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1話 召喚失敗!涙の女神
しおりを挟む神の領域——真っ白な空間に、気まずい沈黙が流れていた。
女神エリュシアは、召喚した二人の日本人に勇者としての活躍を頼んだものの、トイレとお風呂の映像を見せてしまったせいで、あっさり拒否されてしまった。しかも、帰す方法は「まだ習っていない」とのこと。エリュシアは涙目で、二人は絶望顔。絶体絶命の空気が漂う。
「……どうしよう、本当にどうしよう……」
エリュシアはぐるぐるとその場を回り始める。
美咲は頭を抱え、直人は大きくため息をついた。
「なあ、女神さん。俺たち、どうやっても帰れないのか?」
「ご、ごめんなさい……。召喚はできても、帰還の儀式はまだ勉強中で……」
「……マジか……」
しばらく沈黙が続く。その間にも、スクリーンには異世界の村の様子が映り続けている。泥だらけの道、壊れかけた井戸、村人たちの疲れた顔。そして、またもや魔獣が村を襲い、住民たちが逃げ惑う様子。
「……でも、どうしてこの世界は、こんなに不便なんだ?」
直人がふと呟いた。
「不便……?」
エリュシアが小首をかしげる。
「うん。トイレも風呂もそうだけど、水道も電気も道路も何もない。これじゃ、村の人たちも大変だろうなって」
美咲も同意するように頷く。
「確かに……日本じゃ考えられない環境だよね。毎日生きるだけで精一杯って感じ」
エリュシアは、二人の言葉に目をぱちくりさせている。
「えっと……そういうのって、どうしたらいいのですか?」
直人は少し考えてから答える。
「日本では“インフラ”って言って、水道や電気、道路とか、生活の基盤になるものを作るんだ。俺、仕事でそういう現場を見てきたから、多少は知識がある」
エリュシアは初めて聞く言葉に、興味津々で身を乗り出す。
「インフラ……それって、おいしいものですか?」
直人と美咲は思わず吹き出した。
「いや、食べ物じゃないよ。
インフラっていうのは、水道とか電気とか、道路とか……人がちゃんと暮らすための“基盤”のことだよ。日本では当たり前にあるものなんだ」
「そうそう。たとえば、蛇口をひねればきれいな水が出るし、スイッチを押せば部屋が明るくなる。トイレだって、ボタンひとつで水が流れるし、お風呂も毎日入れるの」
美咲も身振り手振りで説明を補う。
エリュシアは、まるでおとぎ話を聞いている子どものような目で2人の話に聞き入っていた。
「すごい……そんな世界が本当にあるんですか?」
「うん。だから俺たち、あの映像を見て正直びっくりしたんだよ。日本じゃ考えられない不便さだったから……」
エリュシアは、スクリーンに映る泥水を汲む村人や、崩れかけたトイレの前で困っている子どもたちの姿を見つめる。
「……私の作った世界、そんなに不便なんだ……。みんな困ってるのに、私は何もできてなかった……」
エリュシアの声が、少し震える。
直人は、優しく言葉を続ける。
「でも、俺たちには正直、そこまでの知識も技術もないんだ。俺、現場を見たことはあるけど、実際に工事したことはないし……」
「私も、ただの事務員だし……。インフラって、プロの人たちが何年もかけて作ってるものだよ」
美咲も、申し訳なさそうに肩をすくめる。
「そう……ですよね……」
エリュシアは、両手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
「私、どうしたらいいんだろう……。せっかく勇者として呼んだのに、帰すこともできないし、みんなも困ってて……」
しばらく沈黙が流れる。
その間にも、スクリーンの中では村人たちが泥だらけの水を飲み、子どもたちがトイレの前で泣いている。
直人が、ぽつりと呟く。
「もし本当に専門家がいれば、きっと何とかできるんだろうな……」
「そうだよね……。水道工事とかトイレ工事のプロがいたら、村の人たちも助かるのに……」
美咲も同意する。
その言葉に、エリュシアははっと顔を上げる。
「専門家……!」
2人は「自分たちは役に立てないけど、女神さんなら、どこかから専門家を呼べるんじゃない?」と提案する。
「……そうかも!」
エリュシアの顔に、少しだけ光が差した。
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