探偵災害 悪性令嬢と怪人たちのギリギリな日常と暗躍

鳥木木鳥

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虚ろな探偵を満たすもの

不在証明・展開

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「じゃあまずはここから逃げない、ですね!」
 いきなりテンションが上がったヤマメさん、いやいつものことかな?
「あ~まだ抵抗するのって、面倒なんですけど?」
 黄色矢の方はまた微妙にダウナーになった。突発上昇型対乱降下型。特に嬉しくないドリームマッチだよね。
「正直あなたは、相手しづらいんだよね」
 ヤレヤレ、という感じで首を振る。ちょっとむかつく仕草だよ、それ。

「だって変態だから」

「・・・・・・・・」
 私もヤマメさんもヒルメも、誰も口を開かない。その場の空気が凍り付いた。
 
 黄色矢、こいつ・・・情け容赦なく直球で事実を言った!
 思わず頷いて同意しそうになったくらい。さすがにそれは自重したけど。
「だから・・・ヒルヒル!」
「へ? はい?」
 いきなり話を振られたヒルメが焦ってる。
「鉄怪人の方はきみに任せるよ。さっききれいなのが入った蜻蛉と、ちょっと回復した白いの、併せてとどめ刺すから。それまで抑えててね!」
 また当然のように無茶ぶりをするな。
 忘れてるかもしれないけどヒルメは私の所の人間なんだけど。昨日顔を合わせたばかりのあなたが、何で長年の上司みたいに指示してんのさ。
 面白くないなぁ・・・色んな意味で。
「了解です」
 再び加速に入ったヒルメが、ヤマメさんに狙いを定めて接近してくる。
「そういう訳で、2発ずつ打てば沈むよね?」
 残った黄色矢は、簡単な計算を確かめるようにそう呟いた。

「じゃあ逝ってみようか」

「逝く訳ないだろ」
 手足の動きは七割、甘く見て八割方動きが戻ったはず。元々ちょこまか動くのは得意じゃないけど、全力で走ればいけるかな?
 まずヒルメの足を止めないと話にならないけど。

「ジキ、いや耳蜻蛉、聞こえてるでしょ?」
 傍で横たわっている蜻蛉怪人に囁いた。
「数秒くらい稼ぐ。それでいけるよね?」
「・・・・」
「沈黙したまま、なら全面的に同意ってことだよね」

「ふ・・そ、その変な自己肯定感は・・なんなん・・じゃ?」

 か細い声を振り絞ってジキがようやく返事をした。そっか。喉のあたり潰されたんだ。悪いことしたかも。
「まあ・・・ええ。な・・んじまで助けられるか・・・保障せんぞ・・・?」

「上等。これでも逃げ足としぶとさには自信があるので」
 それだけいつも負け続けてるってことだけど。
「へ、あの給仕といい・・・面白過ぎるな・・・ええわ」

 頼む。タンテイクライ。この場を凌いで見せてくれ。
 土蜘蛛の怪人は確かに私に向けて懇願した。

「ッツ・・・! ガッ!」
 掛け声とともに残った痛みを無理やり押さえつけ、気合を入れて立ち上がる。

「待たせたね、探偵。第2ラウンド開始だから」

 芝居がかったセリフで傷をごまかし黄色矢の前に立つ。
「いい加減うんざりしてきたかも」
「そうは行かない。嫌でも付き合ってもらうから我慢して」
「全力で拒否するよ・・・もう終わりにしよう」
 返しつつ、黄色矢は踏み込んでくる。
 低く構えてるのは、ジキのことも警戒してるってこと? 私を睨みつけつつ蜻蛉怪人のことも忘れない。
 改めて、生粋の狩人としてのこいつの優秀さを思い知る。
 全く面白くないけど。
 数秒といったけど、ここはジキを信じて、動けるだけ動こうか。

 そうして足を踏み出した途端。

「っつ!」
 これまでで一番の激痛が走った。

 何で。
 傷口は再生したはずなのに。
 不意打ちが失敗した時黄色矢に付けられた傷が、今になって痛み出した。どんなに我慢してもそのせいで動きが予想より鈍い。
「一応回復するのを見越して、後から来るように調整したり、実際に動かそうとするまで違和感に気付かないくらい関節を痛めつけたりするのは大変だったよ」
 そんな無茶苦茶な格闘術聞いたことない。私が知らないだけであるのかもしれないけど。

 でも少なくとも、こいつの能力はそんなミラクル拳法なんかじゃない。
 それは確かなこと。

「はぁ、底が見えて、きたかな?」

 黄色矢の正体不明の権能。こちらを理不尽にねじ伏せ、散々私たちを翻弄したその正体は大体わかった。
 その仮説が成立したなら、怪人らしく嵌める方法を求めるだけだ。
 それでも今感じている痛みと倦怠感、身体を苛む苦痛の一切が減衰することはない。

 黄色矢リカ、わかっていたけど、こいつ・・・性格悪い。

「えへへ・・・・えへへ・・・」
 痛みを和らげるにはどうすればいい? 取り合えず声を出す。
「え、へへへへ。えっへへ・・・」
 我ながら頭がおかしい不気味な振る舞いだな。
「何を笑ってんのかな?」
 案の定、少し引き気味の黄色矢が質問してきた。
 ああ、そうだ。
 これでも性格の悪さでは易々と負けるはずがないって自負があるんだ。

