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レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》
25.予測
しおりを挟む予測――
身なりや態度、その性格から戦闘スタイルは中遠距離、武具の使用はなし、魔法使用すると思われる魔術師……魔法使いであることが想定される。
使用魔法は予想不可能。
火、水、木、三属性の派生である可能性が高いが――闇、光の二属性である可能性も考慮。それら全属性の使用者を検索、使用される可能性のある魔法を予測、確率の最も高い魔法を警戒しつつ最適解を算出。
魔法使い戦、最適解――至近距離による接近戦。
遠中距離での勝率9.8%、近距離での勝率17.4%。
対魔法使いにおいて俺は圧倒的に不利だ。それは〝魔法〟というものに対しての対抗手段が限られ、後手に回らなくてはいけないためである。
俺の戦い方は基本、相手のペースに乗せず、本気を出す前に相手を潰すというものだ。どんなに強かろうと、その本領を発揮できなければ、強者であろうと弱者に敗北する。故、魔法使いであっても、その力を発揮する前に潰せば正気はある。
だから――
「速効――殺す」
呟きと共に、地面を蹴り砕き加速。
相手の手札を知りようがない以上、長引かせる方が不利になる。だからこそ、手札を出させる前に潰して終いにする。そうすれば、何を隠し持っていようと関係ない。
〝観察し対策する〟――この行為が勝利への確実な道だが、それをすれば後手に回り敗北する可能性が上がる。ならば、運任せの突撃も一つの手段だ。
加速、緩急と視界誘導により意識をズラし、誤認識を誘発させながら、接近する。
ネビルスの視界内では、俺が突然消えたり現れたりを繰り返しているだろう。彼の目線は右往左往しながら、何とかこちらの位置を認識している。
「ふむ、これは中々……」
余裕たっぷりな笑みが癇に障る。
彼の表情からは予想外ながら、まだ対処できる範囲内という風な表情が見えた。
そして、俺にはそれが、決して驕りでも、侮っているわけでもないことを……理解出来てしまった。故に――イラつく。
俺の視線はネビルスを全体で捉えつつ、口元に意識を強く向ける。
詠唱は……なし。
口元の動きはない。
右手で口元を隠しているが、その動きから詠唱発動の様子はない。ネビルスは左手を腰に回し、右手を口元に添えたまま、不敵に笑う。
前提――魔法の発動には詠唱が必要となる。
宮登や渚さんなどの四勇者や異世界人の中にいる魔法得意勢のように、無詠唱魔法や短絡魔法などを使う者はほぼほぼいない。
この世界において魔法を使う以上、詠唱とは必須工程。
同時に、俺のようなタイプが、魔法使いに対抗できる〝隙〟とも言える。
詠唱は時間も掛かり戦闘では大きな隙ができ、喉を潰せば魔法は使用できなくなる。故に魔法使いを潰すなら、頭部に攻撃を集中させることが重要。
頭部であれば、ワンチャン殺せるし、殺せなくても喉や口、顎を壊せば詠唱はできなくなる。
魔法の使えない魔法使いなど何も怖くない。
接近――
距離を詰め、右手にロングソードに力を込める。
狙うは――首
視線を外しつつ、的確に首の狙える位置を確保。俺は斬撃を放つ。
時――フラッシュバックする。
…………、…………
魔法、魔法、魔法……――
二つの映像が刹那に流れた。
一つ目。以前アリシアと話した〝魔道〟についてだ。
詳しい話を聞いたわけではないが、彼女曰く――この国で使用できる者はほとんどいない魔法、とのこと。
ジルフィール王国で主流の魔法と彼女が言う魔道とは、別種の神秘。
術式基盤……魔術基盤の違い? 源線流派違い? と、頭を回したが、今は関係ない。
彼女によると魔道とは、詠唱という工程を変えた魔法。この国では一般的に使用されないが、他国や魔界などでは比較的メジャーな方法らしい。
魔道学の教科書、その片隅にそれらしいことが書いてあった気もしたが……興味がなくて寝た。
――――、――――
二つ目。先程ネビルスが見せた突然の加速。
あれには詠唱がなかった。
前提の崩壊――
あの加速はネビルスが身に着けていた指輪の魔道具か何かだったのだろうが、それ以上に重要な事実は、魔法でなければ――詠唱は不要、という事実だ。
正確にそうであるかは知らないが、一つの事実として、魔法以外の神秘では、詠唱は不要であるということ。第一、魔術使いである俺がそれを証明している。
俺の使う魔術は詠唱を破棄しても問題ない。
アリシアは言った。魔道とは、詠唱という工程を変えた魔法、と。
そして彼女はもう一つ、魔道とは――他国や魔界ではメジャーである、と。
目の前のコイツは――何者だ?
剣を振るおうとしたその瞬間、両脚に力が入る。
ネビルスを見て気づいた違和感に反応して、即座に斬撃を停止――跳ね上がる。
背後で何かが凄まじい音が鳴り響き、背に風圧を感じる。
ネビルスから距離を取りつつ、背後の様子を見ると、先程俺の背にあった家の壁が木端微塵に砕け散り、酷く大きな穴を開けていた。
予想的中、ね。
苦笑いを浮かべ冷や汗を掻く。
「ふむ。やはり良い観察眼ですね、まさかこの国の人間が初見で魔道の発動を見抜くとは……」
そう言ってネビルスは腰に回した左手を前に出し拍手する。
彼の左手の人差し指から微かに魔力の波長を感じる。
なるほど……詠唱の工程が違う、ね。
何となく魔道のタネを理解した俺は驚きつつも、手札が一つ割れた事に安堵する。
「魔法使いかた思った相手が、実は魔道使いでしたってオチね。まったく、俺じゃなきゃ死んでたぞ?」
「でしょうね。私も、今ので殺せると思ってましたよ」
ニッコリと笑みが向けられ、呆れたようなため息を漏らした。
魔道使い……ファグナかルーダが教えてくれればよかったのだが……この感じ。コイツ、二人に魔道を使えることを話してないな。
チラッと視線を向けた二人が少し驚いていたのを見て、そう判断した。
ん~、二人をあっちに行かせたの、ミスったかな?
裏切り裏切りを危惧してあちらに回したが、ネビルスが予想以上に強いと理解した今、己の判断ミスを呪った。
「ま、いっか――読めてきた所だし、このまま一人で殺す」
再度ロングソードを構え直し、臨戦態勢を取る。
〝魔道〟という新たな情報を読み込み、予測を作り変える。
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