ひとりきりでーと

亜々流

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田宮花音 春の編

03、直樹のデート01、公園デートB

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 直樹は人通りが多い通りに出ると、自分が独り言をしゃべってる様にしか見えないことに気付いた。次第に小声になっていく。
 
 ごにょごにょ……あたりをはばかるように。

(……?)

『おにいさ~ん、どうかしたの?』

「いや、ブツブツと独り言してる変な奴に見えないかと……」

『う~ん……わたしは声出てないよ? だから、お兄さんも声に出さないで喋ってみたらどうかな? 頭の中で文章にして押し出す感じかな』

 直樹は、眉間にしわを寄せて集中しながら思う。

『お、おう、これで聞こえるのか?』

『オッケーみたい、ちゃんと聞こえるよ~』

『そうか、じゃあこれから電車で、石神井公園に行くからな』


 電車に乗ると、頭の中の花音がはしゃぎだす。

『電車だ~、通学電車だ~。いっぱい乗ってるよ~』

『……ちょと、お前って電車に乗った事ないのかよ?』

『え~っ、あるに決まってるじゃない。でも、通学電車とかは無いから。移動はほとんど車だったし、電車は指定席取れないとダメだって』

『ああ……そうか悪い。お前、お嬢様だったのか?』

『……ん? ちがうよ、お姫様だよ~』

(はぁ~何言ってんだか……ついていけねぇ)
 直樹は、傍若無人なお姫様発言にあきれて唖然とするものの、楽しげな少女の様子に良い気分になっていた。

『すごいね~。ぎゅうぎゅう詰めになったりするの?』

『そりゃあ、朝のラッシュ時なんかは、すごいよ』

 直樹にとって何の変哲も無い、いつもの車内を嬉しそうにしている。直樹は花音の指示に従って、キョロキョロと電車内を眺めているのだった。

 石神井公園駅に着く。ホームを出て歩き出す。

『どっち行けば良い、分かる?』

『そのまま真っ直ぐ。石神井公園の近くだよ~』

 花音の案内で、公園の近くまで歩いて来ていた。コンビニを見つけて、条件反射でお腹がなる。

「ん~、お腹空いた~」
『ちょっと、コンビ二で買い食いして良い?」

『コンビニ~! いいよ。是非行こう。絶対行こう~』

「……まさか」
『コンビに行った事ないとか?』 

『あるよ。でも、外は寒いから車で待ってなさいとか言われるでしょ?』

『……ああ、そ、そうな、うん。そういうこともあるかな』
(はぁ~どこまで、お嬢様なんだ? この娘は……)

 コンビニに入り、菓子パンのコーナーに行く。

『コンビニ、去年の秋ぶりくらいかな~。知らない商品いっぱいだね』

『……花音は、どれがいい?』

『え~っ、いいの? じゃあね~』


 コンビニの袋を持って石神井公園に入るとベンチに座る。コンビニの袋を見て、ふと気がついた。

『んと……なぁ? もしかして、食べるの全部オレか?』

『そうなるかな? たぶんだけど……お兄さんが食べると、わたしにも味が伝わってくる気がするんだ』

『そういえば香りは脳に直接届くって……何かでやってたかな? 味覚も同じようなものか』 

『そう、そう、そう、味はしっかり伝わってくる気がするの~』

 あまりにもハッキリと、色々な感覚を共有しているというのは、気まずいものだろう。
 それで、今の関係がおかしくなるのは嫌だと花音は思った。

 直樹は、さっそくホイップクリームが中に入ったメロンパンをパクつき始める。飲み物はヨーグルト系の物だった。

『うん、美味し~。ちゃんと味が分かるよ~』

『よ~し、次はどれを食べる?』

『じゃあね、このアンドーナツにホイップクリームにナッツが入ってるの。
 でも、大丈夫? あと二つとか多すぎた?』

『ふっ、スポーツ男子なめんなよ。菓子パン四つくらいは余裕で食べられるぜ』
(甘いのばかり四つは勘弁して欲しいけどな……)