「そんなの決まっている」
 だから言わせてもらう。

「お前の底が浅い能力を完璧に理解して、それを打倒する目算が付いたからその嬉しさが抑えられないんだよ、探偵」
 底が見えれば、後はタンテイクライが喰らいつくすだけだ。


「タンテイクライといい、あんたといい、何でこんな所まで出張してるのさぁ!?」
 兄さんといい、折角他所の街に来たのに、見知った顔ばかりなのは萎えるから。
「申し訳ありませんがそれを教えることは出来ないので」
 ミサイルを雑にばら撒きつつ鋼鉄の怪人が礼儀正しく答えた。
 四方を取り囲む職員が止むことなく銃撃をしていても、全て迎撃されるか鎧に弾かれ微塵も損害を与えていない。

「蛇宮ヒルメ。あなたが主の誘いに乗ってさえいれば、仔細事情をお伝えしていたものを・・・残念です」
 そのセリフだけは本当に心を込めているみたいだった。
 他は聞いてると頭が痛くなることばかりだけど。
「折角、あのお方の足掻く姿をすぐ傍で観る機会だったというのに。もったいないことをしましたね」
「何だろ、言ってることはわからないけどそれを聞いたあいつが頭を抱えるのだけは確信したよ」
 そんな仲の良い掛け合いをしつつ、衰えない規模で迫る爆撃を掻い潜って怪人に接近する。
 武器は「零時間」これであの鋼の装甲を斬り避けるかな? 無理だ。
 だから狙いはその隙間、そこから内部の肉へ刃を突き刺す。これならいける、と思う。
 他に選択肢はないし。下手に日和ったら他の職員さんに矛先が向くからね。
 こういう気遣いは団長の仕事でしょうに、何でフシメ兄さんはここにいないかな。
 わたしはともかく、それだけ黄色矢さんを信頼してるってことだろうか。
 そのせいでこっちが苦労するのは、どうにかして欲しい。皆が皆あなたみたいに優秀な探偵ばかりじゃないんだよ。

「『不在証明』」加速開始。同時に空間跳躍開始。
 視界を埋め尽くす怒涛の弾幕も、その空間を跳躍して回り込めば脅威なんかじゃない。
 連続使用は気力、っていうか精神力というか。とにかく凄まじく疲れるから出来ない相談。いつもなら3連続もきつい。
 なのに今ならわたしは、まだ跳べる。
「跳躍、跳躍、加速、跳躍」
 周りの銃撃など、ここに至っては無意味に感じてしまう。
 それを撃つ仲間も黄色矢さんも蜻蛉怪人も、タンテイクライすら視界には映らない。

 今この世界にはわたしとこいつしかいない。

 そんな風に錯覚するくらい、全てが遮断されかつ全てが明白に見える。

 あの日ムナに斬られて、そして白い怪人の手を取ってから、わたしの中の「ズレ」を感じることは少なくなっていた。
 信じていたものに裏切られたなら、本来不安定になってもおかしくないのに。逆に自分の芯がブレなくなってきている。
 それと関係があるのかはわからないけどね。
 あの時タンテイクライの誘いを拒絶出来たのは、そのおかげなのは間違いない。
 そして。
「跳躍、跳躍、加速、加速、加速」
 今も絶好調で、戦えてる。
「っあ、ああ!?」
「そう、浅い」
 必然的に、百の銃撃、千の爆撃を潜り抜けたわたしの刃のひと突きが、今届いた。
 さすがにこれで終わる甘い相手じゃないのは知ってる。
 見間違いじゃなければ、いちど「生首」になってもこの怪人はこうして蘇ってきたのだから。
 だったらすべきことは非常に簡単。

「『不在証明・展開』」
 届いたひとつを掛け合わせる。

「あふっつ、ががっつ・・・・・!」
 悲鳴とも怒号とも取れる声が鋼鉄の怪人から漏れる。
 それも当然。
 鎧の間隙を突いて付けた僅かな傷を呼び水にするように、無数の突きが零距離から内部を切り裂いているのだから。
 刃が届いた。
 傷をつけた。
 その事実を足場にすれば、次の次の攻撃が成立する確率はどんなに低くとも確かに生まれる。
「不在証明」の本質は可能性を映し出し、それを現実化すること。
 それを駆使し、仮説の上に仮設を積み上げそれを「展開」する攻撃方法。

 文字通り机上の空論のはずだった斬撃は、今ここに必殺の剣として実現した。

 芦間ムナに裏切られ、タンテイクライを知ったこと。そのどちらが欠けてもここに至ることはなかった。

「絶対に感謝はしないけどねぇ!」

 気合一閃。
 その掛け声とともに、万の突きが鋼の塊を切り裂き、絶対的防御と銃爆撃の怪人を打倒した。

「けほっ・・・ぉぉ」
 仰向けに倒れた怪人。もう何か言う気力もないのか。
「はぁ、けほ、けほほっ・・・」
 勝ったよね。もう終わりだよね。
「あはは・・・」
 ・・・・気を抜いてる場合じゃない。えっとこいつはもう動かないから、黄色矢さんの方だよね。
 どうなってるだろ。
 さっきまで白怪人が横たわっていた場所にわたしは目を向ける。
 そして同時に、そこから「群れ」が噴出した。
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