなく、ドンドンと床に叩きつけ始める。


沖「おっ?」

氷見士「いいねいいねぇ~。」


 顔を見合わせ、ニヤリと微笑む二人。ボールと受け取る体勢を崩すと、素早く波江へと距離を詰める。


沖「さぁ、ジュース一本...! かかってこい!」

氷見士「私たちを抜けると思うなよぉ~? 特に、水面ちんに褒められた私をーーー」


 波江は、やれやれといった表情を崩すことなく、大きく開かれた氷見士の股下へとボールを叩きつける。


沖「嘘ぉぉ!?」

氷見士「マジですかぁ!?」

泉「こっから先は、簡単じゃないわよ!」


 華麗に股下から二人を抜き去った波江は、次に立ちはだかる泉の前で急激にスピードを落とし、右へと切り替える。泉も負けじと波江の切り返しに追いつき、抜かせまいと立ち塞がるーーーが、波江はそこからさらに左へと切り返し泉を抜き去っていく。


泉「あれぇぇぇ!? ちょっ、待っーーー」


 泉の静止を聞き入れることなく、ゴールめがけて駆けていく波江。最後に立ちはだかる水面の前で、泉の時と同じようにスピードを落とし、左へ右へと切り返す。しかし、水面は惑わされることなく、ピタリと動きに合わせて道を塞ぎ続ける。
目を細め、圧をかけ続けてくる目の前の後輩。遊びではないと、圧をかけ続けてくる後輩。


波江「...マジじゃん。」

水面「マジです。」


 思わず、笑みをこぼす波江ーーーキュッと床を鳴らし、後方へと下がる。


水面(スリー...!?)


 3ポイントラインから少し遠いところにも関わらず、波江は膝を曲げ飛び上がる。手から離れたボールは、高く高く浮き上がりゴールリングへと向かっていく。
ガコンッ!と、端に当たり大きく跳ね上がるボール...リングを外れることなく、中央へと吸い込まれていく。


波江「危なっ...。」

沖「はへぇ~。やっぱ日奈子は上手いねぇ~。」

氷見士「レベルが違いますわ。」

泉「真面目に練習すれば化けるでしょ、絶対...。」

波江「ほら、バスケで勝負したら、私が勝つに決まってるでしょ? だから、勝負はバスケ以外ね。」

氷見士「おーおー、私たち舐められてますぜ、桃香の旦那ァ。」

沖「こりゃ、むしろやるっきゃないでしょ! 買ったらジュース二本でね!」

波江「なんでそうなんのよ!? 二本は絶対に嫌だからね!」

水面「......。」

波江「...なによ?」

水面「...もう一回、お願いします。」

波江「休憩終わったらね。私は、あんたらと違ってしっかりちゃんと休みたいの。熱くないのよ、私は。」

水面「わかりました。休憩後、お願いします。」

波江「ったく...あーやだやだ。暑苦しい...。」

泉「ね、ねぇ...日奈子...!」

波江「なに?」

泉「お、教えてよ、私に...!」

波江「なにを? ドリブル? あんた、下手じゃないんだから、私が教えることなんてないわよ。」

泉「違う違う! 輝のこと!」

波江「水面のこと? どゆことよ?」

泉「だって、ほら! 私には、いつもいつもあーだこーだ言ってくるのに、あんたにはなにも言わないし素直に言うこと聞くじゃん! 一体、輝になにしたの...!?」

波江「いや、教えるってそっちかい!! 何もしてないわよ!」


波江(M)私なんかがどれだけ努力しても、上には行けない。階段を上がっても上がっても、行く手を阻む扉が現れ、開けられない。その先へ上がってはいけない。だから、努力れんしゅうなんてしたくない。したって時間の無駄だから。


 「みんな~! 聞いて聞いて~!」

沖「ん? あっ、りっちゃん。」

氷見士「りっちゃん、どったの?」

 「ま、まず、りっちゃんって呼ぶのはやめてってば! 私、こう見えても一応先生なんだよ!? 香川かがわ先生、もしくは里穂りほ先生って呼んで!」

沖「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん。」

氷見士「話の続きを、どうぞ~。」

香川「もぉ...。」

泉「それで、どうしたんですか?」

香川「そうそう! みんなに嬉しい報告があります!」

泉「嬉しい報告?」

香川「決まったよ! 練習試合!」

沖「え!? マジ!?」

氷見士「おぉ~ついにですか~!」

波江「何気に高校初よね。」

泉「さすが、りっちゃん!」

香川「最近、みんなすごく頑張ってるからね! 先生も、気合い入れて頑張りました!」

水面「ありがとうございます、香川先生。」

香川「いいのいいの! 私、バスケのことはさっぱりだから、これくらいしかみんなのためにできることないし! こういうことでよかったら、いつでも頼ってね!」

沖「練習試合とか、中学ぶりだわ~! ワクワクしてきた!」

氷見士「ねぇ~ワクワクドキドキが止まりませんよ~。」

波江「ちなみに、相手はどこですか?」

香川「白星はくせい高校!」

部員たち「......。」

香川「...あ、あれ? どうしたの、みんな?」

泉「あ、いや...えっと...。」

沖「りっちゃんに問題です。私たちは、この前の試合、何回戦負けでしょうか?」

香川「も、もちろん覚えてるよ! 一回戦で負けた! で、でも、すごく惜しかったよ! みんな頑張ってたのは、先生にしっかりちゃんと伝わってたから! だから、落ち込まないでね!」

