幽霊屋敷で押しつぶす

鳥木木鳥

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「裏内屋敷」対「乾森学園」 

誕生と落下落下落下崩壊

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 最初の記憶は黒い影。
 最初の命令は「広がる」こと。

 はい、わかりました。

 広がる、わたしがわたしを確立するために。鉄と石から意思を広げ身体を築く。
 屋敷《わたし》を築く。
 次に命じられたのは「喰らう」こと。
 はい、わかりました。

 そして喰らう。
 男を女を子供を老人を。
 善悪もなく逡巡なく機構として
 喰らって。
 続く。続く。喰らい続ける。
 喰らう度に満たされる。
 わたしが満たされる。
 わたしの裏側に何かが生まれる。

 いつしか。
 それが嫌で。
 喰らうほどに嫌になって。
 それを感じる自分が嫌で
 だから。
 だから命令をください。
 裏内様。

 そして摩耗しきったわたしは何も考えず。
 心まで屋敷のように閉ざされていった。

「ここ追い出されたらどこ行きゃいいんだ?」
 ………
「園村砂。特技は殲滅、趣味も殲滅って、あの先輩ヤバすぎるな、関わらないようにしとこ」
 ………
 うるさいな。
 黙らせないと。
 これ以上何も喰いたくない。
 だから。

 ソレに触った。

 ………
「はい、今自宅です、宮上先輩。…どうしても身体が動かなくて…はい」
 ………
 この女は、自分が風邪を引いたと思い込んでいる。
 実際には、わたしに触れられたせいなのに。
「うう…入社早々病欠なんて…」
 うなされてよくわからないことを呟いている。
 もういいよね。
 もしこの人間を喰ったら、こんな痛みも感じなくなるかな。
 そうなったら。
 身も心も怨霊として自分を開放しよう。そして討ち取られよう。

 そうすれば、終わることはできるから。

「ふにゃぁ…」
 その時。
 女が私の手を掴んだ。

「え」
 思わず声が出た。
「お姉ちゃん?」
 ………
 いや、わたしは。
「ち、違いますよ」
「じゃあ誰ぇ~?」
「わたしは、裏内」
 そして。
「裏内宇羅、それがわたしの名前です」

 この時。
 生まれてから数十年目のその日。
 新しい住民の庚游理と出会ったその日に。

 わたしは自分の名前を得た。




 跳んだ。
 先ほどまで消えかけていた幽霊屋敷は、
 蛾よりもなお上の空に向けて、飛び上がる。
 その急激な変化に反応しきれない森白学園は、それでも杭を射出したが。
「裏内宇羅!」
 出し惜しみなしだ、そうだろ。
「はい!」

 同時に、手元の厄薬を全て、家の中に、宇羅の中に
 全開で吹き付けた。

「あ」
 
そしてその効果は

「ああ、あああああああああ!」
叫び。
「耐えろよ、宇羅! 私のせいで潰れるな! そんなことで死んだら、私はあの世でおまえを呪い殺してやるから!」

「あ、ああ、バカな」
返す。
生まれ直すほどの激痛に襲われる中、宇羅は軽口に答えるように自然に。
「《《バカなこと言ってる暇があったらもっと薬《やく》、もっと厄《やく》を、からっけつになるまで出し続けてください》》!」
 それが。
「誰よりも気高く優しい心臓、あなたの願いを叶えるために!」
 ああ、そうだ私はそんなふうにおだてられたら
「やるしかないよなぁ」
 カートリッジに薬品は既に残されていない。
 だが、なければ補えばいい。
 そこに取り付けられた針を、腕につき刺す。
 そこから流し込むのは血。
 人間を数百年単位で品種改良し続けた庚家。
 その中でも災厄の忌み子の本質を、幽霊屋敷に注ぎ込む。

 結果。
 幽霊屋敷は
 進化、深化する

「宇羅の名の下に、わたしはあなたを潰します」
 宣言と共に、天を、怨みしかない空の向こうを掴むようにかざした宇羅、その手から生み出されるのは、もはやコンクリートの巨石でも歪な鉄の槍でもなぃ



