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サブヒロインとすれ違いました

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なだらかな丘にそびえる白い建造物。
形は様々ながら外壁は白で統一された十棟ほどの建物が、今日からミナの通う王立ラキセラ学園だ。
生徒は十歳から十五歳までの魔力を持つ者で、魔力さえあれば貴族も平民も平等に教育を受けられる。

(まあそれはあくまで建前で、身分の差は歴としてあるんやけどな)

十歳から十一歳までは魔法と学問の基礎を教えられ、その後それぞれの進路に従って学科が分けられる。
魔法剣士を目指す騎士学科や、魔法の探求を目指す研究学科。治癒魔法を専門とする医学科に、将来領主や重臣となる貴族のための法律経済学科等々。

どの学科を選ぶのかは自由となっているが、人気のある学科には選抜試験が行われる。
そしてそこで優先的に受かるのはやっぱり貴族だった。
平民はよほど優秀でなければ自分の希望する学科には入れないのが現状だ。

(まあ、それでも死ぬ気で頑張れば平民でも入れるっちゅうのが、学園が平等やいうん根拠なんよね)

平民の希望は門前払いではないのだ。
――――限りなく、それに近い状態ではあるものの。


ちなみに、ミナの兄のアウレリウスは法律経済学科と騎士学科の両方に入っている。
これはたいへん珍しいケースで、なんでも将来伯爵家を継ぐからと法律経済学科を希望したアウレリウスに対し、彼の魔法の才能を惜しんだ騎士学科が是非自分のところに入ってほしいと懇願した結果なのだそうだ。

ミナに対してはいつも兄バカ丸出しで少々情けないアウレリウスだが、実はかなりチートらしい。

しかし、本当にこれは超のつくほどのレアケースだった。
法律経済学科も騎士学科もとても人気のある学科で、入るのは貴族でも難しく、ましてや平民では不可能とまで言われる学科だ。



(ああでも。将来ヴィルヘルミナの旅の仲間になるサブヒロインが、そういえば平民出身で不可能と言われた騎士学科にはじめて入るんやったな)

ハルトムートを救うため艱難辛苦の旅に出るヴィルヘルミナ。
RPGゲームの定番だが、もちろん彼女には旅の仲間がいた。
妖精騎士レヴィアも本来なら物語終盤に仲間になるキャラクターだ。

そしてはじめから一緒に旅立つ仲間の一人が、平民出身のサブヒロインだった。

(まあサブヒロインいうても最初の性別選択で主人公が男を選べば、彼女がメインヒロインになるんやけど)

そのためとても可愛らしい女性だった。
キレイな赤毛を肩くらいの長さで切りそろえていて、目はヘーゼル。容貌が整っているのはもちろんだが、健康的な小麦色の肌でともかく元気がいいキャラだ。

(暗くなりがちな旅の雰囲気を明るくしてくれるムードメーカーなんよね。彼女の笑顔に何度救われたことか……確か、名前は)

考えながらミナは兄に手を引かれ馬車から降りる。


丁度そのタイミングで馬車の横を一人の女の子が通って行った。
鮮やかな赤い髪が視界をよぎる。


「……ルージュ」


ポツリとミナは呟いた。

(そうや。ルージュや。……ルージュ・ブラン。……サブヒロインの名前や!)

赤い髪の女の子にルージュという名は安直すぎやしないかと思ったのでよく覚えている。
小さな呟きはルージュに届かず赤い髪は颯爽と去っていった。


「知っている子かい? ミナ」

呟きの聞こえたアウレリウスが聞いてくる。

ミナは……首を横に振った。


「いいえ。お兄さま。とてもキレイなルージュだなと思っただけです」


ミナの答えにアウレリウスも「ああ」と頷く。

「そうだね。確かにキレイだけれど……私にはミナの金髪の方が美しく見えるよ」

ミナとアウレリウスは、そっくり同じ金髪の兄妹である。



「……お兄さま」

呆れたように呟くミナの頭に、アウレリウスはくちづけを落とした。

「ミナの柔らかな金髪は私より数万倍キレイだよ」

ミナにはどこからどう見ても同じにしか思えない。

(……そういうのを身内の欲目って言うんやで)

年を追うごとにますます溺愛が深くなる兄が心配になるミナだった。
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