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レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》
46.斬
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ぞろぞろと溢れる蟻、蟻、蟻。一体どれほどの数が遺跡内に潜んでいたのか……あるいは、遺跡外からも現れているのか。あまりにも膨大な数に戦闘する五人の顔が険しくなる。
一人一人、約百匹は殺した筈だが、それでも一向に減っている気配がない圧倒的な数。
遠くからその光景を眺めている敬也とアリシア。
「はへ?……あの~、もしかして俺、結構ヤバいことした?」
「……はぁ、今更か?」
短いため息と共に呆れた視線を敬也にぶつける。
「大蟻は、女王大蟻、副女王蟻、兵大蟻、働き蟻の四段階の階級で分けられる。ジャイアントアントにとって、クイーンは最重要な存在、それが危険信号を発した以上、レッサークイーンが形成した群れも迫って来る。魔物図解にも書いてあっただろ」
「いやー、そうですね、無茶苦茶書いてありましたよ? でもさ」
「でも?」
「で、でも……テンションが上がっちゃって……――」
「…………」
蔑む――とまでは行かないが、先程以上に呆れた目が敬也を襲う。
彼の行動原理は現在、気分に任せた無謀。深い考えなどなく、ただ高揚した気分と嗜虐心に誘われて何となくやってしまっただけ、あまりにも身勝手且つアホな行動だ。
「……ま、俺達が全部斬れば何とかなるだろ」
「それはそうだが、お前、疲労はいいのか?」
「あれ? 気付かれてましたか?」
頭を掻き少し驚いた表情をする。
「当たり前だ。路地で見つけた時から、お前の動きが鈍くなってるのは分かっていた。そもそも、あの恰好の時点で無茶をしたのはすぐにわかったに決まっているだろ」
「左様ですか……」
「まあ、何にせよ。お前の考えを配慮するなら、しばらくは待機だろ?」
「YES」
親指を立てて同意を示す。
「まったく、死なない程度に最悪を見せる、か。確かに強くなるのなら、それが一番なんだろうが……フン、まあ、あのごみ溜めよりはマシだがな」
「この地獄絵図でも生温いの? 壊乱郷ってそんな地獄なのか?」
「ああ、おそらくこの世で最も〝業の界〟に近い場所だろうな」
「業の界?……ああ、地獄のことか」
ふむふむ、と納得した表情を見せる。
「あのさ、その業の界だけど――ん?」
アリシアへ問い掛けようとしたその瞬間、敬也は何かを感じ取ったように視線を五人の方へ向ける。同様に、アリシアも何かを察して彼と同じ方向に視線を向けている。
ポツリ、敬也が呟く。
「第二ラウンド、ってところかな?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて立ち上がった。そして――
「おーい! そこの五人!」
「「「「「!」」」」」
突然声を掛けられた五人は、驚いた表情で敬也に視線を集中させる。
「レベルアップの時間だ! 死なないように気張れよ!」
不穏な発言、五人とも何かを察したのか警戒を高める。そして時は来る。
ボコボコボコと他の蟻以上に、大きな穴を開けて這い出て来る蟻が十数匹。通常のジャイアントアント以上に大きく、刺々しい見た目、戦わずしても分かる強固な外骨格。
兵大蟻、クイーンの守護する戦闘能力の高い個体。
と――
「――え」
ルーカの呆けた声が漏れる。
見て分かる異様なサイズの蟻――副女王蟻。
他の群れから蟻が押し押せる。
「おい、おいおいおいおい! 冗談だろ!」
悪態を吐きながら回避行動を取るルーカ。
ドゴン、と地面が砕けるほどの攻撃。流石のアルバートもナイトアント、レッサークイーン相手に攻撃を通すことはできないと判断し、距離を取る。
他の三人も同様の判断をする中、一人、立ち向かう少女が。
「シオリ! 一旦距離を取った方が――」
「――いい」
「「「「!」」」」
ルーカの言葉をキッパリ拒否する詩織。彼女はゆっくりと標準を構えるように、レッサークイーンに向けて手をかざした。
