上 下
9 / 232
レヴェント編

8.師と支

しおりを挟む
 脳の回転レートを下げる中、上音さんを除くクラスメート達が話し合いを開始していた。
 「上音さんは行ってしまわれたみたいですが……皆さんはどうしますか?」
 「俺はやるぜ! こういうの一度やってみたかったし、魔王を倒す勇者になれるとか最高!」
 「僕もこの国の人達の力になりたい。力があるなら尚更、出来ることをしたい」
 そう答えたのは汚い陽キャ代表、若本わかもと照雄てるお、綺麗な陽キャ代表、曹源そうげん宮登みやとの二人であった。
 対照的な二人の陽キャがそう声を上げた瞬間、周囲のクラスメート達が次々と賛成の声を上げ始めた。
 「二人がやるなら、俺も」
 「なら俺も!」
 「私もやる」
 「まあ、どうせやることないしな」
 「私も手伝います」
 数人は乗り気じゃない生徒たちもいたようだが、周囲の人間が続々と参加する中で乗り気じゃなさそうに手を上げ参加した。かくいう俺も、あまり目立つなと言われているため(女神に)、皆に便乗する形で参加した。
 一人で行動しなきゃならん時がきたら、死亡したことにするか……
 周囲が盛り上がる中、俺は腕を組み顎に手を当ててそんなことを考えていた。
 「上音さん以外は全員賛成、それでいいんですね?」
 最後に渚さんがそう問いかけると、皆が首を縦に振り同意した。
 「皆の意見はまとまったようです。魔王の討伐、私達が引き受けます」
 「感謝する……どうかこの国を、この世界を救ってくれ。我々もできる限りのサポートはする」
 アンドリュオの言葉を聞いてクラスメート達は、これから起きるであろう冒険の日々に心震わせ歓喜していた。
 コイツら、暢気過ぎじゃね? 自分たちの選んだ道の過酷さ理解してんのか?
 クラスメート達がこれから起きることに期待感を抱く中、俺はこれから起きるであろう現実の過酷さに、倦怠感を感じていた。
 召喚によって何らかの力を得てるとして、たかが高校生に何ができるんだか。このまま魔族との戦いに放り出そうもんなら、俺はこの国の連中の頭を疑う。高々、伝承に夢見過ぎだ。
 そもそも、その何らかの力というのに、俺は一切の実感がない……いや、この感じ、単純にいつもと同じような――
 そんなことを考えていると綺麗な陽キャ代表、曹源宮登君がアンドリュオに問いを投げかける。
 「あの、一つ聞きたいことがあるんですが、いいですか?」
 「申してみよ」
 「さっき聞いた話では、勇者は四人と言っていましたが、ここにいるのは三十二人ですよ? 明らかに人数が多くありませんか?」
 宮登からその言葉が聞こえた瞬間、俺は少し驚いた顔をした。
 あら、俺が知りたいと思ってた問いがあさり。
 想定外、思っていた以上にこの男は考えていたらしい。周囲の人間と違って……
 「それは……分からんのだ」
 「わからない、ですか?」
 「そうだ。メイフューベル、前に出て説明を」
 「承知いたしました」
 その言葉と共に後ろにいたフードを深く被った者が現れた。
 「私はメイフューベル・エルロンド。この国の宮廷魔導師であり、あなた方を異界より呼ん、だ……え?」
 フードを外した現れたのは美しい顔立ちの少女。白色に近い灰色の髪をし、白のローブを身に纏った彼女は突如として停止した。
 彼女はこちら側を見てから……いや、俺の方を見てから固まったように停止した。
 「どうしたエルロンド? 王命だぞ」
 「……あ! も、申し訳ございません!」
 停止する彼女に周囲にいた男が声をかけ、彼女は正気を取り戻した。
 「どうしたのだ、メイフューベル。彼らに何か?」
 「い、いいえ! 何もございません」
 「しかしな……その表情で何もないとは流石に……」
 メイフューベルと名乗った少女は何故かは知らないが、顔が赤くどこか嬉しそうな表情をしていた。
 ……あ、なるほど。俺の後ろの宮登コイツを見てたわけね。
 納得がいったという風に俺は後ろに視線を向ける。
 俺の後ろには、さっきアンドリュオに質問をした曹源宮登がいた。宮登は綺麗なイケメンと俺が勝手に言っているくらいにはイケメンだ。
 コイツは外見もそうだが内面的にも普通に良い奴、女性からは好かれやすい人間だ。だから、このメイフューベルさんも一目惚れしたんだろう。
 すげぇなイケメン、自他共に認める普通顔には在りえない芸当だよ。
 「失礼しました。仕切り直して話させてもらいます」
 そういうとメイフューベルさんは経緯を語り始めた。
しおりを挟む

処理中です...