聖剣ですがお前なんかに使われたくありません!

美雨音ハル

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第14話 戦闘

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「なんだい、君は」

 あくまでごく普通の人間を演じるかのように、エルラディンは穏やかな声でジョットに尋ねた。

「ここはあまりよくない気が漂っている場所だ。早く帰った方がいいよ」

「いや、それがねぇ、こっちは聖剣を手に入れにきたもんで、手ぶらじゃ帰れねぇんだよ」

「ああ、それは残念だ。聖剣ならたった今、僕の物になったよ」

 エルラディンがにやりと笑った。
 まずい……!
 そう思った瞬間には、すでにエルラディンは抜剣していた。
 恐ろしいスピードに心臓が跳ね上がる。
 しかしジョットはそれ以上の反応速度だった。

「あぶねェ。殺す気かよ」

「っ!?」

 タバコをくわえたまま最小限の動きでよける。

「……へぇ、なんなんだい、君は」

 わずかばかり、エルラディンに警戒の色が現れた。

「俺ァ、そいつの使い手になる男だ」

「……はっ。使い手だって? 何を言ってるんだ、君は。僕はこの剣の使い手、聖騎士エルラディンだ。聖騎士物語、知らないのかな」

「おいおいおい、聖騎士様が一般人にいきなり攻撃かよ。笑えるな」

「……」

「それにお前、ティア」

「!」

 ジョットが私を見た。

「本当にうんって言ったのか?」

 わ、私は……。

「お前ェがその使い手を選んだのかって聞いてんだよ」

 ……違う。選んでない。選んでない!

 そう答えたかった。
 だけど、このままじゃ二人の衝突は避けられなくなってしまう。
 大切な人を、自分の刃で傷つけてしまう!
 私は黙ったまま、エルラディンの手の中にいた。
 どうすれば、ジョットを傷つけずに済むのか。

「おいティア、黙んな」

「……ジョット、お願い逃げて」

 気づいたらそんなことを言っていた。
 エルラディンが小さく反応した。
 しまった、と思った。

「ああ、なるほど。知り合いだったわけか。これは面白くなってきた」

 エルラディンが歓喜する感情が伝わってきた。
 こいつ、痛ぶり殺す気だ……!

「お願いです、逃げてッ!」

 悲鳴のようにそう叫んだ瞬間、激しい衝撃と熱が全身に走った。
 私と、ジョットの剣がぶつかっていたのだ。
 あまりにも人間離れした芸当に、頭が真っ白になる。
 ギギギ、とお互いの剣が擦れて嫌な音がした。

「俺ァそんなこと聞いてんじゃねェ」

 激しい殺気と圧力の中で、ジョットの怒りをこめた声が聞こえてきた。

「嫌なら嫌ってはっきり言えよ、ティア!」

 怒りの籠った一撃。
 息がつまるほどの殺気。
 剣がぶつかり合う激しい音が礼拝堂に響いた。
 とてつもないスピードで、互いの刃がぶつかり合う。
 なんだこれ、人間の出せるスピードじゃない。
 こんなのが一撃でも彼にあたったら、死んでしまう!

「ティア、ちゃんとしてよ? 使い手の敵がいるんだよ、殺してくれなきゃこまるよ」

 激しい剣戟の合間に、エルラディンが面白そうに言った。
 嫌だ、ジョットを傷つけたくない……。
 それでも攻防戦は止まらない。
 そしてジョットの重い一撃を、エルラディンはブレードを横にして止めた。
 火花が散る。
 ものすごい衝撃が全身に走った。
 息が詰まりそうだ。

「……っ」

 一体ジョットはどのくらいの力を持っているというのだろう。
 エルラディンは悪魔なのに、それと対等に戦っている。しかも普通の剣で、だ。普通の剣で戦っているというのに、それを感じさせない。

