銀髪の魔女

夢花音

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1章 大いなる力と試練

19話 彩子の力 リオの決意と覚悟

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静香の住む3LDKのマンションは広々として快適だ。玄関から入ると、左手には南向きの大きな窓を持つリビング・ダイニングが広がっている。ソファとコーヒーテーブルが置かれ、6人掛けのダイニングテーブルもある。静香はため息をつきながらソファに腰を下ろし、青年を厳しい目で見つめた。

リオは少しだけ肩を竦めると、黙ってキッチンでお茶を入れ始めた。

「ちょっと! あなた勝手に人の家のキッチンで何するのよ!」静香は立ち上がり、キッチンに走った。

「触らないで!」

青年は「いいから、いいから」と言いながらお湯を沸かし、急須と湯呑みを取り出した。

お茶の葉を入れようとして、青年は少し眉を顰めた。

「いやね~静香ぁ。お茶葉は無くなったから足しといてって昨日言ったでしょ?」

そう言うと、キッチンの棚から新しいお茶葉を出して缶に足していた。

静香は言葉も無く青年を見つめていた。

何故?どうしてわかるの?急須も湯呑みもお茶の葉も……。

その時、部屋の中の空気が変わり、玄関の前で感じた気配がソファのあたりに移った。

じっと見ていると、ソファの中間がグニャリと歪んだかと思ったら、人の形になり始めた。

18歳くらいの白いシンプルなワンピースを着た少女が、銀髪の少しウエーブのかかった長い髪をかきあげ、黒い瞳で静香を見ていた。

「!」静香は息を呑んだ。

この子がアレ、なの?静香はまた混乱した。

静香の頭に声が響く。『静香。落ち着け。とりあえず座れ』

その言葉が終わると同時に、静香はソファに座っていた。

隣には銀髪の少女がいる。

得体のしれない怖さにガタガタしていると、テーブルにお茶が静香の湯呑みで出された。

顔を上げると、青年と目が合う。

そうだ。こっちも問題なんだっけ、と頭を抱えた。

しかし見知らぬ青年だけど、なぜか既視感があるような気がする。

『まず、私を知ってもらおう』と頭の中の声がそう告げた。

そこにまた、「ねぇ~彩子ぉ~普通に話せないのぉ…」とルビーナの声が聞こえた。

「そうだ! ルビーナの声」静香は叫んだ。

『普通に話せばいいのか? わかった』

銀髪の少女はそう言うと話を続けた。

静香は何か言おうとしたが、口をひらけなかった。

銀髪の少女は、自分は大魔女ミリディアの後継者だと静香に伝えた。

そして、後継者になってからルビーナと修行したことや、女神たちの試練に立ち向かったこと、麒麟の試練、そして森羅万象を手に入れて自分がいる世界の崩壊を知ったことを話した。

さらに、ルビーナが妖精になり、精霊に成長したことを説明した。

その時に新たな名前をリオとしたことも説明した。

リオが自分たちの世界で精霊王になれる存在でありながら、静香のいる世界で人間として生きたいと望み、青年の姿になったことを淡々と話した。

静香は青年を見つめた。

先ほどから口をひらけなかったが、今は違うようだ。

「ルビーナ、なの?」と青年に問いかけた。

青年はにっこり笑って頷いた。

静香は力が抜けたようにソファにへたり込んだ。

そして、わかったというように頷いて、目の前にいる青年を見た。

それから、おもむろに隣に座る銀髪の少女に視線を向けた。

理解はできたものの、ルビーナが人間になったことはどう納得していいかわからなかった。

嬉しい。確かに嬉しいのだが、どう接したらいいか戸惑っていた。

静香の戸惑いに答えて彩子が話を始めた。

彩子にとって、リオはルビーナであった頃から大切な家族だった。彼女はリオに側にいてもらいたく、精霊王になることを望んでいたことを静香に伝えた。

そして、ルビーナが人間になったことはリオの希望だったこと。

彩子はリオが人間として生きていくために静香に頼みがあると伝えた。リオが望んでいるように一緒に暮らしてくれないかと彩子に伝えた。

静香は彩子の話をじっと聞いていたが、話が終わると少し考え込んで口を開いた。

それは……と言いかけて言葉を飲み込んだ静香は、青年と彩子を交互に見た。

青年は微笑んでいる。

彩子は無表情のまま静香を見つめていた。

静香は簡単な事ではないわ。と言った。彩子は「私が、いるだろう」と告げた。静香はとりあえず話を聞いてから考えさせてほしいと答えた。

彩子は頷くと、自分がいない方が良いだろうとさっさと空間に消えた。

青年と静香は、彩子が消えた後もリビングで話をしていた。

消えたと言っても、彩子はどこにでもいるし何でも知っている。

しかし青年は、そこまで静香が理解できなくてもいいと思っていた。

青年はリオと名乗り、少女を彩子と呼んだ。

二人はソファに座り、向かい合わせで話していた。

リオはコーヒーを飲みながら話を始めた。

「コーヒー飲んでみたかったのよぉ~。静香、いつも美味しそうに飲んでいたじゃない?」

静香はこめかみを押さえた。

青年は、リオは確かに人間の男性となったのだろう。

しかし、口調がルビーナのままなのだ。

違和感がありすぎる。ルビーナの頃にいつの間にか、こんな話し方をするようになって、慣れてしまっているけど、人間としてのリオ【ルビーナ】にはまだ、戸惑っている状況で、口調や仕草はルビーナのままなのだ。

