上 下
141 / 232
レヴェント編

140.お前らキモい

しおりを挟む
 数日が経過――
 俺は朝練や実技授業、ギルドの依頼をこなしつつ、順調に鍛錬を続けている。
 正直言って周りの異世界人共が異様な速度で強くなっているから、とても悲しい気持ちになる。宮登に関してはもう上級組の講師が剣で敵わないくらいの腕らしい。
 気色悪いね。天才ってホント気持ち悪い。
 そんな愚痴を抱きつつ、今日も努力を続ける。
 「いや~、アイツらデタラメ過ぎない?」
 「流石は勇者、というところじゃないか?」
 剣を打ち合いながら愚痴を口にする。
 「だからって流石にあれはキモいぞ。特に四勇者だっけ? あれに当てはまる三人は、異世界人の中でも飛び抜けて気持ち悪い」
 「そうね。私、元とはいえ、魔道騎士団で序列九位張ってたのよ? まだ剣を覚えて一ヶ月も経ってないような子供たちに負けそうなんて、正直泣いちゃいそう」
 「イザベラは補佐として上級組を見て来たんだったな。そんなにすごいのか?」
 アリシアがイザベラに問い掛け、嫌そうな表情で彼女は頷いた。
 「ええ、上級組の実技担当講師はバデオ・ニュービオス。バデオさんは私が魔道騎士団にいた時の先輩で序列は七位、剣術だけなら勝てなくもないけど、総合的な力じゃあの人の方が上よ」
 「マジか。宮登のやつ、そんなのに勝ったのか?」
 同意するように剣を振るい、俺が弾く。
 「彼は実技テストでもバデオさんに勝っていたけど、あれはあの時勝てただけで、それからは流石にバデオさんが勝っていたらしいんだけど。二日目辺りから彼が勝つようになって来て、今じゃ歯が立たないほど強くなっちゃったのよ。私も一度打ち合ったんだけど、あと少しで負けるとこだったわ」
 「あ、勝ったのね」
 「ひどーい、負けてると思ってたの?」
 そんな言葉と共に鋭い斬撃が首を狙って飛んで来る。
 「若干――」
 斬撃を軽く防ぎつつ、そう言った。
 「他には目立つヤツは?」
 「そうね、フィニスちゃんは相変わらずすごかったし、ミオちゃんもよく分からないくらい強かったわね。正直上級組は全員は頭一つ抜けて強かったわね。中級組でもナギサちゃんあたりは飛び抜けて強いらしいわ」
 「渚さんが?」
 二人の会話に割り込み言葉を発する。
 「ナギサ? ……ああ、お前によく絡んでくる奴か」
 「そういえばあの人、四勇者の一人だっけ? ああ、数日前の魔道学でも無詠唱とか多重とか、エグイことしてたね。確かにあの人はオールラウンダーで色々できるイメージはあるな。そうか、剣術でも強くなるのか」
 「無詠唱に多重って……深くは聞かないけど、大体想像はつくわ。すごいわね異世界人って」
 思い知ったという風に呆れるイザベラ。
 「いや、マジでそうだよな~。こっちが努力した分を一瞬で追い抜かす、召喚特典はまあ、仕方ないにしろ、ナチュラルボーン天才はズルすぎるだろって言いたくなるわ」
 アリシアの剣を防ぎ、イザベラの斬撃を躱しながらそう言う。
 「まあ、私たちこの世界の住人からすれば魔王への対抗戦力なわけだし、強い分には全然構わないんだけどね」
 「それは俺としてもそうだよ。周囲が強ければ俺の死ぬ確率が下がるし」
 「お前は後方から石を投げてるイメージがあるな」
 「なにそのイメージ! ひどくない?」
 「ごめんケイヤ君。私もそのイメージが明確に頭に過ったわ」
 「コイツらマジでひっでぇの!」
 アリシア、イザベラから放たれる両方の斬撃を同時に受けつつ、そう口にする。
 「はぁ~、憂鬱だよ。今日は野外訓練とかめんどくさいのがあるしさ」
 「別にいいじゃない野外訓練」
 「いや、今回は現地人組と異世界人組で分かれるだろ? また嫌というほど、あのデタラメっぷりを見せつけられるのかと思うと、憂鬱にもなるだろ」
 「心配するな、心を無にすれば何も思わない」
 「いや、確かにそうだし、デタラメっぷりだったらアリシアも負けてないと思うが――」
 首元に異様な速度な斬撃が飛んで来る。
 ギリギリで後ろ移動バックステップを踏んで回避する。首元に剣が通り過ぎ冷や汗を掻きつつ、冷静に反撃を放つ。
 「危ないです」
 「ケイヤ君って絶妙に地雷を踏み抜く才能があるわよね」
 そう呆れた様子のイザベラさんから、剣を振り抜いた直後に斬撃が放たれる。
 胴を一閃する斬撃を振り抜いた斬撃の角度を変え、無理やり弾き飛ばす。
 「おっ、と」
 「危ない危ない」
 体勢を戻しつつ再び彼女達に斬りかかる。
 「ケイヤ君は今日の野外訓練、誰と一緒なの?」
 「えーと、宮登、鈴木さん、詩織、渚さん、寺下さんだったかな? ところで何で野外訓練は現地組と異世界組で時間をズラしてるんだ?」
 この野外訓練、午後七時から開始である。