『わたし、すぐにお腹いっぱいになっちゃうから、こんなに食べたの初めてだよ。ありがとう、お兄さん』

『お、おう』

 少女から、お礼を言われて恥ずかしくなり適当に景色を眺めだした。
 その景色は花音にも見えて、楽しませてくれる。

 少し先にジンチョウゲの花が見える。まだ、咲き始めだけど……。小さな花が寄り集まるように咲く。薄く紫がかった綺麗な花だ。
(これって、デートかな? わたし、男の子とデートしちゃってる~エヘヘヘ)

『う~ん、わたし幸せだな~』

(本当に、幸せそうな奴だなぁ)
『う~ん、そういえば、普段じっくり見たりしないけど空も景色も綺麗だな』

 大きく伸びをして話しかける。花音に言われるままに、景色を眺めているうちに直樹も公園の自然の中で寛いでいた。

『なんだか夢みたいだね?』

『夢みたいだけど、夢じゃないんだなぁ~』



 思いがけず長い時間を公園ですごして病院に向かう。
 10分ほどたった後で花音は、自分が危機的な状況にあることを実感する。
(まずい、急がなきゃ間に合わなくなる……)

『……こっちでいいのか? なんか来る時に通った気がするけど』

『うん、大丈夫だよ』

『よし、急ぐぞ』

 直樹は早足で、花音の指示に従い歩いていく。

『着いた~ほら、あれがサクラ聖和病院だよ』

 水分を取りすぎたのと、少し肌寒かったせいもあり、直樹は病院に着くと、トイレに直行した。
 花音は慌てるが、どうすることもできない……。

『えっ、先に病室に行けない?』

「……ん? ムリムリもれちゃう」
(ま、間に合わなかった……)

 直樹は男子トイレに駆け込むと、ジッパーをあけて○○○を△△△から×××と□□□した。開放感が脳に広がり、○○○を○×△して――――。

(うっ~、田宮花音、汚れてしまいました……)
 ここに体があれば、花音は顔が真っ赤になっていただろう。花音は、なんとか直樹に気付かれないように黙り通す事には成功していた。




『そこのエレベータで、三階に上がって307の病室だよ』

『おう、わかった、307の病室な』

 エレベータから病室へ向かい思う。さてと、どうしようか……。
 が、病室に近づいていくと花音は不思議な感覚に捕らわれる。何だか引っ張られている? 徐々に強くなり意識が一瞬途切れた……。

 目を開けると、いつもの病室の中だった。側に、母親が居る。

「お母さん、お母さん……」

「花音! 花音! 起きたの?」

 花音の手を手をギュッと握って話しかける。

「うん、お願いがあるの」

「……?」

「ここからエレベータへ行く途中に高校二年生の山本直樹さんって人がいると思うの。居たら連れて来て欲しいの」

 夢のような話だけど、本当の事だったと思っている。それでも、直樹が姿を現すまで花音は、自分の作り出した夢だったのではないかと不安だった。



 その瞬間……直樹にも花音が消えたのが分かった。
 どうするべきか、迷っていると母親と思われる人に声をかけられ病室に案内される。


 ベッドに横たわる少女が居た。怖いほどに少女は、はかなく美しく……見えた。
 今にも命が失われてしまうのではないかと思えた。

 少女は微笑むと、かすかな声で言った。

「おに~さん、ありがとう……夢じゃなかったね」

 花音だ……直樹は思う。この娘が、あの明るく元気な、少し前まで一緒に居た少女だったのかと……。

「お、おう、夢じゃなかったな……」

 直樹は、元気すぎる様子の少女に勘違いしていた。花音は事故にでもあっただと。
 そして自分が連れ戻して、意識が戻れば何ヶ月かには治り退院できるモノだと思っていた。

「また、でーと出来るといいな」

「……ああ、そうだな」



 直樹は、家に帰るとインターネットで「サクラ聖和病院」を調べてみた。
 ホスピス専門病棟……?

 ホスピス、その意味を知り少女の運命に身を震わせた……。

(うそだろ? うそだろ? 幸せだって、言ってたじゃないか!)


◇============================◇

よろしくお願いします。
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