こめかみをもんでいると、「どうしたの?」とリオが尋ねた。

自分が人間になったことや女神たちの試練のことを話した後、自分のいた世界の話をした。

静香は聞いた。「彩子さんとは一緒にいなくても良かったの?」と尋ねると、「あら? 一緒に居るわよ~いつでもどこでも!」とリオが答えた。

「簡単に言うとね、彩子は時空も超えていつでもそこに居るのよ。」

静香は首を傾げた。「良く分からないわ」と言うと、リオは「まぁ、しょうがないわねぇ」と言って、「ちょっとぉ~彩子、なかなか難しいわぁ」と空間に向かって叫んだ。

頭の中に彩子の声が響く。『説明は間違っていない。』

リオが「彩子の存在を説明できなくて」と言うと、突然空間に黒い渦が現れ、中から小さな犬が飛び出してきた。

静香は「可愛い」とひとしきり撫で回すと、犬は身震いをして大きな大蛇に変わった。

驚いて悲鳴を上げる静香。

蛇が2、3回頭を振ると、10歳ぐらいの黒髪の女の子になった。

静香は驚きのあまり言葉を失った。

目の前に現れた女の子は、蛇から変わったとは思えないほど愛らしい顔立ちをしている。

彼女は黒い髪をふわりと揺らしながら、静香の目をじっと見つめていた。

「静香。私は彩子の一部」と女の子は無表情な顔で告げた。

静香は思わず立ち上がり、その不思議な存在に一歩近づいた。

「あなたが、彩子さんの……? でもさっきとは全然違う」

「そう、私は彩子の意識の一部。人の形をしたのは、もっと親しみやすくなるためだ。そしてどんな姿にもなれる。」と女の子は髪の色を赤くしたり、青くしたりして説明した。

静香は(これで黄色が入れば信号ね)と思った事は胸の内にしまった。


「本来、この世界には私だけが来るつもりだった。」彩子がいった。

「え? あなただけ?」

「そうだ。しかし、リオがどうしても来たいと言ったのだ。それも人間になって。」

静香はリオに顔を向けた。

こころなしかリオが赤くなっているような気がした。

しかし、彩子に伝えられても、まだ心の中には疑問が残っていた。

「でも、リオが人間になった理由が本当に理解できないわ。どうしてその選択をしたの?」

女の子は少し考え込み、リオの方を見た。

「それは、リオがおまえともっと深くつながりたい。おまえの世界の融合を研究したい。そして何よりも、静香が好きで、側にいたいからだな。」

リオはさらに真っ赤になって、「彩子、わたしが言うからぁ、余計なこと言わないでよぉ」と声を上げた。

「聞かれたから答えたのだが?」と彩子が告げた。

「とにかく、わたしが話すわぁ。それからぁ、ずぅっと気になっていたけど、もう少し女の子らしい言葉で話せないのぉ?」とリオが続けた。

「言語は間違ってはいないと思うが?」と彩子。

「そう言うことじゃないんだけど、まぁ、いいわよぉ~、わたしが話すからちょっと黙っていてよね。」

リオはそう言うと改めて静香を正面から見つめた。


「静香、私はね、あなたと一緒にいたいの。もっと知りたいし、理解したい。そして...あなたが好きなのよ、多分。」

静香は微笑みながら問いかける。「多分って何よ?」

「あなたはルビーナだった時も、私はあなたが好きだったわ。あの時も、私のことを少しは想ってくれていたんじゃない?」

リオは静かに頷いた。「ルビーナの時のことは、忘れてないわ。確かにその時も、静香のことが好きだった。でも...なんて言ったらいいかしら?“好き”の意味が少し違うの。」

「ルビーナの時も、成長して精霊になってリオとなった時も、静香のことを思い出すと好きだと思った。でもね、今こうして人間として戻ってきて、あなたを思うと...その“好き”はこれまでとは違うのよ。」

「心がドキドキするの。でもね、この気持ちをとても大切にしたいの。」


「それはリオが人間としての感情や感覚、特に生命を繋ぐ役割を持ったからだな。」
彩子が事も無げに言った。

リオと静香が揃って真っ赤になった。

「とにかく静香と一緒にいたいのよ。」

「私も静香とこれからどうしたいとか、どうなりたいとか、はっきり分かっているわけでもないけれど、この好きという気持ちは大事に育てたいの。」

「静香と一緒に暮らしたい。」リオは目を輝かせて必死に語った。

彩子がリオを見て「この世界はいきなり人間が湧いて普通に生活できるような世界ではないからな。」と告げた。

静香も頷いた。地球と同じような観念なら、まずそれはありえない。

静香が心配そうに、「私の力だけじゃあ」と呟くと、彩子が「私がいるから大丈夫だと伝えたぞ」と静香に目を向けた。

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