探偵災害 悪性令嬢と怪人たちのギリギリな日常と暗躍

鳥木木鳥

文字の大きさ
52 / 60
虚ろな探偵を満たすもの

蟲の脳

しおりを挟む

 残り10時間と数分。
 それまでに速やかに探偵団の本丸に乗り込んで団長とその側近を狙う。昨日今日訪れたばかりのここで。
 ・・・無茶で無謀としか言えないな。
「ですが、ウダウダ言ってってもしょうがないです。さっさと行ってさっさと討ってしまえばいい」
「雑にまとめないで下さい・・・そんなんで上手く行ったらほとんどギャグです」
「だからこそ、私は今この瞬間に行動している主を信じているんです」
 それはひょっとしなくてもヒフミさんのデタラメ出たとこ勝負師っぷりがギャグだと言ってるんじゃ・・・
 ま、いいか。確かに彼女は追い詰められれば追い詰められる程トンデモない事態を引き起こすエンタメ気質だし。
 本人には言えないけどね!

「それであなたの方はもう大丈夫なんですか、ヤマメさん」
 前のフライング生首状態よりはましだったとはいえ、決して軽くはない損傷をヒルメに負わされていた。おまけに「専属」の医者ふたりはここから遠く離れた場所に居る。
「土蜘蛛」の技術について門外漢の僕には判断が出来ないけど、治療はそうそう容易じゃなかったはずだけど。
「はい、おかげさまで絶好調です」
 フンフンと腕を回してみせる。取り合えず元気そうなのは伝わってきた。
 斬られたのは腹だけど。
「目が覚めてここの、ザザとかいうのに身体を弄られたと聞いた時は正直いい気はしませんでしたけど、こうして無事、どころか前よりも調子がいいです」
「一応聞いときますけど、それって脳に変な薬打たれてキマッちゃってません?」

 あれ?
 つまりいつも通りのヤマメさん?

「今バックドロップぶちかますレベルで失礼なこと考えてませんでしたか元主」
「ははは。そんなことある訳ないでしょ」
「まあ、いいです。話は逸れましたが、これなら十二分に戦闘可能です。その点は安心していいですよ」

 流石に細かい挙動は、実際に色々動かしてみないと正確な所は保証出来ませんが・・・
 そう言うけど、ここまで言い切るからには心配要らないだろ。首だけの状態からあっさり復活する人間だし。
 ヤマメさんの場合、怪人が云々よりも元の時点で精神が異常な程タフなんだよね。

 趣味悪いけど。

「それで、ヒフミ様が現場復帰したとか」
「はい。その方が色々都合が良いとかで
「自分から出て行ったのに、一日で戻る・・・流石ですね。普通の感性の人間には出来ないことです」
 嫌味じゃなく心から言ってるのがこの人なんだよな。
 あと私見で言うと、ヒフミさんは取り合えず戻ってみただけで後先あんまり考えてないと思う。
 だから今頃は何とも言えない空気になってる。
 まず間違いない。


 何とも言えない空気になってる。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 沈黙が重い。圧が強い。空気が澱んでる。
 戻る時は何となく勢いで乗り切れると思ったけど、なんか大事な話してる所に居合わせたようで、間が悪かった。
 タイミングは大事。反省しないと。
「そういうことだから、ヒルメ、あとよろしくね」
「なんで躊躇いなくそこでわたしにふれるんですかぁ!?」
「だって、あなたはわたしのことわかってるでしょう?」
「確かにそうですけど、それは無茶ぶりの理由にはなりませんよ」
 そうかな?
 ・・・・・そうだよね。
「でも、何と言うか・・・気遣いが欲しいなって」
「そういうことは普段からもう少し周りにあなたの方がまともに接して下さいよ」
 これでもそれなりに気を使ってるつもりなんだけどな。
 上手くいってないかもしれないけど。
「・・・どういう風の吹き回しですか、芦間団長代理」
 黙っていたフシメがようやく口を開いた。
 良かった。
 黙ったままだと気が詰まって、こっちが悪いみたいに感じちゃうから。