 しかし、異世界人組の集合時刻は六時半と少し早めであり、現地人組と時間がズラしてある。
 野外訓練の行われる場所は王都を出てすぐにある、ファレス森林と呼ばれる森である。
 俺もギルドの依頼で何度か行ったが、大して脅威になる魔物もいないため、生徒を実戦になれさせるという意味では最適なのかもしれない。
 「ああ、それはね。あなた達異世界人は本来王都を出るのに、それなりの許可が必要なのよ。だから少し早めの内に門前に向って、許可を貰わなきゃいけないの」
 「え、俺ギルド依頼受けるために、ばんばん外に出てるけど?」
 「ギルドの依頼っていう正当な理由があるから問題ないわ。門前で冒険者カードを見せてるでしょ?」
 「ああ、なるほどね」
 つまり冒険者カードはパスポートのようなものということか。
 「何気に夜中に王都から出たことないんだが、やっぱり夜の方が魔物は活発だったりする?」
 「まあ、そうね。魔素の濃度は夜の方が濃くなるから、私達が魔法を使いやすくなると同時、魔物も少し強くなるわね」
 「そっか」
 ま、よく考えれば当たり前か。
 斬撃を躱しつつ、ゆったりと思考を考え事に割く。
 魔法、というか魔術の起源は月に由来する。月は万物の宿命を宿し、近代魔術においても月と魔術は密接な関わりを持っている。
 ぶっちゃけ、月から星源オドが降り注いで魔術が使いやすいとかの側面が強いと思う。魔術師が夜を好むのは、夜の方が魔術発動に重要な魔力の補給が容易ってのが上げられる。
 他にも色々とある筈だが、俺は覚えてません。
 だってあの人の話は気難しくて覚える気にならないもん。どうせ俺が魔術に詳しくなったところで、できることなんてたかが知れてるし。
 「さて、これで最後ッ!」
 「うぉッ――」
 イザベラがそう言うと急に鋭い一撃を放って来たので、驚きながらしっかりと受ける。
 「急に何するんですか」
 「終わりの一撃」
 「終わりのって――」
 「隙アリ」
 「ヘブシッ!」
 頭に一撃、金属が当たる。
 アリシアから完全に意識を外した瞬間、彼女は容赦なく頭部目掛けて剣を振るってきた。頭に走る痛みに思わず、地面に転がりのた打ち回る。
 「あぁああ、頭割れる、頭ぁぁああああ!」
 「まったく油断するからそうなるんだ」
 「だからって叩くなよ!」
 頭を押さえながらそう叫ぶ。
 「痛てで……チッ、まだ足りないか。というか油断するな俺」
 そう自身の浅はかな行動を叱咤する。
 「あの~、ケイヤ君?」
 「何です?」
 畏まった風に俺の名を呼ぶイザベラ。
 「今更だけど。他の異世界人をデタラメ云々言ってるわりに、数日で私とアリシア二人同時と打ち合って余裕があるのは、どうかと思うけど? 正直、君が一番おかしいことしてない?」
 「周りの成長速度の方がおかしくないか?」
 「いやいや、君が一番おかしいわよ! ねえ、アリシアもそう思うわよね?」
 同意を求めるようにアリシアにそう言う。
 「まあ、正直成長速度に関しては別にそこまでだが……調整力というのか、暴威の扱いが断然よくなっている。それと、私達との戦闘に順応している」
 「じゅ、順応?」
 「ああ、ようは私達の動きに完全に慣れたということだ」
 「数日間で慣れるようなものかしら?」
 「そこはソイツの頭のおかしいところだ。一動作の度に加速度的に成長……適応して行っている。〝一度目より二度目〟を体現した動き、言葉では簡単そうに感じるが、天才じゃないケイヤがそれを可能にしているのは異常だよ」
 若干馬鹿にされている気もしなくはないが、一様は褒めてくれているようなので苦言を呈するのは止めておくことにした。
 「それができる時点で天才だと思いますけどね」
 「なに、こんなことは感覚じゃ何もわからない凡人が、知識を振り絞って知能を振り絞って、次の動きを昇華させてるだけだ。どう足掻いても天才には勝てないさ」
 「そう?」
 「そうだ。俺はあくまで一握りの可能性を持ってるだけ、それ以外は本当にただの人間に過ぎない」
 そう言うとアリシアが前に出て言った。
 「少し卑屈過ぎにも思えるが、それがお前の強さを支えている根幹なんだろうな」
 「ああ、弱いという自覚。凡人という自覚。これらが、俺を弱いなりに強く奮い立たせる理由であるのは、きっと間違いない」
 右手をギュッと握る。
 四回の転生。何度も何度も、俺よりすごい奴を見て来た。俺なんかより修正者に向いてそうなバケモノたちもいた。それでも俺は、俺なりに修正者として弱くても立ち続けた……歩き続けた。
 だから、どんなに弱くたって前に進み続ける。
 「さて二人とも、今日の実技は終了。魔道学の授業頑張ってね」
 「もちろん」
 「ああ、わかってる」
 そう言葉を返し俺達は訓練場を出て教室に戻った。
しおりを挟む

処理中です...