なんでも探偵部!

きとまるまる

文字の大きさ
上 下
298 / 330

298話「努力は見えるもんじゃない②」

しおりを挟む

 狗山vs関のバドミントン勝負が始まってから、数十分後ーーー


狗山「ふっ...!」


 スマッシュをするには難しい体勢だったにも関わらず、狗山は強引に打ち上がったシャトルを振り抜く。
本来の速度よりは遥かに遅いものの、初心者が触るには厳しいと思われる速度ーーー


関(いける...!)


 関は左ラインへ向かって突き進んでいくシャトルへ、足を、腕を伸ばし、初心者とは思えない反応スピードで迎え打つーーー


関「あっ...!?」


 いくら反応しても、バドミントンをする身体に仕上げてない自身の身体は思い描いていた動きをすることはなく、予想していた距離まで腕は伸びず、本来ラケットの中央で受けるはずだったシャトルは遥か先でガットと衝突し、フラフラと力なく狗山のコート上へと打ち上がっていく。


狗山「おっしゃぁぁ! もらったぁぁぁ!」


 ニッと口角を上げ、滴る汗をコートに撒きながら素早く落下地点へとステップしていく。
膝を曲げ、飛び上がり、教科書通りの綺麗な体勢でスマッシュを叩き込むーーー

先ほどとは比べ物にならない速度ーーー初心者の関が反応できるはずもなく、シャトルは力任せに関のコート上に叩きつけられると、勢いを止めることなく転々と後方へと転がっていく。


狗山「しゃぁぁぁ! これで俺の勝ちっす!!」

関「あぁぁぁぁ~...負けましたかぁ~...! 羽和くん、強いですねぇ~...!」

狗山「まぁ、バド部っすからね! 毎日練習してますからね! ふふんっ...!」

関「21対6ですか。思っていた以上にボコボコにされて、私悔しいです...!」

狗山「いやいや、体育程度にしてはめちゃくちゃすごいと思いますよ!」

関「そんな慰めはいらないわ! もっと私を貶しなさいよ!」

狗山「いや、さすがにそんなことはしないっすよ。」

関「さすが、羽和くんは優しいですね~。これが張間くんだったら「やーいやーい!部長の雑魚~!あっはっはっは~~!」とか言ってますよ、きっと。」

狗山「彩香ならいいそうっすね、それ。めちゃくちゃ煽ってきそうっす。」

関「いやしかし、これほどに強い羽和くんでも、あの新沼くんにはボコボコのフルボッコにされるだなんて...。信じられませんよ、ほんと。上には上がいるものですねぇ。」

狗山「ちょっ、今は新沼の話はしなくていいっす! あと、ボコボコのフルボッコにはされてないっすよ!負けは負けでも、僅差の負けっす!」

関「ではでは、直近の勝負内容を細かく教えていただけますか、羽和くん?」

狗山「あーそれは...俺、飲み物買ってくるっす!」

関「逃げるな、この卑怯者!」

狗山「うるさいっす!今は勝ちの気分に浸らせてほしいっす!」

狗山「あっ、そうだ! 幸先輩、何飲むっすか!? 今日、付き合ってもらったお礼に、俺が奢るっすよ!」

関「いいんですか? では、お言葉に甘えちゃいましょうかね?」

狗山「はいっす! ガンガン甘えてくださいっす!」

関「では、羽和くんと同じものをいただけますか?」

狗山「了解っす! すぐ買ってくるんで、待っててくださいっす!」

関「そんな急がなくても...って、もう行ってしまいましたか。羽和くんは、ほんと元気な子ですねぇ~。」



ーーー



 自販機で炭酸飲料のペットボトルを二つ購入した狗山は、ニコニコと笑みを浮かべながら関の待つ体育館へと歩を進めている。


狗山(いや~まさか幸先輩とバドミントンできるだなんて、今日はツイてる日っす! 探偵部に顔出して、ほんとよかったっす!)