「まさか、こんなところで君のような人間に会えるとはね」

 エルラディンは興奮したように笑った。

「最高だよ……それに、二人は知り合いなんだって? お互いでお互いを殺しあう気持ちはどう?」

「るせぇ、グタダダと喋ってんじゃねーっ!」

 大きく下へ逸らした右腕を、勢いよく上へはねあげる。
 再び衝撃。
 だが、今度はさらに甲高い音が響いた。
 ジョットの剣が、折れたのだ。
 剣先がくるくると回って、木に突き刺さる。
 エルラディンがジョットの腹に蹴りを放った。剣の衝撃を利用し、それをくるりとかわしながら、ジョットは残った剣を抜き、今度はエルラディン本人を狙う。

「そんなナマクラじゃ、聖剣は折れないよ」

「折るつもりはねェ」

「君はバカか?」

「言ってろ」

 ギィイイン! と耳をつんざくような音。
 お願いやめて、もう戦わないで。
 泣きそうになってしまった。
 エルラディンは鼻で笑うと、一旦ジョットから距離をとった。
 二人とも肩で息をしている。

「聖騎士に、よくもまぁここまで。悪魔のような男だな」

「……悪魔はどっちだ、偽善者野郎」

 頬の血をぴ、とぬぐって、ジョットはエルラディンを睨みつけた。

「この一ヶ月、森を出て調べてたが、随分お前ェのことを聞いたぞ」

「ふうん? そりゃあ、僕は英雄だからねぇ」

「ちげえよ、この殺人鬼が。お前、一部の地域では憎悪の対象になってっぞ」

「……」

 私も、エルラディンも、二十二年間世俗に触れていなかったから、まったく外の状況がわからない。

「国の英雄だかなんだか言われてるらしいが、別の国ではお前はただの殺戮者だ」

「……英雄とはいつの時代もそんなものさ」

「どうだろうな。恨まれ方が、人間のそれじゃねぇ。お前の残酷な殺し方について、記録に残ってたよ」

 もしかして、ジョットは。
 全部わかって、ここにいるのだろうか。

「はっ、そうかい。君の中ではそうなんだろう。だが僕らは、僕らを必要としている人たちのところに急いで行かなくちゃいけない」

「行かせるかよ」

 再び、一瞬にして詰められる距離。
 剣圧が全身を刺激する。
 風がぶわりと吹いた気がした。
 髪が後ろに持って行かれるイメージが頭の中に浮かぶ。
 ジョットの剣が、必死に戦っているのが分かった。
 だが、相手は聖剣わたしだ。
 エルラディンが笑った。

「ティアッ! お前の力を見せてやれ!」

 い、嫌だ……!
 しかし体はエルラディンの声に反応してしまう。
 ブレードが強い光を発した。ジョットの頬を切った時と、同じ反応だ。
 次の瞬間、ジョットの剣が再び折れる。

「……ッ」

 その光に目が眩んだのか、ジョットは一秒にも満たない間、目をつぶってしまった。その間に、今度こそエルラディンの重い蹴りが腹に決まる。

「がッ……」

 この悪魔の力は人間の数倍はある。普通だったら、内臓破裂を起こしている。
 ジョットは背中から木に激突し、血を吐いた。

「くそがッ……」

 いつの時点で切ったのかはわからないが、血で目元が濡れている。

「はははっ! さあ殺すぞ、ティア!」

 エルラディンがひゅっと剣先を振りながらジョットに近づいていく。
 しかしジョットは、ギリギリになって折れた剣を放って、今度は素手で立ち向かってきた。
 刃(わたし)を腕で受けながす。
 近接対人格闘の構えだ。
 彼のとんでもない強さにめまいを覚えた。
 しかし、私は刃に触れただけで対象物を切るという力がある。
 だからいくら腕で受け流して直接攻撃を避けたとしても、刃に少しでも触れた部分はすっぱりと切れていく。
 ジョットは、しまいに血まみれになっていった。
 ボロボロになっていく彼を、もう見ていられない。
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