 蚕蛾の上空、
 何もない虚空に
 裏内屋敷、都内某所に建つ一軒家が出現した。

 裏内屋敷は自分自身を呪い運ぶ虫の頭上に作りあげた。
 それを用いて行うのは、

「『丸ごと全部』裏内屋敷を喰らってください、333名の命を喰らったあなたにも喰いきれないものを」

 爆音と共に落下した家そのものの重さに加えて、内部に詰め込まれた怨嗟は炸裂し。

「まだまだです」

 直後まったく同じ家・・・・・・・が白い蛾の上に現れた。
 幽霊屋敷の中の物が壊れれば、屋敷はそれを再建できる。
 心臓さえあれば
 屋敷自身であろうと何回でも。

「2回目」
 右の羽に堕ちた屋敷の裏手から上がった火の手が羽に燃え広がった。

「3回目」
 堕ちた衝撃で左の羽に大穴が空いた。

「4回目」
 頭部に当たった屋敷の欠片が、蛾の目を抉った。

「5回目、6回目、7回目、8回目、9回目」
 落とす、堕とす、堕とす、落とす。
 怨嗟も殺戮も何もかも押しつぶして平らにする幽霊屋敷。
 怨嗟をもって怨嗟を喰らう屋敷。


「13回目」
 内部の命全てを用いて12回耐え切った森白学園は、
 13回目に地に堕ちた。

「お疲れ様です、游理さん」
「はぁはぁ…あ」
 全身が痛い、こんなに疲れたの仕事でもないぞ。
「あと1回でも耐えられたらまずかったですが、ギリギリ攻めきれました」
 ごめん、口を開くのもしんどい。
 こんなに負担になるのか、屋敷に全力を出させるのは。
 二度とやらない、絶対に。

 だけど、もう少し。
 まだ仕事が残ってる。


「宇羅手伝って」
 あなたもわかってるでしょう。
 無言で肩を貸す彼女と一緒に、最後の仕上げに向かう。

 おわれないおわれないおわれないおわれない。

 理不尽から生まれた狗の神の叫びが響いた。
 身体を不条理な暴力で潰されようとその怨みは消えず、
 命を喰らっても、喰らっても満たされない渇きからは逃れられない。
 だから。
 なおも飛翔しようと足掻く。
 それが幽霊屋敷「乾森学園」
 渇きを癒すことが。
 と。
 消滅を目前にして、自分の願いと向き合った時。
 それは初めて違和感を覚えた。

 違う。

 違う、自分の願いはそうじゃなかった。

 庚の毒は確実に浸透していた。
 怨嗟に囚われた存在に、致命的な疑念を植え付けるほど。
 あるいはそれこそが祓い。救いであるのなら。

「お待たせ」

 そして。
 数多の命を喰らってきた幽霊屋敷に、
 終わりすくいをもたらす者が訪れた。

 
 白い蚕蛾の残骸の中心部にそれはあった。
 祟り殺すために祟り殺す怨霊は存在しない。
 なら森白学園の大量殺戮の目的は殺戮ではなく

「見つけてほしかったんでしょ。杭であたりを打ち込んだのも、音を立てるためだった」
 杭打ち。
 杭を撃つ。
 貯水槽の中で朽ちていく自分の居場所を伝えるために。
「まあ犠牲者にとっちゃ頭ハッピートリガーな殺人鬼だろうと何だろうと変わりはないし、
 許すとかは私の言うことじゃない」
 だから。
「とりあえず、あなたはあなたの怨みを喰らい尽くして消えなさい。そして私たちの血肉になれ、乾森学園」
 その宣告と共に、
 もうすでに影のように辛うじて形を保っていたソレは完全に灰となって霧散した。

「霧が出てきた…それになんだかこの校舎…」
「崩れてきてますね」
 そうか、ここは生き物の体内みたいな空間だった。
「どうするの、どうやったら出られる」
「心配いりません、幽霊屋敷乾森学園が消えたなら、この空間自体なかったことになるだけです。灰は灰に、廃墟《ゆめ》は廃墟《ゆめ》に、です」
 夢、か。
「じゃあしばらくしたら部屋で無事に目を覚ますんだな」
 この際夢オチでもいいから早く寝直したいな。
 明日、いやもう今日? とにかく仕事があるんだよ、私は。
「ええ、何事もなくそうなります。それから」
 頭を下げて
「すみませんでした、游理さん。あなたを巻き込んでしまって」
 なんだよ、そういうのが困るんだよ。
「まあ、その出だしが強引だったから半分は許してないが」
 あの時内心でビビりまくってたのは絶対教えないクールな私。
「あの家、というか裏内の家に住まわせてもらってるのも事実だし」

「住民が大家さんの頼みごとをきくのは、まあよくあること」

 それを聞いた裏内宇羅の笑顔と共に、
 悪意が生んだ血と杭の殺戮空間は霧の中に消えていった。


 幽霊屋敷 乾森学園 解体完了。


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