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憧れの妖精騎士さまと契約してしまいました(涙)

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ミナの言葉を聞いたレヴィアは、顔色を悪くする。
それでもまだ諦めきれないのか、ネックレスにチラチラと視線を向けていた。

(う~ん。しぶといな。……いったいなんで、このネックレスがそんなに気にいったんやろう?)

ミナには、それがわからない。




「……どうあっても、その宝玉を献上する気はないのだな?」

「ありません!」

きっぱり断っているのに、レヴィアは立ち去る様子も見せない。
やがて、非常に嫌そうな素振りでミナの側へと寄ってきた。

「なっ! なんです!?」

身構えるミナの前で――――長い足を折り曲げ、膝をつく。



「へ?」

「仕方ない。……では私は、お前が死ぬまでお前に召喚されてやろう。召喚の対価はその宝玉だ。死した後、それを私に与えると約束せよ。さすれば、今から私はお前の騎士となろう」

真剣な顔で、レヴィアはミナと視線を合わせた。
ミナは耳を疑う。




「……え?」

「何度も言わせるな。お前は耳が悪いのか?」

ミナはブンブンと首を横に振った。
耳はまったく悪くない。ただ、言われた言葉が信じられないだけだ。


「あなたが? 私の? ……騎士になるのですか?」

「そう言っている」

「なんでっ!?」

「その宝玉を正しい手順を踏んで手に入れるためだ。決まっているだろう」

そんなこともわからないのかと、バカにしたようにレヴィアは鼻を鳴らす。

ミナは――――呆気にとられた。


「そんな、本当にこのアクセサリーひとつのために、私に仕えるんですか?」


いくらなんでもおかしいだろう?
ミナのそんな思いが伝わったのか、レヴィアは憐れむような目で彼女を見ながら、仕える理由を話しはじめた。


「――――力ある美しい宝玉は、我ら妖精を生み出す“母石”となりうる可能性があるものだ」


妖精は自然物の精霊だ。人間や他の動物とは違い、彼らは長い時間を重ね力を宿した木々や土地、山や湖、森などから生まれてくる。
中でも天然の宝石は、高位の妖精を生み出す可能性が最も高いものだった。

「自然のままの原石でもその可能性は高いが、美しく磨かれ、光を内包し、内から放つ輝きで見る者を魅了するよう加工された宝玉は、より力の強い妖精を生み出す可能性を高くする」

磨かれた宝玉の全部が全部そうなるとは限らぬが、出来上がりが美しければ美しいほど強い妖精を生み出すことができる宝玉となるのだとレヴィアは話す。

「要は、原石を磨く過程で、どれほどの技能と思いが石に込められたかが重要なのだ。……その点、この宝玉は申し分ない。これほどに美しいのだ。きっと素晴らしい妖精を生み出してくれるだろう」

ネックレスを持つミナの手をそのまま握り締めてきそうな勢いで、レヴィアは身を乗り出す。

ミナは思わず後退った。
そんなミナの様子に動きを止めたレヴィアは、自重したのか手を下に落とす。

「我らは人とは違い、生殖行為で子孫を残すことはできない。しかし、新たに妖精が生まれそうなモノと共にあることにより、同族の妖精を生じさせることができるのだ」

それは、人が我が子に遺伝子を伝えるようなもの。
何十年何百年という時間をかけて、己の放つエネルギーを対象に与えれば、生まれ出づる妖精を同族に導くことができるという。
現に、レヴィア自身も妖精女王のティアラに輝くダイヤモンドから生まれた妖精だった。
同じダイヤモンドのアクセサリーだということも、レヴィアがミナのネックレスに執着する理由の一つ。


(つまり、子孫を残すっちゅう、生物の至上命題がかかっているんか?)


それでは、レヴィアが懸命になるはずだった。
この後、何十年ミナに仕えたとしても、同族の妖精を生み出す可能性の強い宝玉を得たいと思うに決まっている。

「お前は、死して後までその宝玉を必要とはしないだろう?」

聞かれたミナは、大きく頷いた。
彼女は、自分が死んだ後もモノに執着するような性格ではない。どんなに大切なネックレスでも、一緒に埋葬してほしいなんてとても思えない。
そんな勿体ないこと、誰がするかと思うくらいだ。

(墓に入れてほしいのは、三途の川の渡し賃の六文銭分のお金だけや)

――――まあ、このファンタジーゲームの世界の死後に、六文銭を受け取る老婆がいるかどうかは不明だが。

ミナが頷くのを見たレヴィアは、ホッとしたように笑った。

「では、異論はないな。お前は、これより死すまでの間、私の忠誠を受け、見返りとして死して後に、そのネックレスを私に与える。――――悪い取引ではあるまい?」

悪いどころか破格の好条件と言える取引だった。


(……本当に、あの妖精騎士レヴィアを、あたしの騎士にできるんか?)


前世でゲームをしている時、ミナは幾度も彼の雄姿に胸を震わせた。
優美にして最強。圧倒的な力をふるう妖精騎士は、ラスボスである魔王ハルトムートと双璧を成す人気のキャラだ。キャラクターグッズも出ていて、彼のストラップを手に入れるため、聖奈は何度もガチャを回したものだ。

(三回続けて同じヴィルヘルミナが出てきた時は、マジで泣いたな。……いや、ヴィルヘルミナも可愛かったんやけど!)

でも、三回はない! ……二回までなら許すけど!

いまだ信じられぬ思いで――――ミナは、首を縦に振る。
フッと笑ったレヴィアは、その場で自分の剣をスラリと抜いた。
両手で掲げ持ち、ミナへと差し出してくる。



「我が名レヴィア・フェーリッターにかけて、あなたに忠誠を捧げる」



(うわっ! これ、見たことある。ゲームの終盤ラスボス戦の前に、レヴィアがヴィルヘルミナと契約するシーンや!)

よもやそれを自分がするとは思ってもみなかった。

(ヴィルヘルミナに転生したっちゅうても、中身あたしやし!)

震える手でミナは、レヴィアの剣の刀身に触れる。



「我が名ヴィルヘルミナ・エストマンにかけて、あなたの忠誠を受け入れます。……我が剣となりなさい」


セリフを思い出しながら厳かに伝えれば、ミナとレヴィア、二人ともが光に包まれる。

パァー! と輝いた光は、ゆっくりと互いの体に吸い込まれていった。

契約が成ったのである。




(やった! あたし、妖精騎士レヴィアと契約したんや!)

自分の中に流れこむレヴィアの力の波動を感じ、ミナは感動に打ち震える。





しかし――――

「……フム。こんなものか? 人間にしてはまあまあの力だな。我ら妖精族とは比べるべくもないが……仕方あるまい。主としてかろうじて認めてやってもよいレベルだな」

同じようにミナの力を感じ取ったのだろう、レヴィアはそんな感想を漏らした。
やたらめったら偉そうである。





(……そうやった。こういう奴やった)

今の今まで忘れていたレヴィアの性格をミナは思い出す。
彼はとんでもないナルシストなのだ。


(なんで、忘れてたんや!)


自分のうっかりさに、項垂れる。

今更ながらにレヴィアと契約したことを後悔するミナだった。
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