「この程度の相手に苦戦してるようじゃ、二人の隣には立てない。なら――
――――完膚なきまでに潰す」
覚悟を宿した瞳で蟻たちを見る。
そして、彼女は言った。
「帝水斬」
最上位魔法――
帝の名を冠する魔法。現在、異世界人であっても使用できる者は限られている最高峰の魔法。
空間が裂けてしまったのではないかと錯覚する。魔法の射線上にいた蟻は全て、スパンと斜めに切断され、その命を散らす。
圧倒的。高々三十階層程度の魔物では、今の一撃を喰らって生きていられる筈がない。
「「「「――――」」」」
唖然とした表情で詩織を見る四人。
理解していたつもりでも驚かざる得ない、規格外さ。いくら勇者といえど、それはあまりにも格が違う。種として、存在としての差を明確に叩きつけられるようだ。
が、次の瞬間。
「ぁ、――――」
バタンと地面に倒れる詩織。
「シオリちゃん!」
オリビアとエヴァが即座に彼女に駆けつける。その間、迫る蟻をアルバートとルーカが何とか対処する。
「うっ、初めての魔法……調整ミスった」
気合いを入れ過ぎたのか、本来の魔法以上の威力を発揮した帝水斬。彼女のほぼ全ての魔力を使用した一撃は規格外の威力を誇ったが、その代償として魔力枯渇で立ち上がることすら真面にできなくなってしまった。
なんとか体を起こそうとする詩織、そんな彼女をオリビアとエヴァの二人が静止させる。
「いいのシオリちゃん」
「え」
「後は私達で何とかするから」
オリビアは労わるような優しい眼差し向ける。
「でも――」
「大丈夫、シオリちゃんのおかげで大分数が減ったし、何とかなるわよ」
「…………」
詩織に治癒魔法を使った後、オリビアは立ち上がる。
「エヴァちゃん、やるよ」
「もちろん」
二人は剣を構える。
――疾駆。
両者同時に駆け出し、蟻へ斬りかかる。既にこの場に集まっている蟻の大半が、十五階層以上の強さを持つ、よって――二人の斬撃は無意味に弾かれる。
だが、そんなことは分かり切っている事実だった。
斬撃はあくまで誘導、捨て攻撃にすることによって――
「水弾」「火弾」
隙の出来た胴に魔法をぶち込める。
二人はそれぞれ中級魔法を短絡魔法で放つ。威力はそこそこだが、レッサークイーンほどでなければ、その外骨格を打ち抜くことは可能だ。
両者、再び走り出す。
一人一人、約百匹は殺した筈だが、それでも一向に減っている気配がない圧倒的な数。
遠くからその光景を眺めている敬也とアリシア。
「はへ?……あの~、もしかして俺、結構ヤバいことした?」
「……はぁ、今更か?」
短いため息と共に呆れた視線を敬也にぶつける。
「大蟻は、女王大蟻、副女王蟻、兵大蟻、働き蟻の四段階の階級で分けられる。ジャイアントアントにとって、クイーンは最重要な存在、それが危険信号を発した以上、レッサークイーンが形成した群れも迫って来る。魔物図解にも書いてあっただろ」
「いやー、そうですね、無茶苦茶書いてありましたよ? でもさ」
「でも?」
「で、でも……テンションが上がっちゃって……――」
「…………」
蔑む――とまでは行かないが、先程以上に呆れた目が敬也を襲う。
彼の行動原理は現在、気分に任せた無謀。深い考えなどなく、ただ高揚した気分と嗜虐心に誘われて何となくやってしまっただけ、あまりにも身勝手且つアホな行動だ。
「……ま、俺達が全部斬れば何とかなるだろ」
「それはそうだが、お前、疲労はいいのか?」
「あれ? 気付かれてましたか?」
頭を掻き少し驚いた表情をする。
「当たり前だ。路地で見つけた時から、お前の動きが鈍くなってるのは分かっていた。そもそも、あの恰好の時点で無茶をしたのはすぐにわかったに決まっているだろ」
「左様ですか……」
「まあ、何にせよ。お前の考えを配慮するなら、しばらくは待機だろ?」
「YES」
親指を立てて同意を示す。
「まったく、死なない程度に最悪を見せる、か。確かに強くなるのなら、それが一番なんだろうが……フン、まあ、あのごみ溜めよりはマシだがな」
「この地獄絵図でも生温いの? 壊乱郷ってそんな地獄なのか?」
「ああ、おそらくこの世で最も〝業の界〟に近い場所だろうな」
「業の界?……ああ、地獄のことか」
