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レヴェント編

162.淡い希望

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 理解できない。

 ――絶望した。

 なぜ、ミヤトが敗北したのか理解できなかった。
 黒炎に突っ込んだミヤトが、シドとかいう男に斬撃を当てた瞬間を見た。絶対に覆りようのない事実、ミヤトは画一にシドにダメージを与えた。
 なのに倒れているのはミヤト。
 胸から血を吹き出したのはミヤト。奴は驚愕した表情を浮かべつつも、大した損傷は負ってない。血こそ出ているが、効いている素振りはない。
 なぜなら奴は斬撃を受けたその瞬間、ミヤトの胸を斬り裂いたのだから。
 傷を負った瞬間にこの場に誰の目にも見えない速度で斬撃を放つなんて……怪物、アリシア・ケーンレスが奴に言った言葉、本当にその通りだと思った。
 アイツは強過ぎる。
 「ル――、――カ!」
 こんなにも理不尽な強さ……勝てるわけが――
 「おい! しっかりしろ、ルーカ!」
 「!」
 アルバートに声を掛けられハッとする。
 折れかかっていた戦意を寸での所で立ち直らせる。
 剣を持ち直し、倒れたミヤトを見つめるシドに目を向ける。
 「クカ、クカカカカカ……久しい。本当に久しいぞ……痛み。一体いつ振りだ? 俺が傷を負うのは」
 手に着いた血を見つめながらヤツは笑った。
 「曹源宮登。正真正銘お前は強い……いずれ確実に淵やあの場所の誰よりも強くなり、俺に届くモノだ……クカ、クカカカカカカカカカ―――――ッ!」
 盛大に笑うシド、観戦者たちは漏れなく絶望した表情を見せる。
 あれほど強かったミヤトですら、あの怪物には勝てないと。
 不安が過る――もしこの場に魔道騎士団が到着したとして、あの怪物に勝てるのだろうか? という共通の不安が立ち込める。
 シドは笑いを止め、倒れたミヤトを見る。
 よく見るとミヤトは呻きながら立とうとしている。どうやら意識を取り戻したようだ。でも、流石のアイツもこれ以上の戦闘は不可能だ。
 「ま。当然か、お前は――」
 「――御託が多いぞ、シド」
 シドが何かを言いかけた瞬間、アリシア・ケーンレスが驚異的な速度で接近し斬撃を放つ。
 スパンッと風切り音が鳴り響くと共に奴はその一撃を軽々躱し、斬撃を放つ。刀と剣がぶつかり合い、シドがアリシアの斬撃の威力に吹き飛ぶ。
 空中で回転しながら飄々と地面に着地した。
 「ふむ。流石に魔装を装備したおの相手には押し負けるか」
 ダランとたら下がる両腕、鋭い双眸がギラリとアリシアの方へ向いた。
 「このまま、斬り――」
 「アリシア。あなたの相手は私」
 「!」
 二つの斬撃がアリシアを襲った。
 刀と剣がぶつかり合い、金属音が鳴り響き突風が吹いた。
 二人の顔が触れるスレスレまで接近する。
 「まだ私、負けてない」
 「っ――、しつこいぞ」
 忌々しいという感じの表情を浮かべ、アリシアはアズの追撃する。
 アズは彼女の攻撃を軽々躱して微笑を浮かべた。
 「フフ。結構、めんどくさいの嫌いだけど……めんどくさくするのは好きだから」
 彼女の言葉に嫌そうに笑みを浮かべアリシアは言った。
 「性格が捻じ曲がってるな」

 「よく言われる――でも、それは私を育てた人に言って」

 そうアズが言うと、彼女達の攻防が再び始まった。
 「二人とも、行けるか?」
 アルバートが剣を強く握って俺とフィニスさんにそう声を掛けてきた。
 「なんとか……」
 「ギリギリ」
 俺は嫌気が差すという表情をシドに向け、そう言った。
 シドは既に標的をこちらに変えているようで、凄まじい敵意が向けられ胃がキリキリしてくる。
 「こうなったら、俺達だけでアイツを食い止めるしかない」
 「っ――、クソ! 魔道騎士団の連中は何でこんなに遅いんだ。もう三十分は経ってる。いくら何でも遅すぎる……」
 「仕方ありませんわ。魔道騎士団は国防組織、国内とはいえたった一人の悪漢に人員を割けません。そもそも、こういった事件を担当するのが衛兵の役目ですから」
 「それはそうかもしれないが……」
 「特に今は兄様あにさま――魔道騎士の最上位列は遠征に行っていますわ。正直、序列一位~十位外の方では、あのシドという男には太刀打ちできないと思いますわ」
 「「…………」」
 俺とアルバートは彼女と同様の意見だったため、返す言葉がなく沈黙した。
 ああ、フィニスさんの言う通りだ。シドはあまりにも強過ぎる。俺の知っている魔道騎士団の団員じゃ、逆立ちしたって勝てない。
 ミヤトははっきり言って異常な強さだった。学園生のレベルを大きく超えていた。予想だが、そこらの騎士団員よりは圧倒的に強い。
 それでもシドには勝てなかった。
 今更、十位外の騎士団員が来ても正直意味はない。惨殺されて終わりだ。
 俺達の中で絶望が立ち込める。
 「どうした己ら? まさか、戦う前から戦意喪失しているのか?」
 そう声を発した男の方を見る。
 シドは少しガッカリした表情で俺達を見ていた。
 「先程の動きは中々に良かったというのに、曹源という前衛がいなければロクに戦うことすらできぬとは。先程の女の方が幾分マシだったぞ。些か失望した」
 ため息を吐きながら奴は威圧を込めた視線を向けてくる。
 そんな中、覚悟を決めて再び剣を握る男がいた。
 「そうかよ。なら、その失望を抱いて帰ってくれないか?」
 「――――」
 剣を握ったのはアルバート。
 震える体を無理やり立たせ、恐怖を押し殺して戦意を見せる。その目には死んだ筈の闘志が、いや、怨念にも似た執念が宿っていた。
 シドはそんな彼をジッと見定めるような目で見つめた。
 「……ほう。それなりに覚悟の決まっている男もいるようだな」
 「こんなところで死ぬわけにはいかないからな」
 「フン。信念か」
 「いや、だ。俺にはやらなきゃいけない事がある。それまでは――死ねない」
 アルバートは強い戦意と共に剣を構える。
 「カカ……悪くない」
 そんな彼を見てシドは微笑を浮かべる。
 同時、俺とフィニスさんも折れた剣と折れたレイピアを持って立ち上がった。俺達はアルバートに感化されて戦意を少し取り戻した。
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