狗山(にしても、幸先輩マジで上手いよなぁ。体育の時にやってた程度とは、思えないっすよ。これが天才というやつっすか…才能があるってのは、ほんと羨ましいっす。)

狗山(幸先輩が探偵部じゃなくてバド部入ってたら、絶対全国常連で優勝とかもしちゃってたんだろうなぁ~。んでもって、カッコいいとかでめちゃくちゃモテてたんだろなぁ~。)

狗山(考えれば考えるほど、すごい男っす。幸先輩は。)

狗山「幸先輩~!飲みもん、買ってきたっすよ!」

関「ありがとうございます。」

狗山「ん?幸先輩、なんか見てんすか?」

関「えぇ、バドミントンの動画を。先ほど上手くできなかった部分を中心に勉強してます。」

狗山「……。」

関「羽和くん、どうしました?」

狗山「幸先輩、もしかしてっすけど…体育の時も、やる前は動画とか見て勉強してんすか?」

関「えぇ、もちろん。できる範囲でしっかり予習してますよ。何事も、中途半端にするのは嫌いなんですよ、私。」

狗山「……幸先輩、すんませんっす。」

関「ん?なにがだい?」

狗山「俺、幸先輩はなんでもできる天才だって思ってたっす。でも、本当はそんなことなくて…何事も、しっかりちゃんと準備というか…時間かけて努力してる人なんすね。それを、天才だなんて簡単な言葉で片付けて、努力してないって決めつけてたというか…その…。」

関「…ふっ、あはははは!」

狗山「んなっ!?なんで笑ってんすか!?」

関「羽和くんは、本当にいい子ですね~。別に謝らなくてもいいことですし、そもそも本人に言わなくてもいいじゃないですか。それを素直に伝えて…本当にいい子ですねぇ~!」

狗山「なんか、バカにされてる気がするんすけど!?バカにしてます!?」

関「バカになんてしてませんよ。いい子だって褒めているんです。素直に受け取ってください。」

狗山「そ、それならいいんすけど…。」

関「努力ってものは、他人に見せつけるものではないと思いますけど…なにもしてないって思われてしまうのは、人にとっては嫌なことかもしれませんね。」

狗山「そ、そうっすよね…すんません…。」

関「謝らないでください。私は、嫌とは思いません。むしろ、嬉しいですよ。なんでもできる天才だと思ってもらえてるってことは、それまでにしてきた努力が身を結んでいるとすごく実感できますから。もっと頑張ろうって思えますよ。」


狗山(M)俺の目に映る幸先輩は、頭が良くてかっこよくて、なんでもできちゃうすごい人。俺なんかじゃ到底追いつけないところにいる、天才だ。

狗山(M)でも、幸先輩は天才なんかじゃなかった。何事もしっかり努力して準備して、遊びだって授業だって、何事にも手を抜かない努力の人だって知った。

狗山(M)何事にも手を抜かず、努力する先輩を見て...カッコいいなって思った。前々から思ってたけど、もっともっと前よりもカッコいいなって。

狗山(M)そんで、なんかわかんないけど...あんなに遠くにいた幸先輩が、ちょっと近くにいるように思えた。俺なんかでも、手が届くところに。


 バドミントンを終えた二人は、学校を出て帰路を歩いている。


狗山「今日は、ほんとありがとうございましたっす!幸先輩!」

関「いえいえ、こちらこそ。私でよければ、また声かけてください。」

狗山「もちろんっす!また声かけさせてくださいっす!」

関「次やる時は、負けませんからね? 来る時に向けて、今日からコッソリ特訓でも始めましょうかねぇ?」

狗山「してもいいっすよ!その分、俺もコソ練して備えておくんで!」

関「では私は、羽和くんがやるコソ練の分も上乗せして、さらにコソ練をーーー」

狗山「じゃあ俺も、幸先輩がやるコソ練の分コソ練プラスして、それにもう一つコソ練をプラスするっす!これなら、追いつけないっすね!」

関「羽和くんや、大事なのは量ではなく中身ですよ。」

狗山「それはそうかもっすけど、今それ言うのはずるいっす!」

関「ずるくないで~す。羽和くん、私はこの後コンビニに寄りますけど、羽和くんはどうします?」

狗山「俺も行くっす!」

関「では、何か一つ奢ってあげましょう。飲み物をくれたお礼です。」

狗山「いいんすか!?ありがとうございます!」

関「ただし、コンビニ一つ!とか言うのはやめてくださいよ?常識の範囲内で選んでくださいね。」

狗山「そんな常識外れなこと言わないっすよ!」

関「いやね、私の近くにいる一年女子は、平気で常識外れなこと言ってくるのでねぇ~。」

狗山「あ~彩香なら平気で言いそうっすね。」

関「私、張間くんとは一言も言ってないですよ? なるほどなるほど、羽和くんの中では張間くんはそのようなキャラなんですねぇ~。」

狗山「あっ、ずるいっす!それは流石にずるいっすよ、幸先輩!!」

関「あっははは~。」


狗山(M)なんか、改めて思った。

狗山(M)幸先輩と一緒にいるの、すごくすごく楽しいなって。
しおりを挟む

処理中です...