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レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》

19.タチの悪い襲撃者

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 ネビルスは腕を組んで唸るようにして言葉を零した。
 「あなた、もしかして……私のだったりします?」
 「それは俺が人間じゃないって言いたいのか?」
 「そうですそうです」
 ニッコリとした笑みを向けていうネビルスを見て、青筋を立てて言った。
 「ざっけんな。こちとら純正の人間だ」
 ボキッと首の骨を鳴らし、威圧気味な視線を向ける。
 「?……本当ですか?」
 「こんなくだらないことで嘘は吐かねぇよ」
 「…………」
 驚いた顔を固定させ、こちらをマジマジと見つめる。
 下から上、上から下と舐めまわすようにじっくりと観察してくるネビルス。
 「ふむ、てっきりこちら側かと思ったんですが……魔力隠蔽や気配遮断の技術、明らかに人間技ではなかったのですが……」
 「気配遮断は俺の技術だが、魔力の方が自前だよ」
 「!?」
 目を大きく見開き、真偽を確かめるように問いを口にする。
 「その微弱なものが……あなたの魔力なのですか?」
 「悪いかよ」
 「いえ、少々驚いただけですよ。そうですか、確かに別の意味で人ではないようですね」
 「何、煽ってる?」
 「そう受け取ってもらっても構いませんよ」
 「…………」
 何とも言えない視線をネビルスに向ける。
 出会って数分、既に俺はこの男が嫌いだ。なんというか……相性が悪い。思うようにこちらのペースに乗せられないこの感じ、シドとは別の方向でペースを乱される。
 ああ、クソ……〝嫌な予感〟がする。
 ネビルスを見ているとどうも不吉な予感がして、俺は苦虫を噛み潰したような嫌な表情を作る。
 「おい、お前誰だ」
 俺が嫌そうな表情でネビルスを見ていると、ディーガルが威圧の籠った声でそう言った。
 「……はぁ。俺は天無あまない、通りすがりの一般人……って言ったら、逃がしてくれる?」
 「クフッ……ないな」
 苦笑の後、鋭い眼光共に否定される。
 ディーガルの表情は、人の命を何とも思っていないような〝人殺しの目〟。邪魔者を処理しようと考えている人でなしの色を帯びている。
 無法者アウトローな人間が有する独特な雰囲気を纏っている。
 「あっそ。知ったたけど。ま――」
 どうでもよさそうにそう呟き――微笑を浮かべる。

 「――最初から逃げるつもりはないんだよね」

 「「「「?」」」」
 一歩、前に出る。
 最初から決めていた。別にこれは正義感云々の話ではない。
 俺はただ純粋に――ゴミを処理するだけ。
 人外含め、この場にいるは、綺麗に処理する。今後問題になるかもしれない……今後、、そんな危険分子はここで処断する。

 生きるためだったから仕方ない……?

 一歩、前に出る――

 これしか方法がなかったから、仕方ない……?

