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第二話

第二話 パラダイム・シフト その12

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「うおおっ?!」

ガミオンのその一撃をなんとか避けるタオ。

「馬鹿な?!今のメガミオンが動けるはずがない!」

ダインがニュートゥを助けようと近づいてきたことを見計らい
ガミオンは再び大きく振りかぶり、ダインへとニュートゥを投げつけようとする。
一瞬立ち止まり一撃に備えるダイン。
だが予想に反し、ガミオンはダインではなくタオへと向けてニュートゥの体を投げつけた。

「うおっ?!また俺ェ?!」

タオは焦りつつも飛んできたニュートゥを受け止めようとしたが、
その勢いを支えることが出来ず、もろともに弾き飛ばされてしまう。
だが、駆けつけたダインが二人をがっしりと受け止める。

「ニュートゥ!しっかりしろ!何があった?!」

「・・・・・・タ・・・・・・タ・ケ・シ・・・・・・タ・ケ・シ・・・・・・」

だがニュートゥはダインの呼びかけにも答えられず、苦悶の表情を浮かべ、
ビクビクと痙攣しながら『タケシ』とダインには聞き覚えのない言葉を発し続けるだけだった。

「タケシ?」

疑問に思いながらも、ダインがガミオンに振り返り叫ぶ。

「神経接続を無理やり引き剥がせば、メガミオン!貴様とて無事では済まぬはず!
 何故動けるのだ?!!」

ダインに続きタオが立ち上がり、ガミオンに向き直る。

「あたたたた……何がなんだかよくわからんが、よくもやりやがったな!メガミオン!!」

だが、

「あ、あれ?」

そこにいたはずのガミオン・ケンタウロスの姿がないことに気づいたタオが
キョロキョロと辺りを見回す。

「って、ああーーー!!」

驚き声を上げるタオ。
いつの間にかガミオン・ケンタウロスはこの場から逃れ、
なお高速で離れていくその姿は、どんどんと小さくなっていく。

「な!?あのメロウ、逃げやがった!!」

タオはすぐに追跡を開始しようとする。

「戦士の誇りとやらはどこいったァ!ゴラァ!……くっそ!逃がさねぇぞ!」

「いかん!止まれ!タオ!!」

ダインがタオを一括し、腕を掴かみ押しとどめる。

「うおっ!?何す……」

勢いを削がれたタオが抗議しようとした時、タオの目の前を巨大な影の群れが遮った。

「うおおおっ!?なんじゃこりゃ!?」

タオは目の前に現れた物体のうち、小さな個体に激突しそうになったが
ギリギリそれを両腕で抱え込むように受け止めた。

「こ、コイツらは!?く、くじらの群れ!?」

そう、タオの行く手を遮ったのは巨大な鯨の群れ。
改めて かかえた鯨を見てタオは呟く。

「の、幼体か!」

タオは頭部のセンサーを使い、かかえた子鯨の状態を確認する。
結果、大きなダメージもなく、どうやらショックで仮死状態になっているだけのようだ。
ホッと胸をなでおろすタオ。

かかえた子鯨と遠ざかるガミオンを交互に見比べ、
どうしたものかとあたふたするタオにダインが言った。

「どうやらここまでのようだ」

「追わねぇのかよ!」

「ああ。今はニュートゥを手当するのが先決だ」

「くっそ!従者は奪われ、ニュートゥはやられ、
 結局、オレたちはメガミオンに遅れをとっちまったってわけだ!畜生め!」

しばらく地団駄を踏んでいたタオだったが、やがて落ち着きを取り戻すと振り返り、
ダインに抱きかかえられたニュートゥを覗き込む。

「ニュートゥ……こんな姿になっちまいやがって……」

苦悶の表情を浮かべ硬直しているニュートゥをまじまじと見つめたタオが呟く。

「しかしよぉ、ダイン、メガミオンがなんともないってのはどういう訳なんだ?」

抱えていた子鯨が気がつき体をうねらせると、
タオは静かに手を離し、周りを旋回する鯨の群れに離してやる。

「頭に触手をぶち込まれ、挙句、神経接続を無理やり引き抜くなんて荒っぽいことをやりゃ無事じゃいられないぜ?普通」

タオは改めてニュートゥを指し示す。

「現にニュートゥはこの有様だ」

「タケシ」

「は?」

「ニュートゥが意識を失う間際に残した言葉だ」

「それが謎を解く鍵ってわけか」

「かもしれん。とにかくこのままでは埒があかん、
 ニュートゥを連れて一時、帰還する」

「治るかな……」

「わからん。だが、今はヨミのもとへ急ごう」





 戦いの場から高速で離脱したガミオンは、十分な距離を稼いだ後も、
スピードを緩めずに突き進みながら振り返り、追っ手がない事を何度も確認する。

「や、やった……?」

緊張でこわばっていたガミオンの表情が緩み、思わず笑みがこぼれる。

「ぃヤッターーー!!逃走完了!ウハハハハーーィ!!」

ハイテンションで笑うガミオンが拳を突き上げて叫ぶ。

「ぃやったーい!逃げ切ったよ!ガミオン!!」


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