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心に誓いました
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驚くことではないのかもしれないが、ついついミナは驚いてしまう。
要は、それだけルージュの様子が異常なのかもしれなかった。
「では、次は……ハルトムート殿下」
ミナのツッこみが聞こえるはずもないコックスは、淡々と授業を進める。
「ここでは俺は一生徒だ。他の生徒と同じように呼べ」
「……では失礼して――――ハルトムートくん。やってみなさい」
コックスは苦笑しながらそう言った。
その笑みには、ハルトムートに対する畏怖も蔑みも見えない。
そのことに、ミナはホッとした。
一歩前に出たハルトムートは、オーブをジッと見つめる。
ミナも他の生徒たちも注目する中で、丸いオーブの底から黒い闇がせり上がってきた。
他の色とは違い、輝くことのない闇は、オーブの半分ほどを染めたところでピタリと止まる。
周囲はシ~ンと静まりかえった。
そんな中、パチパチとコックスが手を叩く。
「さすがだね。オーブの半分を染めるとは大した魔力だ。……次はもう少し頑張ってみようね」
コックスは、他の生徒へのものと変わらぬ笑顔でそう言った。
ミナは――――ツッこむどころじゃない。
彼女の目は、ひたすらハルトムートのオーブに向けられていた。
フラフラと惹かれるように歩み寄り、見つめ続ける。
「なんだ、お前?」
「……キレイ」
ミナは陶然としてそう言った。
だって仕方ない――――ハルトムートのオーブの半分を占める闇は、夜空だったのだから。
(真黒じゃない。時々キラリと光がチラついて――――まるで宇宙空間みたいや!)
小さなオーブの半分に広がる深い闇に目を奪われる。
(闇の魔法は黒なんかじゃない。全てを内包した無限なんやな)
ふいにミナは理解した。
「――――キ、キレイって!? バカじゃないのかっ! お前!!」
ハルトムートが、思いっきり動揺して叫ぶ。
「失礼ですね。人に対して『バカ』なんて、言うもんではないですよ」
ミナは、ムッとしてそう返した。
(バカは、関西じゃ禁句なんやで。……まあ、あたしは東京育ちやから、気にせぇへんけどな)
気にしないどころか、かなり頻繁に使っているミナだ。
先日もハルトムートに対し連発したような気がするが――――まあ、細かいことは気にしないことにする。
「俺の闇属性をキレイなんて言う奴が、バカじゃないはずがあるか!!」
「キレイなものはキレイなんだから仕方ないでしょう! 夜空に感嘆するのは、特別変わったことじゃないわ」
きっぱりと言い切るミナに、ハルトムートは押し黙った。
「……夜空?」
「あ、ああ。確かに」
「いや、闇属性だぞ!」
「……でも、そう言われれば星が見えるような?」
周囲の生徒たちも、ざわざわと騒ぎはじめる。
そんな中、コックスがパンパンと手を打ち鳴らした。
「静かに。まだ授業は終わっていないんだよ」
確かにオーブに魔力をこめていない生徒がまだ一人いる。
そう、他でもないミナだ。
ハルトムートのオーブから、ようやく目を離したミナは、一歩前に進んだ。
目指すは百%! オーブを魔力で満タンにすることだ。
(絶対「次はもう少し頑張ってみようね」なんて、言わせないんやから!)
キッとコックスを睨めば、柔和な雰囲気な教師は、おやおやと苦笑した。
「やる気満々だね。ではエストマンさん、どうぞ」
「ミナでいいです。――――行きます!」
ミナは、オーブに集中した。
次の瞬間、オーブがカッ! と輝き出す!
眩しい光が周囲を満たした。
その輝きに誰もが目を瞑る。
瞼の裏まで白く染めた光がおさまって――――ようやく目を開けた全員が――――驚いた。
「すごい!」
「オーブが、あんなにキラキラ輝いて」
「満タンなのか!?」
「………………いや、ほんの少しだけど上の方が暗く見えるような?」
周囲の話し声を聞きながら――――ミナはがっくりと、その場にひざをつく。
(くっ……敗北や。満タンにできんかった)
キラキラと輝いているため、パッと見には満タンに見えるオーブは……よくよく見れば上が光らぬままだった。
「これはすごいね! 新入生が最初の授業でここまでオーブを輝かせられるなんて――――とても信じられないよ。いやいや見事だ。さすが稀有なる光属性の魔法使いといったところかな? きっと君なら直ぐにオーブを満タンにできるだろう。――――次はもう少し頑張ってみようね」
しかし、結局コックスは、そう言った。
ミナは拳をプルプルふるわせて屈辱に耐える。
(く、悔しい! 絶対いけると思ったんに!)
現実はそうそううまくいかないようだ。
そんなミナをハルトムートは、悔しそうに睨みつけてくる。
「見ていろ、直ぐに追い越してやる!」
ルーノは驚きを通り越し呆れ顔だ。
「ミナは言動だけじゃない。魔力も常識外れなんだな」
他人に関心なさそうなルージュも目を見開いてミナを見ている。
そんな中、ミナは――――
(次こそ、次こそオーブを満タンにして見せる!)
心の中で、メラメラと闘志の炎を燃やしていた。
(フム。わからんな。そんなちっぽけなオーブ。満タンだろうと半分だろうと大して変わりはあるまいに)
レヴィアが、さっぱり理解できないとため息交じりの思考を伝えてくる。
(ナァ~)
ナハトは、どうやら慰めてくれているようだ。
(……今日から訓練倍にする! やる! やったるでぇ~!!)
