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傷ついた姉と見捨てられた愛情
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アデリーヌの祖母は、嫁を認めず嫁を憎み、生まれたばかりの孫のアデリーヌを取り上げたあげく、両親をタウンハウスに追いやった。祖母の死後、アデリーヌの両親は屋敷に戻ってきた。けれども、アデリーヌは両親とは違う価値観の中で育ち、そして両親と一度も会ったことがなかった。祖母はとても厳格な人だった。王都から離れてはいるものの由緒正しき侯爵家の一人娘として、祖父を婿に取り、侯爵家を支えてきた。人の良い祖父には、気の強い祖母がちょうど良かったらしいが、父が祖父に似ていたために子どもの頃から父を厳しく育てた。そして、あんな気の弱い嫁を貰ってと、よく愚痴を言っていた。
アデリーヌは2歳年下の妹エリーヌのことも噂しか知らなかった。母は10年間アデリーヌを放置したことを許してほしいと願った。父は家族和解を望んだ。しかし、アデリーヌの心には深い傷が残されていた。アデリーヌに「あなた達は血の繋がった他人です」と言われ、冷たい言葉に母が泣き崩れた。「私を捨てたのはあなた方です。泣く資格があるのは私だけ」アデリーヌの言葉に、母は更に嘆き悲しんだ。父は憤りに我を忘れ、アデリーヌの頬を力任せに殴った。庇おうとしたメイドにさえ手を上げんとした。アデリーヌが前に飛び出し仲裁に入り、この家族の絆が永遠に断ち切られた。頬を赤く腫らした顔で、アデリーヌは部屋に戻ると、メイドにしがみついて声の限り泣いた。メイドは黙って、アデリーヌの背中を優しく擦っていた。
アデリーヌは育ててくれたメイド一人と数少ない使用人達を伴い、別邸へと去った。そこで商会を立ち上げ、次第に実力を発揮していった。両親は遅れを取り、娘との絆を取り戻そうと努力したが、アデリーヌの好みさえ知らぬほど疎遠になっていた。本邸に居るメイド達や家令に聞いても、アデリーヌの好みや趣味、趣向はわからなかった。アデリーヌの誕生日さえ使用人たちは知らなかった。今まで一度も祝った事が無いと言う事実に、両親は驚愕した。アデリーヌの誕生日を本邸で豪勢に祝っていると思い、エリーヌにはプレゼントや食事を惜しまなかった。しかし実際には、アデリーヌは誰からも誕生日を祝われたことがない。部屋には机と椅子に小さなクローゼットしかなかった。クローゼットには数着のドレスしかなく、アクセサリーは全くなかった。家令は今になってようやく打ち明けた。「お嬢様は見捨てられていたと家中で言われていました」と。「見捨てたんじゃ無い!」と思わず声を荒げる。しかし家令は「皆そう思っておりました。アデリーヌお嬢様も」そう言って頭を下げ去っていく家令に何も言い返す事ができなかった。
年月は過ぎ、アデリーヌは15歳の成人を迎えた。屋敷を去る時に、一緒について来てくれるメイドや使用人達に「成人の祝は内々でやりましょう?」と言った。「はい、お嬢様のお好きなケーキを用意しておきます」メイド達の笑顔を見て、アデリーヌは嬉しそうに笑った。辛酸を共にしたメイド達との絆こそが、彼女の支えだった。
一方の両親には、アデリーヌへの後悔と愛しさしかなかった。屋敷の窓から、メイドや数人の使用人達との信頼関係に満ちたアデリーヌの笑顔を見た両親は、胸が痛んだ。かつて自分たちだけが祖母の厳しさや疎ましさから逃げ出した。父親は心を病み始めた妻しか見えなかった。アデリーヌのことはない物として考えないようにしてきた。祖母に取り上げられ、アデリーヌのことは諦めたのだ。次女のエリーヌが生まれ、アデリーヌの分もと知らず知らず溺愛して、さらにアデリーヌの現状を見ようとはしなくなった。
それなのに何故祖母が亡くなったあとに家族4人で暮らせると思ったのだろうか。生まれてから一度もあったことが無くても、アデリーヌを愛していると我が子であれば、親として愛しみの情は当然である。しかし自分達の都合の為に、アデリーヌを犠牲にしていたのではないか。こんなにもアデリーヌを傷つけていたことを思い知らされた。
父親は血が滲むほどに唇を噛み締めた。隣に寄り添う母親は、静かに声もなく、ただ涙を流し続けた。泣く資格はないと思いながらも、涙は止まらなかった。私達は屋敷を出たアデリーヌに、いつかまた笑顔が戻ることを心から願うのみだった。
エリーヌは姉であるアデリーヌを、今日このとき初めて見た。姉がいることはタウンハウスにいたときから知っていたが、何故離れて暮らすのか、なぜ会えないのかはわからなかった。屋敷に戻り姉に会えると喜んだものの、実際には今まで会うことは出来なかった。父や母に話を聞かされても良くわからなかった。
しかし本邸での専属家庭教師から、今エリーヌが習い初めている勉強が姉のアデリーヌが3歳から始めた勉強だと聞いて驚いた。余りの厳しさに音を上げて逃げて、両親に泣きついたエリーヌに、アデリーヌは3歳から音もあげず、やり遂げたと家庭教師から聞いた。エリーヌと両親は愕然とした。どれほどの厳しさのなかに幼いアデリーヌは居たのか。そしてアデリーヌは両親に見捨てられたと自覚したのだろう。
