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第12話 エルラディン
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▽
果たして、その男はそれから数時間後にやってきた。
馬の蹄の音が森に響き、私は静かに身構えた。
そして森の奥からやってきたのは、白銀のプレートメイルを身につけた、白馬に乗った騎士だった。
騎士は馬から降りると、堂々と礼拝堂に入ってくる。
年齢はちょうど、ジョットと同じくらい。
美しい金の髪に青い瞳の、美丈夫だ。
──聖騎士エルラディン。
私の元使い手。
たれ目がちな瞳が私をとらえると、その顔には喜色が浮かんだ。
「やあ、ティア。久しぶりだね」
その声を聞いた瞬間、ぞっとしてしまう。
彼は腕を広げてこちらに近づいてくる。
「ああ、やはり君は素晴らしい。この空間には浄化の力が満ちている」
あたりを見回す。
そして、私の前で立ち止まった。
私は息を潜めて、エルラディンを見た。
「やっと君に会えた。僕がどれほど君を探していたか分かるかい」
「……」
「ティア。なんとか言いなさい」
台座の前につくと、すっと彼から笑顔が消えた。
「ずっと、生まれ変わっても僕と一緒だって約束したじゃないか」
それなのに、と彼は続ける。
「お前は約束を破ったね。僕を封印して、逃げたつもりかい?」
「……ッ」
圧迫されるような殺気に、身がひるんだ。
「わ、私はもう、お前の剣にはなりません!」
「へえ、おもしろいこというね」
柄を握られ、悪寒が走る。
ものすごい力だ。
「選ぶのは君じゃない」
体に激痛が走る。
「僕だ」
台座にヒビが入った。
それでもなんとか耐えていると、すっと痛みが遠のく。
視線をエルラディンに向ければ、彼は柄から手を離していた。
エルラディンはいいことを思いついた!
という顔をした。
「いや、待て。面白いことを考えたよ」
「……」
「君に選ばせてあげよう」
彼は踵を返すと、馬のところまで行く。
「確かこの辺に、行き場をなくしたジプシーたちのキャンプがあったんだよ」
「……お、お前」
長年一緒にいたから分かる。
ユナたちがどうか、すでに遠くに行っていることを願った。
エルラディンの顔に歪んだ笑顔が浮かんだ。
「ちょっと待ってて、ティア。すぐに思い出せてあげるから」
──僕たちの快楽殺人を。
狂気じみた笑顔を残して、エルラディンは聖剣の間から去っていった。
▽
私が聖騎士エルラディンと出会ったのは、もう百年近くも前のことになる。
その当時は、エルラディンはまだ聖騎士などではなかった。というかそもそも、エルラディンという名ですらなかった。
剣豪スペルドット。それが彼の本当の名だ。
ジョットの言葉を思い出す。
聖騎士エルラディンの前は、剣豪スペルドット。その前は休止期間。
そうだ、その通り。あっている。ただし、この二人は別人ではない。
同一人物だ。
百年前、私はスペルドットと名乗る『悪魔』にこの身を拾われた。
悪魔は人間よりずっと寿命が長い上に、人間とそっくりだから、しばらくはそれがなんなのか、気づかなかった。
スペルドットに拾われた私は、人間たちを殺す道具に使われた。
お父様の言った通りだった。
所詮、剣は人に使われるモノ。私には自分でどうすることもできなかった。
何人の罪なき人たちを、この男と一緒に殺しただろう。
スペルドットは正体を偽り、人間の剣豪としてその歴史に名を残した。そしてただの殺人鬼だということが次第に分かり始めると、今度は聖騎士エルラディンとして活動し始めたのだ。
最初はただの騎士エルラディンだった。だがやつは王に取り入ると、『聖騎士』の称号を授かり、隣国の国民たちを殺して回った。
二つの国には何も諍いはなかったのに、嘘の亀裂を生み出して、その報復行為としてエルラディンは公式に国民を殺す権利を得たのだ。
彼の殺人は最悪だった。
なんの罪もない人々を笑顔で殺し続けた。
私は気が狂いそうだった。あまりにも人を殺しすぎた。
悪魔は殺人に快楽を覚える。人を殺す理由なんて、快楽のためだけだ。それしかない。
そして国の英雄、聖騎士エルラディンが誕生した。
彼がその頃に行方不明になったのは、私がようやく実体化の技を覚え、エルラディンをその体ごと二十二年前に封じ込めてしまったからだ。
エルラディンはあまりにも強すぎた。だから完全に殺すことができなかった。
その代わり私は『聖水晶』という悪魔の力を浄化し続ける水晶の中にこいつを封じ込め、私自身はもう二度と見つからないように、この森の奥でひっそりと台座を作って眠っていたのだ。
だが、それも無駄だったようだ。
悪魔は殺し切らないと、やはりいつの間にか復活してしまう。
私のやったことは、ただの時間稼ぎにしかすぎなかった。