ふむふむ、と納得した表情を見せる。
「あのさ、その業の界だけど――ん?」
アリシアへ問い掛けようとしたその瞬間、敬也は何かを感じ取ったように視線を五人の方へ向ける。同様に、アリシアも何かを察して彼と同じ方向に視線を向けている。
ポツリ、敬也が呟く。
「第二ラウンド、ってところかな?」
ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて立ち上がった。そして――
「おーい! そこの五人!」
「「「「「!」」」」」
突然声を掛けられた五人は、驚いた表情で敬也に視線を集中させる。
「レベルアップの時間だ! 死なないように気張れよ!」
不穏な発言、五人とも何かを察したのか警戒を高める。そして時は来る。
ボコボコボコと他の蟻以上に、大きな穴を開けて這い出て来る蟻が十数匹。通常のジャイアントアント以上に大きく、刺々しい見た目、戦わずしても分かる強固な外骨格。
兵大蟻、クイーンの守護する戦闘能力の高い個体。
と――
「――え」
ルーカの呆けた声が漏れる。
見て分かる異様なサイズの蟻――副女王蟻。
他の群れから蟻が押し押せる。
「おい、おいおいおいおい! 冗談だろ!」
悪態を吐きながら回避行動を取るルーカ。
ドゴン、と地面が砕けるほどの攻撃。流石のアルバートもナイトアント、レッサークイーン相手に攻撃を通すことはできないと判断し、距離を取る。
他の三人も同様の判断をする中、一人、立ち向かう少女が。
「シオリ! 一旦距離を取った方が――」
「――いい」
「「「「!」」」」
ルーカの言葉をキッパリ拒否する詩織。彼女はゆっくりと標準を構えるように、レッサークイーンに向けて手をかざした。
「この程度の相手に苦戦してるようじゃ、二人の隣には立てない。なら――
――――完膚なきまでに潰す」
覚悟を宿した瞳で蟻たちを見る。
そして、彼女は言った。
「帝水斬」
最上位魔法――
帝の名を冠する魔法。現在、異世界人であっても使用できる者は限られている最高峰の魔法。
空間が裂けてしまったのではないかと錯覚する。魔法の射線上にいた蟻は全て、スパンと斜めに切断され、その命を散らす。
圧倒的。高々三十階層程度の魔物では、今の一撃を喰らって生きていられる筈がない。
「「「「――――」」」」
唖然とした表情で詩織を見る四人。
理解していたつもりでも驚かざる得ない、規格外さ。いくら勇者といえど、それはあまりにも格が違う。種として、存在としての差を明確に叩きつけられるようだ。
が、次の瞬間。
「ぁ、――――」
バタンと地面に倒れる詩織。
「シオリちゃん!」
オリビアとエヴァが即座に彼女に駆けつける。その間、迫る蟻をアルバートとルーカが何とか対処する。
「うっ、初めての魔法……調整ミスった」
気合いを入れ過ぎたのか、本来の魔法以上の威力を発揮した帝水斬。彼女のほぼ全ての魔力を使用した一撃は規格外の威力を誇ったが、その代償として魔力枯渇で立ち上がることすら真面にできなくなってしまった。
なんとか体を起こそうとする詩織、そんな彼女をオリビアとエヴァの二人が静止させる。
「いいのシオリちゃん」
「え」
「後は私達で何とかするから」
オリビアは労わるような優しい眼差し向ける。
「でも――」
「大丈夫、シオリちゃんのおかげで大分数が減ったし、何とかなるわよ」
「…………」
詩織に治癒魔法を使った後、オリビアは立ち上がる。
「エヴァちゃん、やるよ」
「もちろん」
二人は剣を構える。
――疾駆。
両者同時に駆け出し、蟻へ斬りかかる。既にこの場に集まっている蟻の大半が、十五階層以上の強さを持つ、よって――二人の斬撃は無意味に弾かれる。
だが、そんなことは分かり切っている事実だった。
斬撃はあくまで誘導、捨て攻撃にすることによって――
「水弾」「火弾」
隙の出来た胴に魔法をぶち込める。
二人はそれぞれ中級魔法を短絡魔法で放つ。威力はそこそこだが、レッサークイーンほどでなければ、その外骨格を打ち抜くことは可能だ。
両者、再び走り出す。
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