エリーヌは屋敷を出ていくアデリーヌを見つめながら、とうとう正式に会うことも、言葉を交わすことも出来なかった。それでもお姉様とお呼びしたかった。いつかはお呼びすることが出来るのだろうかと思った。
アデリーヌは2歳年下の妹エリーヌのことも噂しか知らなかった。母は10年間アデリーヌを放置したことを許してほしいと願った。父は家族和解を望んだ。しかし、アデリーヌの心には深い傷が残されていた。アデリーヌに「あなた達は血の繋がった他人です」と言われ、冷たい言葉に母が泣き崩れた。「私を捨てたのはあなた方です。泣く資格があるのは私だけ」アデリーヌの言葉に、母は更に嘆き悲しんだ。父は憤りに我を忘れ、アデリーヌの頬を力任せに殴った。庇おうとしたメイドにさえ手を上げんとした。アデリーヌが前に飛び出し仲裁に入り、この家族の絆が永遠に断ち切られた。頬を赤く腫らした顔で、アデリーヌは部屋に戻ると、メイドにしがみついて声の限り泣いた。メイドは黙って、アデリーヌの背中を優しく擦っていた。
アデリーヌは育ててくれたメイド一人と数少ない使用人達を伴い、別邸へと去った。そこで商会を立ち上げ、次第に実力を発揮していった。両親は遅れを取り、娘との絆を取り戻そうと努力したが、アデリーヌの好みさえ知らぬほど疎遠になっていた。本邸に居るメイド達や家令に聞いても、アデリーヌの好みや趣味、趣向はわからなかった。アデリーヌの誕生日さえ使用人たちは知らなかった。今まで一度も祝った事が無いと言う事実に、両親は驚愕した。アデリーヌの誕生日を本邸で豪勢に祝っていると思い、エリーヌにはプレゼントや食事を惜しまなかった。しかし実際には、アデリーヌは誰からも誕生日を祝われたことがない。部屋には机と椅子に小さなクローゼットしかなかった。クローゼットには数着のドレスしかなく、アクセサリーは全くなかった。家令は今になってようやく打ち明けた。「お嬢様は見捨てられていたと家中で言われていました」と。「見捨てたんじゃ無い!」と思わず声を荒げる。しかし家令は「皆そう思っておりました。アデリーヌお嬢様も」そう言って頭を下げ去っていく家令に何も言い返す事ができなかった。
年月は過ぎ、アデリーヌは15歳の成人を迎えた。屋敷を去る時に、一緒について来てくれるメイドや使用人達に「成人の祝は内々でやりましょう?」と言った。「はい、お嬢様のお好きなケーキを用意しておきます」メイド達の笑顔を見て、アデリーヌは嬉しそうに笑った。辛酸を共にしたメイド達との絆こそが、彼女の支えだった。
一方の両親には、アデリーヌへの後悔と愛しさしかなかった。屋敷の窓から、メイドや数人の使用人達との信頼関係に満ちたアデリーヌの笑顔を見た両親は、胸が痛んだ。かつて自分たちだけが祖母の厳しさや疎ましさから逃げ出した。父親は心を病み始めた妻しか見えなかった。アデリーヌのことはない物として考えないようにしてきた。祖母に取り上げられ、アデリーヌのことは諦めたのだ。次女のエリーヌが生まれ、アデリーヌの分もと知らず知らず溺愛して、さらにアデリーヌの現状を見ようとはしなくなった。
それなのに何故祖母が亡くなったあとに家族4人で暮らせると思ったのだろうか。生まれてから一度もあったことが無くても、アデリーヌを愛していると我が子であれば、親として愛しみの情は当然である。しかし自分達の都合の為に、アデリーヌを犠牲にしていたのではないか。こんなにもアデリーヌを傷つけていたことを思い知らされた。
父親は血が滲むほどに唇を噛み締めた。隣に寄り添う母親は、静かに声もなく、ただ涙を流し続けた。泣く資格はないと思いながらも、涙は止まらなかった。私達は屋敷を出たアデリーヌに、いつかまた笑顔が戻ることを心から願うのみだった。
エリーヌは姉であるアデリーヌを、今日このとき初めて見た。姉がいることはタウンハウスにいたときから知っていたが、何故離れて暮らすのか、なぜ会えないのかはわからなかった。屋敷に戻り姉に会えると喜んだものの、実際には今まで会うことは出来なかった。父や母に話を聞かされても良くわからなかった。
しかし本邸での専属家庭教師から、今エリーヌが習い初めている勉強が姉のアデリーヌが3歳から始めた勉強だと聞いて驚いた。余りの厳しさに音を上げて逃げて、両親に泣きついたエリーヌに、アデリーヌは3歳から音もあげず、やり遂げたと家庭教師から聞いた。エリーヌと両親は愕然とした。どれほどの厳しさのなかに幼いアデリーヌは居たのか。そしてアデリーヌは両親に見捨てられたと自覚したのだろう。
エリーヌは屋敷を出ていくアデリーヌを見つめながら、とうとう正式に会うことも、言葉を交わすことも出来なかった。それでもお姉様とお呼びしたかった。いつかはお呼びすることが出来るのだろうかと思った。
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