聖剣ですがお前なんかに使われたくありません!

美雨音ハル

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第10話 どうして今

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「終わり。どうだ……ってお前、どうした?」

 気づくと私はジョットに詰め寄っていた。

「服を脱いで」

「えっ」

「服を脱ぎなさい」

 ジョットはしばらく私を見たのち、ニヤニヤと笑った。

「全裸になれってこと? おじさん困っちゃうなァ。何されちゃうのかなァ」

「違う! 上半身だけでいい!」

「えー、全部脱ぐけど?」

 ズボンのジッパーを下げようとする変態男の腹にパンチをいれる。

「ぐへっ」

聖剣わたしの言うことを聞きなさい!」

「わかった、わかったって」

 ジョットはしぶしぶ、服を脱いだ。
 グローヴもぽいっと外す。
 私は彼の上半身を見た瞬間、興奮で声をあげそうになった。
 鍛え抜かれた鋼のような筋肉。
 実戦の傷跡。
 大きな手のひらは、剣だこでガサついている。

 そして何より、その体を見た瞬間わかる。
 こいつはきっと、人より筋繊維が発達している。細胞レベルで普通の人間とは違う。それゆえ、私が見てきた人の中で何よりも早く、何よりも力強く、そして何よりも美しく剣をふるうことができるのだ。

 限りなく人間に近い何か。
 これは、化け物レベルの体だ。
 この男は、剣をふるうために生まれてきたといっても過言じゃない。

「……ティア、あんまりそんな風に触んじゃねぇ」

「は?」

「変な気分になってくっから」

 そう言われて、私はパッとジョットから離れた。や、やばい、私は今、ジョットに張り付いてこいつの体を撫で回していたぞ……! 

「お前、積極的だなぁ」

「これは違う!」

 くそっ、こいつが聖剣オタクであるなら、私は剣士オタクだ。
 目の前にいい肉体があるとなれば、我慢ならんのだ。
 チクショウ、なぜジョットに限って、こんな肉体をしているのだ!
 私はたまらなくなって、本体の中に逃げ帰った。

 悔しい。
 なぜこんな男が今現れたのだ。
 私の気持ちの高揚が伝わったのだろう。本体が我慢ならないといったようにふるふるとふるえ、光りだした。

 剣の波動が、ジョットにも伝わったのだろう。
 ジョットはハッとした顔になった。
 今ならこの剣を抜けると理解したのだ。
 しかしだめだ、こいつに剣を抜かせるわけにはいかない。歯を食いしばって我慢する。
 おまけにこの強い波動は、あいつに伝わってしまう可能性もある。
 早く収めなければ。

「なあ、どうしたんだよ?」

 剣の中で歯を食いしばっていると、ジョットがにやついた顔で近づいてきた。

「ッ服を着なさい! 変態!」

「お前が脱げっつったんだろうが」

 返す言葉もない。

「お、お前は何者ですか。本当に人間なのですか?」

 そう問えば、ジョットは少し考えたのち、

「さぁな。違うかもしれんな」

 と笑って答えを濁した。
 ふざけた奴だ。

「お、お前になぞこの剣は抜かせませんよ……!」

「……ふうん、そっか。俺に使われたくなっちゃったんだ?」

「……ッ」

 ブレードを指でなでられ、体がさらに震えた。

「いいぜ、使ってやるよ。俺だったら、お前の力を引き出してやれる。お前を大切にしてやれる。可愛がってやれる。俺の正体だって、教えてやるよ」

「ッ黙りなさい!」

「いやだ」

「近づいてこないで……」

「それも無理な願いだな」

 死ぬほど悔しい。
 なんでもっと昔に私の前に現れなかったんだ、お前は。
 ほんのりと香る汗の匂いを感じてに、体がふるえた。

「……体はそこまで俺を求めているくせに、なぜ俺のもんにならねぇんだ?」

 グリップを握られた。
 このままじゃ、引き抜かれそうだ。
 けれどジョットは、そうしなかった。

「俺はお前も、お前の意思も全部欲しい。自分から俺の剣になると言うまで、お前をつれていく気はねェ」

 黙っていると、ジョットはため息をついた。

「どこまで強情なんだよ、お前は」

「……」

「一体、何に怯えてんだ?」

「! お、怯えてなんか」

「怯えてる」

 鋭い視線が、聖剣の中にいる私を貫いた。

「お前は一体、なぜ身を隠している。誰から逃げている?」

「わ、私は……」

 これ以上はダメだ。
 私は目をつぶって、ジョットを拒否した。

「おい、ティア!」 

 だめなのだ。
 もしもジョットの剣になったとしても、あの男には絶対叶わない。

「お前は、あの男には絶対かないません……」

 私のために、無駄な死人は出したくない。
 私はそう呟くと、今度こそ思考の一番深い部分に潜り込んだ。
 もうこの男とは話さない方がいい。
 本気でそう思った。
 これ以上話したら、私は原始の欲求に負けてしまいそうだから。



 ティアの「魂の波動」を感じて、馬上で振り返った男がいた。
 白銀の鎧に身を包んだその男は、心底嬉しそうに口角を釣り上げる。

「ティア、みぃつけた」
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