 一歩、前に出る――

 ああ、それは可哀そうだ。仕方ないなぁ……。


 一歩――前に出る。


 っんなの、知らねぇよっ――!
 俺の目の前にいる以上、障害になる可能性は孕んでいるなら、何人も許さない。この場で――
 理由も所在もどうでもいい。俺は俺の目的の邪魔になる可能性を一匹残らず潰す。人外なら尚更、この場にいる理由を聞き出すついでに殺す。
 異空間収納エア・ボックスに手を入れ、ロングソード握る。
 「ねえ、一つ質問があるんだけどいいかい?」
 「「「「?」」」」
 周囲から殺意を向けられる中、淡々と歩みを進め、不敵な笑みを浮かべる。
 「君らはさ、目の前に蚊がいたとしてどうする? 別に君らを刺すつもりのない蚊。ただ周囲を飛んでいるだけ……ねえ、君らはどうする?」
 意味不明なこちらの問いに困惑の表情を浮かべるディーガル、ファグナ、ルーダの三人。ネビルスだけは俺の様子を見て、嬉しそうな笑みを浮かべていた。
 コツコツと足音が妙に響き渡る。
 「俺はさ――よ。何でかわかる?」
 「…………」
 「だって――「だから」」
 「「「!?」」」
 「――――」
 俺はディーガルら三人と同様に少し驚いた表情で目を見開き、ネビルスを見る。どうやら、彼には俺の思考が読めているようだ。
 ネビルスは俺の表情を見てニタニタと面白いモノを見る目を向ける。
 ニヤリ、と嫌な笑みを浮かべる。
 「ハハ。目障りな虫は潰したくなるだろ? だって邪魔なんだ、それがいるだけで不快で不快で仕方ないがない。傲慢だよな人間ってさ……快、不快で他の生物を踏み躙るんだぜ?」
 右手でロングソードを握りながら、歩みを続ける。
 「おい、お前――」
 荒くれの一人が、ボスの元へ近づき過ぎた俺を静止させようと、肩に手を伸ばす。
 が、次の瞬間――
 「邪魔は邪魔でしかない。なら――〝潰す〟しかないよな?」
 男の手首から先が空を飛んだ。
 「へ、え……?」
 状況を理解できていないような呆けた声が漏れる。
 刹那――その首がずり落ちる。
 「お前らは俺にとっての〝邪魔〟……――先に言っておくよ。今から行うことに大義とか、正義はない。邪魔だから――〝殺す〟、以上」
 泥人形のように崩れる男から溢れた赤色の水を踏みつけ、ベットリと赤色を滴らせるロングソードを軽く構える。
 周囲の荒くれ達が狼狽える。一瞬にして同胞の一人が殺され、目の前に立っているただの青年が――黒衣を身に纏った死神のようだと錯覚する。
 異様な殺意に向けられた四人に嫌な汗が流れる。
 「皆さん。どうやら私達は、通り魔に襲われたらしいですね」
 苦笑いを浮かべ、ネビルスが言った。
 「通り魔? 殺人鬼を間違いでは?」
 「それをあなたが言うんですか? ファグナさん」
 「ま、それもそうですね」
 「どうします、ボス」
 ルーダが少し焦った様子で指示を仰ぐ。
 「うっ!?……お、お前たちッ! ソイツを始末しろ――ッ!」
 ディーガルは荒くれやネビルス、ファグナ、ルーダの三人にそう命令して後退する。
 なるほど、戦えないわけか……。
 俺は嘲笑うような表情を浮かべ、少し体勢を低く構える。
 面倒なことになったが、これ以上の厄介ごとを招かないようここで――キッチリと根っこごと切り捨てる。
 生気を取り戻した荒くれ達が、俺との距離を詰めてくる。幹部っぽい三人は仕掛けてくる様子はなく、様子見のためか少し距離をとった。
 ふむふむ、頭より脳が回るのか……チッ、厄介だな。
 忌々しいという視線を三人に向けつつ、眼前の敵に意識を向ける。
 荒くれ達は剣やら斧、槍などの武器を構える。俺が言うのもなんだが……堂々と人殺しする気のようだ。うん、本当に俺が言うのもなんだな。
 足元に転がる死骸を見て、強くそう思った。
 その時――
 「うぉッ!」
 声を上げて一撃、背後から斧を振り下ろす男。
 重々しい一撃が振り下ろされる。
 「はぁ。不意打ちなら叫ぶなよ」
 ため息交じりに一言。同時、左側に体を逸らし、躱し様右肘を顔面にカウンターで叩き込む。
 ベキッ、と鼻をへし折る感覚が肘を伝う。
 男は鼻を折られた衝撃で上半身を後方に下げ、握っていた斧を離して鼻を押さえた。
 体勢を整えた俺は、右手に握ったロングソードをクルッと回し、逆手持ちにする。そして――容赦なく男の首に突き刺す。
 男の体躯は力を失いダランと垂れ下がる。ロングソードにググッと重みが圧し掛かり、即座に剣を引き抜いて、死体をその場に落す。
 「さあ――殺し合おうか」
 笑みを消し、淡々とした声でそう言った。
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