果たして、その男はそれから数時間後にやってきた。
馬の蹄の音が森に響き、私は静かに身構えた。
そして森の奥からやってきたのは、白銀のプレートメイルを身につけた、白馬に乗った騎士だった。
騎士は馬から降りると、堂々と礼拝堂に入ってくる。
年齢はちょうど、ジョットと同じくらい。
美しい金の髪に青い瞳の、美丈夫だ。
──聖騎士エルラディン。
私の元使い手。
たれ目がちな瞳が私をとらえると、その顔には喜色が浮かんだ。
「やあ、ティア。久しぶりだね」
その声を聞いた瞬間、ぞっとしてしまう。
彼は腕を広げてこちらに近づいてくる。
「ああ、やはり君は素晴らしい。この空間には浄化の力が満ちている」
あたりを見回す。
そして、私の前で立ち止まった。
私は息を潜めて、エルラディンを見た。
「やっと君に会えた。僕がどれほど君を探していたか分かるかい」
「……」
「ティア。なんとか言いなさい」
台座の前につくと、すっと彼から笑顔が消えた。
「ずっと、生まれ変わっても僕と一緒だって約束したじゃないか」
それなのに、と彼は続ける。
「お前は約束を破ったね。僕を封印して、逃げたつもりかい?」
「……ッ」
圧迫されるような殺気に、身がひるんだ。
「わ、私はもう、お前の剣にはなりません!」
「へえ、おもしろいこというね」
柄を握られ、悪寒が走る。
ものすごい力だ。
「選ぶのは君じゃない」
体に激痛が走る。
「僕だ」
台座にヒビが入った。
それでもなんとか耐えていると、すっと痛みが遠のく。
視線をエルラディンに向ければ、彼は柄から手を離していた。
エルラディンはいいことを思いついた!
という顔をした。
「いや、待て。面白いことを考えたよ」
「……」
「君に選ばせてあげよう」
彼は踵を返すと、馬のところまで行く。
「確かこの辺に、行き場をなくしたジプシーたちのキャンプがあったんだよ」
「……お、お前」
長年一緒にいたから分かる。
ユナたちがどうか、すでに遠くに行っていることを願った。
エルラディンの顔に歪んだ笑顔が浮かんだ。
「ちょっと待ってて、ティア。すぐに思い出せてあげるから」
──僕たちの快楽殺人を。
狂気じみた笑顔を残して、エルラディンは聖剣の間から去っていった。
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私が聖騎士エルラディンと出会ったのは、もう百年近くも前のことになる。
その当時は、エルラディンはまだ聖騎士などではなかった。というかそもそも、エルラディンという名ですらなかった。
剣豪スペルドット。それが彼の本当の名だ。
ジョットの言葉を思い出す。
聖騎士エルラディンの前は、剣豪スペルドット。その前は休止期間。
そうだ、その通り。あっている。ただし、この二人は別人ではない。
同一人物だ。
百年前、私はスペルドットと名乗る『悪魔』にこの身を拾われた。
悪魔は人間よりずっと寿命が長い上に、人間とそっくりだから、しばらくはそれがなんなのか、気づかなかった。
スペルドットに拾われた私は、人間たちを殺す道具に使われた。
お父様の言った通りだった。
所詮、剣は人に使われるモノ。私には自分でどうすることもできなかった。
何人の罪なき人たちを、この男と一緒に殺しただろう。
スペルドットは正体を偽り、人間の剣豪としてその歴史に名を残した。そしてただの殺人鬼だということが次第に分かり始めると、今度は聖騎士エルラディンとして活動し始めたのだ。
最初はただの騎士エルラディンだった。だがやつは王に取り入ると、『聖騎士』の称号を授かり、隣国の国民たちを殺して回った。
二つの国には何も諍いはなかったのに、嘘の亀裂を生み出して、その報復行為としてエルラディンは公式に国民を殺す権利を得たのだ。
彼の殺人は最悪だった。
なんの罪もない人々を笑顔で殺し続けた。
私は気が狂いそうだった。あまりにも人を殺しすぎた。
悪魔は殺人に快楽を覚える。人を殺す理由なんて、快楽のためだけだ。それしかない。
そして国の英雄、聖騎士エルラディンが誕生した。
彼がその頃に行方不明になったのは、私がようやく実体化の技を覚え、エルラディンをその体ごと二十二年前に封じ込めてしまったからだ。
エルラディンはあまりにも強すぎた。だから完全に殺すことができなかった。
その代わり私は『聖水晶』という悪魔の力を浄化し続ける水晶の中にこいつを封じ込め、私自身はもう二度と見つからないように、この森の奥でひっそりと台座を作って眠っていたのだ。
だが、それも無駄だったようだ。
悪魔は殺し切らないと、やはりいつの間にか復活してしまう。
私のやったことは、ただの時間稼ぎにしかすぎなかった。
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