心に誓うミナだった。
要は、それだけルージュの様子が異常なのかもしれなかった。
「では、次は……ハルトムート殿下」
ミナのツッこみが聞こえるはずもないコックスは、淡々と授業を進める。
「ここでは俺は一生徒だ。他の生徒と同じように呼べ」
「……では失礼して――――ハルトムートくん。やってみなさい」
コックスは苦笑しながらそう言った。
その笑みには、ハルトムートに対する畏怖も蔑みも見えない。
そのことに、ミナはホッとした。
一歩前に出たハルトムートは、オーブをジッと見つめる。
ミナも他の生徒たちも注目する中で、丸いオーブの底から黒い闇がせり上がってきた。
他の色とは違い、輝くことのない闇は、オーブの半分ほどを染めたところでピタリと止まる。
周囲はシ~ンと静まりかえった。
そんな中、パチパチとコックスが手を叩く。
「さすがだね。オーブの半分を染めるとは大した魔力だ。……次はもう少し頑張ってみようね」
コックスは、他の生徒へのものと変わらぬ笑顔でそう言った。
ミナは――――ツッこむどころじゃない。
彼女の目は、ひたすらハルトムートのオーブに向けられていた。
フラフラと惹かれるように歩み寄り、見つめ続ける。
「なんだ、お前?」
「……キレイ」
ミナは陶然としてそう言った。
だって仕方ない――――ハルトムートのオーブの半分を占める闇は、夜空だったのだから。
(真黒じゃない。時々キラリと光がチラついて――――まるで宇宙空間みたいや!)
小さなオーブの半分に広がる深い闇に目を奪われる。
(闇の魔法は黒なんかじゃない。全てを内包した無限なんやな)
ふいにミナは理解した。
「――――キ、キレイって!? バカじゃないのかっ! お前!!」
ハルトムートが、思いっきり動揺して叫ぶ。
「失礼ですね。人に対して『バカ』なんて、言うもんではないですよ」
ミナは、ムッとしてそう返した。
(バカは、関西じゃ禁句なんやで。……まあ、あたしは東京育ちやから、気にせぇへんけどな)
気にしないどころか、かなり頻繁に使っているミナだ。
先日もハルトムートに対し連発したような気がするが――――まあ、細かいことは気にしないことにする。
「俺の闇属性をキレイなんて言う奴が、バカじゃないはずがあるか!!」
「キレイなものはキレイなんだから仕方ないでしょう! 夜空に感嘆するのは、特別変わったことじゃないわ」
きっぱりと言い切るミナに、ハルトムートは押し黙った。
「……夜空?」
「あ、ああ。確かに」
「いや、闇属性だぞ!」
「……でも、そう言われれば星が見えるような?」
周囲の生徒たちも、ざわざわと騒ぎはじめる。
そんな中、コックスがパンパンと手を打ち鳴らした。
「静かに。まだ授業は終わっていないんだよ」
確かにオーブに魔力をこめていない生徒がまだ一人いる。
そう、他でもないミナだ。
ハルトムートのオーブから、ようやく目を離したミナは、一歩前に進んだ。
目指すは百%! オーブを魔力で満タンにすることだ。
(絶対「次はもう少し頑張ってみようね」なんて、言わせないんやから!)
キッとコックスを睨めば、柔和な雰囲気な教師は、おやおやと苦笑した。
「やる気満々だね。ではエストマンさん、どうぞ」
「ミナでいいです。――――行きます!」
ミナは、オーブに集中した。
次の瞬間、オーブがカッ! と輝き出す!
眩しい光が周囲を満たした。
その輝きに誰もが目を瞑る。
瞼の裏まで白く染めた光がおさまって――――ようやく目を開けた全員が――――驚いた。
「すごい!」
「オーブが、あんなにキラキラ輝いて」
「満タンなのか!?」
「………………いや、ほんの少しだけど上の方が暗く見えるような?」
周囲の話し声を聞きながら――――ミナはがっくりと、その場にひざをつく。
(くっ……敗北や。満タンにできんかった)
キラキラと輝いているため、パッと見には満タンに見えるオーブは……よくよく見れば上が光らぬままだった。
「これはすごいね! 新入生が最初の授業でここまでオーブを輝かせられるなんて――――とても信じられないよ。いやいや見事だ。さすが稀有なる光属性の魔法使いといったところかな? きっと君なら直ぐにオーブを満タンにできるだろう。――――次はもう少し頑張ってみようね」
しかし、結局コックスは、そう言った。
ミナは拳をプルプルふるわせて屈辱に耐える。
(く、悔しい! 絶対いけると思ったんに!)
現実はそうそううまくいかないようだ。
そんなミナをハルトムートは、悔しそうに睨みつけてくる。
「見ていろ、直ぐに追い越してやる!」
ルーノは驚きを通り越し呆れ顔だ。
「ミナは言動だけじゃない。魔力も常識外れなんだな」
他人に関心なさそうなルージュも目を見開いてミナを見ている。
そんな中、ミナは――――
(次こそ、次こそオーブを満タンにして見せる!)
心の中で、メラメラと闘志の炎を燃やしていた。
(フム。わからんな。そんなちっぽけなオーブ。満タンだろうと半分だろうと大して変わりはあるまいに)
レヴィアが、さっぱり理解できないとため息交じりの思考を伝えてくる。
(ナァ~)
ナハトは、どうやら慰めてくれているようだ。
(……今日から訓練倍にする! やる! やったるでぇ~!!)
心に誓うミナだった。
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