 気兼ねなく潰せなくなる所だった。

「そのことですが・・・あの時は無礼な真似をしてしまい、誠に申し訳ありませんでした」
 まず謝る。
「つい感情的になってしまいましたが、冷静になって考えてみればあなたのおっしゃったことに理があるのは自明のこと。それに遅ればせながら気付きこうして謝罪に伺った次第でして」
「え、そう」
「第19探偵団団長代理である前にひとりの探偵として、あなた方の一助として再びともに力を合わせて働くことを許可していただければと思いまして」
「思いましたか」
「はい!」
 ねじ込むように即答した。その後も一気呵成。
「ですので、これよりはあなたの指揮下に入らせていただきますので。はい、伝統ある蛇宮の皆さんとこうして共闘する機会はそうそうあるものではないので、全力を尽くしたい所存・・・・・・・・・・・あ、ところで黄色矢さんは今どちらに?」
「あの人はもう自室に戻ってます。今日は色々あって疲れた」
 横からヒルメが口を挟む。
 ヒルメ、ナイス。
 このまま黙ってフシメだけを相手に早口で捲し立ててたら、中身がないことしか言ってないと気付かれたかも知れない。
 謝罪は超高速で、聞き手に深く考えさせる時間を一切与えない。煙に巻く為の必須テクニック。
 こんなものばかり習得しても嬉しくないけど、しょうがない。
「まあ、こうして戻ってきてくれたことには感謝しておりますよ、芦間団長代理」
 こうやって役に立つんだから。
「ええ、こちらこそよろしくお願いしますね、蛇宮フシメ団長」

「本当、よく戻ってこれましたね。どれだけ面の皮厚いんですか」
 部屋を出てふたりきりになった瞬間、ヒルメが容赦なく言葉で斬ってきた。
「あはは、褒めてくれてありがとう」
「何処にそんな要素があるんですか。陰キャらしくついに都合のいい現実を捏造しやがりましたか・・・そういうのはうちの家の人間だけで十分です」
 全方位に喧嘩を売るセリフ。
「先に逃走ラナウェイして周りに迷惑かけたのはあなたでしょう?」
「はい・・・・」
 5000%の正論だ。
「・・・・でも」
「?」
「あなたが出て行ってから、まあわたしも色々ありまして」

 色々と。
 それは良く知ってる。

「前から個人的に気がかり、煩わしかったことが解消されたというか」
「・・・一日顔を合わせてない間に、何してたのさ」
 あと人が心を込めて接していたのを「煩わしい」っていうのはダメだろ。
「ええ、そうです、やっぱこいつとやっていくのは無理って人間がはっきりしたのは、偶然とはいえ良かったかなって」

 誰だよ・・・心当たりはあるけど。
 ・・・一度泣いていい?

「ですので、わたしも探偵として一皮剥けたかななんて」
 そのおかげでうちのメイドは絶賛治療中だけどね。
「ですのでヒフミさんはいつも通り後ろから口出ししててください」
「指揮だよ!? 一応いつも考えてるから!」
 その言い方だと私、立つ瀬がなくなるから。やめて、本当に。


「・・・そろそろヒフミさんがテンパってる気がする」
「奇遇ですね、私もそう感じました」
「・・・汝ら本当にそれでええんか?」
 ジキ、耳蜻蛉が若干呆れながら訊いてきた。

「あの人はそういう人なので」
「そうなのか」
「そうです、間違いなく」
 全く迷いなく断言するヤマメさんには、さっきまで彼女を治療していた男、ザザも困惑してる。
 しょうがないだろ。事実だし。
「そんな奴に任せて、大丈夫なんか?」
「はい、それはもう」
「全く心配してません」
 僕とヤマメさんは同時に答えた。
「だって、あの人のしぶとさと、目標への執着は常軌を逸してますから」
「それは自分たちの頭を形容する言葉としてどうなん・・・?」
 これ以上ない誉め言葉なのに。
「自分たちの感覚が他の人間に通じると思わない方がいいぞ」
 暗闇に潜む化外の王に、一般常識を説かれた。
 ・・・確かに・・・ヒフミさんやマッドな科学者やら、最初は僕もツッコんでたけど、最近慣れてきたかも・・・

 ・・・そう考えたら滅茶苦茶不安になってきた。

「ま、外野がどうこう言う話ではないし」
 僕がひとりで焦ってると、いい加減先に進めないとと思ったのかザザが本題に入った。
「これが『土蜘蛛』の頭。俺たちが最優先で守らなければならないものだ」

 ザザが4人の前の机に、懐から取り出したものを置いた。

 蛹に見えた。

 何だろ、甲虫のような、でもカブトムシとか昔本で読んだものとは微妙に違う・・・?