氷見士「え~続いての問題です。その大会で、優勝したのはどこでしょう?」

香川「もぉ~バカにしないでよ! 先生だって、わからないなりに勉強してるんだから! 優勝したのは、成宮学園! あの子...あの...とっても可愛い子! すごく強くて、高校No. 1って言われてるんでしょ!? 私も、ちらっと見たけど、すごかった! ボールがね、ピューンって! まるで生きてるみたいだった!」

沖「それでは、最後の問題で~す。」

氷見士「成宮に負け、惜しくも準優勝となった高校は、どこでしょうか~?」

香川「練習試合してくれる、白星高校!」

沖「大正解~。」

氷見士「おめでとうございま~す。」

波江「あんたは、バカかぁぁぁぁぁぁ!!」

香川「ひぃぃぃ!?」

波江「なにしてんの!? なにしてくれてんの!? 私ら一回戦負けのチームが、準優勝高に勝てるわけがないでしょうが!! やる前から勝敗が見えてんでしょうが!!」

香川「そ、そんなことないよ! 勝負は、やってみなきゃわからないよ!? それに、練習試合なんだし、強いところとやった方が成長できるでしょ!? ね!?」

波江「こんなの、ミニバスがプロに挑むようなもんよ!? 成長どころか、力の差を目の当たりにして絶望コースよ! 私たちなんて...コースまっしぐらよ!?」

泉「りっちゃん...もしかして、上から順に電話かけたの...?」

香川「すごい、よくわかったね! 泉さん!」

泉「やっぱり...。ってか、成宮に練習試合申し込むって、メンタル強すぎない...?」

氷見士「ねぇ~。」

沖「ヤバすぎでしょ~。」

水面「ってか、白星もよく練習試合なんて受けてくれましたね。私らなんかと。」

沖「それな~。」

氷見士「な~。」

香川「水面さん、私らなんかとか言っちゃダメだよ! 白星さんも、喜んで受けてくれたんだから!「私らも、一年だけでどこまでやれるか知りたかったので、お声かけしていただき、むしろありがたいです。」って!」

波江「めちゃくちゃに舐められてんじゃん! 一年だけで!? 一回戦負けだからって、それはどうなのよ!?」

香川「あ、あと、「当日、私ら監督、コーチ含めて遠征でいないので、一年生だけでお迎えすることになるんですが...いいですか?」って言ってたけど、別にいいよね?」

波江「ガチで一年だけじゃん!? ガチガチの一年だけじゃん!? むしろ、そこまで舐められてんのに、よく練習試合組めたわね!? 教え子がめちゃくちゃバカにされてるのに、悔しくないの!?」

香川「え、えっと...練習試合の電話とか初めてだったから、こんなものなのかなぁ~と思いまして...。」

波江「この、バカぁぁぁぁぁぁ!!」

香川「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!!」

泉「なんか、とんでもないことになったわね。」

沖「ねぇ~。面白いくらい舐められてんじゃん~。」

氷見士「笑っちゃうわ~。」

二年組「あははは~。」

波江「おいこら、そこぉぉぉぉ!! 笑ってんじゃないわよ! めちゃくちゃに舐められてるわよ!? 一年よ!? 後輩よ!? 歳下よ!? このままでいいの!?」

泉「いや、だって...ねぇ?」

沖「仕方なくない? ねぇ?」

氷見士「私らも頑張ってますけど、これが現実ですよ。ねぇ?」

波江「あのクソ...! 強豪だかなんだか知んないけど、やっていいことと悪いことがあるわよ...! 絶対に許さないから...!」

香川「え、えっと...断った方がいい...?」

波江「断らなくていい!! 私たちを舐めたこと、後悔させてやるんだから!! あんたたち、いつまで休んでんのよ!? 練習するわよ!!」

沖「おっ! 日奈子が燃えてるじゃん!」

氷見士「珍しいこともあるもんですなぁ~。」

波江「あんたたち! 特に、そこの二人! 並べ! 私が、今日からみっちりと教えてあげる! 一年やろう共に舐められてんじゃないわよ!」

沖「は~い。」

氷見士「ご指導、よろしくお願いします~日奈子先生~。」

波江「絶ッッ対に、あのクソ強豪バカ共を見返してやるわよ! いい!? わかった!?」

沖・氷見士「よろしくおねしゃ~す!」

水面「香川先生、練習試合ありがとうございます。」

香川「あ、いや...むしろ、ごめんなさい...。もっと同じくらいのレベルの方がよかった...というか、いいよね? その方が...。」

水面「いえいえ。先生の言うように、相手が強い方が成長できますし...強ければ強いほど、燃えますから。」

香川「み、水面ちゃん...カッコいい...! よ、よーし! 私も、一度の失敗なんかでへこたれないよ! 私だって、みんなのためにバスケの勉強してるんだから! もしわからないことがあったら、遠慮なく聞いてね!」

泉「ありがとうございます、私たちのために勉強してくれて。」

香川「いいのいいの! 私がしたくてやってるんだから! 昨日は、アレ覚えたよ、アレ! ボールを持った状態で歩いたら、トラブルメーカーとかなんとかいって反則になるってやつ!」

泉「......りっちゃん、練習は私たちに任せて、まずはルール覚えてね。」

香川「そ、そんなこと言わないで! 私を頼って! お願いだから! ねぇってばぁぁ!」


波江(M)私は、バカにされたっていい。諦めたし。歩くのをやめたし。

波江(M)でも、まだ一生懸命に、がむしゃらに、必死こいて努力してはしってる後輩を、友達を、親友をバカにされるのは、腹が立つ。ムカつく。絶対に許さない。

波江(M)私が練習する理由は、そんなもんでいい。自分のためじゃない。誰かのため。そんなもんで、嫌な練習を、やりたくない練習をやるんだ。

波江(M)そんなもんでしか、私はもう努力できはしれないんだ。
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