「生物なのか、無機物なのか、正直こちらもはっきりしたことはわかっていない」
「まあ、これが空の果てから落ちてきたものじゃろうと、『道具』として使える分には問題ないしな」
 道具、ね。一応は自分たちの象徴、みたいなもんだろうに。僕たちがヒフミさんに言及するのとは違った意味であまり敬意を感じないな。
 これにそんなものが必要かは知らないけど。
「肝心なのは、ここにいない怪人含め、『土蜘蛛』の怪人が能力を行使する際、この頭、『蟲脳むしのう』を経由する必要があるってことや」
 蟲脳、蟲の群れの脳。そのまんまなネーミング。
「さらにここにストックされた能力は共通の術式、『魔群』とかを全ての怪人が引き出して使えるのが大きいの」
 探偵ふたりを退けた蟲の群れ、魔群はこの脳に予め発言した権能のひとつらしい。
 組織の構成員が共通の武器を使えるのは大きい。
 うちのように個々人の能力が多種多様過ぎるとシェアリングがなかなか上手く出来ないんだ。
 結果胞子とかその一部だけしか道具としては扱えない。
 負荷が大きく連続使用は出来ないのが唯一の欠点らしい欠点って・・・便利過ぎるな。

 蟲脳。
 正しく『土蜘蛛」の脳。
「土蜘蛛」の核。

「これをこうして見せた、その意味は分かるじゃろ?」
「こちらをそこまで信頼してくれた、と解釈します」
「まあ、今この瞬間に汝らのどちらかが『蟲脳』を破壊しようとすれば一瞬でミンチ、あるいはハチの巣にするくらいワレもザザにとっては造作もないぞ?」
 そうでしょうね。
「じゃから、誓え、丙見ケラ、船織ヤマメ。今この場に居ない芦間ヒフミの分まで汝らがワレと命運をともにする、ちゅうことを」
 ・・・誓い、約束。懐かしいな。
「・・・拾人形団全てを代行する立場には、僕もヤマメさんもない」
 そういうのはヒフミさんだろ。あの人性格的に嫌がりそうだけど。
「でもあくまで個人としてなら、少なくとも僕はあなたたちの為に剣を振ることを、ええ、誓います」
「あなたの武器は不定形の触腕でしょ、元主。・・・まあいいです。私も、乗り掛かった舟という奴で」
 僕たちが関わった時点でそれ泥船じゃね? なんて空気の読めないことは言わないから。
「主の名誉に賭けて、私もあなたたちの為に戦いましょうか。あの探偵にはヒフミ様の前で無様を晒させた礼もしないといけないですし」
 後半が本当の理由だろうな。
 ・・・でもいいか。

 何だかんだでやる気になってるのはいいことだよ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

入れ替わり夫婦

廣瀬純七
ファンタジー
モニターで送られてきた性別交換クリームで入れ替わった新婚夫婦の話

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

再婚相手の連れ子は、僕が恋したレンタル彼女。――完璧な義妹は、深夜の自室で「練習」を強いてくる

まさき
恋愛
「初めまして、お兄さん。これからよろしくお願いしますね」 父の再婚によって現れた義理の妹・水瀬 凛(みなせ りん)。 清楚なワンピースを纏い、非の打ち所がない笑顔で挨拶をする彼女を見て、僕は息が止まるかと思った。 なぜなら彼女は、僕が貯金を叩いて一度だけレンタルし、その圧倒的なプロ意識と可憐さに――本気で恋をしてしまった人気No.1レンタル彼女だったから。 学校では誰もが憧れる高嶺の花。 家では親も感心するほど「理想の妹」を演じる彼女。 しかし、二人きりになった深夜のキッチンで、彼女は冷たい瞳で僕を射抜く。 「……私の仕事のこと、親に言ったらタダじゃおかないから」 秘密を共有したことで始まった、一つ屋根の下の奇妙な生活。 彼女は「さらなるスキルアップ」を名目に、僕の部屋を訪れるようになる。 「ねえ、もっと本気で抱きしめて。……そんなんじゃ、次のデートの練習にならないでしょ?」 これは、仕事(レンタル)か、演技(家族)か、それとも――。 完璧すぎる義妹に翻弄され、理性が溶けていく10日間の物語。 『著者より』 もしこの話が合えば、マイページに他の作品も置いてあります。 https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/658724858

処理中です...